オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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個人的オラサーダルクのイメージ=アンヘル
懐かしくなってDODやってたらちっとも筆が進みませんでした!


王都 その3

深夜、エンリはふと目を覚ました。普段眠りは深く滅多な事では起きない。それこそ寝相の悪いネムに蹴り飛ばされても寝ている自信がある。

目が覚めた途端、言葉にできない嫌な気分になった。ただ、それは自分が感じているものではないと気づく。

ネムを起こさないようにそっとベッドから抜け出すと庭へ向かう。

「オラサーダルク」

姿は見えないがそこにいる原因に声をかけた。

「すまぬ、起こしてしまったか」

庭に寝そべっているオラサーダルクが姿を見せる。

「何かあったの?」

オラサーダルクとつながった線を通して感情の一部が漏れてきた。そういう事らしい。

意味が分からないがそういうものだと理解してしまったのでそういう事にしておく。

オラサーダルクは少し悩んだ後、尻尾の先を空に向ける。

その先をと赤々と燃え上がる炎の壁が見えた。

「あ、あれは……」

「ただの火事ではないぞ。悪魔どもの気配がする」

漏れてきたのは悪魔への嫌悪感らしい。

「数えるのも嫌になるくらいの数がいる。一体何が起きているのやら……」

「あそこにも……住んでいる人が……」

「いるだろうな。悪魔どもが現れてさほど時間はたっていないが一般人では抵抗などできまい。目的が何かはわからんがろくな事にはならんだろう」

煩いくらい心臓が鳴る。

カルネ村でもそうだった。

エ・ランテルでもそうだった。

そこで何かが起きてもただ見ていることしかできない無力な自分。

だが、今は。

「エンリ」

びくっと体が震えた。

何もかも見透かしたかのような瞳がエンリを見下ろしている。

「何を迷う。最初に私が言ったことを覚えているのだろう?」

少し前には存在しなかったもの。悪魔に追われ恐怖し逃げ惑う人達を少しでも助け出せるかもしれない力。エンリの剣となり盾となる。そう誓った強力なドラゴン。

「あれだけの規模だ。我らが行ったとてできることは限られている。もう手遅れの可能性もある。それでも、己の気持ちに従うなら一言命じればいい」

心は決まっている。後は踏み出す覚悟だけ。

全員助け出すなんて無理なのは理解している。自分は何故かドラゴンを使役することになってしまったただの村娘だ。ただの村娘だったからこそ、自分と同じようにすべてを奪われようとしている人々をただ見ていることなどもう出来なかった。

「オラサーダルク、私と一緒に来てくれる?」

「行くのは我らドラゴンだけ、と言いたかったが……曲げるつもりはないようだな。ならばさっさと着替えてこい。さすがにその姿で行くわけにはいくまい」

「着替えてくるけど……先に行ったら許さないから」

「安心しろ。大人しく待っている」

言わなかったら自分たちだけで行ってしまっただろうから釘を刺しておく。

オラサーダルクがエンリの気持ちを察したように、エンリもオラサーダルクの考えていることがなんとなくわかるのだった。便利なようなそうでないような。

部屋に戻ったエンリは自分の少ない荷物から例の服を引っ張り出す。

オラサーダルクが言うにはあの時身に着けていた衣類すべて身を守るための力が込められていたらしい。寒い所に行くので耐寒用と軽く考えていたがそんな程度ではないらしい。

悪魔相手にどれくらい通用するかはわからないが普段着で行くよりマシだと信じたい。

ネムに気づかれないように気配を殺し着替えを済ませる。あの時の髪型は再現できなかったため普段と同じ三つ編みにしておいた。

部屋を出ようとすると視界で何かが光った気がした。

それはテーブルに置きっぱなしになっていた一振りの短剣。ジュゲムが素材加工に使っていた道具の一つ。削りかけの木材や他の加工道具と一緒に放置されていた。

刃渡りは10cm少々。加工用で使っているからには殺傷能力も低そうだ。

それにこれを持って行っても自分が振るう姿がイメージできない。

だが、なんとなく借りていくことにした。さやに入れ迷った末ニーソックスにさして固定する。

 

「お待たせ」

少しだけ不安だったがオラサーダルクはちゃんと待っていた。

「ふむ、様になっているではないか。では行くとしようか。ヘジンマール、貴様は共に来い。キーリストランは悪魔どもがこちらへ来た場合に備えてネムとここにいろ。起きてきた場合の足止めも任せる」

言い終えるとオラサーダルクは体勢を低くした。その首の付け根あたりには輪にしたロープが掛かっている。

「キーリストランがネムを乗せる時に用いたものだ。何もないより安心できるだろう。もっとも背面飛行などは避けるから大丈夫だとは思うが」

非常に怖い。実は空を飛ぶことは考えてなかった。冷静に考えれば翼のあるドラゴンが徒歩移動なわけがない。深呼吸一つしてオラサーダルクの体に登る。

首の付け根に跨ると輪になったロープの中に入りギュッと握る。

「しっかり掴まっていろ」

庭の木々を軋ませる暴風と共に巨体が浮かび上がる。暴風に耐えきれずエンリは目を閉じた。初めて体験する重力に抗う感覚。数秒後、上昇が止まりエンリは目を開ける。

「うわぁ……」

眼下に広がる街の明かり。赤々と燃え上がる炎の壁がなければどれだけ感動しただろうか。

「望むならいつでも乗せて飛ぶぞ」

「ええ、次はアレがない時に」

オラサーダルクは隠密のアミュレットを発動させる。その力がエンリにも及んでいることをヘジンマールに確認させると炎の壁上空に進路をとった。

「む、すでに人間の兵士が戦っているな」

「ですが、数で圧されているようですね。あのような陣形では……」

「はっきり言え」

「は、はい父上! あの陣形では守りに適さないように思えます。バリケードを築き防衛ラインを敷いているようですがどうにも不自然です」

「ヘジンマール、お前人間の兵法も知っているのか?」

「本から得た知識とそれに基づいた推測です。可能性としては反撃の準備をするための時間稼ぎ、あるいは囮。悪く言えば生贄かもしれません」

ふむ、と唸ってオラサーダルクは地上を見下ろす。

実際バリケードを食い破られ悪魔の群れに蹂躙されている箇所が増えてきている。

少しでも多くを助けたいと望む主の為にどう動くべきか。

「ヘジンマールはこのまま上空に待機、人間の動きを把握して大きな変化があれば合流せよ。エンリ、降りるぞ。まずは食い破られそうになっている守備隊からだ」

 

「くそが! 殺されてたまるか!」

最前線で陣を敷く形になっているのは街の衛士たちだった。本来王都の警邏が主任務であり魔物との戦闘経験がある者は少ない。魔物との戦闘は冒険者に委ねられているのが実情だった。

だが、今ここで牙をむく悪魔からしてみればそんなことは関係ない。簡素なバリケードもそう持たないだろう。バリケードの損傷を阻止するため陣を守る衛士たちは死に物狂いで槍を突き出した。そうすることで槍を警戒する魔物が僅かに距離をとる。

その繰り返しだけが衛士たちの精神をギリギリの所で持たせていた。

このバリケードの襲撃しているのはヘルハウンドが50匹とそれを統括するグレーターヘルハウンドが1匹。グレーターヘルハウンドは10mほど後方で成り行きを見守っているようだった。

そうこうしているうちに波状攻撃と退避が繰り返される。

「……なんだ?」

今回は様子が違った。後方のグレーターヘルハウンドが動いた。

「ウオーーーン」

遠吠えのような鳴き声を聞くと配下のヘルハウンドがバリケードの前、槍の届かない位置にずらりと横隊を組む。約半数で前後2列。

衛士たちは知識がない故仕方のない事だったがヘルハウンドは炎を吐く。知らないということは備えられないという事であり致命的だった。

大きく開かれたヘルハウンドの口内に炎がともる。直後吐き出された火焔はバリケードを覆いつくした。同時に、隙間から様子を見ていた衛士も巻き込み火達磨にする。

間髪置かず後列のヘルハウンドがバリケードに飛び掛かり崩しにかかる。

「ひっ……ひぎゃ!? あつ……ぎゃぁああ! じ、じぬぅーーー」

仲間の一人が悲鳴を上げのたうち回る姿を他の衛士は呆然と見ているしかなかった。

炎をものともせず攻勢をかけるヘルハウンド達を追い払う事も頭にない。

そして、周囲に肉の焼けた臭いが満ちると耐えきれなくなった誰かが嘔吐した。

それが切っ掛けで衛士たちは恐慌状態に陥る。

何人かがバリケードを放棄して逃げ出そうとする。

だが、そんなことはゆるさないとでもいうように更なる絶望がそこに佇んでいた。

見上げるような巨躯。鋼の鎧すら軽く引き裂きそうな輝きを秘めた鋭い爪。大きく広げた翼は絶望と共に天を覆いつくすかのよう。絶対者たる確信を秘めた竜眼は睨まれただけで心をくじく。炎の色を鱗に映しこむその姿はまさに恐怖の象徴といえようか。

「あ……あ……」

恐怖で言葉が出ない。全身から力が抜け座り込む。股間が濡れて水溜りができていたが些細なことだった。次の瞬間には死ぬことになるはずだったから。

だが、その時はいつまで待っても訪れない。

「驚かせてごめんなさい」

「は……?」

ドラゴンの前には少女が立っていた。見たことのない高級そうな服を着ているその姿はおよそ戦場に似合わない。これから夜会に行きますと言われた方がしっくりくる。

「魔物は私達が何とかします。その間に皆さんで逃げる準備を」

逃げるも何もドラゴンが立ちふさがっていてソレはかなわない。そもそも私達というが少女以外に人影はない。そう言いたかったが恐怖に支配された衛士は言葉にできない。

「オラサーダルク、お願いします」

少女の言葉はドラゴンに向けられていた。ドラゴンが頷き動く。

石畳が砕けるほどの力で巨体が跳ねる。地面を蹴った勢いに合わせて翼が暴風を巻き起こし加速する。視認できないスピードでバリケードの上を通過すると反応できず棒立ちのヘルハウンドの上に着地。運悪くそこにいたヘルハウンド数匹が瞬時に挽肉と化す。

驚き逃げ惑うヘルハウンド。その一匹を凶悪な咢が襲う。

骨を砕く租借音が辺りに響いた。

「……ふむ、一度料理を知ってしまうと未加工の獣肉など不味くて喰えたものではないな」

呆然とする衛士たちよりヘルハウンドの立ち直りが早かった。リーダーの指示でドラゴンの前に再び横隊を組むと一斉に火焔を吐き出す。

「フロスト・ドラゴンには炎。ちゃんとわかっているではないか。だがな……」

翼が唸り巻き起こった暴風は一瞬で炎をかき消した。

「我に届かせたいならその100倍用意しろ」

怯むヘルハウンドの群れ。獣の本能が逃げろと警鐘を鳴らしているのだろう。

「逃げたいか。残念ながらそうはいかない」

オラサーダルクが大きく息を吸い込む。瞬間、空気が薄くなったような気がした。

口元から漏れる呼気に触れ空気がキラキラと輝きを帯びる。

目には目を。歯には歯を。ブレスにはブレスを。

ドラゴンがそれぞれ持つ属性をもとに振るう凶悪な攻撃。その威力は年齢と共に強化される。長き時を生き、山を支配するほどの力を持ったオラサーダルク。さらには傾城傾国の共鳴効果によるバフも上乗せされる。

オラサーダルクにとっても過去最大の威力を持ったアイスブレスが放たれた。

「う、うわぁ……」

バリケードの隙間から様子を見ていたエンリは呆然とする。

オラサーダルクの正面、およそ100mほどだろうか。石畳も通りに面した家も植えられた街路樹も、そしてヘルハウンドの群れもその全てが白一色になっていた。

動くものは何もなく静止した世界。オラサーダルクが吐き出した極冷の吐息はありとあらゆる熱を奪い凍結させた。

初めて目にするドラゴンのブレスというものがこれほどとは思わなかった。

数秒の後、骨まで凍結し自重に耐えかねたヘルハウンドの氷像が砕けていく。

白い世界に赤が混ざった。

 

「じゃあ、私達はこれで。空から見ていた限りまだ他の群れが近くにいます。ですから今のうちに逃げてください」

そういった少女はドラゴンの側へ。

「あ、あんたは……なんなんだ?」

「ただの……村娘ですよ。ちょっと変わった仲間がいるだけの」

ドラゴンが体勢を低くし少女は恐れることなくその背に上がる。

ただの村娘であるはずがない。強大なドラゴンを使役し騎乗するその姿は身に着けているドレスも相まって神々しく見えた。

羽ばたきが巻き起こす暴風に思わず目をかばう衛士たち。再び目を開けた時ドラゴンと少女の姿はなかった。空を見上げても同じ。隠密のアミュレットを起動しただけだが衛士たちにはそう見えなかった。

「め、女神だ……女神様が助けてくださったぞ!」

「あ、ああ! 女神が生き延びろと仰った! 皆、生き延びるぞ! 撤退準備だ!」

本来衛士に与えられた命令はこの場所の死守。

だが、だれも撤退に異を唱えることは無かった。

 

「緊張した……」

「初陣はこんなものだろう。ヘジンマール、状況はどうだ?」

王都上空に戻ったエンリ達はヘジンマールと合流した。

「お疲れ様です、お父上。近場なら今の場所と同規模の戦闘が2本北の通りで起きています。それとは別に人間の方にも動きがありました。反抗作戦の準備なのか前線を守っている兵士より質の良い装備で身を包んだ者たちが集結しはじめています」

「じゃあ、その準備が整うまでは」

「うむ、前線を守らんとする弱い兵士を逃がす時間を作るために奇襲と陽動だな。ただし、隠密のアミュレット使用したまま奇襲、一撃離脱を繰り返すぞ。どうも我らの姿は刺激が強すぎるらしい」

姿を見せるたびに失禁されても不愉快だった。

 

隠密状態で急降下からの奇襲、一通り掃討したら何が起きたか理解できず呆然としている衛士たちの前にエンリが姿を見せ撤退を促す。

エンリとオラサーダルクがそんな襲撃を繰り返している間に地上ではミスリル以上の冒険者で構成された再突入部隊が編成されていた。

先頭に立つのはラキュース。人類の切り札といわれるアダマンタイト級冒険者チーム『蒼の薔薇』、そのリーダーを務める女性である。

突撃をかけてまもなく多数の悪魔と会敵、戦闘が始まる。

最初こそ質で勝る冒険者側有利だったが敵は次々と湧いてくる。

「くっ、いくら何でも数が多すぎる」

質を軽く凌駕する物量。まるで王都にいるすべての悪魔が集まってきているかのよう。

実の所それは間違っていなかった。オラサーダルクの襲撃で弱い獲物を逃してしまった悪魔たちはより強い生命力に惹かれ集結していた。

また一人、ミスリルの冒険者が数の暴力の前に力尽きる。

状況はどんどん悪くなる一方。

たしかに、敵の戦力を引き付ける、そういった意味では作戦成功といえるだろう。

その間に別動隊が敵首魁を討ち取ればこちらの勝ちだ。

だが、このままでは磨り潰される。万が一別動隊が失敗したときのことも考えてここにいる戦力を失うわけにもいかない。ここは引くしかない、ラキュースはそう判断した。

「てっ―!」

空からゆっくりと降りてきたそれはラキュースの号令を止めさせるほどの異形だった。

身長は3mほど、全身に隆起した筋肉の鎧を纏う。頭部にはヤギの頭蓋骨。丸太ほどもある両手に握りしめるは巨大な大金槌。

蒼の薔薇のメンバーが全員健在で欠けることなくこの場にいれば何とか勝てるだろう。だが、消耗しつくした現状勝てる要素はない。それを一瞬で理解できてしまうほどの強敵が現れた。

最悪な状況だった。

「しゃーない、ここは俺たちが食い止める。あんたは逃げてくれ」

「その通りだ。あんたが生き延びてくれればここで死んでも復活できる可能性が出てくる。費用の高さは知っているがそこは貴族どもにでも払わせてくれ」

覚悟を決めた数人が陣形を離れる。まるでピクニックに行くかのような軽い足取りで死地に赴いていく。

そんな彼らにラキュースは背を向け叫ぶ。

「総員撤退! 死に物狂いで撤収せよ!」

一丸となって撤退行動に移る残りの冒険者達。だが、たった数歩の距離で足が止まった。

「なん、で……こんなところにドラゴンがいるのよ……」

青白い鱗を持つ巨竜があろうことか2匹も。万全の状態であっても討伐は不可能であろう。大金槌の悪魔より明らかに格上の存在。

さすがのラキュースでも足が動かせなかった。眼前には竜、後ろには悪魔で絶体絶命だった。

ただ、不思議な事に悪魔もその動きを止めていた。

そんな中、動くのは一人だけ。2匹のドラゴンの間から出てきた少女だけ。

「へ……?」

余りにも予想外過ぎて変な声が出た。

周りの冒険者たちもぽかんと間抜け面をさらしている。

「遅くなってごめんなさい。私を下ろしてもらう場所が近くに無くて」

何と答えていいかわからず固まったままのラキュースに苦笑するエンリ。強そうな冒険者なら姿を見せても大丈夫かと思ったがそうでもなかったらしい。

失敗したかなと思いつつ臨戦態勢に入ったオラサーダルクの首を撫でた。

「怪我はしないで」

「うむ。では、行くぞ。有象無象共は下がるがよい。邪魔だ」

敵ではないらしい。恐る恐るドラゴンの横をすり抜けていく冒険者達。だが、再び足を止めることになる。眼前には迂回して後方から襲い掛かろうとしていたのであろう悪魔の群れ。

「父上、迂回部隊の足が予想以上に早かったようです」

「ならば協力してエンリを守っていろ。数分持たせればいい。だが、万が一エンリがかすり傷一つでも負うようなことがあれば……半死ではすまぬぞ」

「は、はいぃ!」

もう一匹のドラゴンが後方の群れの前に立ちふさがる。

「そこのあなた」

「な、なに!」

ドラゴンに話しかけられるなど初めての経験だった。ラキュースは湧き上がる恐怖を必死に抑え応じる。

「この中では幾分か強そうですね。この方をお願いします。私が前に出ますのであなた達は打ち漏らしの対応を頼みます。万が一この方が怪我したらあっちのドラゴンが怒り狂って大暴れすると思いますのでくれぐれもお願いしますよ!」

一方的に告げると少女に向きなおる。ドラゴンは鼻の頭にのせている眼鏡を少女に預けると悪魔の群れに突っ込んでいった。

ヘジンマールは強いドラゴンではない。ずっと引きこもり運動不足の極みだった。

だが、巣を捨てた父についていくことを選んだ時が転機となった。我が子であることが情けないと始まった死と隣り合わせの猛特訓。少しスリムになり体も軽く。戦闘力も少しは向上した。期間こそ短かったがそれなりに効果はあるようだった。

「えーっと、これはヘルハウンド、それでこっちが朱眼の悪魔に魂喰の悪魔と。すごい、図鑑の通りだ」

そのドラゴンが合わせて持っていた図鑑などから得た知識をフル活用する。ただ力で押すだけでなく相手の力量や特性を把握し力を振るう。

例えば魂喰の悪魔が周辺の対象に恐慌を与える技、魂の絶叫を使うそぶりを見せると優先的につぶしていく。

「その技は困る。万が一あの服の防御を超えてしまっていたらどんな目に合うか……」

数多くの悪魔が群がるが今のヘジンマールにとってはどれも敵ではなかった。一方的な掃討。爪の一振りで、尻尾の一振りで消し飛んでいく。数が多すぎるのが難点ではあるが今の所打ち漏らしはない。

ふと気づけば悪魔たちが減る勢いが増している。悪魔たちのさらに後方に別の一団が現れていた。

「そこのドラゴン! そなたは家の庭にいたなかの1匹に相違ないか!」

庭といわれるともちろん心当たりがある。兵士の一団の先頭に見覚えのある顔が混ざっていた。

「そうですよ、味方ですよ」

「なら良し! 総員傾注! 敵は悪魔のみ! 繰り返す、敵は悪魔のみだ!」

挟撃に合う形になった悪魔にもはや勝機はなく。

「もう任せてもよさそうだな」

一か八か、高速で横をすり抜けようとしたヘルハウンドを握りつぶして振り返る。

オラサーダルクの方も決着がつこうとしていた。

 

「これほどの力を持つドラゴンが人間に従っているだなんて……」

ラキュースはなかなか信じられないでいる。目の前のドラゴンは大金槌の悪魔を圧倒的な暴力でねじ伏せていた。

戦闘らしきものはほぼなかった。あったのは一方的な蹂躙劇。

最初の一手、全てを凍結させるアイスブレスが悪魔の群れを飲み込み、大金槌の悪魔含む数匹しか生き残っていなかった。生き残りも無傷のものはおらず巨体からは想像もできない敏捷性で襲い掛かるドラゴンになす術もなく狩り殺されていった。

抵抗らしい抵抗ができたのは唯一大金槌の悪魔だけ。怒りに燃え大金槌を振り下ろすがかすりもしない。砕け散る石畳からその一撃は想像絶する威力だとわかる。恐ろしい勢いで武器を振り回すがすべて見切られている。

数回の回避の後ドラゴンが動いた。わざと隙を見せ渾身の一撃を誘う。繰り出された大金槌の一撃を尻尾でからめとるとそのまま大金槌を捩じるように奪い取った。同時に響く骨がへし折れる音。

「もう少し粘るかと思ったがこの程度か」

心底つまらなさそうなドラゴン。両腕をへし折られた大金槌の悪魔が翼を広げて逃走を図る。当然逃がしてもらえるわけもなく。尻尾で巻き取り奪った大金槌に遠心力を乗せた強烈な一撃。殴打属性の攻撃にもかかわらず、直撃を受けた悪魔はあまりの威力に上半身と下半身が分断され石畳に叩きつけられた。そんな上半身だけになってもまだ動こうとする悪魔。

「しつこいぞ」

とどめに頭部を踏み砕かれ間もなくその姿を薄れさせ消えていく。

それがこの場にいた最後の悪魔だということに気づくまで少し時間がかかってしまった。

「何を呆けている。勝鬨の一つでもあげたらどうだ?」

「……いえ、それはまだです」

悪魔の群れを別動隊の方へ向かわせない。その目的は成った。

だが、敵首魁を討たない限り勝鬨を上げるにはまだ早い。

「ダメージが大きい者はこのまま後方へ。まだ戦える者はこのままモモンさんの下へ向かいます」

「ラキュース殿、ご無事か」

後方にいた部隊を引き連れてガゼフがラキュースの下へ駆け寄ってきた。

「ストロノーフ様、なぜここに……?」

本来ガゼフは城で王の守護についているはずだった。ガゼフが振り返り跪く。

そこにいたのはリ・エスティーゼ王国国王、ランポッサ3世。

「なんて無茶を……」

「我らが守るのは王であり城にあらず、というわけだ」

危険極まりない行為だった。今でこそドラゴンたちのおかげで戦闘は鎮静化したがまだ悪魔が潜んでいる可能性もある。王は鎧を着こんではいるが十分な守りとは言えなかった。

「ところで、ラキュース殿。エン……いや、ドラゴンを使役していた娘がいないようだが?」

弾かれたように周囲を見回すラキュース。娘の姿どころかドラゴンの姿もない。

「え、嘘……いつの間に……?」

恐々とドラゴンを見ていた冒険者の証言によると何の前触れもなく唐突に消えたらしい。

困惑するラキュース達だったが空を探していた冒険者の声で我に返る事になる。

「おい、炎の壁が消えたぞ! モモンさんが勝ったんだ!」

つられて見ると空を赤く照らしていた炎の壁が消えていた。

「ラキュース殿、おそらくだが……あの娘の居場所はわかっている。今は英雄を迎えに行くべきだろう」

「ええ、そうしましょうか」

こうして王都の争乱は一応の終息を迎えたのであった。

 

 

なぜこうなったのか。どこで間違ったのだろうか。

エンリの前には死の化身とでも言っていいような化物がいた。

現在位置は王都からかなり離れた草原。

あれほどの悪魔も相手にしなかったオラサーダルクが巨体を地に伏していた。

体中のいたるところが裂け、骨が甲皮を突き破っている。胸部と頭部には丸い大きな穴が。

命の気配はもう残っていなかった。

その陰から。

ゆっくりと死の化身が近づいてくる。

血のよう紅い鎧、オラサーダルクの血に濡れた槍。

耳まで裂けているかのように吊り上がった笑み。

「もう、鬼ごっこは終わりでありんすか?」

心底うれしくて仕方がない。そんな様子で。

死の化身は槍を振り下ろした。

 




東京タワーじゃないけど串刺しエンド


本当に、本当にありがとうございました!


なんて書いたら救いがないので続きます。
エンリスキーがこのままで終わらせるわけがないでしょう!?
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