煤に塗れて見たもの   作:副隊長

47 / 62
10.抱きしめた想い

「で、傷心の末引きこもってる訳ね。我らのマスターは何やってんのか」

「まぁ、そう言ってくれるな。ある意味で、やり易くなったと言える」

「全くですけど、つまり、悩み揺らいでいたマスターのお墨付きが漸く頂けたという事になるわ」

 

 錬金術師一党の本拠。主のいない玉座の間。三機の自動人形たちは顔を突き合わせ、言葉を交わす。ガリィが計画の為留守にしていた間に、主が動き、酷く傷つけられた様子で帰還して来ていた。出迎えたファラとレイアが聞いた言葉は、暫く寝る。の一言だった。人では無い自動人形にして、不貞寝だなっと察する程度には表情が歪んでいた。後に護衛として控えていた黒金が帰還すると、一部始終が収められていた映像を確認する。人形たちがうわぁと言いたくなる程度に切り刻まれていた少女の内心を慮ると、あの反応も仕方がないと納得してしまう。

 

「全く乙女ですねぇ。そんな事でほんとに大丈夫なのかよ」

「ふふ。そう言いながら、一番気にしてるのよね」

「地味に忠誠度が高いからな。普段の言動で誤魔化しているようだが、解る者には解る」

「うっせ」

 

 まるでほほえましいと言わんばかりの雰囲気を醸し出す二機に、青は憮然と吐き捨てる。会話の内容を聞きながら、随分良い様にやられたものだと思考を巡らせていく。英雄の言葉は、主であるキャロルを真っ向から迎え撃つものだった。傍に控える自動人形ですら感じられる、同族への親しみ。それが、反転し敵意に変わっていた。その事自体は、主の悲願を叶える上では非常に良い傾向だと言える。その点に関して、ガリィは英雄の在り方に称賛をあげたくなるほどだ。

 

「しかし、マスターも人の子って事ね。面と向かって想いを告げて、一刀両断に切り伏せられた。そう思ってる(・・・・・・)

「おや、流石に気付くか」

「当たり前。あたしらには、英雄に対してマスターと同種の思い入れなんてものは無い。マスターに比べれば、俯瞰して物事を見れる」

「わたしとしては、マスターを応援して差し上げたいところですが、そう言う訳にもいきませんか。英雄は別に、マスターの想いに関しては、一切否定していない事を教えてあげたいところですが」

「むしろ、マスターの父上に敬意すら抱いていたように思える」

 

 ファラとレイア、そしてガリィは英雄に関して、特別な想いを抱いている訳では無い。であるからこそ、感情に左右されず言葉の意味を受け止める事が出来る。自動人形から見れば、英雄は確かにキャロルの父、イザーク・マールス・ディーンハイムに敬意と哀悼の意を持っている。でなければ、敵の父の為にも戦うなどと言えるはずが無い。その発言こそ、イザークの死を悼む感情の表れだと言える。

 君の父親の為にも負ける訳にはいかない。それは英雄が、イザークを蔑ろにすべきでは無い存在だと思い定めたという事だった。主は、そんな簡単な事にも気付く事は無い。自身の想いを拒否された事が、それだけ深く突き刺さったという事だった。まったく、乙女なんだからと吐き捨ててしまいたくなる。

 

「余計な事するんじゃねーよ。今のままの方が都合が良い」

「そうですわね。世界を壊すという目的さえなければ共に歩めたかもしれない。だけど、運命は残酷なもの。共に歩む道は無い」

「有り得たかもしれない未来など、考えるべきではない。我らは、マスターを支えるだけだ。地味にも、派手にもな」 

 

 自動人形たちは、最大の障害になり得る英雄に、複雑な印象を抱く。或いは、主の目的が少しでも方向性が違っていれば、隣に立っていた可能性も充分に考えられた。それでも、世界を壊すと選択したのはキャロルの本懐であり、託された命題の為でもある。ならば、彼女に作られた自動人形たちは、その為に働くだけであった。目的は全てに於いて優先される。そんな錬金術師の言葉を思い出す。

 

「さて、あたしはミカちゃんのお手伝いでも行こうかしら」

「あら? 相変わらず頑張り屋ね」

 

 また出掛けて来ると告げる青に、緑は少し意外そうにする。

 

「漸く唯一の懸念が消えたのよ。英雄を殺す為の最大の障害。マスターの心変わりだけが、読み切れない要素だった。その心配が無くなった今、さっさとクライマックスまで進めたい訳よ。自動人形が、本気で相手をする事が許されるなら装者など物の数に入らないわ。だから、楽しみで仕方がないのよ。唯一本気で相手にできる英雄を手折れる事が」

「ふ、素直にマスターを阻む者を許せないと言えば良いものを」

「……。英雄を殺すのに、英雄と同じ力は必要ない。人間なんて、やりようによっては簡単に殺せるわ」

「そう言う事にしておきましょうか」

 

 ファラとレイアの言葉を背に受け、ガリィは再び拠点を後にする。この場にはいない自動人形であるミカの行おうとしている、ガングニール強襲。それを円滑に進める為に、青は暗躍を続ける。シンフォギアの破壊。先ずは目先の目標を達成する事に集中する。

 

「英雄は強い。だけど、人は強くは無い。だからこそ、その枠を超えた何かが英雄と呼ばれる事になる。そして、英雄は弱き者の為、矢面に立ち、その命を燃やし力尽きる。その時に、英雄に手を差し伸べるものは無い。だって、人は弱いから。英雄のいる場所には英雄しか辿り着けない。だから、誰も英雄を救う事は無い。孤高だよ、あんたは。最期には見捨てられるのが英雄の運命だ。だからせめて、あたしたちが殺してやる。大衆に切り捨てられる前に、殺してやる」

 

 主にできない事を為す為に作られた。だからする。そんなガリィの呟きは、風に乗り消えて行った。

 

 

 

 

 

「やっぱり、まだ歌うのが怖いの?」 

「うん……。誰かを傷付けちゃうかと思うと、ね……。涙が、あの時泣いてたキャロルちゃんの顔を思い出すと、戦いたくないってそう思っちゃうんだ」

 

 雨が降り続いている。授業が終わり、学生たちが羽を伸ばす放課後。一つの傘を一組の女子生徒が用い下校していた。立花響と小日向未来。同じ学園に通い、同じ組織に所属する事となった親友同士は、雨音に耳を傾け濡れないようにゆっくりと歩きながら言葉を交わす。

 

「響は、初めて歌った時の事を、シンフォギアを纏った時の事を覚えている?」

「え? ……どうだったかな。無我夢中だったし」

 

 未来の事を聞いて、響は軽く物思いに耽る。あの頃は、シンフォギアの存在など知る由もなく、突如現れたノイズから、傍に居た子供を守る為に必死に逃げていた。情景としては覚えている。忘れる訳がない。だけど、多分未来が聞いている事はそう言う事じゃないと響は思う。あの時の気持ちの事かなっと考えるも、どう言う想いで戦ったのかと考えると、直ぐに答えが出てこない。

 

「その時の響はさ。どう言う想いで歌ったのかな。誰かを傷付けたいと思って歌ったのかな?」

「……」

 

 考える。無我夢中だった。逃げなければ殺される。だから、まだ幼い子供の手を引き必死に逃げた。少しずつ追い詰められていき、最後には逃げ場を完全に失った。それでも生きる事を諦めきれなかったのを思い出す。

 

「戦いたかったわけじゃないんだ。だけど、そうする事しかできなかった」

「うん」

 

 響の独白を未来はただ頷いて聞く。

 

「一緒に逃げていた女の子の為にも何とかしなきゃって思って、必死に頑張って」

「そうだよね。それが、響だよね」

「え……?」

 

 上手く言葉にならない言葉。だとしても、小日向未来には立花響の言いたい事が解る。解ってしまう。未来は響と長い付き合いであり、響の事を一番近くで見てきた人間だった。誰よりも響を理解していると言えた。

 

「上泉先生は、響に戦わないで良いって言ったんだよね」

「え? うん。私の代わりに戦ってくれるって。これまでずっと頑張ってきたんだから、守られても良いって。そう言ってくれたの……」

 

 話を聞いていた未来が、今度は響に問う。自分の好きな人が自分を守ってくれるって言ってくれた。その言葉自体は凄く嬉しくて頬が熱くなるのを実感する。だけど、何処か冷静な部分がそれでは駄目だという様に気持ちを引っかからせる。

 

「そう言って貰えたのは、嬉しかった?」

「ええ!? あの、その……うん。不謹慎だけど、その、嬉しかった」

 

 未来の真っ直ぐな問いに思わず俯き、そしてゆっくりと頷く。こんな体たらくじゃいけないと思いつつも、言われた言葉を思い出すと心が揺さぶられてしまう。これが、恋なんだなっと思うと、嬉しい様な恥ずかしい様な、だけどちょっぴり情けない気持ちになってしまう。嬉しい。だけど、何かが引っ掛かっている。

 

「だと思った」

「あう……」

 

 呆れたような未来の言葉に、響はなんだか情けない気持ちにされてしまう。恋しているんだから仕方ないじゃんと言いたくなるのを必死にこらえる。

 

「あのね、響。よく聞いてね」

「……? うん」

 

 雨の中、未来が立ち止まったので響も向き直る。普段の困ったような微笑みでは無く、真剣な表情で見つめている。思わずごくりと息を呑む。普段は温厚な未来だからこそ、真剣になった時にはいつも圧倒されていた。こういう時の未来は、何時も大切な事を言ってくれる。言われたその時は理解できなかったとしても、必ず大切な事だと解る時が来る。そんな想いと経験が響にはあった。

 

「響が歌えないのは多分ね、上泉先生の所為でもあるよ」

「え……?」

 

 だからこそ、思いもよらなかった言葉に響は素っ頓狂な声を零す。

 

「響のやりたかった事。一番似合う事が人助けって事を私は知っているよ」

「うん」

 

 自分の好きな人の事を言われて思わず何か言い返しそうになるが、未来の雰囲気に押され結局聞き手に回る。未来の言葉には、響をずっと見て来たからこその重さがある。今の響では、未来の圧力には抗えなかった。

 

「誰かの為に自分の時間を削ってまで色々していたのを覚えているよ。リディアンに入った頃なんかは、木から降りられなくなった猫を助けて、授業に遅れた事もあったよね」

「あ、あははは、そんな事もあったね」

「その頃にはもう、響らしい事って言うのは人助けだったよ」

「そう、なのかもしれないね。いじめられた事もあったからさ、誰かの役に立てるのが、嬉しかったんだ……。私なんかが何かをして、誰かが喜んでくれるのが嬉しかった。笑ってくれるのが、嬉しかったんだ」

 

 まだシンフォギアと言う超常の力を得る前の事を思い起す。考えて見れば、響にとってシンフォギアを纏う事は絶対では無かった。今ではシンフォギアと言うものが大きくなりすぎているから直ぐにギアを纏って戦う事を考えてしまうが、立花響と言う女の子は本来ギアと言う力は持っていなかったはずである。

 

「先生は響の代わりに戦ってくれるんだよね」

「うん。ユキさんは、私が戦わなくて良い様に守ってくれるって……」

「だけど、それは響のやりたい事をそのまま先生に押し付けるって事だよ」

「そう、なの?」

「うん。だって、先生は痛みが怖くない人だから。誰かの重さや痛みを背負えて当然って思っている様な、普通の人とは何かが違うから、響の代わりにあっさり戦っちゃうと思う」

 

 響が至った結論に良く似た思いを未来もまた抱いていた。血の海に沈み腕を失いながらも、誰かの為に戦うのが武門だと言っていた事を思い出す。その姿を見た未来には解ってしまうのだ。響と未来は見てきたものは違う。だけど、上泉之景が戦いを止めないという事だけは解ってしまう。明確な惨状を見た分、未来の方がより明確に理解しているのかもしれない。響のような人助けをする為。そんな優しい理由ならば、躊躇なく背負ってしまうと解るからこそ、未来は響にそれで良いのかと問いかける。ただでさえ、相手は戦う事を止める気は無い。その上で、更に戦う理由を押し付けてしまうのかと聞く。響にそんなつもりが無いからこそ、親友である未来が、結果的にそうなってしまうと教える必要があった。

 

「多分先生は私達が居ても居なくても戦う人だよ。だからこそ、響が負担になっちゃっても良いの? 好きな人を支えるんじゃなくて、重荷になってしまっても良いの?」

「わたし、そんなつもりじゃ……」

「うん。解ってる。そんなつもりじゃないって解ってるから、私が言ったの。響が恋しているって、誰よりも知っているからこそ私が言うべきだって思ったから」

「恋をしているって知ってるから?」

「うん。恋は悪い事なんかじゃない。響を見ていたら良く解るよ。先生を、響のユキさんを信じているって事も良く知ってる。だからこそ言うね。信じる事と、考えない事は違うよ。好きだから信じる。そう言えば聞こえはいいけど、信じる事ときちんと考える事は別だよ」

 

 立花響は恋をしている。だからこそ、響はユキの言葉を妄信しているとも言える。だからこそ気付かなければいけない。確かにユキは響が言って欲しい事を言っている。だけど、根本的に上泉之景は子供たちに戦って欲しくは無い。以前のユキの話と言うのは、響を通して未来も聞かされていたが、響を立ち直らせる為のものでは無い。響が戦わなくて良い様にするものだった。誰よりも響に戦って欲しくなかった未来だからこそ、その事に簡単に気付けた。そして、誰よりも信じているからこそ、響は気付かなかった。先の助言は、響の事を想っての助言ではあるが、だからこそ響を立ち直らせる為の助言では無い。立花響が戦わなくて良い様にと言われた言葉だった。だから、響は嬉しく思うが、何処か引っかかるものがあったと言う訳である。

 

「響は、響の想いを大切にしないとダメだよ。先生は、私達を大切に想ってくれているからこそ、遠ざける人だもの。辛くて苦しい時だからこそ、優しさに甘えるだけじゃだめだと思う。心地良さに浸るだけじゃ、きっと駄目になる。考える事を止めちゃ駄目だと思う」

「考える事を止めない……」

「私は知っているよ。確かに響は戦う力も持っている。だけど、それは戦いたいから用いる力じゃないって事を」

 

  そして、小日向未来は今の立花響にとって一番必要なものが何かを気付かせる為に言葉を続ける。上泉先生は、子供たちを大切に想っているからこそ、戦えなくなったことを相談するべきでは無かったのだ。なら戦わなくて良い。代わりに守る。そう言うに決まっている。

 

「響が戦いたくないのなら、それはきちんと向き合わなきゃいけない。響の意志は、想いは、響自身が見詰めなきゃいけないの」

「私の意志。私の想い」

「そう。響の想い。響は先生が響の代わりに戦って、それでもし力尽きたらどうするの?」

「――ッ!? 嫌だ」

 

 そして、未来は最も辛い可能性を提示する。確かにユキは強い。だが、絶対は存在しない。右腕が落とされたように、次は命を落とす可能性もある。それでも、守って貰うだけで良いのかと響に問う。響の瞳に大粒の涙が浮かぶ。その姿に、私嫌な事言ってるなぁっと思うが、響の為だと心を強く持つ。誰かが言うべき事であり、だからこそ未来が言いたい事でもあった。響の恋を応援している。だけど、人は恋だけに生きてはならない。響に助けられた親友だからこそ、それに気付いて欲しかった。

 

「先生は一人でも戦うよ。ううん。きっと、一人でばかり戦っているよ。それでも、響は守って貰うの?」

「私は……」

 

 戦いたくない。だけど、代わりに戦って貰うという事は、戦っている人の後ろに居るという事である。勝てればいい。だけど、もし負けた時、助けに行けない事もある。誰かを傷付けると思うと怖いけど、大切な人が傷付いた時、傍に居られないと考えるとそれも怖くなる。

 

「怖がらないで響。響の歌は、戦う為のものじゃない。響の歌は――」

 

 そして、未来は響の歌について自分の想いを真っ直ぐ伝える。

 

「漸く見つけた。君の歌を聞きに来たんだゾッ!」 

 

 その直前、赤の自動人形がその姿を現した。

 

 

 

 

 

 

 

「キャロルちゃんの仲間、だよね?」

「そうなんだゾ。他の仲間の歌は聞かせて貰ったから、君の歌を聞かせて欲しいんだゾ」

「私の歌を……?」

 

 目の前に現れたミカの台詞を聞き、響はガングニールに手を伸ばす。だけど、それでも胸の歌が浮かぶ事は無い。

 

「――」

 

 何とか聖詠を紡ごうとするも、声が言葉となりはしない。戦うのが怖い。そんな意識が響の中に存在する限り、ガングニールが応える事は無い。

 

「ん?」

「歌え……ない」

 

 そして、響の様子にミカは小首を傾げる。先の戦いで、仲間から歌えない装者がいるとは聞いていた。それがこの装者なのかと思いを巡らせる。暫くの沈黙。そして、ミカは大量の結晶を取り出す。アルカノイズ。錬金術師たちによって作られた、シンフォギアすらも分解する新型のノイズの閉じ込められた結晶だった。

 

「歌えないのなら、歌えるようにするしかないんだゾ。君が歌わないのなら街を、それで駄目なら人を、それでも無理なら大切な友達を、分解なんだゾ!」

 

 アルカノイズを呼び出しながら、ミカは響に告げる。シンフォギアを纏えないのならば、少しずつ惨劇を見せるぞと。いやでも、戦わなければいけない状況に追い込む。それが、自動人形が採った作戦だった。

 

「ッ!? ッ――ッッ――!?」

「うーん。本気にしてくれないのなら、本当にやっちゃうんだゾ」

 

 余りの発言に、何とか歌おうとするも言葉が形とならず消えて行く。これでもまだ歌わないというのならば、歌えるようになるまで追いつめるだけだった。

 

「大丈夫」

「え?」

 

 本気だ。何とかしなきゃと思った時、すぐ傍で聞き馴れた声が耳に届いた。視線を向ける。未来が、微笑んでいた。大丈夫。誰かを傷付ける事に怯える響に言い聞かせるように優しい笑みを浮かべ、未来は告げる。

 

「響が戦えないのなら、私が響の代わりに守るんだ。――抜剣(アクセス)ッ!」

 

 未来は己の剣を抜き放つ。陽だまりの剣。響が戦わなくて良い世界を作ると言う想いにより適合した、英雄の剣と神獣鏡の流れを汲む剣。小日向未来の持つ力だった。六本の飛翔剣が舞い、純白の輝きを纏う。

 

「な、んで……」

「ずっとね、響に守って貰っていた。だから、今度は私が守るんだ。響の想いは、私が守る」

「……君の持つ剣には興味が無いんだけど、君を分解したら歌う気になるかもしれない、か。なら、頑張って欲しいんだゾ!」

 

 陽だまりの剣を抜いた未来の姿を見たミカは、アルカノイズをけしかける事を選択する。できるだけゆっくり、装者が歌えるようになれば良いと言わんばかりに、緩やかにノイズを攻め懸けさせる。

 

「大丈夫だよ、響。今の響は、少しだけ見失っているだけ。握った拳が生む痛みに、大切なものを見失っているだけだよ」

  

 飛翔剣が舞い、アルカノイズを迎え撃つ。一斉に攻め寄せるのではなく、包囲したノイズが少しずつ攻め立てる。未来は飛翔剣をノイズを阻む様に展開し、斬り落としていく。

 

「けど……!?」

 

 それでも多勢に無勢。少しずつ攻め手の数が増えて行き、未来の反応が追いつかなくなり始める。押されている状況に、響は声を荒げる。

 

「響の歌は、確かに誰かを傷付けるかもしれない。だけど、それは傷付けるだけじゃないって知っている。私だから知っているのッ!」

 

 やがて舞っていた飛翔剣がアルカノイズに分解される。それでも、剣の力を振り絞り再び刀身を再生成していく。シンフォギアの力が歌によるフォニックゲインの高まりに寄る様に、陽だまりの剣は、使い手の意志の強さによってその力を増幅させる。英雄の剣と言う異端技術の基本性能に更に未来の意志が宿り、その切れ味を増していく。小日向未来は教えられている。意志の宿った刃は、何よりも強い武器になり得ると。元来戦う事など向いていない少女ではあるが、友達の為と思った時、その意志は何よりも強いものと昇華する。響を守る。そう言い聞かせた。

 

「ほぉぉ! 歌を聞くつもりだったけど、思いもよらないものが見れたんだゾ!」

 

 鋭く、早くなる刃を見詰め、ミカは思わず嬉しそうな声を上げる。練度も精度も遥かに違う。だけど、それは確かに見た事のある武器であった。意志の宿った刃。天と地ほどの差はあれど、未来の持つ陽だまりの剣は、未来の想いに応える様にその力を輝かせる。

 

「だけど、その程度じゃ、何も変えられないんだゾ!」

「くぅ!?」

「未来ッ!?」

 

 だとしても、赤の自動人形の強さには遥かに届かない。ミカの生み出した炎の槍に、陽だまりの剣は手折られる。幾らか外装を傷付けられるが、未来自体に傷は無い。だけど、たった一撃で相手は遥かに強い事を思い知らされる。戦いの経験など殆ど無いにもかかわらず、格上の人外が相手である。先生はこんなのを一人で相手にしていたんだと思うと、有無を言わず逃げろと言われたのにも納得してしまう。まるで勝てる気がしない。響の声が耳に届く。ミカが笑う。

 

「もう良いよ。逃げて、未来!!」

「もっと見せて欲しいんだゾ。君が頑張れば頑張る程、あの子が歌いやすくなるんだゾ」

「私は守るんだッ! 響はきっと、自分が戦えないうちに目の前で犠牲が出たらそれこそ深い傷を負う。響が戦えない間は、私が守るんだッ!」

 

 だとしても、それは未来が響を置いて逃げる理由になりはしない。砕かれた飛翔剣に、更なる強い意志を宿し剣を生成する。極度の消耗。守る為、未来は自動人形を相手に踏み止まる。

 

「その想いは認めてあげてもいいかもだけど、君は戦い慣れていないのがまるわかりなんだゾ! 能力と経験の差は、生半可な想いだけでは覆せないんだゾ!」

 

 飛翔剣がアルカノイズを貫き、陽だまりの剣が炎剣を受け止める。火花が散り、陽だまりの剣にひびが入る。二の太刀。再度ぶつかり合った剣同士が衝撃を重ねる。未来は衝撃を殺し切れず、吹き飛ばされていた。

 

「あぅぅ……」

「未来!?」

「頑張ったけど、偽りの剣ではこれ位が妥当なんだゾ」

 

 未来を打倒したミカは、深く一撃を入れ未来の意識を一瞬吹き飛ばす。陽だまりの剣が解除されると、倒れ伏した未来を軽く突き覚醒させる。

 

「ひ、びき」

「んー、友達分解を試してみるとするんだゾ」

「未来ッ!? 歌わなきゃ、今、私が歌わなきゃ――」

 

 ミカが未来を持ち上げ、アルカノイズの方に視線を向ける。にやりと深く笑みを浮かべた。ガングニールを手から血が流れるほど強く握りしめるが、それでも歌は歌えない。

 

「私は、知っているよ……。響の歌は、誰かを、傷付けるものじゃないって……。伸ばしたその手は、誰かを守る為に伸ばされたものだって、私は、知っている。だから、怖がらないで……。その手を伸ばすのは、誰かを傷付ける為じゃない。例え拳を握る事しかできなかったとしても、誰かを助ける為に握られた拳だって……」

 

 そんな姿を掠れる目で見た未来は、伝えたかった想いを響に届ける。その手が拳を握るのは、誰かを傷付ける為じゃないと。守る為に握られているのだと。響に助けられた小日向未来だからこそ、その想いは誰よりも強い。

 

「言い残す事は、これで終わりなのかな? なら、バイナラー!」

 

 一生懸命だからこそ、その言葉には大きな想いが宿る。それが解っているからこそ、ミカは未来に言いたい事を言わせると、少女をアルカノイズに向け高く投げ放った。抵抗などできはしない。既に、陽だまりの剣を抜く気力すらも失っていた。

 

「怖がらないで……。私の大好きな響の歌を、みんなの為に歌って……」

 

 落ちて行く。未来が死ぬ。ノイズに触れれば死ぬ。嫌という程知っている現実だった。嫌だ。嫌だ。そう強く胸が騒めく。瞳から光るものが溢れ出す。胸の内の想いが弾けた。

 

「――喪失までのカウントダウン(Balwisyall Nescell gungnir tron)

 

 胸の内に想いの灯が宿り、風が吹き抜ける。大好きな親友を、こんな私に大切な事を思い出させてくれた親友を失いたくはない。強すぎる意志が胸の中に熱く燃え上がる。響の身体が光を纏い、胸の歌が奇跡を起こす。親友が再び思い出させてくれた想い。誰かを守る為。大切な人を守る為、再びシンフォギアを身に纏っていた。

 閃光が駆け抜ける。未来が落ちる地点に存在していたアルカノイズが、一瞬にして消し飛ばされる。そして、落ちる未来を優しく受け止めた。途切れかけていた意識が覚醒する。未来の瞳が映したのは、大好きな親友の笑顔だった。

 

「ごめんね。私、大切なものを見失っていた。力を振るう痛みから逃げ出してた。だけど、もう無くさないよ。大切なものを守る為、歌ってみせる。だから、聞いて。私の歌を」

 

 そして、響は抱き留めた未来をゆっくりと地に下ろす。そのまま、未来を背に赤の自動人形を見据えた。

 

「行ってくる」

「待っている」

 

 二人の少女は短く言葉を交わす。その様子に、ミカは嬉しそうに笑みを浮かべる。響は短く息を吸う。そして、拳を握り、戦うべき相手を見据えた。歌が紡がれる。一陣の風が吹き抜けた。大切な想いを見失わない様にしっかりと抱きしめる。親友の想いに報いる為にも、響は飛んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――英雄の剣(ソードギア)抜剣(アクセス)

「ざんねんだけど、茶番は此処までよ」

 

 そして、電子音声が鳴り響く。青が、吐き捨てるように言い放った。 

 

「――ッ!?」

 

 踏み込み、ぶつかり合う直前。響の胸を鋭い衝撃が駆け抜ける。不可視の斬撃。完全に予想の外から放たれた一撃。大切なものを見つけた少女を、一刀の下に切り伏せる。風が吹き抜けた。

 

「――え?」

 

 余りに理不尽な一撃に、響の思考が一瞬停止する。不可視の飛翔剣が、響を切り刻む。身に纏った奇跡が崩れ落ちる。ガングニールのシンフォギア。確かに奇跡は英雄の剣に斬り裂かれていた。

 

「ひびき、ひびきいいいいいいい!?」

 

 あっけなく、立花響は崩れ去る。何の前触れもなく現れた青と黒金の自動人形。その闖入者によって、少女の想いは踏み躙られるのだった。

 

 

 

 

 

 

 




未来、親友に大切な事を思い出させる
響、覚醒
ガリィちゃん、空気を読まない
ミカ、不完全燃焼


主人公不在回なので、ビッキーが完全に主人公でした
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。