ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか52
「……どこ。」
ベートと少女と別れ、既に瓦礫となった街の壁を乗り越えた先で彼女は呟いた。彼女が探している愛おしい妹も嫌な感じのする靄のかかったあの男も何もない。軒先だけに止まらない所々に残った街の破壊の跡が、何カ所にも渡って決して大きくない足で抉られた地面が、わずかにそれでもはっきりと残った少女の残香ーもっとも正確には何度か砕けたであろう駆逐艦電の艦娘障壁の残香であるが彼女にそれを識別するすべはないそれーが、そして何よりも彼女自身の感覚がそこにいた筈の少女をリフレインする。
霧が濃い。手がかりに溢れ、全くの快晴で、遮ることもなく視界が開けているはずなのに、この状況にアイズの脳裏にはそんな一言が浮かんでいた。自分でも分からなかったがそうとしか形容できない何が、確実にアイズの電探を曇らせていることは事実であった。
「ここに居たはずなのに……。」
さっきより霧が濃い。より濃くなっている。あの少女が現れたときよりもずっと濃い。電はまだいる。けど見えない。なんで……。
いなづまを知ってからこんなに電が遠くに感じられた事は今まで無かった……。いや近くに居るのか遠くに居るのかも分からなかった。それでもアイズにとっては同じ事でしかない。見えていたものが見えなくなったのだから。それでもわずかに感じ取れる事実は、アイズを現実から引き離さなかった。
「……こっち?」
たっぷり10秒掛けた熟考の末、アイズは気づく。広範囲に広がる破壊痕と霧の濃さが一瞬重なったように見えた。後は感覚を集中するだけ。このあたりは普段より熟考したとは言え、剣姫の速さは伊達ではなかった。地上で同期に変なイメージをかぶせたり、妹を甘やかしたり甘やかされたり、妹に沈められた後輩を背負ったり、先輩から逃げ回ったりしているだけがアイズ・ヴァレンシュタインではないのだ。元々は戦場に生きていたはずの戦乙女だった。一周回ってもとの姿に戻ったかのようにも見える。
「見えた、今行くからね。」
でも、そんなことはなかった。アイズという人間は前に進み続ける。一度戦場から浮いた剣姫は思い出した。自分が立っていた場所を、一度離れた気がしていた戦場を。
「私は、お姉ちゃんで、私だから。」
でも既に全てを捨てて地獄に潜った過去の彼女はここには居ない。かつて速くなるために身軽になった少女は何か大切な何かからも身軽になっていたことに気づいてしまった。
だから行くよ。
そして私はついに視界に電と敵を収める。今度こそ。
【目覚めよ】
「……戦闘中の事故なら、許されるよね?殺っちゃってもいいよね?」
「は?何を言ってるんだ。」
「え、お姉ちゃん……?」
お姉ちゃん、可愛い妹を助けに来たよ。