いわゆる典型的なオリ主とはかけ離れた能力しか持ち得ないので、予めご了承ください。
また、筆者は原作未読です。ウィキやら他の二次創作やらを読みながら書いていく事になるので、
間違っているところがあったら、指摘いただけると嬉しいです。
「オリヴィア殿ッ!」
グラリ、と世界が歪んだ。
何が起きたかわからないうちに、私は地面に倒れ伏していた。
視界に広がるのは、目にも鮮やかな紅。
(あ……これは、ヤバイな)
胸元が熱い。ドクドクと血が流れ出すと共に、手足から力が抜けていく。
今までに何度も生死をさまよったことはあるが、それとは違うと、はっきりとわかった。
「隊長ッ! 貴様ぁッ!!」
激高する声。
ザン、と鈍い斬撃と、何かが地面に倒れる音。
誰かが、私に駆け寄ってきた。
「隊長、隊長! しっかりしてください!」
体を抱き起こされて、まだ幼さを残した少年の顔が目に写った。
頬を、胸元を、鮮血で濡らして、それでも穢れを知らない翡翠の瞳に涙を浮かべている。
「……エリー、か……」
私は、絞りだすように呼びかけた。
その声を聞いて、エリーはますます顔を歪める。
「隊長っ……」
「なるほど、な……お前が、殺ったわけ、か」
私の脇に放り出された、黒い飾り紐のついた東洋風の直剣。
その刃は、たった今人を斬ったように、血に濡れていた。
こんな特徴的な剣を使うのは、こいつぐらいしかありえない。
「全く……あの坊やが……立派に、なって」
私は、かろうじて笑みのようなものを浮かべた。
「隊長……ッ!」
すがるように、何度も私に呼びかける。その様子は、まるで子供そのものだ。
……しかし、それではいけない。今後のためにも。
だって……私は、もう。
「エリー……いや、エリオット」
まっすぐに、視線を上げる。
見慣れた綺麗な翡翠色と、目があった。
「お前、は……ここで、何をしているんだ?」
「ッ!」
震える声を押さえつけ、毅然に言い放った。
息を飲むエリオット。力尽きてしまう前に、私は続ける。
「今回の任務は、反逆者どもを捕らえ、反抗するようなら斬り伏せること。
それを、たった一人が死にかけているぐらいで武器を放り出して、いったいなんのつもりだ?」
そこまで一息に言い切り、深く息をつく。
手足が震えて、もうほとんど感覚が残っていない。
もう、それほど時間は残されていないだろう。だからこそ、急ぐ必要がある。
「……私は、そんなことを教えた覚えはないぞ、エリオット」
「隊長、しかしッ!」
「言い訳はするなッ!」
わずかに残った力を振り絞り、一喝する。
エリオットのまだ可愛らしい容貌が、怯えたように震えた、ような気がした。
……正直、精神的にも身体的にもかなりキツい。
しかし、それでも、ここで手を抜くわけにはいかないだろう。
「国の存続をかけた仕事だ、危険があることぐらい、誰だって承知している。
それを、お前一人の余計な私情で、全てを台無しにするつもりか?」
エリオットは、うつむいて、悔しそうに唇を噛んだ。
こうして説教をしている私だって、そのエリオットに抱きかかえられている状態だから、あまり格好はついていないだろうが。
それでも精一杯の矜持を見せつけるために、私はさっきから視界の端にちらついていた人物に、目を向けた。
「……すまないね、アベル殿。見苦しいところを……
私のことはいいから、先に行っててくれないか?」
「オリヴィア殿……」
白銀の騎士の蒼穹の瞳にも、悲痛な色が揺れている。
彼には、何かと世話になった。始めは険悪だった義兵団と騎士団を、うまく取りまとめてくれたのも彼だ。
騎士たちの中ではそれなりに付き合いも深いといえる。
それでも彼は、まっすぐに前を見つめた。
「……ありがとうございました。オリヴィア殿」
「アベル殿?!」
エリオットが声を上げるのを無視して、こちらに一礼した後、向こうの方へ駆けていく。
後には、2人だけが残された。
「ほら……何を、しているんだ。
お前も、行くんだよ」
そう言って、胸を押して追い払おうとするが、いかんせん腕に力が入らない。
その胸板に軽く触れるだけになった私を、エリオットは泣きそうな目で見下ろした。
「隊長……」
「泣くな。……それでは、お前は、いつまでたっても、弱虫な『エリー』のままだろう?」
声は掠れて、今にも消え入りそうだった。
それでもグズグズするエリオットに、私は。
「行けッ!」
最後の力を振り絞り、声を上げる。
一瞬エリオットは震えたが、そっと私を地面に横たえると、地面においた剣を手に取り、立ち上がった。
「隊長……ありがとう、ございました……ッ」
絞りだすように、一礼する。
しばしためらうように何度も振り返りながら、やがてアベルの駆けて行った方に走りだした。
「……それで……いい……」
それを見送りながら、迫り来る闇に身を委ねるように、私は目を閉じた。
***
そして、私は目を覚ました。
閉められたカーテンの隙間から朝日が差し込み、外から鳥のさえずりが聞こえてくる。
寝起きで重い体を起こしながら、私はため息を付いた。
「……ずいぶんと、懐かしい夢だったね」
寝ぼけた頭をはっきりさせるために頭を振りながら、ベッドから降り洗面所へ向かう。
「はー……」
冷水で顔を洗い、一息つく。
鏡の向こうから見つめているのは、銀髪セミロングに黒の瞳、13歳ほどの少女の姿。
「前の夢なんか見ちゃったから、少し違和感あるな」
あの最後の記憶から考えると、軽く15歳以上若返っているように見える。
まぁ、混同して混乱しなかっただけ、マシってところかね?
「にしても……転生、とか」
私が生まれてから13年。自我がしっかりしてからは11年か?
それだけの長い時間を『久我 七瀬』として過ごしてきたのに、それが未だに信じられない。
それだけ『オリヴィア・ラシュビー』としての記憶と自我が強烈だってことなんだろうが……
「確かに波瀾万丈だったからねぇ。にしたって、いい加減慣れろよ私」
前はだいぶ早死したとはいえ、既に前世の半分を生きているんだ。
確かにこの世界の技術とか文化はだいぶ見慣れてきた。
でも、『私自身』にはさっぱり現実味がない。鏡を見ても、まるで夢を見ているようだ。
「前世のちっちゃい頃の面影はあるし、確かに私なんだけどね」
面影があるというか、むしろそのまんまだ。
そんなつもりはなくても仏頂面で、若干つり目で目付きが悪いところなんか特に。
もし前世の知り合いと会ったりしたら、もしかしたら……いやかなりの確率で見破られるだろう。
そう、例えば義兵団の誰かとか、アベル殿とか。
「……くそ、今朝は意外と引きずってるな」
無意識に胸をさすりながら、私は悪態をついた。
今までだって、月に一度ぐらいの頻度で前世の夢は見てきた。
だが、今回のはさすがにちょっと生々しい。すぐには気づかないレベルで混乱する程度には。
……まだ、背中から刃が突き抜けた感覚が残っている。
ありもしない傷が痛むような気がした。
目を閉じれば、あの時の闇と虚脱感が蘇ってくるような気さえする。
私は、思わず身震いをした。
死の恐怖から逃れようと、自分を抱きしめる。
「……んぅ? 起きてたのか、久我」
その時、不意に後ろから声をかけられて、私は飛び上がった。
眠たげに目をこすりながら、まだ寝ぼけた表情で立っていたのは、栗色の髪のルームメイト。
「あ、ああ。千雨か。悪いね、起こしちゃった?」
「いや、私もそろそろ起きる時間だったし……」
少しだけ声が不自然に裏返ってしまったが、寝起きの千雨は気づかなかったようだ。
私が少し脇に退くと、のろのろと顔を洗い、歯磨きをし始めた。
「……ん? 今何時?」
「7時ちょい前。そういやお前、朝のランニングはいいのか?」
思い出したように言われて、気づく。
そういえば、今朝の夢のせいですっかり忘れてた。
小学校に上がる少し前ぐらいから、ほとんど趣味で始めた鍛錬。
元々は、前世で覚えた剣技なんかを忘れないようにやってたんだけど、今では大切な人たちを思い出す縁になっている。
まあ、こんな平和な世界で剣振るう機会なんてないだろうけどねぇ。そもそも剣がないし。
そうは言っても、一日サボるとかなり鈍るんだが……
「今日はいいわ。なんか気分じゃないし」
いい加減支度しないと、学校に遅刻するしね。
そう言うと、千雨は「そっか」と興味無さげに呟いた。