煤に塗れて見たもの   作:副隊長

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3部
1.終末の四騎士


「これならッ!」

 

 飛翔剣が舞い踊る。漸く聞き馴れ始めた鋭い声に目を細める。陽だまりの剣。特異災害対策機動部二課の保有する支部の一つ。装者達が訓練する事が出来るほどの広さと強度を持つ訓練室の中で、剣が舞っている。小日向未来。剣の使い方を教えて欲しいと言った少女が、己が剣を以て対峙する敵に向け刃を放つ。

 

「ちょ、わっ、はやっ!! 未来って、確か最近まで、戦った事なかった、よねッ!!」

 

 六振りの飛翔剣が、シンフォギアを纏った響を囲む様に宙を駆る。それに対応するように響は推進装置を用いた瞬間加速を駆使するも、纏わりつく様に絡みつかれる。

 

「響の事なら、何でもわかるからねッ!」

「いや、そりゃ解ってくれるのは嬉しいけど、こんな状況で言われると怖いんですけどッ!!」

 

 ならば、一気に加速してぶつかるだけだと言わんばかりに響は小日向に向かうも、渾身の一撃は、両手に生成された一振りの剣によって阻まれる。刀。最初は西洋剣であった陽だまりの剣であるが、剣を教えるうちに刃が最適化されていった結果、小日向自身が持つ剣は一振りの刀であった。自分や、自分が不在の時には翼に教えを乞うている所為であろう。シンフォギアのアームドギアも本人の性質に大きく影響されると聞く。神獣鏡の流れも汲む陽だまりの剣は、そう言う特性も引き継いでいるのだろう。武門や防人に影響され、小日向の剣もまた、刀の形を取ったという事であった。

 その刃を以て、小日向は響の一撃を銀閃で弾く。英雄の剣に刻まれた剣。それを、小日向自身の意志で制御、撃ち放つ事でやり過ごす。戦闘経験自体は遥かに響の方が上である。それでも尚互角に戦えているのは、小日向が響を知り尽くしているからだと言えるだろう。小日向の対響への想いの強さは充分過ぎるほど知っている。経験の差を補う程のものが、確かに小日向の剣には宿っているのである。

 

「響の訓練は小日向を絡めればうまく回るか? 響を読み切る小日向と誰かを組ませれば、それだけで脅威だ」

「本当ですか……? それならもっと響と一緒に居られる。力になれる」

「ちょっとユキさん! 私の訓練だけ難易度が上がってませんか?」

「有望な後進だからな。少しぐらい、厳しくしたい」

「嬉しいけど、嬉しくないんですけど!!」

 

 訓練相手とはいえ、響と一緒に居られる事に無邪気に喜ぶ小日向と、自分の訓練が更にきつくなると嘆く響。その様子を見つつ、太刀を取る。響が加速し飛翔剣の包囲から何とか抜け出す。だが、即座に回り込まれた。一瞬であれば抜け出せるが、直ぐに追い立てられていた。

 

「うぅぅ、やりにくいよぉ」

「なら、少しばかり加勢してみようか」

「ふぇ……?」

 

 音を上げる響に追い越し様に一声をかけた。六の剣。一つ一つが時間差をかけて襲い来る。だが、その動作の種類事態はそう多く無い。正面から来る剣が二つ。左右から来る剣が二つ。そして、死角からが二つ。扱え切れない技など隙以外の何物でもない。自由自在に扱えるようになるまでは、飛翔剣ではそれ以外の動作はするなと教えていた。教えには忠実な様であり、小日向は自分の技として何とか昇華できているようだ。彼女には戦闘経験も基礎も殆ど無い。あまり複雑な動きなどすれば返って隙を生むという事であった。六本をある程度制御するという時点で複雑だろうが、それは武器の特性上仕方が無い。ウェル博士が全自動で行っていた事を、半自動で行う。それで、陽だまりの剣には小日向の意思が宿る。ゆくゆくは全て己の意志で操る様になれれば良いが、どれだけの月日が掛かる事かは自分にも解らない。先はまだ見えないが、陽だまりの剣には、大きな伸びしろがあると言える。

 その刃を全て弾き飛ばす。安全な空間。それを響の傍に作り出す。切り返し。驚きに目を見開く二人。隙を晒すなと言った。弾かれたように響が動いた。小日向は、唐突の乱入に幾らか心を乱した。飛翔剣の狙いが狂う。機動方向の選定。それだけを小日向が行い、機動自体は自動で行っている。心が乱れれば動きが狂うのが、今の小日向の最大の欠点であった。

 

「隙あり!」

「あう……」

 

 響が小日向の前で拳を寸止めする。当たると思った小日向は咄嗟に両眼を瞑っていた。悪い癖である。戦いの際に強く眼を瞑るのは、余程特殊な状況でない限り不利にしかならない。これまでの生活の中で、手が出る類の喧嘩なども殆どやった事は無かったのだろう。危険が迫るとつい目を閉じてしまうのも、小日向の課題だった。

 とは言え、こればかりは直ぐには治らないだろう。当たり前だが、戦いなど知らない少女だ。響やクリスでもやってしまう事を、いきなり無くす事などできる筈が無い。少しずつ減らして良ければ良い方だろう。伸びしろと同時に、課題もいくつか存在していた。尤も、克服できればそれは伸びしろに変わるのだが。

 

「小日向は咄嗟の判断が悪い。不慣れな為だろう、想定外が起こると直ぐに操作が狂う。挙動が素直な分、直ぐに動きに出るな」

「はい……」

 

 課題の一部を弟子に教える。いきなり全てを言っても克服できる訳がない。場合によっては途方に暮れるだろう。先ずは、比較的分かり易い部分を教える。要するに、驚いても直ぐに呼吸を整えろと言う事である。これが抑えられれば、幾らか違った動きが出来るだろう。

 

「とは言え、短期間で六の飛翔剣をある程度使えるようになったのは誇って良いだろう。響もやり辛そうにしていた」

「本当ですか?」

「うん。私の事を見透かしてるみたいだったし、あのまま続けたら不味かったかも」

 

 少し沈んだような小日向に良かった点についても告げる。課題はある。だが、見るべき点もあるからだ。響の補足もあり、小日向の表情は幾らか和らぐ。

 

「もう少し頑張ります。響、もう一手お願い」

「わかった。けど、何か未来がユキさんみたいな言い回しになってるよ」

「翼さんにも教えて貰ったり、時には一緒に先生に扱かれてるしうつったのかも……」

 

 おかしそうに笑う響に、小日向も困ったように笑う。小日向には、翼に倣ったのか先生と呼ばれるようになっていた。和やかに話す二人の様子を見て、気持ちも落ち着いてきたようだと判断する。

 

「では、一手参ろうか」

『――え!?』

 

 刃を構え二人に告げる。固まったようにこちらを見詰めてきた。笑う。後進がやる気を出しているのだ。先達が胸を貸さない訳にはいかないだろう。引き攣った表情でこちらを見る二人に向かって告げる。

 

「なに、加減はする」

「絶対嘘だぁ!!」

「今日、歩いて帰れるかなぁ……」

 

 愕然と叫ぶ響と、悲し気に零す小日向。笑う。後進に、少しばかり稽古をつける事にした。

 

 

 

 

 

 

 

「ナスターシャ教授の帰って来るシャトルが!?」

「ああ。帰還途上にシステムトラブルが発生。今暫くの猶予はあるが、何もしなければこのまま墜落と言う事になる」

 

 響の驚きの声に司令は頷いた。上層部より二課に通達された情報。フロンティア事変の立役者であるナスターシャ教授。その遺体と異端技術の回収の為、回収用のシャトルが打ち上げられていた。それが目的を達成、帰還の途上でトラブルが発生したと言う訳であった。装者達が召集されている。それはつまり、シンフォギアを用い何とかすると言う事だった。そうでなければ、彼女らを呼ぶ意味がない。

 

「世界をナスターシャ教授が守ってくれたんですよ! 何とかならないんですか?」

「その為に君たちを呼んだ。やってくれるか?」

「成程。つまり、あたしたちの出番ってわけかッ!」

 

 響の言葉にクリスは拳をぶつけ意気を上げる。自分たちは守られたのである、少しでも何かを為したいと言う訳であった。

 

「人の尊厳は守られなければいけません。まだ手があると言うのならば、どのような事でも命じてください」

 

 翼もまた、静かに遺志を示す。彼女もまた、大切なものを失った事がある。ナスターシャ教授を失った者達を翼は知っている。その遺体だけでも無事に届けてやりたいと思うのは、何の不思議もなかった。

 

「今回ばかりは何もできない、か」 

「仕方あるまい。俺たちの力はそういう類では無い。適材適所だ」

「解ってはいますよ。ですが、歯痒いものです」

 

 司令の言葉に頷く。斬る事は出来る。だが、流石に斬って止められる類の事では無かった。そもそも対象はまだ遥か彼方である。今の自分ではこの件に限ってはできる事が無い

 

「留守は頼むぞ。大事の中に、何かが起こる事もある」

「了解」

 

 留守居を言い渡される。三人の装者を中心とする作戦行動は、国外で行われる事になる。本部不在の間、何かが起こる事が無いとは言い切れない。戦力の多くが動く事になるのだ。戦えるもので、今回の作戦には不要なものが宛がわれるのは当然の流れだと言える。

 

「ユキさん、私たちに任せてください!」

「先生には何度も助けてもらいました。偶には、私達も良い所を見せたいのです」

「あたし達だって守られるばかりじゃねーよ。偶には、見ててくれよな」

 

 三人の少女が此方を見て告げる。随分と立派になったものだと笑みが零れる。これでは、先達の存在意義が余りない。それを少し寂しいと思う反面、嬉しくも思う。フロンティア事変は、確かにこの子らを成長させたのだから。自分が守る必要はもう無くなっているのだろう。見違えるほど強く育っていた。

 

「今回は任せる。頼むぞ」

「ああ、頼まれた」

 

 此方の言葉に白猫は満足げに頷く。翼は静かに目を細める。

 

「怪我だけは気を付けてね」

「解ってるよ未来。少し頑張って来るから、待っててね!」

 

 小日向の言葉に、響は花が咲いたような笑みを浮かべる。目が合う、嬉しそうに手を振られた。そして、別れる。直ぐ様移動という事であった。

 

「さて、留守居だ」

「戦えるようになったつもりでした。だけど、まだ隣には立てませんね」

「仕方あるまい。響と君だけでも、力を手にした期間が違う。直ぐに同じ事が出来る訳がない。焦るな。君は必ず強くなれる。それに、留守居とて何もない訳ではあるまいよ」

 

 共に見送る小日向が零した呟き。無理はするなとだけ伝えていた。はい。っと小さく小日向は頷いた。

 

「先生は強いですね」

「君よりは、な。それに存外弱いぞ、俺は。ただ、意地を人並み以上に持っているだけだよ」

 

 仮支部の指令室に移る。本部の施設に比べれば見劣りはするが、災害や異端技術の反応を検知するにはこの場が最も有効だからだ。

 

「そうなんですか?」

「ああ。明確に弟子にしたから教えるが、実は甘い物が好きだったりする」

「ええ!? いや、確かに不思議では無いんですけど、イメージと違うと言いますか」

「良く言われるよ。まぁ、子供の頃鍛錬の後に食べた団子が好きだっただけなのだがね」

 

 甘いものと言うか、団子が好きだった。和菓子全般もそれなりに食べる。幼い頃から祖父には茶を飲まされてきた。敢えて飲み辛くしたものなども幼子に飲ませて反応をみて楽しんでいたのだろう。あの溺愛ぶりだ。反応が一々楽しかったに違いない。渋い顔をしていても、最後に出される和菓子で機嫌を直していたので、我ながら単純な子ではあった。そんな事もあり、和菓子は好きだったりする。今でも、時折食べる。

 

「良い事聞いちゃいました」

「ほう?」

「響ともどもお世話になってますからね! 今度お礼に何か作ってみます。勿論響と一緒にです」

「おや、それは楽しみが増えてしまった」

 

 子供の頃を思い出しながら語ると、今度響と一緒に何か作りますと小日向は言ってくれた。そこまでしなくても良いと思うが、せっかく作ってくれると言うのである。無碍にする理由も無かった。素直に受ける事にする。特に何事もなく、談笑を続けながら待機していた。不意に鋭い声が届く。

 

「未確認反応が出現! これは……、二課医療施設、総合病院付近になります!」

 

 未確認反応。ノイズでも、現在判明している聖遺物とも違う反応であるらしい。一つだけ心当たりがあった。黒金の自動人形。フロンティア事変の折に何度も対峙したソレ。遭遇自体は、フロンティア事変以前になる。ルナアタックの際に童子切を手にした時、初めて遭遇したのはその時であった。自動人形。幾つかのそれと、遭遇していた。二課の多くの戦力が離れた今、確かに何かが動いていた。決めつける訳にはいかないが、現状最も大きな可能性であった。

 

「上泉さん、行けますか?」

「ああ、その為に待機していた」

 

 通信士が、支部責任者と短く言葉を交わし声をかけて来る。既に本部にも連絡を入れ、指示を仰いだようだ。あちらも大きな作戦の中である。幾つかの条件を与えられ、現場での指揮を一任されたようだ。用意していた太刀を取る。幸い現場までそう遠くは無い。他の準備も既にできている。指示に直ぐ頷く。

 

「あの、私も行きます」

「小日向も、か?」

「はい。私はまだ響と肩を並べられません。だけど、響と同じように誰かの為に戦える力は手にしました」

 

 小日向の言葉に考える。もし自分の悪い予想が当たれば、自動人形と刃を交わす事になるだろう。ただし、何の確証も無い。ただの見回りで終わる可能性もある。

 

「嫌だと言えば?」

「勝手について行きます」

 

 試しに聞いた問。間髪言わず、小日向は笑った。そう言う所だけは、響にそっくりの様だ。選択肢が一つしかなかった。勝手に動かれるぐらいならば、傍に居てくれる方が良い。

 

「仕方ない、行くか」

「はい!」

 

 話が決まったので場所を変え、支部に用意されている二輪に跨る。小日向が後ろに跨った。あまり時間が無いので急ぐぞと告げる。短いがしっかりとした返事が届いた。そのまま目的地に駆け抜ける。総合病院。自分も入院した事がある其処に、辿り着いていた。元々二課関係の施設である。反応が検知された時点で、避難が開始されていた。屋外に関係者こそいるが、殆ど無人で合った。二輪を止め、入り口付近で待機している二課と一課混成の部隊に声をかける。何時ぞやの再編の件。それで選別された精鋭部隊だった。

 

「上泉さんですか」

「ああ。シンフォギア装者は別件で全て出払っていてな。居残りが来た」

「充分過ぎます! そちらの方は? 見た限り学生位の子にしか見えませんが」

「ああ、秘密兵器だ。一応、俺の弟子という事にもなる」

 

 陽だまりの剣の説明は難しい為省略する。ある意味、シンフォギア以上に機密なのだ。日本の持つシンフォギアと言う力は全世界に知れてしまったが、陽だまりの剣はそう言う訳では無い。ただでさえ、シンフォギアは近い内に国連直轄下に置かれる事になる。それ以外の戦力は隠しておきたいと言うのが日本側の本音のようだ。

 そう言う諸々の事情からこんな説明ではあるが、俺の弟子と言う言葉は思った以上に効果があったのか、小日向にも頑張って下さいと言う声援が上がる。

 

「ええ!? ハードル上げないでください……」

「まぁ、追い込みすぎるのも可哀そうだ。直ぐに向かう。何も無いかも知れないが、何かあっても困る。残っている方たちの退避を出来る限り早く行って欲しい」

「了解しました。ご武運を」

「ああ、行ってくる」

 

 機動部精鋭部隊の人間と言葉を交わし、病院に踏み入る。静寂。普段は人の気配が強い昼の病院ではあるが、まるで夜の病院の様に音の無い世界が広がっている。

 

「小日向、剣を纏っておけ」

「はい」

 

 何かある可能性も存在する。小日向には陽だまりの剣を纏わせる事にする。

 

抜剣(アクセス)ッ!」

 

 小日向が小さく宣言する。六の剣と白き外套が形成される。陽だまりの剣。小日向未来の力だった。

 

「そう言えば、響と掛け声を決めていたのだったか」

「はい。聖詠みたいなのがあれば切り替えやすいって言われましたから。駄目ですか?」

「いや、構わんよ。気持ちの切り替えは大切だ。君なりのやり方で、やると良い」

 

 剣を纏った小日向と一度頷き合う。一つ一つ時間をかけて部屋を確認していく。自分一人であればそれ程用心はしないのだが、今は小日向もいる。あまり迂闊な事をしようとは思えなかった。エントランスを越え、受付を通過し、病棟へと続き通路を進む。やがて、階層を移動する大型エレベーターが存在する広い空間に辿り着く。上下以外にも、来た道を含め五叉路の様に通路が存在する。見知った場所、見知った施設。違和感には直ぐに気付いた。エレベーター。無人の筈が、動いている。通信機を使う。何かに邪魔をされているのか、酷く反応が悪い。

 

「先生、これ」

「小日向、警戒しておけ。ただし、自衛以外で武器は使うな」

「はい」

 

 やがて、エレベーターが一階へと到達する。扉が開いた。無人。何の反応もない。太刀を握る。居るのが分かった。足音。自分たちの背にある一つ以外から、響き渡る。童子切。使用許可など降りてはいない。それでも尚、無い物をねだった。

 

「くひひ。また会ったわね、異端殺しの英雄」

「死して尚再び立ち上がる。その派手な振る舞い、流石の私も見入ってしまった」

「剣殺しをも退けた剣の冴え、是非また見せて貰いたいものですわ」

「おお、お前が皆の言う英雄か。あたしは、強いゾ」

 

 剣を抜き放つ。刃を低く寝かせた。背後で息遣いが聞こえる。

 

「先生……。彼女たちは……?」 

「小日向。敵の動きから目を離すな。相手は格上だ」

 

 短く指示を出す。どうやら相手は予想通りであった様だ。その上で、予想の上を行っている。知らない顔もあるが、まさか知った顔が全機出て来るとは思ってもいなかった。行動が即、死に繋がりかねない。

 

「四対二。いや……お前達が居るという事は」

「五対一よ。偽りの剣しか持たない未熟者なんて、数の内にも入りはしない」

 

 ――血脈に宿る刃(ブラッドスレイヴ)

 

 そして、正面のエレベーター乗り場より、黒金の自動人形が現れる。以前斬り飛ばした右腕。大爪では無く、漆黒の腕に金色の宝玉が付いた右腕をしていた。小手。新たな腕は、そんな印象を受ける。

 

「お前たちは、何者だ?」

「そうね。終末の四騎士(ナイトクォーターズ)が全員そろったのは初めてかしら」

 

 ガリィと呼ばれた青色が、此方の問いに笑みを深める。深く、深く。嘲るように口角を歪める。

 

「折角だから、英雄と呼ばれたあんたに免じて名乗ってあげようかしら。水を司る自動人形(オートスコアラー)、ガリィ・トゥーマーン」

「おお! なんか楽しそうだゾッ! ならあたしは、火を司る自動人形、ミカ・ジャウカーンだゾ!」

「あらあら。皆浮かれちゃって。なら、私も便乗させて貰おうかしら。風を司る自動人形、ファラ・スユーフですわ」

「ふ、良くこれだけ派手好きな者が集まった。ならば、私も地味に名乗る訳にはいかんな。土を司る自動人形、レイア・ダラーヒム」

 

 青が氷を生み出し、赤が炎を上げ、緑が風を起こし、黄が地を操る。四機の自動人形が、各々が特徴的な動きを見せながら此方を見据える。リズム。四機が四機とも、異なりながら、何処か似ている呼吸で動きを止める。

 

「そしてソイツが五機目の自動人形。劣化品改め、員数外(イレギュラーナンバー)。まぁ、名前なんて無いから、黒いしクロとでも呼んでおけばいいんじゃねーの? 馴染みの名なんだろ、英雄さん? あはははは。良かったな劣化品、英雄様のペットと同じ名だ!!」

 

 ガリィが高らかに笑みを浮かべる。きゃははははと、耳障りで煩わしい。

 

「同じ人形だというのに、随分な言い草なのだな」 

「同じ? まぁ、人間のあんたには同じように見えるんだろうね……。ふざけんなよ人間ッ、こんなものと一緒にするなッ!」

「あらあら、ガリィったら怒っちゃって。何だかんだ言って、マスターに作られた事を一番誇っているから」

「知らず知らずに虎の尾を踏む事になる。地味に進める事は難しい様だ。ならば、派手に始めようか」

「いい加減、御託は飽きたんだゾッ! 強いのなら、あたしが最初に頂いちゃうゾ」

 

 四機の自動人形は戦意を高める。

 

「小日向」

「はい」

「此処で敵は止める。お前は退け」

 

 そして、五機目が抜き放った刃を展開する。

 

「私も……」

「邪魔だ。お守りをしながら相手にできる敵では無い」

「ッ!?」

 

 戦うと言おうとした小日向に言い切った。解るのだ。一度対峙した事があるからこそ、小日向では相手にならないと。それが五機である。勝負になる訳がない。

 

「もし俺が止めきれなければ、君が外にいる人たちを守るんだ。俺が抜かれれば、もう君しかいない。良いな」

「はい……」

 

 小日向が背を向け、一気に加速する。陽だまりの剣。その力は、身体能力を向上させ、それだけでなく一定時間ではあるが飛行を可能とする。離脱するだけならば、難しい事では無い。小日向未来を死なせるわけにはいかない。後進の親友を、こんな所で無くす訳にはいかなかった。

 

「あらら、随分おめでたい頭をしているわね。あたし達から逃げられる心算なの?」

「ふん、随分楽観的なのだな。お前たちこそ、追える心算なのか?」

 

 敵は五機。内の一機は、自分を殺した敵が相手だった。笑う。襲い来る飛翔剣。遅すぎる。弾き飛ばした。

 

「一つだけ聞いておく。何が目的だ?」

「目的? 簡単な話だよ。あたしたちは、おまえを殺したい」

 

 打ち返した刃を腕で払い落しながら青は笑う。視線が交錯した。

 

「殺してやるよ、英雄」

「殺してみせろ、自動人形」

 

 そして五色の閃光が襲い来る。異端技術。それを、血脈の剣を以て迎え撃つ。刃が重なる。両の手に負荷が掛かる。援軍が来る事は、無い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シリアスさんが復活。
VS加減無しスコアラー4機+1
装者達は海の彼方なので援軍は来ない。初っ端から、ハードモードです

XDの和装イベントで、ムラマサの欠片探しとかやってて、更にウェル博士が暗躍してて、これは英雄の剣的な物を作る流れかと楽しみにしてます。武者ノイズを武門ノイズとか読み間違えて吹いたりと、和装イベントはワクワクが止まりません



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