煤に塗れて見たもの   作:副隊長

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11.Exterminate

『ノイズの反応多数。発電所周辺に、自動人形の存在も確認されております。S.O.N.G.の救援要請と、ほぼ同時に複数個所が襲撃されております』

 

 通信士の指示を聞きながら駆け抜ける。赤色の煤が舞う。招集がかかっていた。

 相手にするのは、新型のアルカノイズ。世界を破壊する為、錬金術師が完成させたという新たなノイズが複数個所に現れていた。左手に一振り、腰に一振りの太刀を持ち襲撃地点に向かっていた。跳躍。飛行型のノイズが、人を分解する為にその威を振るう。すれ違い様に一閃。飛んだ勢いを殺さぬまま、地を滑る様に低く疾走する。眼前。剣士の様に鋭い刃を持つノイズが立ち塞がる。

 

「ある意味、腕を失くした甲斐があるか」

 

 交錯。黒鉄の右腕が、僅かな血を用い稼働する。義手から、赤色の粒子が零れ落ちる。錬金術。異端技術と既存技術の折衷品である、右腕がノイズの刃を断ち切る。右腕だけが対ノイズ兵装として加工されていた。使い道など限定されると思っていたが、やろうと思えば存外使いようはあった。手刀。間合いが狂えば即、死に繋がりかねないが、ノイズに触れられるというのは大きな武器だと言える。幸いな事に、ノイズは自動人形と違い大した速さでは無い。相手以上の速さを出し続け、動きを見極め続ければ、太刀以上の武器と成り得ている。剣士ノイズの一撃を見切、反発する右腕で剣を斬り落とす。すれ違い様に触れようとするノイズを太刀で一閃。赤色の煤が舞い上がる。

 

「エルフナインには感謝しても足りないな。動くだけではなく、新たな力まで与えられている」

 

 右腕が稼働する。隙を突く様に飛来した飛行型ノイズを、黒鉄の義手で掴み取り、別のノイズに向け投げ返す。ノイズ同士が弾丸の様にぶつかり、互いを煤へと変える。実体化。この腕で掴んだノイズは僅かな間だが、位相が調整されると言っていた。ほんの僅かだが血液の消耗がある為、あまり多用すべきでは無いというのがエルフナインの言葉ではあるが、抗い難い力だと言える。ノイズが相手の場合、必ず受けに回らねばならなかった。それが、攻めに転じられるのだ。代償に比べても、充分過ぎる力だと言える。英雄の剣の外装展開能力。それに用いられるエネルギー転換を義手周辺に発生させているのだとか。使用されている部品が僅かしかない為、義手のみの加工しかできない様だが、その能力は十分以上に実感できていた。

 

『上泉隊長、敵性存在との交戦を確認するも既に敵性反応消滅。バイタル尚も安定。義手のデータも計測できています。S.O.N.G.の協力者というのは、凄まじい技術を持ち込んでくれたようです』

『ああ。態々、あの風鳴本家から指示が飛ぶぐらいだ。蔑ろにするわけにはいかんな』

『武門の確執については聞いております。ですが、一課の、国の為です。今回は従って頂くように』

『解っている』

 

 通信士の言葉に頷く。可能な限り、義手のデータを計測しろと言う指示がが一課上層部から、風鳴本家筋から通達されていた。実践の中でその有用性を示し、異端技術を既存技術にまで引きずり降ろせるように尽力しろと明確に指示されていた。異端技術のデータ採取。それ自体は拒否する理由もない。一課に存在する以上、指示に従うのは当然と言えた。幸い、戦場で状況を判断する権限は与えられている。戦い方さえ任せて貰えるのならば、その程度ならば幾らでも協力できる。風鳴本家という事で何か企みがあるのだろうと勘ぐってしまうが、現時点では警戒する情報も無かった。無駄に死なない事だけを念頭に置き、力を十全に用いる。

 

『――ッ!? 周辺に強大な反応を感知』

『――自動錬金』

 

 周囲を警戒してくださいという言葉が聞こえる前に、雷光が駆け抜けた。反射的に飛ぶ。身に着けていた通信機。放たれた遠当てに打ち砕かれるが、無事である。視線を相手に向ける。見慣れた人形が其処には立っていた。

 

「お前か」

 

 黒金の自動人形。何度となくぶつかり合い、刃を重ねた存在だった。漆黒の義手を輝かせ、自動錬金で生成した刃を以て血脈の剣を放っていた。エルフナイン曰く、黒金の自動人形は、俺が用いた剣の経験を解析、再現している。技が盗まれたという事だった。

 

「ある意味では、お前もまた弟子と言う訳か」

 

 それ自体は、別に大した問題では無かった。腕を落とされようと、技を盗まれようと、戦いとはそういう物である。むしろ、相手に其処までさせた受け継いだ技に、誇りすら感じられる。剣とは、技とは、研鑽の中で培う物である。師の技を盗むなど、自身も通ってきた道である。盗んだ技を自分の中で更に昇華させる。それが出来てこその武門だった。黒金の自動人形の剣も、ある意味武門に近いと言える。盗んだ技を自分の物としていた。奇妙な因縁である。敵であった。敵ではあるが、それ以外にも言葉にするのが難しい何かを感じている。

 

「――」

 

 黒金はただこちらを見据えている。それが、何かを言っているように感じられるのが不思議だった。

 

「お前は言葉を話せぬのだったな。ならば構わん。刃で語り合おうか」

 

 左手の太刀を低く構える。黒金は、小手から金色の粒子を迸らせる。奇妙である。だが、この人形が何処か嫌いになりきれなかった。笑う。戦うのは嫌いでは無い。刃。爪と義手が同じ色を輝かせ、風が吹き抜ける。

 

「見せて貰うぞ、お前の力を」

 

 踏み込む。黒鉄の右腕と、黒金の右腕がぶつかり合った。衝撃が駆け抜ける。赤色の煤が吹き抜けていく。

 

 

 

 

 

 

 

「確かにシンフォギアすら分解してしまう能力は厄介だけど……」

「当たらなければ!!」

 

 上泉之景が戦っているのと同じころ、S.O.N.G.仮設本部の存在する潜水艦を格納する設備の存在する基地が強襲されていた。シンフォギア改修と本部メンテナンスの為の寄港。補給と改修も兼ねた帰投を狙われたという事だった。壊されたシンフォギアの改修。それが行われている途中、基地施設の発電所が自動人形に攻撃されていた。本部には自動人形に手酷くやられた立花響の治療も行われている。シンフォギアの改修完了までの時間稼ぎの為、仲間の命を守る為、調と切歌はシンフォギアを纏って迎え撃つ。翼やクリスのギアは壊され、響と未来も軽くは無い傷を負っている。S.O.N.G.の戦闘部隊や一課の戦闘部隊の人間は、シンフォギアなど無くとも迎撃に向かっている。半人前だからといって、二人はただ戦いを眺めているだけではいられなかった。少しでも誰かが死なないで済む様に。仲間の為以外にも、誰かの為に力を振るう。

 

『お前達、何をしているか解っているのかッ!』

『勿論ですともッ!』

『今のうちに、強化型シンフォギアの改修をお願いします』

 

 予定にない二人の出撃に弦十郎が声を荒げるが、二人は意に介さない。確かに二人は半人前であり、適合係数を上昇させるリンカーが無ければ、まともに戦えるほどの実力は無い。だけど、リンカーがあるのならば話は別である。S.O.N.G.には、F.I.S.が用いていたウェル博士の作ったリンカーはなくとも、かつて天羽奏が用いたリンカーは存在していた。想いの強さが起こす、時限式の奇跡。奏様に調整されたリンカーは、二人の身体に完全に合う訳では無い。だとしても、二人は守る為にリンカーを己に打ち込んでいた。シンフォギアが起こす反動を、薬によって抑制する。二人がメディカルルームより用だした秘策は、確かに二人を装者として戦わせていた。

 

『調ちゃん、切歌ちゃんのバイタル安定。ギアからのバックファイアが低く抑えられています』

『そう言う事か……』

『まさか、奏のモデルKを……ッ?』

『ああ。あいつ等、メディカルルームから、リンカーを持ち出しやがった』

 

 二人と通信を行っていた指令室側でも、何故戦闘が継続できているかに思い当たる。二人が出撃する直前、警報が鳴っていた。自動人形襲撃のごたごたで、事態の解明が後手に回っていたが、戦いに出た二人の姿に犯人が何者であったのか容易に辿り着く。

 

『各所より電力供給率が低下』

『く、このままでは、本部の維持もままならないか。調君、切歌君。交戦の許可は出すが、無理はしてくれるな!』

 

 藤尭の報告が届き、風鳴弦十郎は苦渋の決断を下す。リンカーの未使用によるバックファイアに比べれば、痛みはマシかも知れない。だが、それは表面に影響が現れないだけなのだ。調整不足の薬物による影響がないとは言い切れない。それでも、ノイズに対して有効的な対処が採り切れない以上、二人の出撃を許可するしかなかった。少なくとも、それでノイズの犠牲となる隊員は大幅に減る事になる。

 

『了解デス』

『解っています。無理はしません』

 

 弦十郎の言葉に、二人はほんの少し頬を緩める。戦う側としても、反対されている状態で戦うより、戦えと言って貰える方が戦いやすい。

 

「私達が戦線を支えるデス」

「だから、今のうちに態勢を立て直してください」

「く、直ぐに援護を行います。それまで、持ちこたえてください」

 

 迎撃に出ているS.O.N.G.の隊員たちに二人は告げる。アルカノイズ。シンフォギアすらも分解する力を持つ敵に、それでも果敢に立ち向かう姿に隊員たちも速やかに行動を開始する。少女達だけに良い格好をさせる訳にはいかない。そんな大人の意地を胸に、速やかに部隊を立て直していく。

 

「分解能力は脅威だけど」

「距離と敵の数を見誤らなければッ!」

 

 調と切歌はアルカノイズに近付き過ぎる事を警戒しながらその刃を振るう。大鎌を展開し飛刃がノイズを斬り裂き赤き煤と変える。無数の丸鋸がその刃を唸らせ、煤を舞い上がらせる。確かに分解能力は脅威である。だけど、S.O.N.G.に所属する者達は生身でノイズに挑む人間を知っている。触れれば、即死に至る相手と切り結ぶ姿を知っていた。その脅威は、アルカノイズもただのノイズも変わりはしない。その戦い方に比べれば、シンフォギアを纏える自分たちは、戦い方を工夫すればどうとでもなる筈であった。剣だけを手に戦場を駆る後ろ姿に比べれば、恵まれているとすら言えた。二人の歌が加速する。対となるシンフォギアより奏でられる歌。それが共鳴し、より強いフォニックゲインが生成される。

 

「おーりゃあッ!」

 

 善戦を続ける二人に突如間の抜けた声が降り注ぐ。赤き自動人形であるミカ。目の前の敵に集中していた二人に、炎柱を以て打ち掛かった。反射。殺意に反応し、咄嗟に翳したイガリマで切歌は一撃を何とか受け止める。それでも地が陥没し凄まじい負荷が掛かる。

 

「くぅ……」

「切ちゃんッ!?」

「かはッ」

 

 奇襲を受けた切歌に調は慌てたように声を荒げ援護に向かうも、二の太刀で吹き飛ばされた切歌に巻き込まれもつれあう形で吹き飛ばされる。

 

「このまま見ていられるかッ」

「待て。今の私達に何ができる」

「だからって、このまま咥えてろってか!?」

 

 自動人形の出現によって劣勢に陥った二人の姿に、思わずクリスが飛び出しかけるが翼がその手を掴み止めた。

 

「私たちは弱い。ギアが無ければ、死にに行くのと同じだ」

「だけど、あの人は……ッ」

「私達と先生は違う。雪音、遠き背に手を伸ばすなとは言わない。だが、己にできる事を見誤るな」

「……クソッ」

 

 何故止めると声を荒げるクリスに、翼は努めて冷静な声音で告げる。クリスを助けに、先達は生身で自動人形と交戦した事もあった。翼やユキに守られてばかりいた自分も、今は先輩と言う立場に立っている。そんな焦りにも似た感情がクリスを突き動かすも、何もできないからこそ、動けるようになるまで絶えねばならないという翼の言葉を振り切る事が出来ない。結局、今の自分では何もできないという結論に辿り着き、どうにもならない感情を悪態と言う形で吐き出す。

 

「辛いのは、私も同じだ」

「解ったよ、先輩……」

 

 翼が一度クリスの頭を撫でる。その温かさに、幾らか冷静さを取り戻したクリスはそっぽを向き吐き捨てる。先輩にも、まだまだ及ばない。そんな事実を何とか受け止めつつ、再びモニターされている戦況を見詰める。

 

「強い……」

「だけど、まだいけるデス!」

 

 吹き飛ばされた二人は、それでも全身に力を滾らせ立ち上がる。誰かを守る為に、大切な人達を守る為に立ち上がった。自分達よりも強い者が相手であったとしても、揺らぐ道理は無い。格上との戦いなど、F.I.S.で暴走してしまった時に身を以て知っている。大鎌が刃を煌めかせ、鋸が威を誇る。女神ザババの二振りの刃がミカを襲う。炎柱を捨てる。ミカはあろう事か、素手でイガリマとシュルシャガナの攻撃を掴み取り、投げ返す。

 

「あたしは強いゾ。この程度じゃ、戦いにもならないんだゾ」

「なぁ!?」

「うぁぁ!?」

 

 吹き飛ばされた二人は呻き声を上げる。強いというのは知っていた。フロンティア事変の英雄の右腕を飛ばしたのは自動人形である。それと同じ存在だった。弱いはずが無い。知っていた。知っていたが、それでも予想の遥か上の強さであった。ミカは為す術もなく吹き飛んだ二人を一瞥すると、子供が玩具に興味を失ったように、再び炎柱を作り出し、両手で弄ぶ。相手にもならない。それが、二人の歌を聞いた自動人形の感想だった。

 

「子供だと馬鹿にして……だけど、格上なのも事実」

「はいデス。これは、形振り構っていられないデスね」

「うん。このままじゃ、また何も守れない。そうなったら、今戦っている人たちも、改修中のギアも、怪我を負った響さんもどうなるか解らない」

「そんなの嫌デス。だから」

「うん。二人なら怖くないよ」

 

 彼我の戦力差に、その溝を埋める為の一手を講じる。手にするは、追加のリンカー。薬物の過剰投与。その効力は、彼女等のリンカーを作り上げたウェル博士すらも認めている。調整されたものでは無い。だけど、居間よりも強くなる事だけは解っていた。恐怖がない訳では無い。その証拠に手が震えていた。視線が重なる。大好きな親友が、互いを不安そうに見ていた。だけど、二人ならば怖くは無い。

 

『これ以上は……』

『やらせてあげてください。これは、あの日道を見失った、臆病者たちの償いなんです』

『償い、だと?』

『はい。誰かを信じる勇気が無かったばかりに、取り返しの付かない暴走をしてしまった私達。だから、エルフナインがシンフォギアを治してくれると信じて戦うのが私たちの償いなんです』

 

 更なる投与を行う覚悟を決めた二人に、弦十郎が撤退の指示を出そうとするが、それを二人の保護者であるマリアが止める。彼女たちがフロンティア事変で行った過ち。それが、常に心の奥底で燻り続けている。止めようとしてくれた相手に刃を向け、何度もぶつかり合った。どれだけの犠牲を出してしまったのかも正確な数は解らない。その過ちを、少しでも雪ぐ為にも誰かの為に何かを為したかった。それが、彼女たちなりに出した償いの方法だった。結局、弦十郎は彼女等の意志に押され、許可を下した。自分は弱くなったと思い、直後に、子供たちが成長したのだと言い聞かせた。リンカーを投与する。適合係数が跳ね上がり、その代償として鼻から赤い筋が流れ落ちた

 

「……オーバードーズ」

「鼻血がなんぼのもんかデス! あの時見た姿に比べれば!」

 

 リンカーの過剰投与による、副作用。二人の身体から血が流れ落ちるが、それは二人が追逸れる理由たり得ない。かつてフロンティア事変で見た姿。身体を貫かれ、血の海に倒れ伏すあの姿に比べれば、自分たちはまだまだ戦える。誰かを信じる為にも、かつての罪を償う為にも、鼻血が出たぐらいでは二人が揺らぐ事は無い。

 

「行こう切ちゃん。一緒に」

「切り刻むデス」

 

 再び歌が鳴り響く。大鎌の複刃を展開し、巨大な丸鋸を稼働させる。切歌が駆けだし背の推進装置を起動させ加速、距離を詰める。直前、調が小型の丸鋸を大量に打ち込み、ミカを牽制する。同時に飛びあがり、一撃必殺の機会を見定める。踏み込み。切歌は一気にミカを間合いに入れ、大鎌を振り抜いた。

 

「おお……!?」

 

 二人の歌が共鳴する。周囲に発せられるフォニックゲインが高まりシンフォギアの出力を上昇させる。一撃。受け止めた斬撃が、ミカの生み出した炎柱に少しずつ罅を入れる。ミカの表情が歓喜に染まる。炎を撃ち砕いての一閃。至近距離で往なしたミカは、称賛の声を上げる。

 

「これで!」

 

 イガリマを往なしてからの反撃。それに移ろうとしたミカの僅かな隙を突き、シュルシャガナがその刃を撃ち放つ。丸鋸が回転する音だけを聞き、飛来する方向を確認する事もせず切歌は離脱する。二人は互いの事を知り尽くしている。どんな状況で、どのような攻撃を行うかは手に取るようにわかった。息の合った連携を以て、格上の自動人形に食らいつく。

 

『更なる適合係数の上昇で、ギアのバックファイアも抑えられています』

『だが、この輝きは時限式だ』

『それでも、二人なら降り掛かる茨を切り開いてくれます』

 

 二人の攻勢が続く。それでも、ミカには致命打を与える事が出来ない。藤尭の状況報告が続き、弦十郎は難しい表情で戦況を見ていた。マリアは戦う力の無い自分の不甲斐無さに、唇を強く噛む。それでも、自分が信じてあげないで誰があの子達を信じるのかと強く言い聞かせる。

 

「強くなりたい――」

 

 二人の歌とマリアの想いが重なる。調と切歌が同時に踏み込み、ミカを相手に刃を重ねる。炎柱が砕け散る。好機と見た二人は、歌を更に高めつつ高く飛びあがった。ミカが、炎剣を生成する。

 

「子供でも時間を掛ければそれなりのフォニックゲイン。出力の高い方だけでも充分かもゾ」

 

 少女たちは、空中で手を取り互いのギアを展開する。イガリマとシュルシャガナの刃。それを脚部から展開し、共鳴する歌と共にミカに狙いを定めた。風が吹き抜ける。炎が強く燃え上がる。

 

「どっかーん!」

「――!?」

 

 とどめの一撃。その心算で放った大技を、炎剣は真正面から燃やし尽くす。炎を纏った斬撃。それが女神ザババの刃とぶつかり合い、双刃を叩き折る。

 

「うぁ……」

 

 一撃の余りの強さに、全身に鋭い痛みが走る。それでも何とか切歌と調は立ち上がるが、膝を突いてしまう。

 

「まぁまぁだったゾ。だけど、此処までなんだゾ」

「こんなに頑張っているのに、何も変わらないデスか……ッ!?」

「このままじゃ、何も守れない。私は、響さんに謝っても居ないのに……ッ!?」

 

 満身創痍になり、立ち上がる事もままならない現実に二人の少女は涙を浮かべる。誰かを守る為に戦場に立った。その筈なのに、結局何も出来ていない。それが、悲しくて、辛くて、何よりもそんな自分たちが不甲斐無くて涙が零れ落ちてしまう。マリア、マム。そんな言葉が出そうになるのを必死でこらえる。

 

『セレナ、マム。二人を守って……』

 

 戦況を見詰めているマリアも、今は亡き家族に、今を生きる家族を守ってくれと悲痛な祈りを捧げる。

 

「この間はあの子に邪魔をされちゃったけど、今回はきっちり壊させて貰うんだゾ。じゃあ、バイバーイ!」 

「……ッ!?」

 

 ミカが一気に踏み込んでくる。先程の戦いなど遊びだったと言わんばかりの早すぎる加速。シンフォギアを纏いリンカーの過剰投与を行って尚、追いきれない速さ。間合いに斬り込まれ、一撃を以てシンフォギアのペンダントを穿たれる。衝撃。切歌の胸に痛みが走り、気が付けば吹き飛ばされていた。

 

「切ちゃん!?」

 

 調の悲鳴が上がる。だけど、切歌は立つ事が出来ず、身に纏うシンフォギアも光と化す。

 

「よそ見をしていると後ろから狙い撃ちだゾ」

「く、邪魔をするな!!」

 

 ギアを壊された切歌の救援に向かおうとするも、ミカの横やりが入り向かう事が出来ない。ミカの一撃を何とか捌くが徐々に追い詰められていく。同時にアルカノイズが呼び出され、ミカの攻撃の合間に、アルカノイズの分解器官がシンフォギアを少しずつ削ぎ落としていく。

 

「バラバラ分解ショーの始まりだゾ!」

「しらべ……逃げるデス」

「切ちゃんを置いて逃げるなんて、出来ない! 私は切ちゃんが居てくれたからこそ救われたんだ。だから、私だけが逃げるなんて事、絶対に嫌だ!」

 

 ただ一人ギアが健在な調は、何とかアルカノイズを引き付け切歌が襲われないように立ち回る。だけど、これまでの消耗に、間断の無い自動人形の攻勢に、追い込まれていく。既にシンフォギアを壊された切歌には、調のギアが壊されていく姿を見ている事しかできず、自分の事を置いて行ってくれと懇願するが、その言葉がさらに調を戦わせる。煤が舞う。風が、赤色を巻き上げる。何とかノイズを打倒していくが、それもやがて力尽きる。アルカノイズの分解器官がシンフォギアのペンダントに触れ、本体を損傷させる。

 

「誰か…あたしの友達を助けて欲しいデス。誰か……大切な調を……」

「うぁ……」

 

 傷付いたギアがついにその限界を迎える。同時に、リンカーの過剰投与による体への負担もギアが解除された事を契機に襲い掛かる。シンフォギアが完全に壊れた事により、調は生まれたままの姿で投げ出される。そして、調を分解する為に集まって来ていたノイズに取り囲まれてしまう。何とか立ち上がろうとして、だけど既に限界を超えていた事により、動く事も出来なかった。

 

「切ちゃん……」

「誰か――!?」

 

 アルカノイズの分解器官が迫る。それでも、大切な親友を守る事が出来なくて。切歌の悲痛な叫びが上がった。死の恐怖に調の目が強く閉じられる。風が吹き抜けた。

 

「誰かなんて、つれない事言ってくれるな」

 

 そして、再び開いた視界を赤色が駆け抜けていく。聞き馴れた声が聞い声、かつて何度も見た刃が目に入った。

 

「剣?」

「ああ、風の鳴る剣だ」

 

 ぎりぎり改修の間に会ったシンフォギア。新たな力を纏った風鳴翼と雪音クリスが戦場に舞い降りる。

 

「せん、ぱい……」

 

 絶望的な状況。必死に堪えていた感情が溢れ出す。恐怖。強烈過ぎる死の恐怖に晒されていた調と切歌の瞳から、とめどなく涙が零れ落ちる。

 

「良く、頑張ったな」

「後は、任せろ」

 

 青と赤は後輩に身に纏うものを投げ渡す。そのままねぎらいの言葉をかけ、離脱するように指示を出すと、ミカに向き直る。

 

「さて、どうしてくれる先輩?」

「反撃程度では生温いな。逆襲するぞ」

 

 大切な後輩たちを痛めつけてくれた事に、翼とクリスは静かに怒りを滾らせる。エルフナインが何とか作り上げた新たなシンフォギア。細かな調整も何も行っていないぶっつけ本番の戦い。だけど、目の前で後輩の奮闘を見せつけらていた。これで滾らなければ、先に行くものとして失格である。自分たちが見て来た先達の姿に、同じく先を行くものとなった二人は、こんな気持ちだったのだろうかと思いを馳せる。

 ミカがアルカノイズを追加で呼び出す。増えた敵に、丁度良いと言わんばかりにアームドギアを握り直した。

 

「丁度いい。慣らし代わりに駆け抜けるぞ」

「ああ。後輩を痛めつけられた借り、きっちりのしを付けて返してやる!」

 

 点在するアルカノイズを見据え、強化型のシンフォギアを稼働させる。風鳴翼が踏み込みノイズを斬り、雪音クリスは翼に向かおうとする後続を、近寄る間も無く打ち貫いていく。刃の落涙が降り注ぎ、銃弾の嵐が吹き荒れる。誘導弾を展開し、青の一閃が大量のノイズを煤へと変えていく。アルカノイズの分解器官。強化型シンフォギアの、再調整された防御フィールドによって分解を阻む。その様を見て、再び戦える。そんな自信が、二人の胸の奥で強く燃え上がる。

 

『これなら』

『はい。クリスちゃんと翼さんなら、きっと何とかしてくれます』

 

 展開される戦いを見たマリアの声に力が戻る。それに同意するように、仲間が戦っているのを察したのか、何とか目覚めた響が同意する。強化型シンフォギアは、アルカノイズ相手にも、充分過ぎる戦闘能力を示していた。

 

『あの子達は、こんなにも強い……』

 

 見詰めているマリアは小さく呟いた。歌を紡ぎ、誰かの為にその力を高めていく。自分の求める強さ。マリア自身も、この子達のように強くなりたいと、その姿を見て強く願ってしまう。風が吹き抜け、煤を吹き飛ばす。かつて、先達の背中を見ていた少女たちの背を、今、新たにできた仲間が見詰めている。たしかに、想いは受け継がれていた。誰かの為に戦う。そんな強さを、少女たちの後ろ姿は確かに示していた。

 

『マリアさん、これを』

『これは、アガートラーム?』

『はい。改修自体は何とか終わりました。とは言え、リンカーの使用許可がありません。出撃は出来ませんが、マリアさんに持っていて欲しいんです』

『……ありがとう、エルフナイン』

 

 何処か辛そうに見つめていたマリアに、エルフナインは改修が完了したアガートラームを手渡す。今はまだ戦う許可が下りていない。だけど、確かに修復された力に、マリアはほんの少しだけ表情を緩める。そして、先程よりは幾らか落ち着いた様子で、再び戦況を見詰める。翼とクリスが、ノイズを一掃し、ミカに向けアームドギアを構えたところだった。

 

「これでッ!」

「どうだッ!」

 

 交錯させた青の一閃が駆け抜け、展開した大型の誘導弾がとどめとばかりに衝撃を巻き起こす。必殺の一撃に、二人は気迫のこもった咆哮を上げる。砂塵が上がり、やがて風が砂煙を晴らす。

 

「ちょせぇ」

「いや、まだだ」

 

 クリスが勝利を確信するが、翼は砂塵の中で展開されている光を見つけ、警戒を促す。

 

「面目ないんだゾ」

「いや。手ずから試して良くわかった。此処はオレの出番だ」

 

 錬金術。自動人形の主人であり、黒幕の錬金術師であるキャロル・マールス・ディーンハイムが、強化型シンフォギアで放たれた一撃を凌いでいた。他の自動人形たちが張る障壁よりも遥かに強固な錬金術に、必殺の一撃を以てして尚、傷一つ付ける事はかなわないでいた。

 

「ラスボスのお出ましとはな」

「どうして、お前達には……」

 

 錬金術師の少女は、気だるげに二人の装者を見詰める。暗い瞳が少女たちを映すと、二人に聞こえないほどの小さな声で、何かを吐き捨てた。

 

「全てに於いて優先されるのは計画の遂行。お前はお前の為すべき事を為せ。此処はオレが引き受ける」

「解ったゾ!」

 

 そして、ミカは主の指示に従いテレポートジェムを用い姿を消す。その場には、キャロルと二人の装者だけが残される。

 

『撤退、だと……?』

 

 対峙するキャロルに、翼とクリスは警戒を強める。その様子を見ていた弦十郎は僅かな違和感を感じる。敵の首領が戦場に出ておきながら、尖兵が撤退を行う。殲滅するだけならば、同時に戦う方が遥かに効率が良い筈である。何か別の目的があるのか。そんな事を思考の片隅で考える。同時進行すべき何かがあるから、自動人形は撤退した。そう考えるのが自然である。だが、その何かが解る程の材料がない。

 

「一人で戦えるつもりかよ?」

「案ずるな、この身一つでお前たちの相手など事足りる」

「その風体でぬけぬけと吼える」

「成程、形を理由に本気で戦えなかったなど言い訳される訳にはいかないからな。ならば、刮目せよ」

 

 何か釈然としない違和感。シンフォギア改修の妨害が目的だったとしたら、既にシンフォギアが出て来た事でその目論見は潰えてたと言える。ならば、戦力を集中し撃破するのが自然だろう。S.O.N.G.には投入できる戦力が多くはない。今ならば各個撃破も狙える。何故それを行わない。言い知れぬ不快感に思考を巡らせているうちに、対峙する三人の中で戦いの機が高まっていく。そして、キャロルが紫色の竪琴を出現させた。

 

『アウフヴァッヘン!?』

 

 指令室で観測された波形パターンに思わず声を荒げるが、違う。聖遺物の起動に非常に良く似た波形だった。

 

『ダウルダブラのファウストローブ……』

 

 エルフナインの呟きが響く。まるでシンフォギアを纏うかのように、キャロルはダウルダブラのファウストローブを纏っていた。異端技術の行使により、キャロルの姿が成人女性ほどの姿に変わる。敵対する異端技術は、姿形すらも変えてしまう程のものだった。

 

「これくらいあれば不足は無かろう?」

 

 成長した身体を見せつける様にキャロルは笑う。装者と錬金術師の戦いが、今、幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 刃が駆け抜ける。右腕同士がぶつかり合い、太刀と刃が火花を散らす。風が吹き抜け、赤色の煤が吹き抜けていく。黒金の自動人形。何度も戦った相手と、鎬を削る。

 

「遅いぞ人形」

 

 黒鉄の右腕が赤き輝きを発し、黒金の右腕が金色の輝きを発する。錬金術で動かされている腕。異端技術同士がぶつかり合う。

 

英雄の剣(ソードギア)抜剣(アクセス)

 

 此方の踏み込みを往なした黒金は、一瞬の隙を突き英雄の剣を抜き放つ。同時に展開される飛翔剣。風を追い抜き、放たれる前に撃ち落とす。刃同士がぶつかり合い、金属の音色を奏で響かせる。笑う。強くなったな。黒金を相手に、そんな思いを抱いてしまう。

 

「抜かないのか、血刃を?」

『――自動錬金』

 

 問いを、まるで肯定するように黒金は姿を消す。不可視の斬撃。だが、存在が消えた訳では無い。身体が風を切る動きを頼りに刃を受け止める。右腕、黒金を殴り飛ばした。

 

「不思議であったよ。何故、お前が血刃を使えるのか」

 

 仕切り直した間合いに、黒金に語り掛ける。感情の無い金眼が、此方をただ見つめて居る。

 

「血刃は、己の血を用いなければならない。自分の身体から、生成されたものでなければならない。それは、この身が血刃に到達し解った事だ。錬金術で、無から生み出した血では、血刃には届かない。にも拘らず、何故、お前はその境地に辿り着いたのか」

 

 それは、自分が血刃に到達したからこその疑問であった。ネフシュタンの様に、自身の身体の機能から血液を生成したのならば使える。だが、自動人形には血液を生成する機能など無い。そもそも生き物ですらないはずだ。ならば、血刃に至れるわけはない。一つの疑問だった。

 

「お前は、本当に人形なのか?」

 

 到達した疑問が口を吐くが、答えなど帰って来る筈が無い。黒金には言葉を話す機能など無いと言っていた。

 

『――自動錬金』

 

 その代わり、答えを返すように右腕を天に翳す。金色の宝玉。強き輝きを以て何かを示す。

 

「へえ……。まさかその事実に到達するとはね。流石は英雄様と言ったところか」

 

 飛んでいた。錬成陣が浮かび上がる。氷の刃が飛来する。地を滑る様に、突如現れたガリィが強襲する。

 

「にひひ。漸く、この時が来たんだゾ。以前は不完全燃焼に終わっちゃったけど、今回は最期まで戦える」

 

 すれ違い様に刃を重ねる。伸びきった身体。それを狙い打つかのように錬成陣が浮かび上がり、ミカが飛び出してくる。既に生み出されていた炎剣を義手で殴り飛ばす。

 

「今はマスターが派手に立ち回っている。最大戦力を眼前に、それを無視できる将など存在しない」

 

 悪感が走る。躊躇なく飛んだ。着地反発、旋棍の一撃から、硬貨の射出へと動きを変えたレイアが襲い掛かる。錬成陣。其処から現れたのだろう、その役目を終えたとばかり消え去る。

 

「私としては、殺すまではしたくないのですが、仕方ないわね。マスターは傷付くでしょうけど、引導を渡させて貰おうかしら」

 

 そして、既に出現していたのだろう、不可視のまま放たれた一撃を受け止めると同時に太刀が砕け散る。剣殺し。ファラもまた、この場に姿を現したという事だった。砕けた太刀を捨てる。もう一振りを引き抜いた。周りを見る。五機の自動人形が勢ぞろいしている。

 

「お前達か」

 

 敵対者に視線を向け、呟いた。黒金との戦いで、現在地は最初に比べれば大きくそれていた。発電所がある工業地帯の一角。通路に誘い込まれたという事だった。まるで、襲撃の合図の様に示された黒金の輝き。全ての自動人形をこの場に集めていた。通信機は既に破壊されており、状況自体も大分混乱しているようである。自動人形たちの掌の上という事なのだろうか。

 

「また会ったな英雄。約束通り、殺してやるよ」

 

 ガリィが代表してこちらに踏み出し笑みを浮かべる。その表情には歓喜の笑みが浮かんでおり、この状況を心の底から待っていたと言わんばかりである。

 

「断言してやるよ。助けは来ない。アンタは此処で終わりだ」

 

 風が吹き抜けていく。四機の自動人形が強大な錬成陣を発生させる。空気が変わっていた。風が吹き抜けていく。煤が舞う。何か、強烈に嫌な感覚が纏わりつく。何かがおかしくなった。その何かが、解らない。

 

「だから見せてよ、英雄の終わり方をッ!」

 

 そして、自動人形たちは一斉に動きだす。それが、血戦の始まりだった。

 

 

 

 




切歌&調、シンフォギアを破壊される
翼&クリス 強化型シンフォギアで出撃
響、目覚める
マリア、アガートラーム改修完了
キャロル、出陣
自動人形、英雄の殲滅へ
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