不思議なデバイスと少女   作:樹 亜斗

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第1話

 カーテンの隙間から太陽の光が出ているのを見て、私はベッドに寝転びながら、きれいだなぁ、と呑気に考えていた。私はふと、自分の携帯の時計を見ると、いつも起きる時間よりもだいぶ早い時間だ。

 

 なぜこんなに早い時間に起きたんだろうと考えて、私はすぐに思いつく。多分、つい先程見ていた夢のせいかも知れない、と。

 

 何しろとてもリアルで、その上夢の場所はどこかで見たような近所の公園で、内容はアニメや漫画とかでありそうな感じの物だった。

 

 登場人物は私と同じくらいの歳の男の子で、どっかの国の民族衣装みたいなのを着ていたんだ。

 

 それでその男の子は怪我をしているのか立っているのも辛そうだったけど、突然出てきた大きな黒い毛玉みたいな生き物に襲われて、男の子はバリアーみたいな物で毛玉を弾き返したかと思えば、もう一度毛玉は男の子に襲いかかったんだ。その時に何かを毛玉に突き付けて、呪文を呟いた後に「封印!」と男の子が叫ぶともの凄く光って、寝ているから目を閉じている筈なのに私は眩しいと感じたんだ。私は夢で眩しく感じたのは別にどうでもよかった。何しろ夢だし。

 

 問題はその後だと私は思う。

 

 その後、毛玉は封印されずに逃げて行き、男の子は倒れ、男の子はイタチになってしまった。

 

 

 そう、あの子は本当はイタチなのか、それとも人間の男の子だったのか、どっちだろうと考える。

 

 だけど、別にどっちでもいいか、と言う結論になった私は、もう二度寝は無理だと言う事も分かったので寝ていたベッドから下り、起きる事にした。

 

 私はパジャマのまま一階に下りて洗面所で顔を洗い、すっきりした後、着替えるためにもう一度自分の部屋に戻ろうとしたら、どたばたと慌ただしく階段を掛け降りる音がする。見ればそこには私のお父さんが大きな荷物を持って階段から下りてきた。

 

 お父さんは私を見ると少し驚いていたけど、微笑みながら私に話しかけてくる。

 

 

「おはよう、つばさ。今日は早いんだな」

 

 

 私はお父さんの言葉を返したいけど、声が出ないので、口を大きめに開いて口の形で挨拶を返す。お父さんの質問には頷く事でその通りだと伝える。

 

 お父さんは悲しそうで、申し訳なさそうな表情をすると、私に謝ってきた。

 

 

「ごめんな、つばさ。飛行機の時間を間違えていたみたいで、今から行かないと間に合わないんだ。今日、つばさが学校から帰って来た後に出掛ける予定だったんだが……」

 

 

 お父さんが物凄く落ち込んでいくのを見て、私は慌てて自分は大丈夫!と言う事を身振り手振りで伝えると、何とかお父さんはそれ以上落ち込んではいかなくて、私はほっとする。お父さんは苦笑をしながら私にお礼を言い、私は笑顔で返す。

 

 お父さんのお見送りのために私はパジャマのまま玄関に行く。そしてその玄関でお父さんはきちんと戸締まりをする事や見知らぬ人が来たら出ない事、何かあったら警察か近所の人に助けを呼ぶ事。など他にもいろいろと言っていたけど、私はいつも聞いている事なので右から左に言葉が流れて行く。

 

 私は時間は大丈夫なのか心配になり、しゃがんでいるお父さんをつつき、玄関に飾ってある時計を指差せば慌てて荷物を持ち上げて言う。

 

 

「うわぁっ!? 時間がヤバイッ!!? じゃあ、つばさ、気をつけるんだぞ! 行ってきます!!」

 

 

 慌てて残りの荷物を持つお父さんに満面の笑みを浮かべながら私は「行ってらっしゃい」と声に出さないで言う。

 

 お父さんはそれを見て、私に笑い返しながらもう一度「行ってきます」と言うと、走って玄関から出て行った。

 

 

 

 静かになった家の中でお父さんは間に合うかなぁ。と私は思いながら自分の部屋に戻る。まだ学校には行かないけど流石にパジャマままじゃいけないしね。

 

 

 

 私にはお母さんがいない。私が小さい頃に亡くなったらしい。らしいって言うのは私が小さすぎてお母さんの事を覚えていないからだ。

 

 だから私はお父さんと二人暮らし。その上お父さんは海外での仕事が多いから、あまり家にいない時が多い。

 

 だけど叔母のかなえちゃんがよく私達の家に来てくれたり、隣のシゲじいの所に私が遊びに行ったり、友達と遊んだりとしているからそんなに寂しくはないんだ。

 

 それに私は声が出ない。前は出ていたんだけど、去年の秋ぐらいから突然声が出なくなった。

 

 その時は物凄く驚いた。何しろ授業中だったし。

 

 病院に行って検査をしてもらったら、何か精神的ストレスでなっているんだとか。

 

 私は別にストレスは感じてないのにね。何でだろう。

 

 お父さんは何か知っている様子だったけど、聞きづらかった。私よりもショックを受けていたようだったし。

 

 

 自然と治ると先生に言われたけど、半年も経ったのにまだ声が出ない。

 

 だからもっぱら私は携帯や紙に文字を書いてみんなと話している。

 

 初めはみんな戸惑っていたけれど、今では慣れてくれたみたいで、本当に助かっている。

 

 着替え終わり、この後はどうしようかと悩む。学校に行くのにもまだ早いしね。本当にどうしようか。

 

 カーテンを開けた窓を見ると綺麗な青空があり、良い天気だなぁ、と考えて思いつく。

 

 

 散歩した後に学校に行こう。

 

 

 私はそう思うと同時にランドセルを背負い、自分の部屋を出て行く。途中、大事な携帯を忘れてしまいそうになり、慌ててベッドに置いてある丸い石のストラップだけを付けた携帯を手に取って、今度こそ忘れ物がないか確かめてから部屋を出た。

 

 

 お仏壇にも挨拶をして、戸締まりもきちんとした後、玄関で靴を履き、家を出て行く時には口パクだけど「行ってきます」と言ってから出る。

 

 誰もいないけど、私の亡くなったおじいちゃんとシゲじいはちゃんと挨拶を言ってから出て行くんだよ、と教えて貰った。私はどうして、とおじいちゃんに聞いたら、こう答えてくれた。

 

 

『「行ってきます」て言う言葉はね、「お願いします」と言う意味でもあるんだ。自分や他の人がいなくても、家を守って下さい、と言うお願いなんだ。そして「ただいま」は私がいない間家を守ってくれて「ありがとう」と言う意味でもある。だから誰もいなくても「家」に挨拶を言うんだ。挨拶をして貰うのは気持ちが良いしな』

 

 

 この言葉を思い出したのはシゲじいも同じような事を言っていたからで、それ以来私は誰もいない家にも挨拶をしている。

 

 

 家から出て、私が一番初めに出会ったのはいろいろと教えてもらったり、お世話になっている隣の家に住んでいるシゲじいだ。

 

 シゲじいはポストに入っている新聞を取ると私に気づいて話しかけてきた。

 

 

「おっ、つばさ。おはよう。今日は早いな」

 

〔おはよう。早く目が覚めちゃったから早めに家を出たんだ〕

 

「ほぉ、そうか。早起きは三文の得、て言うから今日は良い事があるかもな」

 

〔だと良いね〕

 

 

 シゲじいは笑いながら話しかけて来て、私はにこにこと笑顔で携帯で言葉を打ち、出来た文をシゲじいに見せながら話す。

 

 

「つばさはこの後どうするんだ?」

 

〔散歩してから学校に行くよ〕

 

「へぇ、良いじゃないか。散歩のついでに学校とは。朝ごはんは食べたのかい?」

 

〔まだだけど、コンビニでおにぎりとか買って食べるつもり〕

 

「まぁ、たまにはいいか。ちゃんと朝ごはんは食べるんだぞ。つばさ、行ってらっしゃい」

 

〔うん、ちゃんと食べるよ。行ってきます!〕

 

 

 そしてシゲじいと私は笑顔で手を振って別れる。

 

 

 

※※※※※

 私は朝ごはんを買いにコンビニに行こうと思い、歩いていると、前から走って来る人達がいる。

 

 その人達は三人いて、近づき、姿が見えるようになり、ようやく走っている人達は私がとてもお世話になっている人達の、高町士郎さんとその息子の恭也さん、娘の美由紀さんだと分かった。

 

 走っている三人も私に気がついたのか、私に近づくと立ち止まりながら話しかけてくれる。

 

 

「あれ?つばさちゃんじゃないか。どうしたんだい?」

 

「ほんとだ。朝早くからどうしたの?つばさちゃん」

 

〔おはようございます。目が覚めたから散歩しようかと思って〕

 

 

 私はいつものように携帯で文字を打ち、それを見せると三人とも携帯の画面を見て、言葉を返してくれる。

 

「へ~、つばさちゃんは散歩してるんだ。私達は見ての通りランニングしてるんだ」

 

「ところでつばさちゃんはもうご飯は食べたのかい?」

 

〔まだです。これからコンビニでご飯を買って、公園で食べようかと思ってました〕

 

 

 士郎さんの質問に、私は首を横に振りながら携帯の画面を見せると、士郎さんは言う。

 

 

「なら久しぶりに家で朝ごはんを食べないかい?桃子となのはもつばさちゃんが来たら喜ぶだろうし」

 

〔じゃあ、久しぶりにお邪魔します〕

 

 

 私は士郎さんの言葉に少し戸惑ったけど、返事をすぐに返し、それを見た美由紀さんは嬉しそうに言う。

 

 

「つばさちゃんも一緒にご飯を食べるなんて久しぶりで楽しみだね、恭ちゃん」

 

「あぁ、そうだな。なのはも喜ぶよ」

 

 

 三人とも私と一緒にご飯を食べるのを楽しみにしていて、私は照れくさくなってくる。

 

 

 その後は三人と一緒にランニングしながら高町家へと向かう。

 

 

 それにしても三人とも早いよ。ランニングの速さじゃないくて、かけっこをやっているみたいだったよ。

 

 高町家に着いて、私はまだ数百メートルくらいしか走ってなくても物凄く息切れして、汗もかいているのに、三人は軽く汗をかいているだけだし、本当に高町家の人達は凄い。

 

 ……何でなのはちゃんは運動音痴なんだろう?

 

 私はそう考えながら高町家の門の中に入って行く。

 

 

 

 久しぶりの高町家に入り、いつ以来だっけ?と私は考えていると、確かなのはちゃんの誕生日から来ていないなと思い出して、結構来ていない事にびっくりする。かなえちゃんが来てくれるまでは高町家やシゲじいの所でご飯を食べていたからね。今でもシゲじいの家にはちょくちょく行くけど。

 

 でも、あまり高町家の人達と会うのは久しぶりって言う感じはしない。士郎さんと桃子さんの喫茶店にはよく行くからだろうけど。

 

 

 そんな事を考えながら士郎さんの後ろをついて行き、キッチンにやって来たら、料理をしていた桃子さんが振り返り、微笑みながら士郎さんに「お帰りなさい」と言った後、私に気がついたのか話しかけてくる。

 

 

「あら、おはよう、つばさちゃん。今日はつばさちゃんも一緒にご飯を食べるの?」

 

〔おはようございます、桃子さん。はい、迷惑じゃなかったら〕

 

「迷惑じゃないわよ。むしろ、嬉しいわ。久しぶりにつばさちゃんとご飯を食べられるんだもの、張り切ってご飯を作るわね!」

 

〔ありがとうございます〕

 

 

 桃子さんが本当に嬉しそうにそう言ってくれ、私は自然と笑顔になりながらお礼を返す。

 

 

 私と話し終わった桃子さんは料理の続きを始め、私はリビングに戻ると士郎さんは飲み物を用意してくれていて、私はお礼を伝えると、ごくごくと一気にコップの中身を飲み干した。

 

 ランニングしたから喉が渇いていたんだよね。

 

 

「つばさちゃんはこの後はどうするんだい?まだ、ご飯が出来るまでに時間がかかるだろうし、つばさちゃんは暇になるだろう」

 

 

 飲み終わった私に士郎さんが聞いてきて、私は少し考えた後、いつもの様に携帯で文字を打ち、画面を士郎さんに見せる。

 

 

〔もし、良かったら道場で見学したいです〕

 

「そうか、恭也と美由紀はもう道場に行ったから、二人に聞いてみなさい。まぁ、二人とも良いと言うだろうけどね」

 

 

 士郎さんがそう言ってくれたので、私はお辞儀をしてから道場の方へ向う。

 

 高町家には珍しく道場がある。何でも、小太刀の剣術の道場で一家相伝の技なんだとか。

 

 家の大きさは普通くらいだけど、道場もあるから敷地は大きいんだよね。

 

 

 早歩きで向かった私は道場に着き、恭也さんと美由紀さんに見学してもいいかを聞き、二人とも良いよと言ってくれたので、道場に上がり、まだ背負っていたランドセルを置きながらその横に私は正座をする。

 

 

 恭也さんと美由紀さんは木刀で打ち合いをしていて、道場の中は木刀の打ち合いの音と、たまに聞こえる踏み込む時の足音だけで、他は静かだった。

 

 この静かでどこか少し張り詰めたような道場の雰囲気が私は好きだ。なんか懐かしい気がするから……。だからよく、この家に来ていた時はたまにこの道場で見学をさせて貰っている。

 

 

「おはよう、お兄ちゃん、お姉ちゃん! もうすぐご飯だって!」

 

 

 静かな打ち合いを止める声が聞こえ、声の方を見れば、そこには白いワンピースみたいな制服を着た、高町家の末っ子のなのはちゃんがいた。

 

 恭也さんと美由紀さんはなのはちゃんに挨拶を返し、なのはちゃんと私に先にリビングに行くよう言い、なのはちゃんはその時に私に気がついたようで、驚いている。

 

 私は久しぶりの正座で少し足がしびれていたけど、それを気がつかれない様に私は驚いているなのはちゃんの近くに行く。そして歩きながら打っていた文字を見せる。

 

 

〔おはよう、なのはちゃん。今日は久しぶりになのはちゃん家でご飯を食べに来たよ〕

 

「おはよう、つばさちゃん! つばさちゃんと一緒にご飯を食べるの久しぶりだからうれしいよ!」

 

 

 なのはちゃんは頬を少しピンク色に染めながら本当に嬉しそうに言うから、私まで自然と笑顔になる。

 

 なのはちゃんと手を繋ぎながら私はおいしいご飯があるリビングへと向かう。

 

 

 

 リビングに着くと、とてもおいしそうなご飯が並んでいて、早く食べたいと思っていたら、後片付けを終えた恭也さんと美由紀さんが思ったよりも早くやって来たので、みんなで一緒にご飯を食べ始める。

 

 

 桃子さんのご飯はとってもおいしくて、黙々と食べていたけど、士郎さんと桃子さんがとても甘い空気?みたいなのを放ちながら喋っているのを見て、そういえば士郎さんと桃子さんは新婚夫婦並みに仲が良かったよな、と二人の隣に座っている私は思い出す。

 

 斜め前に座っている恭也さんと美由紀さんも仲が良く、美由紀さんの制服のリボンを恭也さんが直していて、なんだか二人の間の空気が兄妹のとはなにか違う様な気がする。……確かなのはちゃんから聞いた事があるけど、恭也さんは恋人がいたはずじゃあ?

 

 

 私はそんな事を考えながら食べていたら、真ん前に座っているなのはちゃんと目が合ったので、私はなのはちゃんに微笑んだら、なのはちゃんも微笑み返してくれる。そんなやり取りが何回かあった様な気がした。

 

 

 

※※※※※

 高町家でご飯も食べ終わり、少ししたらもう学校に行く時間になって来たので、なのはちゃんと途中まで一緒に行く事にする。

 

 なのはちゃんは待っていたスクールバスに走って行き、私も走ってついて行くけど、なのはちゃんだけがバスに乗って行く。私はなのはちゃんとは違う学校だから乗らない。

 

 なのはちゃんはバスの階段を上がる途中で私に向かって言う。

 

 

「つばさちゃん、また一緒にご飯を食べようね!」

 

 

 私は少しびっくりしたけど、笑いながらこくり、と頷いて、私は軽く手を振る。なのはちゃんも手を振り返してくれた後、なのはちゃんはバスの奥の座席へと進み、バスは動き出す。

 

 さすが私立、バスで登校とはすごいなぁ、と思いながら私はバスを見送り、自分の通う学校には歩いて向かう。私の学校は公立だから徒歩なんだ。

 

 私となのはちゃんは小学校を上がる前からの友達で、別々の学校に行く事が分かったなのはちゃんは私と離れるのが嫌で泣いていた。私も泣いていたけどね。

 

 だって、なのはちゃんには悪いけど、これだけはゆずれなかったんだよ。そう、給食だけは……。

 

 なのはちゃんの学校は弁当持ちらしい。だから私は給食がある学校に通っている。

 

 

 一人で学校に向かいながら、時々はなのはちゃん家でご飯を食べても良いのかな?と考える。

 

 小学校一年の始めらへんはシゲじいの所よりもなのはちゃん家でご飯を食べていたけど、いつからかなんだか場違いだと思って、高町家でご飯を食べる事をやめていったんだ。かなえちゃんが来て、ご飯を作ってくれるようになってからは全くいってない事を思い出す。

 

 でも、今日は久しぶりになのはちゃん達と一緒にご飯を食べたら、みんな喜んでくれたので、本当に時々なら高町家でご飯を食べても良いのかも知れない。

 

 

 

※※※※※

 私はランドセルを背負いながら歩いていると、同じ様にランドセルを背負っている子が多く歩いている。

 

 私が通っている学校では集団登校をしなくてはいけないらしい。

 

 一応、私も集団登校の班はあるけれど、そこの班の待ち合わせ場所が私の家から学校に行く時に逆方向で遠回りになるから、私はその班で学校には行かずに、途中で一緒になる班について行く事にしている。

 

 

 ランドセルを背負った集団の流れに合わせながら私はぼーっと歩いていると、前で楽しそうに笑って友達と喋っていた男の子とぶつかってしまい、その相手の男の子は上級生なのか私よりも身体が大きかった。

 

 

「痛いな。何すんだよっ! ……っ!?」

 

 

 ぶつかってしまった男の子が怒鳴りながら振り向き、私は謝ろうとしたけど、男の子は私の顔を見ると驚き、なぜかおどおどと落ち着かない様子だ。

 

 私はその様子を不思議に思ったけど、ぼーっとしていた私が悪いので、携帯に〔ごめんなさい〕と打ち、頭を下げる。すると男の子は、

 

 

「ちゃ、ちゃんと気をつけろよ」

 

 

 と声を裏返しながら言い、男の子とその友達は慌てるようにかけ足で校門を通って行く。

 

 なんだか私から逃げて行くようだったな、とまた不思議に思っていると、後ろから私を呼ぶ声がして、振り返って見るとそこには雫ちゃんがいた。

 

 

「おはよう、つばさ」

 

 

 雫ちゃんは明るい笑顔で言い、私も口パクだけど「おはよう」と笑顔で返す。

 

 

 雫ちゃんはついさっきの笑顔から不機嫌な顔に変わり、言う。

 

 

「つばさ、またあの上級生達に何か言われたの?」

 

 

 私はなんの事か分からずにきょとんとして、さっきのぶつかった男の子を思い出してみれば、見覚えがあり、そういえば去年の冬くらいに絡まれた事があったなぁ、と思い出す。

 

 でも、あの時しか絡まれていないし、さっきのはぼーっと歩いていた私が悪かった事を携帯に書き、それを雫ちゃんに見せる。

 

 

「そうなんだ。良かった。またつばさが何か言われているのかと思った」

 

〔ありがとう、心配してくれて〕

 

「ははっ、どういたしまして」

 

 

 ほっとしたように雫ちゃんは言ってくれて、私がお礼を言えば、照れたように笑う。そして、雫ちゃんは一転、真面目にそうそうと言いながら話す。

 

 

「あの上級生達、あまり良い噂は聞かないから気をつけた方がいいみたい。先生達も手を焼いてるみたいだし」

 

「でもさ、何かこの頃はおとなしいらしいぞ、あの上級生達」

 

 

 私はへぇー、と思いながら雫ちゃんの話を聞いていると、私達の話しに入ってくる声がして、その声の方を見れば和夜君がいた。

 

 

「確かに今は何にもないらしいけど、きっとまた何かやるんじゃないかって、先生が心配しているみたいなんだよね」

 

「まぁ、そうかも知れんが。確かおとなしくなったのは去年の二学期の半ばらしいし。……様子見だなぁ」

 

 

 雫ちゃんと和夜君はそんな事を話していたけど、二人にこうも言われている、あの上級生達は結構なやんちゃなんだ、と私は思った。

 

 

 それから色々と話しは進み、ドアの上にある表札に三年二組と書かれた教室の中に雫ちゃんと和夜君、そして私の三人が入る頃にはおにぎりの具は何が一番合うのかという話になり、激しく話し合っていたが一旦休戦して、雫ちゃんと和夜君は背負っていたランドセルを自分の机に置く。

 

 そして私もランドセルを自分の机に置き、中から教科書等を取り出して机の中にしまい、空になったランドセルを後ろの決められた自分の棚にしまう。席に戻ろうとする途中にいるクラスメートに携帯ではなく、メモ帳にあらかじめに書いていた挨拶の言葉を笑顔で見せると、クラスメートも笑顔で挨拶を返してくれる。

 

 

 私が自分の席に戻ると、なぜか私の席を挟みながら雫ちゃんと和夜君がまだおにぎりの具の事を話し合っている。……そこは私の席なんですけど。

 

 まぁ、それはいつもの事なので私は気にしないで席に座れば、

 

 

「おにぎりはぜっったいにシャケだよね!!」

 

「いいや、梅干しだ!」

 

 

 と、二人は言った後、私に「つばさはどっち!?」と見事にハモらせながら言い、私はシャーペンでメモ帳に言葉を書き、二人に見せる。

 

 

〔おにぎりに具はいらない〕

 

 

 それを見た二人は衝撃的だったのか、しばらく固まっていて、チャイムがなると、最初に和夜君が動き出す。

 

 

「……おにぎりはおいしいって事だよな」

 

 

 そう和夜君は呟き、雫ちゃんと私はそれに頷いてこの、おにぎりの具戦争は終わった。

 

 

 

※※※※※

 授業も終わり、先生に気をつけて帰るように、また明日、と別れの挨拶を言うと、クラスのみんなはほぼ一斉に立ち上がり、先生に向かって「さようなら」とみんなで言う、その後は思い思いの友達同士で家に帰ろうと何人かで固まりながらみんなは教室を出て行く。

 

 私も家に帰って漫画でも読もう、と思いながらランドセルを背負い、教室を出て行こうと教壇の前を横切ると、担任の夕菜先生に呼び止められた。

 

 

「悠木さん、ちょっと待ってて貰ってもいいかな? 少しお話があるの」

 

 

 私はなんだろうと思いながらこくりと頷き、夕菜先生が片付け終わるのを待つ。途中で、先生に話しかける子がいたりとして、少し待ち時間が延びたりもしたけど、私も雫ちゃんと和夜君と話をしていたので、そこまで待った気がしなかった。

 

 教室には夕菜先生と私だけになったので、ここから移動しないで教室でお話しをする事にした。

 

 

「それでお話しなんだけどね、つばさちゃん」

 

 

 先生が私の事を「つばさちゃん」と呼んでいたので、少しだけしていた緊張を解きながら頷く。夕菜先生が私を名前で呼ぶ時はプライベートの事だし。

 

 

「今日は家に一人だって朝につばさちゃんのお父さんから聞いたんだけど、大丈夫?」

 

 

 あぁ、その事か、と思い、お父さんは心配性だなぁ、と考えながらメモ帳に文字を書き、夕菜さんに見せる。……一応、まだ学校だから携帯は使わない。

 

 

〔その辺は大丈夫だよ。朝にかなえちゃんからメールが来て、夜にはこっちに来れるって言ってたし〕

 

「そう、それなら良いの。…………師匠はつばさちゃんの家に泊まるのよね?」

 

 

 夕菜さんは少しほっとしたようにしたかと思えば、考え込むように言い、私は苦笑しながら、またメモ帳に書く。

 

 

〔夕菜さんも泊まっても良いよ〕

 

「ほんとに!? ありがとう、つばさちゃん!!」

 

 

 夕菜さんは喜びながら私に抱きついてきて、苦しい。

 

 

 私が苦しそうにしてるのに気がついた夕菜さんは私から離れながら謝ってきて、気合いを入れながらこう言ってくる。

 

 

「師匠に会えるなら仕事はささぁっと片付けて、つばさちゃん家に行くわね!! 早速片付けに行かないとっ。またね、つばさちゃん!」

 

 

 夕菜さんはそう言うと、物凄い速さで職員室のある方へと向かって行った。

 私はしばらくの間、呆然としていたけど、久しぶりに夕菜さんがかなえちゃんと一緒に私の家に泊まるとなると賑やかになるなぁ、と思いながら下駄箱に向かう。

 

 

 ウコンとインスタントのしじみのみそ汁がまだあったかな?と思いながら学校の門から出ると、前から雫ちゃんがやって来る。

 

 

「何気に早かったね、つばさ。先生は何の用だったの?」

 

〔今日は一人で大丈夫かって心配されたけど、かなえちゃんが泊まるから大丈夫だって伝えたら一緒に夕菜さんも家に泊まる事になった〕

 

 

 もう学校から出たので携帯で文字を打ち、雫ちゃんに見せたら、雫ちゃんは羨ましそうに言う。

 

 

「へぇ、良いなぁ。それにしても、つばさは夕菜先生と仲が良いんだ。どうして?」

 

〔かなえちゃんつながり〕

 

「ふーん、そうなんだぁ」

 

 

 雫ちゃんは納得したように頷き、私と手を繋ぎながら、私は夕菜さんと仲良くなった出来事を思い出す。

 

 

 確かかなえちゃんが書いている漫画のイベントに連れられて、その時に夕菜さんに会って私は驚いたんだ。私よりも夕菜さんの方が驚いていたけど……。

 

 まさかあの場所で私が通っている学校一の美人教師がいるとは思わないし、あの時は小二だった私があそこにいるとも思わないだろうから当たり前か。……ちなみにかなえちゃんが書いている漫画は種類で言うと今も根強い人気のBとLがつくやつです。

 

 そして秘密を知られてしまったかなえちゃんは開き直ったのか、私と二人でいる時には熱く語って来るようになり、かなえちゃんの事は敬意を込めて「師匠」と呼んでいるんだとか言っていた。

 

 

 

「つばさ、話し聞いてた?」

 

〔ごめん、聞いてなかった。なんだっけ?〕

 

 

 雫ちゃんが不貞腐れる様に言い、私は考え事をしていたから聞いていなかったので雫ちゃんに聞けば、少しだけ怒ったように言う。

 

 

「うちも今度、つばさの家に泊まりたいって言ったの」

 

〔うん、良いけど、別に今日でもいいよ。夕菜さんが来て、お酒臭くなるだろうけどね〕

 

「かなえちゃんがいるとそれはいつもの事じゃあ……。ありがとう。でも今日は無理なんだ。だからまた今度行くね」

 

 

 雫ちゃんは嬉しそうに笑いながら言うと、丁度別れ道になったので「また明日」と雫ちゃんと別れた。

 

 

 

※※※※※

 家に着き、ランドセルを置いてからキッチンに寄る。

 

 ウコンとしじみのみそ汁があるかどうか調べるとなかったので、かなえちゃんに夕菜さんが家に泊まる事とウコンとしじみのみそ汁を買って来て欲しい事をメールで伝えると、一分もしない内に〔了解!〕と返ってきた。

 

 その後は自分の部屋に戻り、ベッドで寝転びながら漫画を読み始める。

 一冊目を読み終わり、二冊目を読み始めた時に、ドアがバンッ!と大きな音を立てながら開き、私はその音にびっくりして、持っていた漫画を自分の顔に落とし、少し顔が痛い。

 

 漫画をどかして開いたドアを見ると、そこにはにんまりと笑っているかなえちゃんがいた。

 

 

「ぷっくく。ベタなリアクションだねぇ、つばさ」

 

 

 かなえちゃんは笑いながら言うと、私は少し呆れた後に「いらっしゃい」と声に出さずに口パクだけで伝える。

 

 

「うむ、いらっしゃいましたよ。……でもさ、つばさ。鍵はきちんとかけときなよ~」

 

〔かなえちゃんが来ることが分かってたから開けといた〕

 

「それでもだよ。前も言ったけど最近は物騒だし。……でも、ありがとね」

 

 

 私は〔どういたしまして〕と伝えると、かなえちゃんは私の頼みで買ってきた品物を下にそのまま置いてきたのでそれを片付けるために下に行き、私は読みかけの漫画を読み始める。

 

 

 夕飯時になると、夕菜さんも家に来て、一緒にご飯を食べる。

 

 かなえちゃんと夕菜さんはやっぱりお酒を飲んでいる。

 

 できれば夕菜さんにガンガンお酒を飲まさないで欲しい。夕菜さんはかなえちゃんと違ってお酒に弱いから……。

 

 

「……でね! あのハゲは……!!」

 

 

 案の定酔っ払った夕菜さんは愚痴をいろいろと言っていて、かなえちゃんはそれに頷いているけど、見るからに聞いてないのが分かるし、ただ酔っ払っている夕菜さんを眺めて面白そうに、にまにましている。だけど夕菜さんはそれに構わず愚痴を話し続けている。

 

 

 それを見ながらも私はご飯を食べ終わり、お茶を飲んで一息ついていると、かなえちゃんが缶酎ハイから日本酒の一升瓶に手を伸ばす。

 

 それを見て、これは朝まで飲みそうな感じだね、かなえちゃんは、と私は思い、それに付き合わされる夕菜さんに同情する。

 

 

 私は食べ終わった食器と空いたお皿を流し台に置いて自分の部屋に戻り、三週間前までに出さなくちゃいけなかった筈の宿題を片付ける。……さっき夕菜さんに言われたし、ついでに昨日までの宿題も片付けよう。

 

 

 

 自分の机に向かい、宿題をしていると突然、頭の中から声が響いてくる。

 

 

(この声が聞こえている方、お願いします! 力を貸してください!!)

 

 

 切羽詰まった声が頭の中から聞こえてきて私は驚いて、自分の部屋を見渡すが何もない。

 

 私は空耳かな? と思い、宿題をやるけど、どうもさっきの事が気になって進まない。私の机は窓の近くにあるので本当にちょっとした息抜きにカーテンと窓を開け、そこから見える景色を見る。

 

 そこから見える景色は夜なので暗く、たとえ明るくても家ばっかだろうから、あまり見応えはない。空を見ても星も少ないなあ、と思うだけだ。

 

 ふと、空を見上げていた視線を下の方に向けば、なのはちゃんが走ってどこかに向かう姿がある。

 

 私はどうしたんだろう? と思い、もしかしてと考える。

 

 なのはちゃんも頭の中に響いてくる声を聞いたのかな?

 

 そう考えたら私は立ち上がり、机に置いていた携帯を手に取ると、なのはちゃんを追いかける事にした。

 

 頭の中の声は助けを求めていたし、助けに行かないとね! ……別に宿題に飽きた訳でもなく、ただなんか面白そうだった、という事でもないよ。

 

 

 

 なのはちゃんが向かって行った方に走っていると、かなえちゃんからメールが来た。

 

 内容は〔どうした?〕の一言だけで、私はすぐに〔なのはちゃんと遊んでくる〕と返す。かなえちゃんは〔気をつけて〕の簡単な物だ。

 

 それにしてもかなえちゃん、私が外に出たことに気がついていたんだ。一応気がつかれないように家を出たと思っていたけど……修行がたりなかったみたい。

 

 

 そんな事を考えながら走っていると、前に突然大きなピンク色の柱が立ち、思わず私は足を止め、呆然とその柱を見るが、しばらくしたらピンク色の柱はもうなくなっている。

 

 柱がなくなり、我に返るとすぐに走ってピンクの柱が立っていた場所へと急ぐ。

 

 なのはちゃんはそこにいるだろうと、なぜだか確信していた。……まあ、こういう場合はお約束みたいな感じだしね。

 

 

 




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