ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているだろうか   作:もんもんぐたーど

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《ここに地下迷宮の息吹》


第54話

ダンジョンに駆逐艦を求めるのは間違っているのだろうか54

 

(微速前進)

 

私が電の前になんとか立ち上がり次の攻撃に備え次のチャンスを狙っていると、

 

「前進一杯、電の本気をみるのです!」

 

(いもうと)()()()して、相手に体当たりを敢行していた。もっと細かくいえば、足を動かさず滑るように前進、そして加速し槍を構えてそのまま敵に突っ込んでいっちゃった。えっ?

 

電の足下にはどこかでみた水のように波打つ不確かな地面-ティオナ、ティオネ、レフィーヤの3人ならすぐに思い出せるかもしれないそれ-があり、電の背中には今までになく激しく煙を吐き出す固有武器(ぎそう)とそれにぶら下がる錨があり、敵も私も呆気にとられる中、その状況の中心たる電だけが動きを止めなかった。

 

「……(沈んだ)敵もできれば助けたいのです。でも、」

 

一瞬の静寂、電の声が空気を伝って私に伝わる一瞬の隙間、敵と電の間の距離がもう零になろうかという刹那に私は体感でたっぷり1秒はかかっているような錯覚を与えられる。

 

「ぐはっ。」

 

()()()からでも、遅くないですよね?」

 

「え……?」

 

その刹那の先には敵を穿つ血の滴る槍を片手に、まるで温度を失った声色をして底冷えのする言葉を紡いだ妹の姿があった。地上で過ごした穏やかなの全てを忘れ去ったかのような冷酷な雰囲気を纏った少女は静かに敵から槍を引き抜く。

追撃を仕掛けようと槍を構えなおした電に敵は一度体勢を立て直すかのように飛び退いた。

 

「第一級、Lv5か6かわからんが……?分が悪いな。増援もきたようだし……引かせてもらおう。」

 

電の雰囲気がおかしい。間違いなく電なのに、なんで、なんで。

 

「……取り逃がしちゃったのです。」

 

敵が崖際に立っていたのが災いしてそのまま崖から真っ逆さまに落ちていく。その姿を見届ける電を見て、アイズの困惑は深まるばかりだった。終わったはずなのにまだ、電の足下の地面には波紋が揺らいでいる。何か漠然とした感情によって、また先の戦闘の後遺症によってアイズの足は地面に縫い止められたままだったが、幸いして妹に声をかける事くらいは能うだけの力が残されていた。

 

「いなづま?」

 

「おねえちゃん。」

 

くるりと可愛らしくこちらを向いた電だったが、アイズはそこに新たな事実を発見する。風に靡くのとは違う小刻みに彼女の制服(いつものふく)が揺れる。呼吸が乱れているわけでもないのに。固有武器もいつの間にか姿を消していて、地面に刺さった槍だけが電を支えていた。

電は震えていた。いつもの穏やかさとハイライトを失った瞳が、頬から過剰に赤みを引いてもはや蒼白に近い血色が、暴力的に姉の鼓動を早めていく。

 

「どうしたの……?」

 

全身を隆起していた固い地面に叩きつけられて近く限界を迎えていたアイズの身体は動かない。一歩も前に進めないことにもどかしさだけが募る。

 

そういえば電と私の距離、最弱の(エアリエル)でちょうどいい感じになる?少し時間が経って若干回復してるから最弱くらいならなんとかなるはず。

 

目覚めよ(テンペスト)

 

「『エアリエル』、捕まえた。」

 

見事に電に抱きつくことに成功するも姉妹ともに自力で立つことも厳しい負傷者なので二人して地面に転がる。抱きついた瞬間ビクッと震えたが特に抱擁から逃れようとはしなかった。

 

体温も心なしか微妙に低い電は私の腕の中で静かに寝息を吐く。敵も助けたいという発言の直後から変調していた雰囲気も寝てしまえばいつも通りに戻っていた。顔色も心なしか良くなっている、気がする。

 

「……ねむい。」

 

ここで電とともに私が寝てしまってもいいのだろうか?

 

眠りかけの頭はまだ寝る時ではないと警鐘を鳴らす。"敵意"はこの近くで感じられなかったし、ほかのところにいたモンスターも粗方始末し終えたように感じられたが、気を抜くのには早いと言うことだ。

 

実はそれよりも大事な理由があるがそれはそれである。電の貴重な寝顔をしっかり記憶に焼き付けておこうとかそういうことだけどそのことは秘密にしておきたい。電と出会ってからずっとこんな調子な気がするけどやっぱり気にしない。妹の寝顔を観察することも姉の特権なの(多分)。

 

「……アイズ、いなづま!これは……。」

 

ーーーー

 

モンスターに対処し終えた私たちは序盤に姿を消したいなづまちゃんを探しに未踏のエリアを移動していたのですが、これはいったい……。

 

「アイズ、いなづま!これは……。」

 

「……殺人事件の犯人らしい人と交戦したの。2人掛かりでも、逃げられちゃった。こんな実力で無名なのは違和感がすごいけど。」

 

「え?」

 

「ほう、レベル5では対処しきれないか……。」

 

いなづまちゃんを抱いて地面に転がったまま答えるアイズさん。私たちがきても起きあがる気配はないのですがそんなに消耗することなんて有るんですね……。無名の猛者、響きはかっこいいんですけど最近の不可解な事件を思うとただ手放しにかっこいいというわけにもいかないですね……。

 

「あとリヴェリア、私といなづまに回復魔法をお願い。」

 

「ああ、わかった。」

 

リヴェリア様が2人に回復魔法をかける。詠唱の早さはさることながらその回復量は数ある回復魔法の中でも随一。私の師の実力の確からしさを確認できたところで、起き上がりいなづまちゃんを背中に背負ったアイズさんが口を開く。

 

「……町の方は?」

 

「幸いにも押さえ込めたから比較的無事さ。誰かの戦闘痕の方が激しいくらいさ。」

 

「それじゃ全然問題ないね。今日ここで一泊できそう?」

 

「それは、うーん。殺人事件の現場が宿屋だったから今日は閉じるとかなんとか。」

 

「えぇ、でもテントとかは。」

 

「いなづまちゃんが持ってるんでしたっけ?」

 

「うん。だからどうしようかなって。」

 

私の戦闘指導を時々勤めてくれるいなづまちゃんはまだ眠っている。いなづまちゃんの収納スキル?は本当にたくさんのものが入るのでかさばる荷物は最近の遠征時には預けてしまっている。

 

だからいなづまちゃんが寝ていて、アイズさんが起こさないと判断している以上そういうものを取り出すことはできないということになる。若干アイズさんの横暴だけど曖昧な感情をむき出しで答える妹持ちの精霊とその背中で眠る今回の功労者にはだれも反論できなかった。

 

「困ったな。なにも思いつかない。」

 

「ああ、ただ地上に出来る限り早く戻らないといけないのは間違いない。当てもなくベートを地上に送ってしまったしね。」

 

「強行軍、する?」

 

アイズさんの首傾げにいやされます。申し訳ないのですがベートさんのことは半ば忘れかけていました。それにしても今回は本当によくわからないですね……。そんなことを思っているとアイズさんの肩に小人が乗っている様に見え思わず目をこすった。

 

『それは危険、です。』

 

「え?」

 

「ん?妖精さん……?」

 

妖精さん?え、どういうことですか?ちっちゃな人が声と言えるか分からない振動で私に、いや私たちに直接伝えるかのように語りかけてくる。ついでに彼?の頭上に小さな看板にも全く同一の内容が書かれて自己主張してくる。

アイズさんはそれをさも当然のように乗られている肩の反対側の手でその子人に触れ、軽くつつくなどする。

 

「電の固有武器(ぎそう)の妖精さんだよ?荷物を出してくれるんだって。」

 

『出しますよ!』

 

妖精さん?はその場に必要なものを出してくれようとする。団長とリヴェリア様は若干あきれ顔だけどそこまでで、ついて行けてるかのように振る舞ってるようにも見えなくもないです。あれ????

 

「え、え?」

 

「あ、でもここで出さないで川沿いで出そう。お魚食べたい。」

 

「はぁ、やっぱりアイズはアイズだ。」

 

やれやれといった感じの団長さんにリヴェリア様も頷く。もしかして、この中で妖精について突っ込み待ちだと思ったのは私だけですかね??

 

ーーーー

 

「あの、あの、妖精さんって、何ですか?」

 

川辺に移動し、そういえば行きにアイズさんが川魚食べたいとかなんとかいってて、いなづまちゃんが団長に同意を取り付けてましたよね。今思い出しました。っと言うのは置いておき、落ち着いてきたので気になっていたことを聞く。

 

電はアイズさんに膝枕されていて、アイズさんは何故か数が増えた妖精さんに囲まれたり肩を占領されたりしている。見た目的には微笑ましい部類なのもあり静かな川の畔には穏やかな雰囲気が漂っていた。川の中でははしゃぐアマゾネスが、その近くにはそれに巻き込まれる団長がいる。

 

「妖精さんのこと?えっとね、電の支援系スキルの具現化みたいなもの、かな。この子たちそれぞれで役割分担してるんだって。」

 

アイズさんは肩に乗っていた妖精さんを一人?手の上に載せると指先でその頬をつつく。赤髪おかっぱの妖精さんはくすぐったそうな表情でその刺激を受け、身をよじる。

 

「かわいいですね……。ん?」

 

『よろしく!』

 

私がじっと見つめたからかアイズさんの指を躱しつつ挨拶してくれる妖精さん。ずいぶんとかわいらしいスキルの具現化さん?ですね……。

 

「それにしても……。」

 

「 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ 」

 

「これはひどい、ですね。」

 

「……すぅ。」

 

アイズさんによる視線誘導に負けて私は目を背けていた現実(そこ)に目を向ける。鬼の形相で川魚を捕まえようと奮闘するティオネさんと面白がりながら川に入るティオナさんがいる。

 

もちろん団長は呆れ顔で佇んでいるがティオネさんのあまりの気迫に、今回のダンジョンアタック出発日の朝と同様の結末をも予想せざるを得ないですね。

 

『魚を釣るの?釣るよ。』

 

「魚釣れるの?」

 

『……もちろん』

 

妖精さんはアイズさんの疑問にドヤ顔で答える。その間に胸を張って片手で看板を持とうとし、持ち損ねて両手で持ち直すなどがあったので若干不安ですけど……。まあ、いなづまちゃんの一部ともいえるので大丈夫、ですよね?

 

『川に近づいてほしい。』

 

「うん。レフィーヤいくよ。」

 

「はい。」

 

アイズさんは妖精さんを頭に乗せ、いなづまちゃんを背負おうとする。直後その辺りに散らばって好き勝手に動き回っていた妖精さん達はささっといなづまちゃんに群がりあの固有武器?が出現してはその中に入っていきました。再びアイズさんが動き出したのは固有武器が再び消えてからでした。

 

勝手に出たり入ったりするの本当にスキルなんでしょうかね?

 

その後川の上流側に場所を確保した私たちは妖精さんが身の丈に不釣り合いに見える長い釣り竿で川に住んで居なさそうな決して小さくないお魚を釣り上げるなどいろいろ有りましたがリヴェリア様と一緒に無事でした。団長は……ティオネさんに襲われていただけなので何もなかったはずです。きっとそうです。

 

そして私たちはそのままテントを張ってそこで一晩過ごすことにしました。今日のことは色々ありすぎて私の中では全くと言って良いほど消化できていないのですが、眠い頭はきっと回らないに違いありません。そんな感じでアイズさんといなづまちゃんと一緒のテントで寝ることにしました。一段落付いたので明日1日もあればきっと気持ちの整理も付くでしょう。

 

「レフィーヤ、お休み」

 

「アイズさん、おやすみなさい。」

 

でもそのとき私は気づいていませんでした。今回のダンジョンアタックの何一つもが一段落どころか始まってすらいなかったなんて。




2週間半ぶりの更新です。皆様いかがお過ごしでしょうか????
私は想定の5000兆倍忙しくてあれです。あれ(語彙力)
頑張って週末更新するつもりが予定がずれる等トラブルに見舞われた結果こんな感じになりました。今回はこの作品で初めて四千字を超える回になりましたが読みづらくなければこれぐらいの文字数でも良いかなぁと思う頃合いであります。今週末も微妙なところで有りますが時間のやりくりも創作界隈で生き残る必須スキルの内の一つでありますので頑張っていきたいと思います。今後ともよろしくお願いしますね。
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