fate/some meaning   作:にがトマト

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すまない、遅れて、すまない……


9.本当に恐ろしいのは、人の怒りである

 キャスターの槍の穂先が、セイバーへと向けられる。

 それにセイバーは、ため息をついて静かに剣を引きぬく。

 

「では、一局ここで仕合えと?」

「仕合いではなく、死合いだ」

「……お主本当に同盟を組むつもりがあるのか?」

 

 セイバーの問いは、真っ当にすぎるものであった。

 しかし、キャスターは知らぬとばかりに鼻で笑う。

 

「死ぬならばそれで善し。競争相手が減って万々歳だ。そもそも、『神殿』の外の私に殺されるようでは、組むに値するはずがないだろう」

 

 見事な意趣返し。

 それにセイバーは苦笑する。

 成程、道理だ。

 これは反論の余地がない。

 

「しかし、構わないのか? そちらの戦闘力が高いことは、こちらも把握している。だが、ここはお主の『神殿』の外だ。件の戦闘力を発揮することなど、できないだろう」

「ふん。これはあくまで、私の腹いやせの範疇を越さないからな。それなら、『神殿』でなく、こいつで十分だ」

 

 キャスターは己の首にかけている、造路には解読できない文字が彫られた石でできた首飾りを指差した。

 あれが、ここに来る前に彼女が時間の許す限り作業をし続けて、作った一品だ。

 彼女曰く、ちょっとした礼装らしい。

 材料は造路の武家屋敷の庭にあった石だけのため、プライスレスだ。

 

「成程、ここで降りれば、同盟の話はなかったことになる。だが、な」

 

 

 ズン、と。

 不可視にして、凄まじいまでの重圧が造路とキャスターを襲った。

 

 

 素人である造路ですら、その重圧を感じられるのだ。

 武の達人と呼んで差し支えのないキャスターは、その高い実力の片鱗を感じているだろう。

 本能が、うるさく警鐘を鳴らしている。

 こんな怪物、キャスターがいなかったら一も二にもなく逃げ出させてもらっている所だ。

 

「某とて、騎士の端くれだ。挑まれた決闘に背を向けるような臆病者ではない。そして尋常な決闘で、敗北の屈辱に身をよじるつもりも、さらさらないぞ」

「……………………」

 

 セイバーが腰の剣を、鞘から引き払った。

 それと同時に、セイバーの雰囲気が一変する。

 

 

「互いに得物を抜いた。もう、後戻りはできんぞ、小娘」

 

 

 造路は、右手にある令呪に意識を向ける。

 これを使って、キャスターには黙っていてもらうべきか。

 ここまでくれば、後に引けない。

 だがそれは、サーヴァントがやった話とすれば、この場を収めることができるかもしれない。

 

「……ツクロ」

「な、なんだ」

 

 キャスターは、隻眼に彼を映し、微笑を湛えた。

 

 

「私を信じろ」

 

 

 たった、たったの一言。

 それに安堵し、造路は肩の力を抜いた。

 

「任せるぞ、キャスター」

「任された、マスター」

 

 鶯華はそれに、ため息を吐く。

 まず彼女は、セイバーに謝罪した。

 

「ごめんね、セイバー。私のせいで、こんなことになっちゃって」

「なに、構わん。主の不始末は、従者たる某がケリをつけよう。それに、丁度いい。某も、キャスターの実力に興味がある」

 

 キャスターとセイバーが向き合う。

 そして。

 

 

「「よし、やるか」」

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 前口上は不要。

 先ずは一手馳走。

 話はそれからだ。

 

「……ふっ」

 

 キャスターは肺の酸素を全て吐き出しながら、踏み込む。

 刹那、彼女はセイバーとの間合いを殺しきり、神速の刺突を見舞った。

 

「ぬぅん!」

 

 しかし相手は、最優の騎士の称号を以て現界したサーヴァントだ。

 手にある一振りの剣を横薙ぎに振るい、その『槍』を砕かんとばかりに打ち払った。

 キャスターの刺突など、牽制にもならんとばかりに。

 

「ッッッつぅ」

 

 痺れが腕を駆け抜けるが、槍を落とすことはしなかった。

 そも、上位の槍兵の放つ刺突に匹敵しうるそれと言えど、通用するものか。

 元より、彼は三騎士の中でも特に白兵戦に優れた、最優のサーヴァント。

 武の真髄に至ってるといえど、魔術師に後れを取るなどあり得ない。

 

「覚悟」

 

 セイバーの剣が、キャスターのそっ首を刈り取るために振るわれる。

 その速度は音を置き去りにし、空を裂く。

 空を裂き、次にこの剣が斬るは貴様の首だと言わんばかりに。

 

 

所詮は音速(・・・・・)。避けられぬ道理がどこにある。加速(rid)

 

 

 刹那、音を超え、セイバーの太刀筋すら置いていく俊足を以て、キャスターはセイバーの背後を取った。

 そして、その隙を逃す手はない。

 彼女はそのまま、槍を突き出し、刺突を見舞う。

 

「成程、ランサーと互角に打ち合ったというのは伊達ではないか!!」

 

 されど、そこは流石最優。

 音どころか、己が剣速をも置き去りにする刺突に反応し、剣を握っていない空手で穂を掴んだ。

 

「全く、これ作るのそこそこ手間かかるんだがなぁ。怪力(ur)

 

 刹那、彼女の首飾りの石の一つが光り輝く。

 そして、彼女は力任せに槍を捻った。

 それによって訪れる結果は、単純明快。

 

 

 槍を掴んでいたセイバーの足が浮き、体の向きを逆さまにされた。

 

 

 セイバーは視界を上下逆にされても、動揺はしない。

 地に膝をつけば、当然視界の位置は変わる。

 顔の向きを変えればなおさらだ。

 上下逆など、それらと大差ない。

 故に。

 

「その首級、貰い受ける!!」

 

 視界が上下の中でも、無比正確に首を断ち斬る横薙ぎ一閃。

 宙に体があるとは思えない程の、一本心の通った、素晴らしい斬撃だ。

 されど、ここでやられるキャスターではない。

 

「ストックは余り多くないんだが。反転(yr)

 

 刹那、セイバーの体が180度回転し、前後が逆になった。

 そうなると当然、彼の斬撃を捉えるのは、空のみ。

 

「むぅ!?」

 

 こればかりは、さしもセイバーも驚愕に声をあげた。

 好機だ。

 キャスターは、逡巡する。

 ここで、こいつを殺すことはできる。

 だが、そうすると同盟を組むことはできない。

 現状の情勢は不利なのだから、同盟相手は欲しい所なのだ。

 されど、キャスターは決断した。

 

(強敵に手の内を晒してしまったのだから、先のことを考えれば、殺すか)

 

 殺意を研ぎ澄まし、魔力を練り上げる。

 この男は、強い。

 今まで出会ったきた中で、最も強いのだ。

 英雄としての格では、バーサーカーには劣るだろうが、あちらは狂化に蝕まれている以上、その格を発揮できようはずがないし、なにより宝具が使えない。

 だがセイバーの宝具はそれこそ、かなりのものだろう。

 故に、このセイバーこそが最強。

 同盟相手は同格、あるいは少し格下くらいが丁度いいのだ。

 むざむざ最強と同盟を組む、そのデメリットを呑み込む訳にはいかない。

 

「さらば」

 

 キャスターの刺突が、セイバーの鎧を貫き、心臓を穿った。

 セイバーは吐血し、傷口から夥しい量の血を噴き出す。

 

「ぐ、ぉ」

 

 セイバーは膝をつく。

 しかし、そこまで。

 地に伏せることを、彼は厭い、誇りが許さなかったのだろう。

 彼は膝立ちのまま、その命を終わらせた。

 

「きゃ、キャスター!?」

「や、やっば!」

 

 造路は本当にセイバーを殺したことに驚愕し、鶯華は慌てたように声をあげた。

 しかしキャスターは、知るかとばかりに槍を肩に担ぐ。

 

「ツクロ、お小言はなしだぞ? 私は間違ったことなど、何一つしていない。相手は敵なのだし、まだ同盟締結の前だったのだからな。チャンスがあったのだから、それを活かしたまでのこと」

 

 ぐうの音も出ない、正論であった。

 確かに、これは闘争なのだ。

 もちろん、死者は出る。

 わかっていたことだ。

 だから、彼は必死に手の震えを止めようと努める。

 人の死、というものを感じてしまった、この恐怖を押さえつけようとする。

 もしあれが、自分だったらという想像を、必死に否定する。

 対し、鶯華は。

 

 

セイバー(・・・・)ストップ(・・・・)!! これ以上やったら流石に収集つかない!!」

 

 

 キャスターの顔が凍った。

 そして、弾かれたように背後へと振り向く。

 そこには、致命傷どころか外傷などないと言わんばかりに、五体満足で二本の足でしっかり立っている、セイバーの姿があった。

 

「ふン!!」

「ぐぅッッッ!?」

 

 力任せ、されど感嘆せざるを得ない確かな技が込められた一撃がキャスターに振るわれた。

 その一撃をキャスターは見事槍を盾にすることで防ぐ、が。

 

「がはっ」

 

 衝撃のまま吹き飛ばされ、フェンスに叩きつけられた。

 肺から酸素がすべて吐き出され、キャスターは咳き込む。

 それは、これ以上ない程の、明確な隙であった。

 先のキャスターの行動もあり、セイバーはそれを見逃すことはしない。

 トドメを刺すべく、彼は全力で踏み込み、間合いを殺した。

 

 

「「令呪を以て命ずる!!」」

 

 

 造路と鶯華がそう叫んだのは、同時であった。

 しかし、命令の内容はまるで違う。

 

「キャスター、俺の隣に転移!!」

「セイバー、ここでお終い!!」

 

 ぴた、とセイバーの動きが止まった。

 刹那の間も置かず、キャスターは造路のすぐ隣に転移した。

 

「ごほっ、ごほっ、すまん、ツクロ。令呪を無駄に一画使わせてしまった」

「いいよ。こんなのより、お前の方が大事だし」

「……ふむ、お前、罪作りなんじゃないのか?」

「いきなり、どうした?」

 

 少しだけ顔を赤くしたキャスターのその発言に、造路は首を傾げた。

 そのキャスター主従を端に、セイバー主従は険悪な雰囲気に包まれている。

 

「マスター、なぜ止めた。某は一度、殺されたのだ。それ相応のケジメをつけなければならん」

「……セイバー、嘘はいけないわよ」

「む」

「あなたは、騎士の誇りが傷つけられたことに怒ってるんでしょう?」

「むっ」

 

 セイバーは先の怒りを買った要因は、二つだ。

 一つは、膝をつかされたこと。

 だがこれは、己の過失が招いたこと。

 怒りよりも屈辱が先にくるし、敵に贈るべきは称賛だ。

 だからこそ、彼が怒っている原因は、二つ目だ。

 

 

 背中に傷をつけられたこと。

 

 

 背中の傷は、騎士にとって恥だ。

 なにせそれは、逃げ傷だ。

 今は蘇生宝具(・・・・)で傷は塞がっているが、恥が拭えた訳ではない。

 この雪辱は、この傷をつけた怨敵を討たねば雪ぐことは叶わない。

 

「そこまでわかってるのなら、なぜ止めた」

「いやいや、あなた忘れてるの? 私たち、あの二人に同盟を申し込みにきたのよ?」

「だ。だが、某は……」

「ああ、うるさい、うるさい!!」

 

 子供のように駄々をこね始めたセイバーを、鶯華は強引に力業で黙殺した。

 

「キャスター、セイバーはどうだった?」

「……強いよ、間違いなくな。それに、蘇生宝具まであるとは」

「同盟相手としては?」

「……チッ」

 

 キャスターは舌打ちをして、不承不承ながらも認めた。

 セイバーの実力を。

 

「申し分ないな。同盟を組むのを、私は了承させてもらう」

「それじゃ、同盟成立ってことで、いいのか?」

 

 造路は鶯華にそう言った。

 それに鶯華は大仰に頷く。

 

「えぇ。それで構わないわよ。私としても、セイバーを一回殺せる程のサーヴァントと同盟を組めるのは、悪くないと思うしね」

 

 なんとかこれで、手打ちと言う形に持って行けそうだ。

 それに造路は安堵の息を吐く。

 

 

「ふぅむ、それは困るなぁ」

 

 

 同盟成立、その直前。

 そんな時に、その声は響いた。

 声の方向に、全員が弾かれたように向き直る。

 そこには、初老の男性が一人。

 白髪混じりの金髪に、双眸を隠した糸目。

 くたびれた安物スーツを身に纏った、背筋がピンと伸ばしている。

 

「これでは、私たちの陣営が孤立してしまうではないか」

 




10話は明日投稿します!
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