オーバーロード ー小鬼の調停者ー   作:ASOBU

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一度失速すると書いたものが気に入らなくて何度も書き直す事に。
遅筆ですが一応進んでます


フォーサイトと死の王

「っらぁ!!」

「オオオァァ!!」

気合一閃、叩きつける双剣を死の騎士は真正面から剣で受け止める。

最初の頃は防御すらしてもらえなかった。

「させませんよ!」

カウンターで繰り出されるタワーシールドによるバッシュをこちらも新調したタワーシールドで、割り込みガードする。

「ここ!」

左右の手を使わせて防げないタイミングで先をつぶした打撃仕様の矢が閃き飛び死の騎士にまた一本突き刺さる。

戦闘開始からすでに2時間ほど経過し集中力も体力も回復薬も底が見えてきた。

「皆、もう少し時間を稼いで!」

しかし、底が見えてきたのは死の騎士もらしい。ほんの少しずつ動きが鈍り蓄積したダメージが表に出てきている。

今回こそは打倒できるかもしれない。見え始めた可能性に希望を見出し少女は持てるすべての魔力を練り上げる。

「よし! 一歩もアルシェに近づかせるな!」

「了解です!!」

 

「んー、なめくじのような進み具合だけど……本当に少しずつ成長してるっすね」

フォーサイトの4人と向かい合うのは召喚された死の騎士。

特定のルールはあるが本人たちにとってはまさに死闘。

その様子をモノクルで覗きながらつぶやくのはルプスレギナだ。今日はどんな事をやらせようかと思考を巡らせていたが今日は『お楽しみ』が無くなるかもしれないという予感を感じ取っていた。

 

ルールその一。死の騎士は4人を殺してはいけない。

ルールその二。フォーサイトは戦闘不能者が一人出た時点で敗北とする。その判定は生命の精髄がかかったモノクルで4人の体力を監視する者が行う。その者が致命傷と判断した時点で回復魔法をかけその時点で敗北とする。

ルールその三。敗北した場合、監視者が課すペナルティを実行する事。

 

人間が嫌がるペナルティ。これまで色々とやらせてみたがどれもルプスレギナの嗜虐心を満たすいい反応をしてくれたのだが。

ヘッケランの腕を切り落とそうと振るわれた剣はギリギリの所で防がれ火花を散らす。反らした勢いそのままに一回転し叩き込まれた双剣は死の騎士の胸に大きな傷を刻み込む。

死の騎士が繰り出す次の一撃はヘッケランの首が無防備にもかかわらず無理やり軌道を変え腕へ。無理やりな行動は大きなスキとなりヘッケランの防御と反撃を許してしまう。

死の騎士は殺害を禁止されている。ヘッケラン達にしてみれば即死する部位への攻撃は来ないとなる。その事に気づいたのは前回の敗北直前。

 

「もらったぁ!!」

完全なタイミングでパリングされた剣が初めて死の騎士の手を離れた。返す刀で無防備に伸び切った手首に双剣が叩き込まれる。

 

「あーあ、つまんないっすねー、もう少し楽しめるかと思ったのに」

ちらりとモノクルをはめた目を死の騎士に向けると今にも消えそうなほど弱っていた。フォーサイトの攻撃をしのげるのは片手で足りる事だろう。

後方で魔力を練り上げている魔法詠唱者の魔法などオーバーキルなほど。だが彼らは知らない。死の騎士はいかなる致命傷も一度だけ耐えるという能力を持っていることを。

勝利を確信した魔法詠唱者がとどめを放つべく杖を構える。

 

「ヘッケラン! ロバー! 離れて!」

声がかかるまでも無く阿吽の呼吸でタイミングを察知していた前衛が道を開ける。

「これで終わり。『火葬/インシニレイト』」

第3位階、『火球/ファイヤーボール』の派生の一つでありこの魔法は若干の溜を要する代わりにアンデッドに対して特攻効果を持つ。また相手が自己再生能力を持つ場合わずかな時間ではあるがそれを阻止する効果も付随する。

杖から噴出した紅蓮の炎は死の騎士を易々と飲み込み焼き焦がす。

「やったか!?」

思わずこぼれたそのセリフは三千世界共通の結果が伴う。

それを聞いたルプスレギナは心底楽しそうに口角を吊り上げるのだった。

 

そこからは一瞬。

膝をつき天を仰ぐように崩れ落ちた巨体が重心を崩し前のめりに倒れていく。

ヘッケランもロバーデイクも全力の魔法を放ち憔悴しきっているアルシェも勝利を確信しアイコンタクトを交わす。

巨体が沈む直前、炎に巻かれた片腕が、地面を大きく抉るほどの勢いで振り下ろされ逆再生動画でも見ているかのように巨体が直立した。だが、できることはそこまで。後は燃え上がる身体でアルシェに覆いかぶさるだけだ。

前衛二人は割り込めるような位置に無く、杖に体重を預けているような状態のアルシェにも避ける術はない。抱き着かれたら間違いなく全身大火傷で回復魔法が飛んでくる。スローモーションになったアルシェの視界の端に怖気が走る様な笑みを浮かべるルプスレギナがいた。

 

だが、それをさせまいと

「させないから!」

裂ぱくの叫びと共に放たれた一矢は炭化した膝を砕き倒れ行く死の騎士の方向を無理やり変えた。悔し気に伸ばす腕もアルシェに届かず、その頬をかすめるにとどまる。

そして、地面に倒れると同時に死の騎士は黒い塵となり消えたのだった。

 

「か、勝ったよな?」

「あの状態から起き上がった事には驚きましたがさすがに、勝ったと思いたいですが」

「ごめん、もう無理」

九死に一生を得たアルシェはぺたりと座り込み顔を真っ赤にしてうつむいた。色々と限界だったらしい。

「おい、アルシェ。大丈――ぐは!?」

すかさず駆け寄ろうとしたヘッケランはイミーナの容赦ない飛び蹴りで吹き飛ばされた。

「男どもは離れる!」

レンジャー職故か匂いには敏感な所がありいち早く気付いた。というより、イミーナ自身も割と限界が近かったりもする。そんな状態で死に瀕する恐怖を味わったのだ。生き延びたことで緊張が緩んだのは仕方がないのだろう。

「あらー、せっかく助かったのに恐怖失禁っすか? いい歳して恥ずかしいっすねー」

ニヤニヤ笑いを浮かべつつ近づいてくるルプスレギナはかなり離れた位置にいたのにアルシェが作った小さな水溜りの匂いを察したらしい。せっかくイミーナが男共から隠した事実が一瞬で暴露された。しかも、こいつはワザとやっているからタチが悪い。

「ま、いつもは意識失くして垂れ流してるからそれよりマシっすね。あ、そうそう。一応おめでとうって言っておくっすよ」

「そうね、ありがとう。小屋に戻っていいかしら?」

「んー、いいとおもうけど一応アインズ様にお伺いしておくっすね」

何しろフォーサイトの4人が勝ったのは初めてだったから。

今回も正直勝つとは思っていなかったのだから。

敗北後のお楽しみがなくなったのは少々つまらないが課された仕事はこなさなくてはならない。早速アインズへ『伝言/メッセージ』を試みる。

『アインズ様、ご報告があります。フォーサイトが死の騎士を倒しました』

『ほう、本当にやってのけたのか。そこまで期待はしていなかったのだが……ふむ……』

『いかがいたしましょうか?』

『よし、一時間後に玉座の間へ連れてくるように』

『承知しました。そのように』

アインズとの会話を終えルプスレギナは考え込む。期待していなかったというアインズの声は妙に嬉しそうだった。なぜだろうか、と。

「あー、何やら考え込んでいるところを悪いんだが、俺達は戻っていいのか?」

「一時間後にアインズ様がお会いになるそうっすからさっさと戻って身綺麗にしてくるっすよ! おしっこくさいのなんてもっての外っす!」

ワザと大声で。アルシェは真っ赤になりつつも脱兎のごとく逃げ出した。

 

住まいの小屋には4人の個室がありそれぞれに小さいながらバスルームまで備わっている。最初こそこんなに豪華な部屋でいいのかと驚いたものだが今日はそれが非常にうれしかった。捻ればお湯が出てくる魔道具を使い全身を洗い清める。ついでバスタブにお湯を溜め肩まで沈み込む。

「本当に勝てた……」

なんだか実感がわかない。この小屋で生活し毎日死の騎士と戦うように言われて地獄を見てきた。日数にして僅か一か月ほどでたどり着いてしまった。初日なんて前に立っているのもやっとで手も足も出なかったのに。それこそ死の騎士が近づいてくるだけで一歩も動けず、挙句の果てに組み敷かれ手足をへし折られて転がされた。すぐに回復魔法が飛んできて事なきを得たがあの時味わった恐怖は忘れられるものではない。

実感がわかないのはそのせいなのか。

「アルシェ、大丈夫?」

唐突なノックの音で思わず飛び跳ねた。思わずのんびりしていたがそんな暇は無かったのだ。この後に至高の御方との謁見が控えている。万が一にも遅れる事などあってはならない。

「―大丈夫、ちょっとぼうっとしてただけ」

まだ時間に余裕はあるが即座に風呂を飛び出し身だしなみを整える。何一つ不快に思われるようなところは見せられない。

「よし!」

気合を入れたものの、一瞬不安になりもう一度鏡の前でチェック。

今度こそ終わりにして仲間の下へ向かう。

「ごめん、お待たせ」

「来たかアルシェ。あー、あれだ。おれもちょっとこぼれてたからから気にすんな」

出会い頭にこの男は何を言うのか。頼りになるリーダーなのだがちょっとデリカシーというモノに欠けている。

「このバカー!」

まあ、たいていの場合アルシェが言及するまでも無くイリーナによる鉄拳制裁が決まるのでとやかくいう事もない。腰の入ったパンチをもらいきりもみで吹き飛ぶヘッケランは顔を腫らしたまま至高の御方に謁見するつもりだろうか?

「おや、そろったっすね? んじゃ、移動するっすよー」

いつの間にか仲間達の側にいたルプスレギナが先導する先は転送の罠。本来は黒棺に放り込んだり第7階層の溶岩地帯につながる罠だがナザリック内の移動を円滑にするため設置が進んでいるとか。当然使用には許可がいるので気軽に使えるものではないがネムなんかはフリーパスらしい。

あまり気分の良くない浮遊感の後は荘厳な装飾が施された玉座の間、そこへつながる廊下の一角。まだそこそこの距離があるというのに尋常ではない圧迫感。

「ルプスレギナです。フォーサイトを連れてまいりました」

重々しい音を立てて玉座の間の扉が開く。早くも遅くもない速度で進み、適度な距離で跪く。このあたりの所作は最初の2、3日で叩き込まれた。

「話は聞いている。死の騎士を倒したそうだな」

「はい。今日で31回目の挑戦となります」

「ふむ。以降は直接話すことを許す。顔を上げよ」

許可が下りたもののやはりそれなりの覚悟がいる。アルシェにとってあの『力』を視ることは命を削るに等しい行為だ。他のメンバーもそれを知ってかアルシェを気遣う様子が見える。

「ああ、例の生まれながらの異能か。今日は問題ないぞ」

ほんの一瞬、覚悟を決める躊躇の間にこの王はすべて見抜いたらしい。

「―ご配慮ありがとうございます」

「なに、それくらいかまわん。体調を崩されては話もできまい。さて、今日呼び出した理由だが……まずは話を聞いてもらおうか」

そういってアインズは玉座から立ち上がると語り出した。

 

それはアインズがこの世界に触れて感じた失望感。

『冒険者』の実態が対モンスター用の傭兵でしかないという事実。

そうならざるを得ないこの世界の実情。

 

「私はな、冒険者とは未知を既知に変じる者だと考えている。今のままでは到底冒険者とは呼べない。世界はまだまだ未知に満ち溢れているというのに真の冒険者が存在しない。ならば、私がその道を示そう。国に危機が迫るなら冒険者達の手を借りるまでも無く我が配下が排除しよう。冒険者を名乗る者が真に冒険に挑めるように」

アインズは一度話を切り振り返る。

「近々私はこの地に国を興す。わが国で最初の冒険者、フォーサイト。そう呼ばれてみる気は無いかね?」

話に引き込まれていたヘッケランなどは驚き肩をびくつかせる。彼も生家を飛び出した当初は冒険にあこがれたのだ。だが、生きていくには金が要る。

冒険に出るよりモンスターを狩った方が金になる。冒険者組合の下にいるより危ない橋を渡りつつも自分達で依頼を受けた方が金になる。

お金は好きだ。だが、家を出た時の憧れを無くしたのはいつだっただろうか。

「最初はただの侵入者として処罰するつもりだった。ネムとの縁がそうはさせなかったが適当に実験に使い心折れるようなら適当に処分するつもりだった。だが、お前達は伝説級の困難に、未知の敵に立ち向かい勝ってしまった。その姿にな、私は懐かしい仲間達との時間を重ねて見てしまったのだよ。仲間達と共に多くの困難に挑み時に敗北し心折れそうになりながらも未知を既知に変えた冒険の時間を」

王が玉座から降りてくる。

「重ねて選択肢を提示する。一つ、このナザリックを出て自由になる。その際には生活に困らないだけの財も提供しよう。また、私に敵対しない限り我が配下が君たちを害することもないと誓おう。二つ、このナザリックに残り我が配下として真の冒険者の先駆けとなる。待ち受けているのは今よりも高い壁と困難だ。未知を既知に変えようと挑むならまだまだ力が足りない。まずは挑むに足るだけの力を得てもらう。待ち受けているのは地獄のような日々かもしれない。そう聞かされたうえで残るなら私も全力を持ってサポートしよう。どちらを選ぶかは君たちの判断だ。どちらを選んでもその選択は尊重される。もっとも……問われるまでも無いといった雰囲気だな」

ヘッケランははっとして振り返る。少なくとも自分は『真の冒険者』に心惹かれてしまっていた。だが、それは仲間がいてこそだ。一人でも欠けるならそちらの選択肢は選べない。そう思っていたのだが。

イリーナは最初からヘッケランがどう選ぶかわかっていて当然愛した男と一緒に行くつもりだった。

ロバーデイクもアルシェもここまできたら一蓮托生と強い意志が見える。

「いいのかよ、ほんとに……?」

「何をいまさら。一人でもこの話を受けるとかつまらないこと言わないわよね?」

「ええ、我らがリーダーはそんな男ではないと思っていましたが買いかぶりでしたか?」

「――解散という選択肢は最初から無い」

「っ……お前ら……」

「話はまとまったようだな。では次にだが一通りの装備を新調してくるのだ。装備はレベル帯にあった物を装備しなければならない。死の騎士を倒したお前達に今の武器はそぐわないだろう。この地図に特殊な店の位置を記した。そこへこの手紙を持っていけ。そうすれば今の力量にあった装備が手に入るだろう」

確かに武器の新調は急務だった。毎日強敵との戦闘に使っていたため整備もそれなりにしかできていなかった。ヘッケランの双剣も自分で研ぎを掛けてはいるが誤魔化し切れない刃毀れが見受けられる。

受け取った地図をのぞき込む。そして絶句した。

「トブの大森林、そのど真ん中……?」

「かなり深い位置ですね。こんな場所に店?」

「最初の冒険というわけだ。無事にたどり着き戻って来られたのならこのナザリックに籍を置くに足るという証となり他の者も態度を変えるだろう」

冒険者組合で受けるならかなりの難易度の依頼になるだろう。

だが、これから未知を既知に変える真の冒険者を名乗るならこの程度で引き下がるわけにはいかないのだ。

「是非、やらせていただきます」

「いい返事だ。必需品の類はアウラに言えばそろえるようにしておこう。準備が出来次第最初の冒険を楽しんできたまえ」

「はい、必ず戻ります!」

やる気に満ちたヘッケランの声が玉座に響いた。

 




アルシェはどうしてもいじめたくなります。
世界の真理ですよね。
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