そろそろタグに亀更新って入れとくべきか……
城塞都市カリン内 前線指令室
元々予定していた目標は想定外の事態で始末されてしまっていた。
結果だけなら頭狩り作戦は完了である。
「しかしながらでは帰りましょうとはいかないでしょう」
地図を眺めそう切り出したのは正気に戻ったセラブレイト。遠征の道中、常にキーリストランと共にいたネムに対してさすがに近づくべきではないと判断したらしい。
挙句の果てにネムを視界にいれただけで不可視の打撃が飛んできて瀕死の重傷を負うため命と愛を天秤にかけた結果だった。
「これまでに落とされた主要都市は3つ、一つはここからそう離れていない。さすがにこのまま奪還しても維持できる戦力ではないがビーストマンの侵攻を遅らせる一手にはなると思う。エンリ君のドラゴンで強襲し混乱させ、主力メンバーで隠密奇襲をかけたい」
「そうだな、このまま手ぶらじゃ帰れないぜ」
賛同するのはクリスタル・ティアのメンバー。
「……」
一方でガゼフは渋い顔だ。
建前としてドラゴン達はエンリとネムの支配下にあるという事にしてある。故に二人から離す事はできないと。親心としては戦場に連れて行きたくないのだがドラゴンという強大な戦力を遊ばせておく余裕もない。
「都市の大きさはどれくらいですか? オラサーダルクが降りれる場所はありますか?」
親の心子知らずというべきか、会議に参加しているエンリは乗り気らしい。
「ああ、あそこはこの都市より大きい。主要な道路なら少々暴れても問題ないだけの広さはあるはずだな」
「じゃあ、陽動はできると思います。ただ、連れて行くのは私とオラサーダルクだけにしてください。ネムとキーリストランはこの都市に残って万が一の際の防衛に充ててください。条件はそれだけです」
「それはむしろこちらから頼みたいところだった。包囲部隊は壊滅したが別方面から小集団が来ないとも限らない。実際にいくつか斥候が確認している。防衛兵力が多いに越したことは無い」
そう結ぶと司令官はガゼフの方を見る。最終的には親の判断を、といったところか。
それに対してガゼフの返答はすでに決まっている。
「……娘が自分で決めたなら私はそれを尊重する」
「なら、決まりだな。侵入部隊はさらに数を絞って少数精鋭に、白金以上のメンバーでまとめよう。残りはこの都市に残り防衛と周辺の残党狩りに当たってもらう。補給と休息を考慮して二日後出立でどうだろうか?」
セラブレイトがまとめ、誰からも異論は上がらなかった。
一方その頃、どこかの丘の上。
「さあ、ここから囲い込みの本番だぞ。徹底的に消耗させ追い立てろ。殺さずに逃がし誘導しろ。その中で勝てそうにない奴がいたら連絡しろ。強い相手は確実に消せる者を送り込む。速力が武器だぞ、2、3日中に檻を完成させる。完成した檻は女神様へのプレゼントだ、失敗は許さん」
「と、いうわけだ。今回は糞親父のわがままで急な遠征になったが各員全力を持って対応しろ。一人も欠けることは許さん!」
丘の上に立つのは子鬼の王ジュゲムとその息子カイジャリ。
眼下には総勢5千のゴブリン兵団。兵員それぞれが最低でもガゼフと同等の実力を持つ。戦争するなら少ない兵数だが兵力としては人間の国相手では勝負にならない。
「お前な……王である父親を兵士の前で糞呼ばわりするなよ。あれか、脱童貞して気が大きくなったか?」
「な、ちょ、なんで……?」
目に見えて狼狽えるカイジャリ。その様子を見てそれまで静かに王の言葉を聞いていた兵士が沸いた。
「王子! おめでとうございます!」
「苦節数百年、王子殿下がやっと真の男に……!」
素直に喜ぶ者。
「うおぉ……半年分の給料が消えた……馬鹿……な……」
「やはり、そうだったか! ひゃっほーい!」
賭けの対象にしていたらしく悲喜交々な者達。
「う、嘘だ……ずっと童貞仲間だと思っていたのに……」
「王子の裏切り者……」
裏切りにショックを受け膝をつく者も。
「お前達、聞いて驚け。相手は人間だぞ」
ジュゲムはにやにや笑いつつさらなる爆弾を投下する。
一瞬で部隊は静かになった。だが、一瞬だけだった。
「王子……変態だったのですか!?」
「いやいやいや、あの白くてつるつるの肌みて興奮できるのか!?」
「いやー、無理だって王子の性癖ぶっ飛びすぎ」
「いくら数百年童貞拗らせたからって、人間に手を出すとか……うわぁ……」
「ないな……うん、ないわ」
兵士達はさっきと違う空気で盛り上がる。
「ぐはぁ!?」
カイジャリは血を吐いて倒れた。
いうまでも無いがカイジャリと元聖王女カルカは種族が違う。ゴブリンと人間では当然のことながら美的感覚も違う。
いうなれば未知との交合であり異種姦である。
人間にこの話をしても同じような反応が返ってくるだろう。カルカがゴブリンを愛し抱かれたといえば気が狂っていると言われるのが普通の反応だろう。
「まあ、こんな変態だが一歩踏み出したことに関しては俺もうれしく思う。孫は……他の二人に任せればいいだろう。だからお前達もこんな変態だが祝福してやってくれ」
「変態、変態連呼するな……」
「事実だろうが」
「親父だって昔は何人も人間を抱いてただろうが!」
「まあ、アレは実験だ。ジュゲム・ジュゲームという人格が本当に芯までゴブリンになったのかを確認するための実験であってな、お前と違って恋愛感情は無い」
「なんだそれ? 親父は最初からゴブリンだろ?」
「そうだな、この世界では最初からゴブリンだったな。ま、向うでは……いや、なんでもない。聞き流せ」
思わず元は人間だった故、問題なく抱けたと口に出しかけたジュゲムは口を閉じる。からかうのはここらで切り上げることにした。
「おしゃべりはここまで、仕事の時間だ。狩りたてろ!」
「なぁ、糞親父」
「なんだ、変態息子」
「変態いうな。それより、女神様って何なんだ?」
兵士達が散っていきこの場に残ったのはジュゲムとカイジャリだけ。ゴブリンではこの二人が最強なので護衛もいない。
「手の届くところにある未知の話。面白そうな可能性の話だ。今となっては本当に奇跡のような拾い物だったな」
「訳が分からん」
「わかるように言っていないからな。……そうだな、神はどうやって生まれると思う?」
「は? 親父みたいなやつがそうなんじゃないのか? 国民には唯一無二の王として敬われているし崇拝されてるだろ?」
「まあ、近いか。俺やこの世界に渡ってきたプレイヤーは基本的に上限だったから神サマなんてモノにになることは無かったがあいつは違う。どこまで行けるのか、いきつく先がどうなるのか見てみたい。要するにだ、神ってのは目に見えない信仰……そうあれかしという願いあるいは思いが集まりそれを『経験』に変えて生まれるものらしい。本人の意思に関係なく、な。それをゲームの中に反映させようってんだからあの運営は頭おかしい」
「……なるほど? 言ってることがさっぱりだがとりあえず分かったことが一つ。どこの誰だか知らないが親父の好奇心に巻き込まれたってことか」
「そうだな、否定はせんさ」
新たなモノに触れる事、それは新たな創作意欲の火種だ。この世界にはまだまだ多くの未知と可能性があふれいる。自らの欲を満たすものはまだまだある。
「さて、カイジャリ後は任せる。俺は帰ってなんか作る」
「ああ、任された」
別れもそこそこにジュゲムは工房へ転移した。
我が儘の被害者たるエンリとオラサーダルクに何を渡そうかと考えながら。
放棄された都市 ヴァムール
「ビーストマンがたむろっているとは思っていたが……」
「ちょ、ちょっと多すぎるような気が……」
次の目標である放棄された都市まで来てみたはいいが眼下の様子が明らかにおかしい。
人間の家屋をそのまま再利用しているらしいがそれでも道端でごろ寝しているビーストマンがいるほどの数がひしめいている。
「このままでは頭狩りに向かっても逆に狩られるな。少数精鋭で忍び込むにしても無理があるぞ」
間もなく侵入開始の時間だ。
それに先立ってオラサーダルクが暴れる手はずなのだが。
「軽く一暴れでは大した数も誘導できまい。選択肢は二つだな。即座に戻って作戦中止を訴えるか、あるいは、徹底的に暴れるか。あれだけの数だ、都市の損害を気にしないのならば大打撃を与えることも簡単だが……どうする?」
都市にはあふれかえるほどのビーストマン、いくらガゼフが強いとはいえ戦い続ける事などできない。今は五宝物も無いのだから。
そんな状態で忍び込むのは危険すぎる。
本来ならば作戦中止で撤退するべきだ。
だが、この作戦の目的を聞いた時何としてでもやり遂げたいと思えた。
失った故郷を取り戻したい。
この都市から逃げ延びた人々にはまだそのチャンスがある。
エンリにはどうやっても訪れることがないチャンスが。
「少しでも減らしてお義父さん達の負担を減らしましょう。でも、極力建物への被害を少なくお願い」
「大暴れしつつ被害は抑えろというのか。無茶を言ってくれる」
「ごめんね。でも、後でこの都市を取り戻しても、故郷に戻っても何もかも壊れていたら悲しいから」
「……なるほどな、努力はしよう」
オラサーダルクはエンリの内心を察した。それがわからないほど浅い付き合いではないのだから。少々面倒だが細心の注意を払って暴れることにする。
「無茶だってわかってる。あ、でも、オラサーダルクが怪我しそうな時はその回避を優先していいからね?」
「安心しろ、獣頭程度で傷つくほど軟ではないわ」
そもそもこれから行うのは戦闘ではない。ビーストマン相手では戦闘にはなり得ず、一方的な掃討にしかならない。戦闘にまでもっていきたいのならネムが家の倉庫から持ってきたと嘯く、見るからに王国の至宝より数段上の装備一式で固めたガゼフが最低ラインだ。そのガゼフでも数分と持たないだろう。今のオラサーダルクはそれほどのスペックを持っている。
まあ、そのオラサーダルクですらどうにもならない相手がわんさかいる地獄と呼べそうな場所もあるわけだが。
エンリを屋根の上に降ろし隠密のアミュレットを渡すと距離を取らせる。
エンリが離れたのを確認するとオラサーダルクは都市の上空で開戦の咆哮を上げた。
地上で起きた反応は様々。
弓を構えるもの、己の爪で身構えるもの、泣き叫び這い蹲るもの、我先に逃げ出すものと様々だ。
だが、その中に共通点が見えた。
「なんだ? 怪我人ばかりではないか……」
鼻を効かせてみると都市に漂う空気には血の臭いが濃く残る。地上のビーストマンはそのほとんどがどこかしらに怪我をしていた。
「前線での負傷者を集めて野戦病院としていたのか? それにしても多すぎるか」
空から見下ろしてみればよく分かる。五体満足の者はほんの一握りしかおらず怪我人のほとんどが満足な治療もされていないようだ。
「まあ、関係あるまい。悉く刈り取るだけだな」
射かけられる矢をものともせず急降下し着地と同時に何人か踏み潰す。
ビーストマンにとっての地獄が舞い降りた。
一方、別行動中のエンリは隠れ場所から移動していた。
本当は動かないように言われていたのだがあるものを見てしまったためその確認に動いていた。見間違いでなければまだこの都市に人間が生きている。
オラサーダルクに都市を壊さないように頼んでおいてよかったと思う。
隠密行動の技術なぞエンリは持っていないが幸いにも隠密のアミュレットがあるのでビーストマンとすれ違っても気づかれることは無い。
そのまま隠れ進み目的の建物へ。
2階建ての比較的大きな家だがちょっとおかしい。窓という窓に外側から鉄格子が増設され開かないようにされている。玄関にも外側から取り付けられたであろう大きな閂が。
逃げ延びた人間が隠れるならこの閂には意味がない。鉄格子といい、閂といいその意味は一つしかない。
閂で封鎖された扉の向こうには生物の気配。先ほど鉄格子の向こうに見えたのは人間女性の顔だった。
エンリは意を決して閂を外すと扉を開け中を覗き込む。
そして、なかから漂ってきた臭いに激しく咽た。
汗と排泄物と諸々の液体が混ざった刺激臭。
発生源は玄関入ってすぐの大きな広間一面の肌色。何組もの男女が絡み合っていた。
玄関がひとりでに開いたのに気にもしない。
エンリは想定外の光景に思考停止した。
どれくらい経ったのか、開けっ放しの玄関から流れ込んだ外気に幾人かが体を震わせる。
エンリは傾城傾国を着こんでいるため気づいていないが、オラサーダルクが冷気のブレスを盛大にばら撒いているため外気温はガンガン下がっているのだ。
獣のごとく交わっていた彼らもさすがに異変に気付く。
「なんだ……開いてるのに誰も入ってこないのか?」
「そ、そそそれより寒いわ、し、閉めましょう!」
「そうだな、外も気になるが寒すぎるな」
扉に一番近かった一人の男が立ち上がるとエンリに近づいた。
正確にはエンリは見えていないので扉に近づいただけだではあるが、全裸の男が粘液に濡れた股間をさらしたまま近づいてくる光景はエンリのトラウマを想起させるのに十分だった。
この世界のゴブリンはゴブリン同士で繁殖するってことでいいのでしょうか。
某小鬼殺しさんの世界のゴブリンは人間の女性を捕獲して孕み袋にしてますが……
まあ、数ある亜人種の一つということでこの話の中ではちゃんと雌雄があって同種で増えるのが基本ということで行きます。
つまり、カイジャリとカルカは異常性癖。