煤に塗れて見たもの   作:副隊長

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3.斬撃と銃弾

「本当に、何のつもりなんだ! あいつは!?」

 

 両手に持つ重火器をぶっ放しながらクリスが叫んでいる。十中八九、自分の事だろう。苛立ちに塗れた声を聴きながら見物に徹する。立花が何とも言えない表情で隣に座り、こちらをチラチラと見つめてくる。座らないならぶつかり合うしか無いなと告げると、戦うぐらいならと腰を下ろしたと言う訳だ。

 

「少なくとも、お前よりは考えがあるのだと思う」

 

 迎え撃つのは、機動部の装者の一人、風鳴翼だ。自分が知る少しあどけない頃の剣とは違い、その剣技は卓越していると言える。重火器から繰り出される銃弾を、必要に応じて斬撃と立ち回りで往なしている。斬撃と跳躍。機動と攻撃を使い分け、銃撃を振り回す事で体力の消耗を待っていると言う所だろうか。大技を使う事は極力控え、斬撃の合間に短刀を打ち込む小技等を挟みながら、機先を制している。

 

「えっと、クリスちゃんと上泉さんはどういう関係なんですか?」

「……家主と居候。と言うのが一番分かり易いだろうか。まぁ、昨夜だけなのだがね」

 

 ぶつかり合う赤と青を見つめながら、立花の質問に答えた。前を向いたままなのは、そちらを見ている必要があるからだ。けしかけたのは自分である。見届ける責任はあるだろう。

 

「居候、ですか?」

「ノイズが出現した際に、猫を拾ってな。その時にクリスも拾った」

「拾ったんですか!?」

「ああ。最初はノイズから助けられたのだが、かなり消耗していたのだと思う。その場で倒れた為、放っては置けなかったわけだよ」

 

 立花の質問に、少し声を落とし答えた。クリスの耳に入ればまた怒り狂う気がするからだ。

 重火器では埒が明かないと、イチイバルを両手拳銃に持ち替え、放つ。青は踏み込みの深さに緩急をつける。踏み込みからの反転。跳躍。斬撃。

 銃弾を掻い潜り放たれたそれを、クリスは片手の銃で受け止める。

 

「貰った!」

「この程度」

 

 切り返しの銃撃。銃を支点に一瞬で力を掛け、反動で弾き飛ぶことで往なした。装者同士であるからできた事だろう。自分にはできそうにない妙技に感嘆が零れた。着地からの踏み込み。必殺を外したクリスを、容赦なく蹴り飛ばしている。凄まじい勢いで吹き飛んでいく。

 

「クリスちゃん!?」

「おや、随分と豪快に飛んで行ったな」

 

 思わず立花が立ち上がった。走り出そうとしたところで手を取り止める。

 

「ちっ!?」

 

 風鳴のが舌打ちをしながら飛び退り、羽々斬を振るった。火花が十数発散った。風鳴の蹴り。その接触に足で合わせ、自身も蹴る事で反発したのだろう。後退しながら銃撃を霰の様にまき散らす様は年不相応で、空恐ろしいものを感じざる得ない。装者と言う事もあるが、雪音クリス自身の才も大きいのだろう。青と赤の示す天賦と言っても良い様な才に、柄にもなく熱いものを感じる。

 即座に風鳴が動いた。姿勢を低く保ち疾走する。クリスの銃口から着弾を予測しているのだろうか、太刀で必要最低限の弾を弾き駆け抜ける。

 

「二人とも凄い……」

「君もそう負けてはいないと思うが」

「え……?」

「機動力と突破力。先ほど見た限りだが、凄まじい物だった」

 

 碗部ユニットを使った加速。あれは怖いだろう。仮に自分が使われたとしたら、予測で迎え撃つしかない。あの突破力は二人にはないだろう。

 

「まぁ、見ていて大丈夫だろう。風鳴のは怪我をさせる気は無いだろうしな」

「解るんですか?」

「あの子が今回のような戦いで怪我をさせようとするとは思わないよ。下手を打ったら解らないが」

「翼さんです。その辺りはきっと大丈夫だと思います」

 

 頷く。銃声と斬撃音が響く。至近距離でぶつかり合いながら、有効打が互いに出ないでいる。実力が拮抗しているように見える。見えるだけだが。

 

「しゃらくせぇ!」

 

 しびれを切らしたクリスが、誘導弾を解き放つ。

 

「此処だ」

 

 その瞬間、無数の刃が振り乱れた。凄まじい射出量。解き放たれたばかりの誘導弾が、連鎖爆発を起こす。

 後退。半ば吹き飛ばされる形で後退した。両の手を交差され、視覚を庇いながら下がっている。

 地を転がり、何とかと言った具合に立ち上がる。シンフォギアの防御性能があるだろうが、消耗が激しそうに見える。

 

「この戦いに意味はあるんですか?」

「あの子は何か抱えているのだろう。それを受け止められるのは同じ装者だけではないかな」

「クリスちゃんが抱えている物。上泉さんは何か心当たりが……?」

「知らんよ。大して親しい訳でもない」

「ええー!? 此処まで話しておいて、何でそんなに素っ気ないんですか!!」

「それが事実だからな。放って置けないところはあるが、具体的な事だと俺は何も知らん」

 

 何となく、鬱屈とした雰囲気と放って置けない危うさを感じるだけだ。それを解消するのは、どちらかと言えばこの立花や風鳴の気がする。年が近いうえ、同じシンフォギア装者だ。それに比べれば、自分には接点も多くない。できる事は、精々悩んだ時に方向を示す事や背中を押せれば良い方だろう。それすらできないかもしれないが。

 

「解っているのは、傷を負っていた。それでも誰かを守る為に戦った。良い子じゃないか。それ位だろうな」

「クリスちゃん……」

「一人では抱えきれない思いがあるのだろう。それを風鳴が受け止めている。不器用同士だ。一度では終わらないかもしれないが、ぶつかる事は悪い事では無いだろう。誰にだって吐き出したい時はある。意味は後からついてくる」

 

 息が完全に上がっている。それでもクリスの闘志が揺らぐ事は無い様だ。何が其処までさせるのかは解らない。ただ、まだ倒れる気配はない。

 

「上泉さんは、どうしてここに来たんですか?」

「……また、話が変わるな」

「まだ何も聞いていませんからね!」

「まぁ、良いか。別れた時に、何か不機嫌そうだった。それが気になったから来た」

「それだけで、ノイズが居る場所まで?」

「そうなるな」

 

 立花の質問に答える。すると不思議そうに言われた。頷く。大した理由など無い。気になった。気に入らな方ともいえるか。別れ方が、何となく気に触れたという事だ。

 

「上泉さんは、良い人ですね」

「いや、君には負ける。出来れば変わらないでやって欲しいな」

「はい!」

 

 どちらかと言えば、それは目の前にいる女の子の方が当てはまるだろう。一部始終を見ただけだが、どれだけ無碍にされても相手の事を思いやっているように感じられた。ぶつかり合っている時ですら、クリスから本気の敵意までは感じ取れなかった。多分、何度もぶつかり合って今があるのだろう。真っすぐなこの子の瞳を見ると、何か眩しい物を見ているような気がしてくる。俺も年を取ったのか。そんな事を思わず考えてしまう程に眩しい。

 

「そろそろ、立ち合いは終わるようだ」

「え……?」

 

 戦いの様相が変わり始めている。鉄パイプを手に立ち上がる。決着。見ている限り、そう長くは続きそうにない。何度目かのぶつかり合い。赤と青が互いのアームドギアを用いて交錯する。銃声と斬撃。互いのギアが吹き飛ぶ。

 

「いい加減に決めさせてもらう!」

 

 クリスが前に出た。跳躍。同時に誘導弾が解き放たれる。機動からの奇策に、風鳴の反応が僅かに遅れる。刃が舞い降りる。誘導弾を叩き潰すように着弾した。一気に粉塵が舞う。黒煙と粉塵の中で赤と青が交錯した。

 斬撃。掻い潜る。

 銃撃。軸をずらし。

 薙ぎ払い。跳躍。

 接射。鍔。弾いた。

 石突。両手銃で受け止めた。吹き飛ばす。

 

「かはっ!?」

 

 クリスが受け止めきれず怯んだ。膝を突く。

 

「これで終わり」

「まだ、だ……ぁ?」

 

 風鳴が羽々斬を振りかぶった。一撃。沈める気で放たれる。

 無理やり前に出て往なす。反射的な判断。間合いを詰める事で斬撃を狂わせる。頽れた足を無理やり動かし、足腰が砕けた。クリスは体の痛みをごまかして戦っていた。その負荷が、無理やり動いたことで限界を迎えた。体制が大きく崩れ、刃に向かい倒れた。

 

「な……!?」

「クリスちゃん!」

 

 風鳴の手元が狂った。と言うよりも、クリスが行き成り刃に向かい倒れ込んだ。刃から、一瞬意識が外れる。

 踏み込み。赤を追い抜いた。

 

「先――」

 

 左手。振り下ろされる柄を持つ。右手。振り下ろされる刃に添える。目を見開いた風鳴の手元がぐるりと動く。

 振り下ろされる勢いを流し、そのまま羽々斬を手にした。無刀取り。人が頽れる音。背中で聞いた。

 

「クリスちゃん!?」

「ふぅ……」

 

 クリスを斬りかねない勢いであった為、割って入っていた。風鳴のとて、斬ろうとした訳ではない。ただ、加減できるほどの相手では無かった。故に本気で迎え撃った。そして渾身の一撃であったが故に、想定外の動きを見せたクリスに挙動が追いつけなかったという事だ。あまりの事に、羽々斬から風鳴の意識がそれていた。だから、刀を奪う事で逸らしたと言う訳だった。渾身であればある程、虚を突かれたときは対応ができない物だ。刀身を握った手を払う。赤い物が散った。虚を突いてはいたが、流し切れていない。やはりその剣は凄まじい物なのだろう。

 

「申し訳ありません」

「いや、それだけ二人が本気だったという事だろう。本気でぶつかり合い、風鳴のが力を見せた。そう言う事だろう」

 

 反射的に突き付けた羽々斬を返す。無手で剣を奪う事など、虚を突く事でしかできはしない。剣を突き付けるのは、その一連の流れが出てしまっていた。同じく反射的に後退しようと重心をずらしていた風鳴に、刃を返した。

 

「っぁぁ……」

 

 ふらつき倒れたクリスに立花が駆け寄る。本調子ではない。無理が祟ったという事だった。

 苦しそうに呻くも、数瞬後には目を開けた。

 

「な、んで……」

「負けたから倒れているな」

 

 呆然としているクリスに、ただ教えた。全力を賭して敗北した。不調と言う要因は確かにあるが、それでも真正面から挑んでの敗北だった。

 

「まだ、あたしは負けてない。まだ、やれる……」

「そんな……、もう十分だよ!」

「その様では無理だな」

「勝手に決めんな! あたしは負ける訳にはいかねーんだよ」

 

 まだやろうとするクリスを押し留めた。

 

「ならば、立ち上がってみろ」

「何だと……!? ふざけんな、あたしはまだ負けてねぇ!!」

 

 喚くが、立ち上がる事は出来ない。そう言う風に押さえ付けているから当然と言えば当然なのだが、それだけ弱っているという事だった。装者が万全ならば振り払い無理やり立ち上がる事もできるだろうが、今のクリスには無理だった。やがて変身が解かれる。それを見て、風鳴のも解除する。

 

「負けたよ。認めろ。刃の方に倒れたのは君の不明だ」

「っ……」

 

 今にも泣きそうに表情が歪んだ。そのまま手を伸ばし、何も手にする事が出来ず地に落ちた。

 

「あたしは、勝たなきゃいけねーんだよ。勝たなきゃ今までやってきたことに意味が……」

「ならば、今負けた事によって意味が無くなったのか」

 

 ぽつりと零した。それ以上何かを言う事もなく項垂れる。全力で戦い負けた。それがどう言う風に作用するのか。それは解らない。ただ、装者同士でぶつかる事には意味があったと信じたい。

 

「さて……風鳴の」

「なんでしょうか?」

「悪いが突破させて貰うぞ」

 

 咄嗟に捨てていた鉄パイプを拾い上げるなり、言った。一応はクリスの味方である。何の手助けもしていないが、彼女が負けた以上は、離脱する必要がある。何がしたいんだと言ってしまえば終わりだが、抱きかかえた。そのまま脇を一気にかける。

 

「ちょ、上泉さん!?」

 

 驚き慌てている立花の声が届いた。立ち止まらず、その場から離れた。

 

 

 

 

 

 

「イチイバルの反応、離脱しました」

「そうか」

 

 特異災害対策機動部本部。戦いがモニタリングされていた。ノイズを討つために集ったシンフォギア装者たちがぶつかり合う。何度目かのそれが行われていた。雪音クリスと、風鳴翼のぶつかり合い。幾度かのぶつかり合いはあったが、初めて明確な決着がついた。

 

「しかし、意外な人物が居ましたね」

「ああ。上泉。まさかユキのやつが……な」

「相変わらず、無茶が過ぎるようで。ノイズや装者相手に立ち回るなんて、司令を除けば彼ぐらいですかね」

 

 その際に、想定されていなかった人物がいた。上泉之景。元機動部所属の男である。

 少し懐かしい事を思い出すように、藤尭は続ける。司令である風鳴弦十郎が自らの手で解任していた。今の主要メンバーの中では、特に同期である緒川と親しくしていたが、藤尭とも親交はあった。かつてを懐かしむ様に呟く。

 

「変わらんな。奴は。無茶をする事と言い、言葉が足りん事と言い」

「もしかして指令、後悔されておられましたか?」

「少しは、な。俺は、読み違えていたのかもしれない。ずっとそんな事を考えていたよ。久しぶりに見たあいつは、それを確信に変えてくれたようだ」

 

 藤尭の問いに、弦十郎は苦笑が零れる。モニターの前で何度も行われてきた無謀な行動。死線を平然と超えていたが、理由は一つだけだったのだろう。それを当時は読み切れなかったが故に解任していた。

 

「引き込みますか?」

「いや、良い。こちらの都合で解任したのだ、早々都合の良い事は言えんよ」

 

 本音を言えば、あれだけ動ける人材は喉から手が出るほど欲しい。自分が出ていければと、歯噛みしたのは一再ではないからだ。ユキが居れば、現場をある程度安心してみていられる。それほどの物になっていた。月日の流れが、若者を更に大きくしたのか。

 久方振りに見た剣は、かつてを遥かに凌駕していた。ノイズを斬るなど、当時は一度たりとも行っていない。出来るようになったと言う事なのだろう。上泉の剣。弦十郎も耳にした事はあった。

 

「すこし、出てくる」

 

 やる事は沢山ある。それが、一つ増えていた。今起こっているシンフォギアに関連した事件。その全貌が少しずつ見えてきていた。それに対して、打てる手が増えたという事だった。機動部の中に居ない。それは、大きな事なのかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

「お前は、何がしたいんだよ……」

 

 弱弱しく呟いた。昨日と同じようにクリスを連れ帰り寝かせていた。悪態こそついているが、気力は感じられない。黒猫が、寝台の傍に寝そべっていた。金色の目だけを少し開きぼんやりとしている。

 濡らした布を額に置く。頭は冷えたかと言外に尋ねた。

 

「癇癪をぶつける先を用意した。と言ったところか。白黒つければ、一段落はついただろう」

「意味わかんねーよ」

「やりたい様にやらせて貰っただけだ」

「なんだよ、それ……。やっぱり意味わかんねー」

「それはそうだろう」

 

 解らないとクリスは続ける。それはそうだろう。彼女が言うように、俺もクリスの事など解らない。だが、それは仕方が無いのだろう。解り合おうともしなかった。それでは解る訳がない。

 

「お前は、何がしてーんだよ!」

 

 先程よりも強く叫んだ。ならば言ってやろう。

 

「お前と同じことだよ」

「なんだと……?」

 

 視線が鋭くなった。だが、それだけである。

 

「俺の事が解らんと言ったな。それは俺も同じだ。お前の事など解りはしない」

「あたしが、てめぇみたいのと同じだと……?」

「同じ事だよ。相手に解ってもらう努力をせず、自分の意思をただ押し付ける。違うか?」

 

 自分は元来あまり説明をする質ではない。だが、今回の件については、あえてそうしていた。

 目の前にいる小娘はただ、癇癪をおこしていた。何があったのかも教えてくれなければ、他の者はどうしようもない。無論、自分が聞かなかったと言うのも大きくはある。が、棚上げする。

 だから見せてやった。自分が無意識にやっている事を教えたのだ。意味が解らない。つまりは、そういう事だ。

 

「違う!」

「……気分の良い物では無いだろうな。勝手に決めつけ押し付ける。従わなければ無理やりにでも押さえ付ける。俺はそう言う事を君にしたよ」

「……っ!?」

 

 叫ぶクリスを無視して続ける。まだ戦えると泣いた彼女の言葉など考慮せず、押し通した。どう言う思いがあったのか、知りもしない。そして、踏み躙った。それで良かったのだろう。俺が敵意を持たれようと、この子には手を差し伸べてくれる人が他にも居るのだ。大きな問題にはならない。

 

「立花はあの戦いに意味が無いと言っていたな。実にそうだ」

「……」

「戦いたくないと言う立花の代わりに、風鳴がお前を受け止めた。話を聞かずにただ自分の意志を押し通した。なぁ、君は俺とどこが違う?」

「そ、れは……」

「あの子が戦いたくないと言ったのは、今回が初めてなのか?」

 

 クリスは黙り込んだ。思い出すように目を閉じている。その様子に、これ以上は必要ないだろうと思った。

 

「すこし、意地悪が過ぎたか」

 

 黒猫を抱き寄せる。にゃぁっと一鳴き。眠そうに金眼が開く。それを、クリスに向かい放り投げた。

 

「うわっ!? て、てめぇ、いきなり何しやがる!!」

「何、あまり殊勝なのもらしく思えなくてな。……そろそろ風呂が沸くだろう。入ると良い」

 

 あまりふさぎ込みすぎても良くは無い。猫には悪いが気付け薬になってもらう。ちなみに風呂は、寝かせる前に沸かし始めていた。

 

「何でいきなり風呂なんだよ」

「手痛く負けて、泣かされた。酷い顔を綺麗にして来いと言っている」

「て、てめぇ。いつか泣かしてやるからな」

「解ったから、さっさと可愛らしくなってこい」

「なっ!? もう良い! 風呂に行く」

 

 一瞬で赤くなったクリスに、昨夜とは違う浴衣を投げ渡す。ひったくる様に手に取ると、大股で風呂に向かった。所在なさげにしている猫が寝台から降りた。抱き上げ、悪かったなと頭を撫でる。もう一度にゃあと鳴いた。先ほどよりも少し鳴き声の間隔が長いように思った。下手なやつだ。何となくそう言われた気がする。苦笑する。自分でそう思ってしまう程度には、下手だろう。

 痛みを教えるために、痛みを刻む。やったのはそんな事だろう。自分がもっと上手く話せるのならば、必要以上に傷付ける事は無かっただろうか。ない物ねだりは仕方が無いか。

 

「さて、悩んでも仕方が無い。食事でも作るか……む」

 

 思考を切り替える。猫に気持ちを落ち着けてもらったところで、立ち上がろうとした。その時に端末の着信音が響く。手に取る。それは、懐かしい名前だった。風鳴弦十郎。呼び出しに答える。

 

「では、今夜」

 

 用件を聞き、待ち合わせる場所を決めた。近いうちに接触があるだろうとは考えていた。思っていたよりもずっと早い。どうした物かと考える。

 

「とりあえず、作るか」

 

 考えて名案が出れば苦労はしない。クリスが上がるまでに、食事の用意だけは終えるかと手を動かす事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短編では甘々だったので、こちらではあんまり優しくなかったり

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