煤に塗れて見たもの   作:副隊長

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3.嵐の前の静けさ

「はぁッ!!」

 

 剣が風を鳴らす。鋭い踏み込みから、風鳴翼は刃を振り下ろす。一刀。連携に主眼の置かれた飛翔剣を逸らしつつ、一瞬進路が浮かび上がったところを防人は迷い無く踏み入る。

 

「くぅ……、速い」

 

 六本の飛翔剣。以前よりも扱い自体は様になっては来ているが、それでもまだまだ甘いと言わざる得ない。小日向では気付かない様な隙を突かれれば、そこから否応なく崩れていく事が多い。以前からの課題通り、咄嗟の対応の未熟さが目立つ。斬る事にかけては幾らか上達が見えるが、受けに回るとまだまだという事であった。

 慌てて翼を阻む様に飛翔剣が一斉に動きを変える。下手を打った。そんな事を思いつつ、後進の鍛錬を眺める。

 

「咄嗟の判断が甘い。攻めている時は安定しているが、転じて受けに回ると小日向は挙動が素直になり過ぎるな。とは言え、日々の研鑽による最適化が行われている途中だろう。日に日に動きのキレは良くなっている様に思える」

「……はい。ありがとうございます! 悔しいなぁ……。響が相手だったら、動きに予測がつくから何とか戦えるけど、翼さんやクリスには手も足も出ない」

「ふふ。まぁ、そうむくれてくれるな。私は元々戦う為に磨き上げてきた剣だ。幾ら、陽だまりの剣を手に入れたとはいえ、直ぐに追いつかれては沽券に関わる」

「はい。解ってはいるんですけど、つい、無い物をねだってしまうんです」

 

 結局、受けに回って崩れた小日向に翼が羽々斬を突き付け訓練は翼の勝利に終わる。順当であり、当然の結果だった。それに誇るでもなく、翼は刃を交えて気になった点を小日向に告げていく。小日向からすれば翼も随分先を行く先達である。指導点を聞き、神妙に頷き、陽だまりの剣を軽く振るう。

 

「小日向、構えてみろ」

「……! はい、先生」

 

 刃を交える二人の少女を眺めていたが、訓練用の太刀を取り構える。剣気。今回は打たせる為の対峙である為、意志を強く示す事は無い。それでも尚、小日向は深く息を吸い、陽だまりの剣を両手で構える。一振りの剣。整えた呼吸と共に、踏み込む。

 

「剣は武器だ。それその物が力という事になる。だがな、剣だけでは力足り得ない。必ず、剣を振るうものが居る」

 

 陽だまりの剣を受け止め、小日向に語り聞かせる。強い武器にただ頼るだけ。それでは、以前のウェル博士と同じになる。小日向がそうだという気は無いが、響の為にと急き過ぎている為に少しだけ言い聞かせる。

 

「どんな武器を持とうと、大切な事は使い手だ。どれだけ強い武器であろうと、使い手によっては鈍に変わる。磨き上げた腕を持とうとも、心持ち一つで錆び付いてしまう事もある」

「はい」

 

 翼もまた、響を傷付けてしまった折に鈍と化した事がある。自分の想いを曲げ、響の為とはいえ、胸中とは大きく違う事をしたからだった。翼ほどの腕を持っていても、そういう事はあるのだ。それ程、戦いにおいて意志というものは大きな比重を持つ。

 

「急くなとは言わない。だが、君は確実に強くなってはいる。君の想いは確実に力となり始めている。それは、認めると良い。翼にもクリスにも及ばない。本気でやれば響にも勝てないだろう。それでも、進んではいる」

「何とか、親友の隣に立ちたいんです」

「英雄の剣と神獣鏡の力を宿す陽だまりの剣でもな、上手く武器に意思を乗せれなければ、意志の宿った数打ちに劣る。どれだけ優れた武器であろうとも、使い手がついていかなければ意味がない」

 

 友達の為に強くなりたいのだと告げる小日向の持つ陽だまりの剣に向け意志を向ける。斬鉄。断ち切ると意志を乗せた数打ちを以て、一気に叩き折った。

 

「ッ!?」

「斬鉄、と言う」

 

 叩き折られた陽だまりの剣に小日向は目を見開く。その様子が少しおかしかった為、噴き出しながら教える。小日向の意志が弱いと言う訳では無い。ただ、意志の載せ方が分かっていないだけであった。

 

「これが、先生の言う意思の宿った剣……」

 

 陽だまりの剣を折られた事に、驚きを示す。

 

「まだ先の話ではあるが、この技を教えようと思う」

「……本当ですか!?」

 

 折れた剣を再生成させた小日向は、此方の言葉に目を輝かせる。

 

「……え?」

「どうした、翼」

 

 そして、予想外な人物も目を丸めている。小日向の鍛錬相手を務めていた翼である。信じられないものを見たと言わんばかりに、小日向と此方を交互に見る。

 

「私だって、技を教えて貰った事は無いのですが」

「それはそうだろう。お前は風鳴だぞ。上泉の剣など使えば問題だろうに」

「それは、そうですが……。姉弟子の立ち位置として、何か釈然としません」

「仕方あるまい。それに、翼には風鳴の剣と忍びの技もある。全てを修めきる前にいくつも手を出すものでは無いぞ」

「……はい」

 

 流石に風鳴翼に上泉の技を教える訳にはいかない。盗む分には構わないのだが、それは言わないでおく。早々盗めるものでもないし、何よりも自分で気付くべきだ。

 

「それにしても、早いものですね。先生が一課に転属となって、三週間ですか」

「すまないな。剣を教えると言っておきながら、あまり時間が取れていない。鍛錬も結局、翼にばかり押し付ける形になっている」

「いえ、私も小日向のような素直な後輩が出来てやり甲斐があります」

 

 話が一段落着いたところで小日向が零した。自動人形の襲来により、それに対する戦力として二課から割かれたのが自分という事であった。シンフォギアは国連所属となる事は避けられないが、自分は違っていた。言うならば、世界を守護する剣がS.O.N.G.であり、日ノ本を守護する剣が自分の所属する事となった一課という事である。二課が再編、解体された為、厳密には一課でも無いのだが、最早癖のような物で特異災害対策機動部は今でも通称一課と呼ばれている。二課の戦力がほぼ丸々S.O.N.G.に割かれる形となった為、対異端技術と言う点では一課の方にも補強が行われた。日ノ本各地にある武門からも何名か人が推挙されている。塚原や林崎など、名のある家からも人が送られてきていた。一課にある遊撃隊。今自分が居るのは、そう言う所であった。

 

「とは言え、翼にばかり頼ってもいられないか」

「そうですね。マリア達、F.I.S.組の復帰もあり、歌女としての活動も再び大きくなってきています。剣として己を磨ける時間も以前に比べれば短くなりました」

「それ自体は一概に悪い事でもあるまい」

「はい。世界に向かい歌うのは私の夢、でしたから」

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴを始めとするフロンティア事変の関係者。一時は米国の思惑により全員に死罪が求刑されていたのだが、F.I.S.の成り立ちから追及を開始した日本政府との駆け引きにより、結局は全員の罪自体が無くなるという結論に落ち着いていた。F.I.S.自体、米国に所属する聖遺物の研究機関であった為、その存在を認めてしまえば米国が非難に晒される事になり、F.I.S.自体の存在を頑なに認めず、ならば武装組織自体が存在せずテロ行為が起こせるはずが無いという、ある種の逆説が成立してしまった為、今のようなおかしな結論に至ったという事だった。それによりウェル博士の罪も消えてしまったが、F.I.S.の装者達は命を落とさずに済んでいた。裁かれるべき者が裁かれず、死ぬべきでは無い者が死なずに済んだ。国家間の複雑な思惑もあいまり、奇妙な形に結論が至ってはいたが、母の言葉を胸に抱いた少女たちが死なずに済んだこと自体は喜ばしく思う。

 そんな事情もあり、マリアは結局、救世の英雄として国連所属のエージェントに祭り上げられ、当面は歌姫として翼と共に歩む事となったと言う訳である。彼女の妹分に当たる月読調と暁切歌もまた、国連監視下、具体的にはS.O.N.G.の監視下ではあるが、学生として日々を送る事になったと聞いている。

 自身は二課から一課に転属となり、彼女らに直接会う事は無かったが、緒川や指令、そして白猫と響から様々な情報を聞かされていた。特に部署が代わり繋がりが薄くなっていた。クリスや響は時折顔を見せに来てくれ、色々な事を語ってくれた。雪音クリスが気ままに現れる白猫だとすれば、立花響は会えば構って欲しそうに寄って来る子犬だろうか。白猫と子犬。二人に懐かれていた。共に戦った戦友である。繋がれた絆は大切にしたいと思う。

 

「翼もまた立派の成ったものだ。あまり子供扱いもできないな」

「先生に比べれば、まだ子供です。打ち直して貰った事は決して忘れていません」

「気に入らなかっただけだ。友人想いの癖に、不器用な後進がな」

「はい」

 

 会話が途切れる。F.I.S.の三人。彼女等はどうしているだろうか。母の言葉を胸に抱いた少女らがどうなったのかは聞いていた。それでも、少なくない縁があった。気にはなってしまう。

 

「あ、そうだ先生。マリアさんに調ちゃんや切歌ちゃんとはまだ会ってないんですか?」

「ああ。聞いただけだな。春からはリディアンに通うと聞いている。響たちに様子を聞く事はあるが、実際にあった事は無いよ」

「なら、翼さんとマリアさんの送別会も兼ねて、皆で歓迎会をしませんか? 以前、響と一緒に甘い物を作って来るっていう話もありましたし、お団子パーティーとかどうですか?」

 

 名案があるんですがどうですかと言わんばかりに小日向が提案をして来る。何時ぞやの留守居の時にそんな話をしていた。少し考える。想い出を作っておくのには悪くないと思えた。頷く。

 

「……構わんよ。場所を貸せば良いのだろうか」

 

 気掛かりな事があった。自動人形の襲撃。それにより、自分は一課に転属となっていた。正体不明であり、具体的な目的不明の相手だった。たった一つ解っている事は、俺を殺す心算だという事だけである。日ノ本としては国連指揮下であるS.O.N.G.に戦力を割かざる得なかった。国を守護する刃を奪われた形になる。幸い敵は人形である為、異端技術に匹敵する童子切だけでも国内守護の力と留め置くために自分は一課に転属となったと言う訳であった。戦力を手元に残すと同時に、敵の目的を焙りだす為の囮。それが自分に宛がわれた役割だった。風鳴司令は何とかS.O.N.G.に残そうと手を尽くしてくれたようであるが、その想い自体を蹴る形で断っていた。

 はっきり言って相手は強大である。自分の命に狙いを定めるというのならば、少女たちの力は借りるべきではない。狙いが自分であるという事は、司令と緒川だけには話していた。正直にいうと、殺されても不思議はない。それ程の相手であった。刃を交えたからこそ、強く実感している。そんな相手とあの子らを戦わせたくは無い。今回ばかりは死ぬかもしれない。そう思うと、その前に出来るだけ何かを残しておきたい。ある種の予感があった。無論死ぬつもりは無いが、相手が相手だった。万が一は充分にあり得る。拠り所にされていた。それは解っているからこそ、失った時に立てるだけの意志を残しておきたい。

 

「はい。響とも近い内に何かやりたいねって話していたんですよ。先生が場所を貸してくれるのなら、何時でもできそうです」

「お団子パーティーか。想像すると、頬が緩んでしまう。先生も、マリア達と打ち解ける良い機会です」

「そうだな。君たちは、彼女等の入学と同時に門出でもある。皆が居るうちに、話しておくのも良い」

 

 私も小日向の意見に賛成ですと頷く翼を見ながら、笑う。少女たち相手に、そんな集まりに誘われる自分がおかしかったからだ。父の背をただ追っていた。そんな人間の筈だった。それが、何の因果か周りに人が集まって来てくれる。その気持ちが嬉しく思う。

 

「では、お団子パーティーという事なので、皆で用意しますね」

「ふむ。では、私も腕によりをかけて見るか」

「……まぁ、各自、無理のない程度で頑張ってくれ。こちらでも何か用意しておく」

 

 小日向がみんなで頑張ってきますねと笑顔で告げる。その言葉に、翼も神妙に頷いた。何か不穏な言葉が聞こえたが、気にしない事にする。どんなものが来ても、くつろげる準備を此方で行っておけば問題は無いだろう。飲み物と菓子。その辺りは一応用意しておく。場合によっては酒も少量あっても良い。子供らは兎も角、マリアは飲めても不思議ではない。

 

「じゃあ、詳しい事が決まったら連絡しますね!」

「ああ、待っているよ」

「皆で持ち寄り振舞うとは、女が試されるという事。腕が鳴る!」

 

 そして、鍛錬を終え、別れる。自宅に戻り、待っていたクロと戯れる。直ぐに連絡が届く、幸い彼女等は春季休業直前である。こちらの非番の日を教えればよかった。そして日程の連絡が来る。三日後であった。藤尭と緒川に連絡を入れる。後は準備を行い、その日が来るのを待てばよかった。

 

 

 

 

 

 

「未来ー!」

「わ、どうしたの、響?」

「うん。お団子作ったのは良いんだけど、なんか、その、緊張してきちゃって……」

 

 お団子パーティー当日。朝から早起きをして、響と未来は互いに協力を行いながら団子を作っていた。日頃の感謝を示すというのもあるが、何よりも響の応援の為と言うのが強かった。既に、翼やクリス、そしてF.I.S.の面々にも連絡を入れていた。勿論、お団子パーティーと言う名目である。翼やクリスが断る事などあるはずが無く、F.I.S.の三人組も一度ユキとはゆっくり話したいと思っていたようで、話自体は直ぐに纏まっていた。各々が団子を持参して持ち寄るという事で、話は纏まっていた。未来としては、色々な意味で本気であるのは響とクリス位ではあると思うが、よく考えて見れば物凄い状況だった。何せ、あの風鳴翼やマリア・カデンツァヴナ・イヴまで居るのである。それも、手作り団子持参の可能性もあった。感謝と言う意味では、皆、思い当たる理由は大きいが、客観的に見れば凄いの一言だろう。

 

「私たちはきな粉と餡子だね!」

「うん。流石にみんな同じだったら飽きちゃうから、クリスはみたらし、マリアさん達は栗とお芋だったっけ?」

「そうそう! と言うか、翼さんが黒蜜胡麻って大丈夫なのかなぁ……」

「……、直接見た事は無いけど、きっと、その、大丈夫なんじゃないかな」

「うう、違う意味で怖いなぁ」

 

 短い間ではあったが、二人で何度も試行錯誤して、美味しいと言える程のものを作っていた。響は好きな人の為に。未来は親友を応援する為と日頃の感謝を伝える為に。想いを込めて作っていた。流石に練習期間が短すぎる為、材料選びから行うなどと言う事は出来ない為、市販のセットを用いているが、まず間違いない出来であると言えた。足りない分は、恋する乙女の愛情でカバーすれば問題ないのである。

 

「喜んで、くれるかなぁ……」

「大丈夫だよ響。凄く、美味しかったから!」

「未来。うん。そうだよね! 愛情なら、だれにも負けて無いから」

 

 そして、恋する乙女は親友と一緒に出来立ての甘味を持つ。ある意味最大の戦いは始まろうとしている。響が一日笑顔で居られると良いな。そんな事を思いながら、未来は響と共に目的地に向かう。

 

 

 

「みたらしって、普通タレがかかっているよな」

 

 雪音クリスは、自分の作った団子の前で考え込んでいた。彼女が作っていたのはみたらしである。既に味見も終え、文句なしで美味いと言える程であった。そんな出来ではあるのだが、だからこそ、ある一つの点で生まれた疑問に思考が固まる。

 

「……直ぐに食べない場合。今かければ良いのか。それとも、直前にかけるべきなのか。どっちなんだ?」

 

 たれを何時かけるかと言う点だった。人によってはどちらでも良いでは無いかと言う問題ではあるが、そこは女の子である。どうせなら美味しいものを食べて欲しいという事だった。今回の集まりでは、雪音クリスにとって大切な人達が集まって来る。面と向かって告げた事は無いが、大切な友達である立花響。ぶつかった事もあったが、何度も共に戦い、時には頼り切る事もあった先輩である風鳴翼。そして。

 

「美味しいって言ってくれるかな?」

 

 一瞬胸に過った想いに頭を振る。新たにできた三人の仲間。親睦会。皆に美味しいものを食べて欲しいだけなんだと、言い聞かせた。

 

「そうか。どうせ数はあるんだし、両方持って行けばいいか。最悪、台所借りれば作り直しも聞くしな」

 

 そして、予めかけて行くのと、現地でタレをかける。二種類用意すれば良いだけだと気付く。大切な人達には、美味しいものを食べて欲しい。できれば美味いと言って欲しい。そんな思いがクリスの胸に広がる。

 

「そうと決まれば、さっさと行くか!」

 

 そして、手際の良い動きで準備を終えると家を後にする。大切な人達が待っている。これが、あたしたちが守った居場所なんだ。そう考えると、嬉しくて仕方が無い。雪音クリスは、小さく歌いながら目的地に向かう。

 

 

 

 

 

 

「お邪魔します」

「ああ、ゆっくりしていって欲しい」

 

 そんな一言と共に、三人の少女がユキに先導され入室する。マリア、調、切歌のF.I.S.組であった。男性の部屋に入るのは初めてである様で、少しばかり辺りを見回しながら進む。本棚には史書や経書、それから小説等が積まれており、そして何故か猫の餌が置かれている。何本か棒が壁に立てかけられており、只でさえ殺風景な部屋を更に武骨としている。やがて、居間に着く。既に他の者達は集まっているのか、響、未来、クリス、翼は寛いだ様子で座っている。

 

「あ、マリアさんに調ちゃん、切歌ちゃんも!」

 

 最初に気付いた響が声を上げる。

 

「ごきげんようデース!」

「皆でパーティーと聞いたので、三人で頑張って作って来ました」

「こんな形ではあるけど、改めてよろしくお願いするわね」

 

 三人の少女はそれぞれ挨拶を交わす。漸く全員が揃ったと言う訳であった。七人の少女がワイワイと話し始める。

 

「これで全員揃ったようだな。なら、早速出すか?」

「お、クリスちゃん、自信ありげですな!」

「そりゃ、あたしは自炊してるからな。良く溜まり場にもされてるし、料理に関してはそれなりだ」

「うちの調も負けてないデスよ。何せ、F.I.S.の厨房は、実質調が回していたといっても過言では無いデスから」

「調の料理の腕は、何処にお嫁に出しても恥ずかしくない程よ。むしろ、私たちが手伝わない方が良かったかもしれないのが悲しいところよ」

「皆の口に合うかは解らないけど、腕によりはかけてきたよ。栗とお芋のお団子」

「ふむ……。皆が皆、自信満々の様だ。ならば、私も緒川さんに指南いただいた自信作をお見せしようか」

 

 七人の少女達は、自分たちの持ってきたものこそが一番だと言葉を交わす。一組だけ一番頑張った人間こそ謙遜しているが、大した問題では無い。そんな様子を眺めつつ、家主は珍しく手間をかけ茶を入れる。皆が皆、和菓子を持参していた。武門らしく、茶を点てたと言う訳である。茶室でも無い為、各々の前に出すだけであるが、異国の生まれであるマリアは特に目を輝かせる。とは言え飲み方など解る訳がない。この面子で作法など気にする必要も無いと告げ、ユキは好きに飲んでくれと笑う。誰とも無しに一口含む。

 

「これはこれは、結構なお手前で」

「祖父には遥かに及ばんよ」

「と言うか、お前お茶の味とか解んねーだろ」

「あはは。バレちゃった?」

 

 屈託なく笑う子犬に白猫は鋭い突っ込みを入れる。響が笑いそれに釣られて笑みが広がる。

 

「じゃあ、ユキさんがお茶を点ててくれて雰囲気が出た事だし、先ずは私と未来からで! じゃじゃーん!! きな粉と餡子です!!」

「皆にはお世話になってるから、二人で頑張って作ったの。食べて貰えると嬉しいな」

 

 そんな事を言いながら、用意された大皿に取り出す。

 

「なら、次はあたしだな。定番のみたらし団子。味は保証させてもらうぞ」

「確かに、クリスの料理の腕は信用できる」

「お、おう。ありがと……」

 

 威勢よく出したみたらしを眺め、ユキが零した言葉に白猫は赤面する。自信満々に出したが、いざ褒められると照れてしまうと言う訳であった。威勢が良かったり急にしおらしくなったりと忙しいクリスにかわり、次は翼が持ってきたものを取り出す。

 

「私一人ではあまり上手く出来なかったので、緒川さんに手伝って貰ったのだが」

 

 そんな言葉と共に胡麻団子に黒蜜がかけられた一品をだす。予想外の出来栄えに、響とクリスは思わず翼を見る。実はほとんど緒川さんに作って貰ったようなものなのだと、翼は困ったように笑う。恐るべし忍者と、乙女たちは戦慄する。

 

「最後は私達ね」

「うちの調は凄いんデスよ!」

「あんまり褒めないで。恥ずかしいよ……」

 

 最後に出されたのは芋と栗をこして作った餡を乗せた団子が現れる。翼のものも予想外ではあったが、最後に出てきたものは文字通り物が違っていた。月読調が作った団子は、それだけ違っているように少女達には見えたからである。

 

「これはまた壮観な。どれも旨そうだ」

 

 茶を飲みながら眺めていたユキは、一通り眺めた後、そんな言葉を零す。七人が各々協力して作ってきている。単純に、数だけでも大量にあり壮観だった。一人一人が一種類ずつ食べたとしても、随分数が余る程だった。取り敢えずはと言った具合に、全員分取り分ける。そして、いただきますと号令をかけ、皆が思い思いに頬張った。

 

『美味しい!』

 

 食べる直前までは誰のものが一番かという事で小競り合いが起きてはいたが、一口食べてしまえばそれも終わりだった。少女たちは、一つ、また一つと甘味を味わう。

 

「くっ……、皆が作ったものがこれ程とは……」

「って翼、結構な勢いで食べてるわね」

「ああ。今、私は自分の不甲斐無さを噛み締めているところだ。私だけが、緒川さんに手伝って貰っている。剣士としても、女としても、格の違いを見せつけられてしまったようだ」

「そ、そう。って、本当に美味しい! く、こんな美味しいお団子がまだ、こんなに……。うぅ……、武装組織時代を思い出すと、なんて恵まれて……」

 

 マリアと翼は、あまりの美味しさについつい串が進む。

 

「あ、お芋も栗も美味しい!」

「こっちの餡子も絶品デス」

「黒蜜も美味しいね」

 

 未来は調たちが作った団子の味に頬を緩め、調と切歌も笑顔が零れる。

 

「……、いや、そこまで見られると食べ辛いのだが」

「仕方ねーじゃん。あたしたちが作ったんだし、感想が気になるんだよ」

「そうですよ! そう言う訳で、私と未来が作ったきな粉をいきましょう」

 

 そして、クリスと響はお互いの作ったものに頬を緩ませつつ、食べて食べてと持っていく。一つ一つ、ゆっくりと噛み締める。

 

「旨いな。どちらも、旨い」

「やったよ未来! ユキさん美味しいって!!」

「そっか……。良かった……。よし、まだまだ一杯あるから、幾らでも食べてくれ!!」

 

 短く呟かれた言葉に、二人の少女は嬉しそうにはにかむ。聞きたかった言葉が聞けたため、安堵の息が零れる。不意に、白猫と子犬は目が合った。二人して一瞬考え込む。

 

「それで、どっちが美味かった?」

「どっちと言うか、誰のが一番だったかは私も気になります!」

「また、随分と野暮な事を聞くものだ」

 

 真剣な目で問う二人の言葉にユキは苦笑を浮かべる。皆が持ち寄って楽しんでいる。其処で態々優劣をつける必要など無いからだ。少し考え込み、ユキは串を取る。持ち寄った団子は、予め串に刺さったものと、好きに組み合わせられるように団子だけのものが置かれていた。

 

「そうだな、この二種類かな」

 

 六種類の団子を串にさし、二つの団子を作り出す。皆が持ち寄って作った団子の組み合わせであった。

 

「……確かに、これが一番かもしれませんね」

「まぁ、全員に負けたって言うのなら仕方ないか」

「あまり野暮な事を聞くものじゃない。どれも美味しいで、良いじゃないか」

 

 困ったように顔を見合わせる二人にユキは小さく笑う。こういう場合は誰が一番等決めるのは無粋である。敢えて言うなら、どれも一番で良いのだ。競いに来たわけでは無いのだから。

 

「では、最後に俺からも出させて貰おうかな。尤も、手作りでは無いが」

 

 そして、最後にユキはそんな言葉と共に、七人分の和菓子を取り出した。紫芋と薩摩芋の二つの餡で作られた逸品であった。少女達は思わず息を呑む。調たちの作ったものもかなりの完成度を誇っていたが、これは一線を画している。名のある和菓子屋の物だと言われても納得してしまう。

 

『お、美味しい……』

 

 そして、意を決した少女たちが一口含み、そのあまりの出来に思わず艶やかな溜息を零す。ユキは、一番など居ないと笑ったが、どう考えても最後に出されたものが一番であった。

 

「これ、ユキさんが作った訳じゃないんですよね」 

「ああ、そうだよ」

「良かった……。流石にあんたに負けたとなれば、色々と自信を無くす。でも、なら誰が? 店売りのなのか?」

 

 想い人に料理の腕で負けた訳では無い事に安堵を零すも、では誰が作ったものなのかと疑問が浮かぶ。店売りなのかと言う言葉に、ユキはおかしそうに笑うも否定する。そして、誰が作ったかを教えた。

 

「藤尭だよ。S.O.N.G.所属の藤尭朔也。奴が作った」

「うそぉ!!」

「まじ、かよ……」

 

 ユキが出した名は、少女たちには思いもよらぬ名だった。

 この日、恋する乙女が挑んだ戦いは、彼女らの誰でも無く、藤尭朔也に敗北したのだった。

 

 

 

 

 




響、子犬にクラスチェンジ
翼、後輩に嫉妬(剣技的に)する
F.I.S.組、S.O.N.G.に合流
藤尭、S.O.N.G.最強の女子力を発揮

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