煤に塗れて見たもの   作:副隊長

57 / 62
20.心の闇

「特訓用リンカーが効いている。これなら――」

 

 アガートラームを纏い、銀の剣を手にしたマリアは感触を確かめるように握り直すと呟いた。蛇腹剣。幾つかに形態変化が可能である銀の剣を大きく展開し、海辺に展開されたノイズを殲滅する為に刃を振るう。銀色の閃光が加速する。マリア、クリス、響の三人を分断するように呼び出されたノイズの一角を打ち貫き、赤色の煤へと変える。

 

「これが、新しいアガートラーム。マリアさん、凄い……」

 

 疾風の如く打ち出されたアガートラームの刃を見た響が思わず零す。銀色の閃光。その太刀筋の冴えに、感嘆が零れていた。マリアは適合率こそ低いが、F.I.S.時代から戦闘訓練を受けている為、幼い頃から防人として鍛えていた翼に次ぐ技量を持っていると言える。フロンティア事変の折、マリアと直接矛を交える事が無かった響は、リンカーを打ち込み万全の状態のマリアの戦いを見るのはこれが初めてといえた。一度、ガリィが強襲してきたことがあったのだが、その時はマリアがリンカーを用いずにガングニールを纏い戦闘を行うも、適合率の低さから短期間で戦闘不能に陥った事もあり、実力を明確に感じたのは今が初めてという事であった。

 ギアの適合率では響の方が上だが、単純な技量ではとても敵いそうにないと思えるほどの技の鋭さである。その強さに、響は頼もしさを覚えつつも右腕を握り直す。

 

「だけど、私だって負けてられないッ」

 

 推進装置を展開、急加速しアルカノイズの群れに突っ込んでいく。右腕で一撃を打ち込み、打点を基点に力を流し、その反発力を更なる速度に変え加速を続ける。攻撃を機動力に転換する。大切な人の戦い方を参考にし、フロンティア事変の時に編み出した戦い方を自分なりに調整し、より良く磨き上げ己のモノとしていた。

 響の強みは突破力であり、瞬発力である。最高速度は翼に劣るが、一瞬の爆発力ならば誰よりも強い。そんな事を大切な人に教えられていた。戦いにおいては誰よりも先に行く者であり、大切な人でもあった。教えられた自分の長所を伸ばそうするのも響にとっては自然な流れであった。

 拳を打ち込みノイズを討ちながら加速を行い、更なるノイズに目標を定め宙を舞うように機動する。拳を打ち込み力を流し、態勢を修正しながら宙を回り目標を捕捉。流した力に逆らわずに踵を打ち込み更にそれを基点に加速する。響の編み出した戦い方は、攻守を同時に行える戦い方であった。

 

「あぅぅ。目、目が回る――」

 

 難点があるとすれば、強引過ぎる機動になってしまう為、加速が行き過ぎると響の認識能力が追い付かなくなってしまう事だ。本人は至って真面目であるのだが、参考にした人物が特殊過ぎる為、自由自在に戦えるようになるまでには、まだまだ練度が足りていない。それでもこの戦い方が実戦で使えるのは、信頼する仲間がいるからに他ならない。

 

「ったくッ。このバカッ!! 調子に乗ってんじゃねーよ」

「クリスちゃんッ!!」

 

 一瞬ふら付いた響の隙を狙い飛び込んで来たアルカノイズを、これでもかと言わんばかりに放たれた誘導弾が迎え撃つ。衝撃が吹き抜けていく。赤色が辺り一面を覆う。大切な友達の一人が必ず隙を補ってくれる。そんな信頼があるからこそ、響は恐れず前に出る事が出来ていた。

 

「響が前衛。クリスが後方から援護しつつ、殲滅。そして、私がその間を繋ぐッ」

「はいッ」

「即興の連携だが、悪くないッ!!」

 

 遠近中。それぞれが得意とする間合いで互いに補い合いながらノイズを殲滅していく。響が乱し、マリアが広げ、クリスが殲滅する。

 

「ふーん。外れ装者も、少しぐらいはマシになったってわけね」

 

 アルカノイズを呼び出した青の自動人形はノイズと交戦する装者を見定めながら笑みを浮かべる。一度、響のガングニールを破壊する為に強襲した事があったのだが、マリアの介入で失敗に終わっていた。その時に、ガリィはマリアの歌を奪いとると決めていた。以前相対した時にはまともに戦う事も出来ない有様だったが、今回は前回の様に途中で戦えなくなるという事は無さそうである。

 

「ガリィッ!! これで、残るはお前だけよ。覚悟は良いかしら?」

「あらあら。ギアが新しくなったからって、随分強気な事で」

「数の上ではこっちが優勢だ。負けるかよ」

「だそうよ?」

 

 即席の連携であるが、ノイズの殲滅を行うとただ奏者たちを見詰めていたガリィにマリアが視線を向け、アガートラームを突き付ける。ガリィがけらけらと意地の悪い笑みを向けると、クリスが吐き捨てるように言った。

 

「どっかーん!」

「んな!?」

「ええッ!!」

「ちぃッ」

 

 風が動いていた。不意に装者達の上空から声が届く。赤色の自動人形。ミカ。何の前触れもなく姿を現した自動人形が、殆ど予備動作も無く巨大な炎弾を展開する。

 唐突に現れた事に加え、今の今までガリィだけだと思っていた三人は間隙を突かれていた。咄嗟に炎弾をマリアが受け止める。アガートラームを盾の様に三人の前に展開し、熱を阻む。

 

「良い反応ね。だけど、がら空きよ」

「かはっ」

 

 炎が三人の周囲を取り囲む。何とか受け止めきれた為、ほんの一瞬マリアが安堵したのをあざ笑うように青が現れる。ミカの炎と全く同レベルの水を操り、炎の中を潜り抜けて来ていた。以前邪魔をされた意趣返しと言わんばかりに、マリアに拳を叩き込む。幾らマリアと言えども、錬金術による攻撃の中を進んで来る事は想定していない。完全に隙を突かれた形で吹き飛ばされていく。

 

「マリアさんッ!?」

 

 同じく完全に想定の上を行かれた響も声を荒げる。その隙を突くように、更に赤色が強襲する。

 

「バカッ。まだ敵が――」

「前の時は不完全燃焼だったから、今回は思う存分戦いたいんだゾ」

「――くぅあッ!?」

「クリスちゃんッ!?」

 

 他人を気にしている余裕はないんじゃないかと言わんばかりに、ミカが二人に炎柱を打ち込む。咄嗟にクリスが響を突き飛ばし、空いた手で重火器を生成し受け止めるも、ミカの出力に抵抗する事が出来ずに弾き飛ばされる。渾身の一撃で、クリスはマリアと反対方向に弾き飛ばされていく。反射的に響は推進装置を機動する。吹き飛ばされたクリスに追いつき何とか受け止めるも、勢いを止めきれず二人して吹き飛ぶ。

 

「じゃあ、そっちの二人は頼むわよ」

「任されたんだゾ。ガリィと一緒に戦えるのもあと少しだし、精一杯楽しむんだゾ」

「ったく、仕方ないわね」

 

 援護に来たミカに向け、ガリィは氷剣を一振り投げ渡す。その力には、面倒そうに言う青の様子とは裏腹に、充分過ぎる意志が込められている。思う存分戦え。まるでそう言ってくれている様な青の力に、赤は満面の笑みを浮かべる。ミカは氷剣と炎剣を手に、響とクリスを見詰める。

 

「今日のあたしは本当に強いんだゾ。触れると消し飛ぶ、錬金術の境地。楽しんで欲しいだゾ」

「あれは――」

 

 何とか体勢を立て直したクリスがミカの姿をみとめる。炎と氷が反発している。その言葉と光景に、キャロルが用いた消滅の力を思い出す。絶対に触れるなと響に耳打つと、距離を取る。赤が加速する。響とクリスは何とか迎え撃つも、戦闘に特化した自動人形を相手に有効な手を打つ事が出来ない。

 

「さて、漸く一対一ね。それじゃあ外れ装者、楽しみましょうか?」

「言ってくれるわね。外れかどうか、確かめてもらおうかしら」

 

 存分に戦える事に歓喜を見せるミカに二人の装者を任せ、ガリィはマリアを見据える。奇襲により鋭い一撃が入っていたが、マリア自身は充分に戦闘可能である。ガリィとミカがやり取りをしている間に態勢を立て直し、再び剣を構え迎え撃つ姿勢を見せる。銃声と気迫のこもった声が耳に届く。自分などよりあの子達は強い。二人は大丈夫だ。己にそう言い聞かせ、青を見据える。

 

「行かせて貰うッ」

 

 踏み込み。銀剣を左手にマリアが斬り込む。青が笑みを深めながら軸を逸らす。

 

「どうぞー」

 

 返しの刃。くるりと踊る様にステップを刻みながらガリィは挑発するように追撃を往なしていく。蛇腹剣。近距離で振り抜き展開。銀剣が無数に別れ、その全てがガリィを穿つ為加速する。

 

「その余裕。崩させて貰うッ!!」

 

 直撃。点では無く面での制圧。無数の刃が青に突き立つ。追撃の為一気に踏み込んだ。

 

「そう簡単に行かないのが自動人形なのよ」

「ッ!? 分身!?」

 

 瞬間、ガリィの姿が水に溶けるように消え去る。一瞬虚を突かれたマリアの背後に青がその姿を現す。振り返ろうとしたマリアを、既に腕に纏っていた氷柱で打ち据える。

 

「うぁぁ!?」

「この程度かしら?」

 

 吹き飛んでいくマリアを見据え、ガリィは意地の悪い笑みを浮かべ挑発を続ける。その言葉に、マリアは吹き飛ばされながらも狙いを定める。

 

「くぅ! これならッ」

「苦し紛れが通用するほど、あたしたちは甘い相手では無いわよ」

 

 一振りの銀剣を投擲する。それを、ガリィは払い落すと失笑と共に返す。態勢を立て直す為の牽制。そんな詰まらない手は態々見なくとも往なす事が出来る。

 

「解っている。だからこそ」

「仕切り直しなんてさせないわよ?」

「なッ!?」

 

 当然、次のマリアが採ろうとしている手など青には見通せている。氷結。マリアの着地点を正確に凍り付かせその機動力を奪う。着地の瞬間の凍結。予想だにしていなかった感触に、完全に足を取られていた。踏み止まり、一気に距離を取る算段が変則的な攻めにより打ち砕かれる。目を見開いたマリアの眼前でガリィは笑みを深める。視線が交錯する。

 

「『英雄』は一人でも戦って見せた。だから、あんたも戦って見せてよ。救世の英雄さんッ!!」

「くぅぅ、うあああッ!!」

 

 再びガリィの腕に展開された氷で頬を打たれ、怯んだところで腹部に腕を添えられる。そのまま接触点から突き出される。凄まじい勢いで打ち出される氷柱に弾き飛ばされる形でマリアは地に落ちる。

 

「……はぁ。少しは期待してたんだけどね。やはり強化型とは言え通常形態ではこの程度か」 

 

 何とか立ち上がろうとするマリアを見据え、ガリィは失望しましたと言わんばかりに溜息を零す。マリアの纏うアガートラームが強化型のシンフォギアとは言え、その出力はイグナイトモジュールを使わなければ自動人形を相手にするには程遠い。だが、そんな測定値とは別に戦力差を覆し続けた存在をガリィは知っていた。マリアもまた、『英雄』と呼ばれた男の姿を見ていた者のひとりである。上泉之景と同等といわないまでも、それに準ずる意志を見せてくれるかもしれないとほんの少しだけ期待していた。だが、英雄の様に限界を超えるような戦い方は示してくれそうにない。それはそうだと青は自分に言い聞かせる。あのような人の中の化け物が早々存在する訳はない。そう自分に言い聞かせながらも、幾らかの失望を覚えた自分に少しだけ驚きつつ、ガリィはマリアを見据える。もし、通常のシンフォギアで自分を追いつめるような事があるのならば、四騎士の剣を抜く事も考えていたが、その必要は無さそうである。当初の想定通り、決戦兵装は抜かない方向で計画を進めていく。

 

「やはり『英雄』は孤高ね」

 

 誰にも聞こえない程の声音で青は呟く。『英雄』の友であり、その背を見ていたはずの者達ですら、その強さには及びもしない。並ぶ事も出来ていない。歩みが早過ぎる。戦場に立ち続ける姿に、そんな印象を抱く。仲間の一人であるマリアと刃を重ねると、よりその想いが強くなる。ガリィの口許に、ほんの僅かに苦笑が浮かぶ。

 

「強い。だけど、負ける訳にはいかないッ」

「へぇ……」

 

 敢えて追撃を行わなかったマリアがイグナイトモジュールに手をかける。その光景に、青は笑みを深める。

 

「この力で、強くなって見せるッ!!」

 

 そして、再び立ち上がったマリアを見据えた。

 

「イグナイトモジュール、抜剣ッ!!」

 

 そして、魔剣の力を開放する。ギアのペンダントから刃が生成され、マリアを撃ち貫いた。魔剣ダインスレイフの欠片が、マリアの中にある心の闇を増幅させる。意図的に引き起こされる暴走。それを制御下に置く事で戦闘能力を飛躍的に上昇させる機能がイグナイトであると言える。

 

「うああああああッ!! ……ッ、弱い、自分を、殺す……ッ!!」

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴの心の闇は『強さ』である。フロンティア事変の折、何も決めきれないまま世界に宣戦布告を行い、多くの犠牲を出してしまっていた。世界を守るという大義を掲げながら、最後の最後まで何も決められず、マリアは偽りの強さに縋る事しかできなかった。

 妹にただ守られた事から始まり、最後は母に守られる形で終わっていた。その結末に至るまでに様々な道があり、選択があった。その全てに目を向けられなかった自分の弱さが、偽りの強さに縋る事しかできなかったという事実が、マリアと言う少女の心の奥底に燻っていたと言える。

 フロンティ事変自体は、幸いにも月の落下を未然に防ぐという最高の結末に終わったが、その結末に行きつくまでには自分などよりも遥かに強い者達に手を差し伸べられていた。そして、母の犠牲の果てに辿り着いたのが救世の英雄と呼ばれる今であったと言える。強くなりたい。そんな願いが、マリアの心の闇だといえた。

 

「……あらら。獣と墜ちやがった」

 

 そして、抜き放った魔剣はそんなマリアの心の闇を増幅させる。仲間たちは強く、自分の傍に居た者達もまた強かった。自分だけが弱い。そんな魔剣に増幅された想いに打ち克つだけの答えが見つけられていないマリアは、魔剣の力に抗うも、意識が押し流されてしまう。

 そんな対峙する相手の様子を見定めると、青は小さく吐き捨てた。『英雄』の傍でその姿を見続けていた者が、魔剣程度の力に打ち克てなかった。その事実が、ガリィを少しだけ苛立たせる。ガリィにはマリアの心の闇が何なのかは解らない。だが、魔剣を抜き放った直後に零された言葉からある程度の事は予想がつく。

 

「あああああああッ!!」

「弱い自分を殺す、か。誰よりも強い者がすぐ傍に居たのに、そんな言葉を吐くとわね……」

 

 黒い力に飲み込まれたマリアの突進を往なしながらガリィは吐き捨てる。気に入らなかった。『英雄』の傍でその姿を見ながら、それでも魔剣に抗えない弱さが気に入らなかった。

 

「『英雄』の守りたかったものがそんな為体じゃ、報われないわよ」

 

 獣の踏み込みのまま突き進んできたマリアの首元を掴むと、地に叩きつけるように制圧する。それでも暴走したまま何とか立ち上がろうとするマリアを蹴り飛ばし、胸元に掛けられたペンダントに触れる。シンフォギアのペンダントの様に取り付けられた決戦兵装。英雄の剣。青の自動人形用に加工されたそれに触れる。

 

「仕方がないから見本を見せてあげる。覚えておきなさい。これが、力の使い方よ。四騎士の剣(ソードモジュール)抜剣(アクセス)ッ」

 

 ――血脈に宿る刃(ブラッドスレイヴ)

 

 純白の外装が展開される。ガリィを象徴するように青の装飾が入った外装を身に纏いながら、黒に飲まれた装者を見据える。氷剣を抜き放ち、獣に視線を定める。そして

 

「外れ装者にはがっかりだ。新たな武器を手にしただけで強くなれるなどと思い上がるな」

 

 一撃のもとにマリアを討ち果たしていた。まともに氷剣で切り伏せられたマリアは、何とかシンフォギアの持つ性能が衝撃を逃すも、ギアの解除に追い込まれる。打ち伏せられ、気を失ってしまったマリアをガリィはただ見つめ吐き捨てる。

 

「さてどうしたものかしら……って、この反応クロちゃん……?」

 

 マリア・カデンツァヴナ・イヴがイグナイトモジュールの起動に失敗するなど想定していなかった為、どう軌道修正を行おうかと思考をずらそうとしたところで、不意に気付いた。本来居る筈の無い反応が存在している。それも、『英雄』のすぐ傍で。

 

「まぁ、良いわ。クロちゃんはクロちゃんでやりたい事があるわけだし」

 

 黒金の自動人形には何の指示も下していない。故に、自分の為したい事を為しているという事なのだろう。ガリィであってもその思考は読み切れないが、既に黒金を仲間と認めていた。主の邪魔をしないというのであれば、好きにさせようというのがガリィの本心だった。

 

「英雄の軌跡を受け継いだものはどんな行動をとるのかしら?」

 

 黒金の自動人形の反応は、剣聖を止める為に展開したアルカノイズの方面に向かっていた。ガリィにも読み切れないところはあるのだが、元より主の命令である計画の遂行を邪魔する行動はとれはしない。信じると決めた存在が何を成そうとしているのか、それを見極めながら予定を修正する事に決め、ガリィはその場から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……一体どうなってるの?」

 

 小日向未来は困惑していた。眼前の光景が信じられず、ただ前を行く背中を追っていくのが精一杯である。突然姿を現した黒金の自動人形。当然のように戦闘が開始されるのだと思っていた未来は、今目の前で起こっている状況が呑み込めない。

 

「先生、大丈夫なんでしょうか?」

「解らんな。ただ、アレはこちらに刃を向ける気が無い様に思える」

 

 だから、当事者に尋ねて見るも自分と同じ結論に至った事だけが返される。

 黒金の自動人形は英雄の剣を展開すると、まるで子供が親に見て貰いたがっているかのように屈託のない笑みを浮かべた。以前イグナイトモジュールを纏った三人の装者と交戦した折にも、風鳴弦十郎を相手に笑みを浮かべた事があったようだが、その笑顔とは随分と趣が異なる様に思える。後者が武門の笑いならば、前者は子供が親に向ける類の笑みである様に思える。無垢な信頼。大凡これまでの黒金とのぶつかり合いからは想像できない類の感情が読み取れてしまう。未来は元より、流石のユキもこれには判断がつきかねていた。そして、黒金の自動人形がユキの手を取った。そのまま、親を何処かに連れて行こうとする子供の様に歩き出す。歩みは早くない。だが、何かをしようとしているのは解った。今ならば、黒金の隙を突けるかもしれない。

 

「やめておけ」

 

 そんな事を考えたのを見透かされたようにユキが未来に呟く。その言葉に思わず両肩がびくりと震えるが、素直に頷く。ユキが仕掛けないのに未来が仕掛けたところで上手くいくとも思えない。ただ、手を引かれるままについていく上泉之景に未来もまた付き添うように歩を進める。余りにも異様な光景だった。自分たちは眼前に居る黒金の自動人形と戦う為に準備をしてきていた。それが、いざ相対すると手を引かれ先導されている。未来でなくとも不思議に思う状況である。

 

「ノイズ、か」

「先生ッ」

 

 そして、幾らか進んだ先にアルカノイズが姿を現す。十どころか、百に達するほどの数である。無害を装い、罠に嵌めようとしたのか。そんな考えに至り声を出した時、更に想定のしていない出来事が起こる。

 

『――自動錬金(オートアルケミー)

 

 自動音声が響き渡る。風がノイズの合間を吹き抜けていく。未来が反応するより早く生成された飛翔剣が、ノイズの群れに打ち込まれていく。生成された六本の飛翔剣が、次々とノイズを撃ち抜いていく。黒金の自動人形の右腕に付けられた、黒金の小手の宝玉から輝きが零れる。

 そして、ユキの手を放すと己の右腕に刃を生成する。飛翔剣が舞っている。ノイズを刃が赤色の煤に変えていく。まるで見ていてと言うかのように、黒金が一度ユキに視線を向ける。

 

「……やってみろ」

 

 そして、ユキの言葉と同時に黒金が動いた。凄まじい速度でノイズの群れに斬り込んで行く。風が吹き抜ける。未来の髪の毛がふわりと揺れた。血刃。まるで、ユキの使う血脈の技の様な冴えで次々とノイズを切り伏せていく。

 

「凄い……」

「小日向。見ておくと良い。どう言う心算かは読み切れないが、黒金は今の全力を見せてくれている」

 

 飛翔剣が舞い踊り、血風が駆け抜けていく。瞬く間に、ノイズの群れが駆逐されていく。やがて黒金が飛翔剣を消滅させ、最後の一体を切り伏せたところで再びユキの手を取りに戻って来る。

 

「……狙いが読めない」

「はい」

 

 ぽつりと零されたユキの言葉に未来もただ同意するしかできない。未来に解る事は、今、黒金の自動人形は戦う気が無いという事だけである。

 

「が、剣に関してはまだ未熟だな。斬り方が素直過ぎる」

「って、今ので未熟なんですか?」

 

 そして、何とも無しに呟かれたユキの言葉に思わず未来は反応する。踏み込みから刃が振るわれるまで、殆ど未来には視認が出来なかった。それ程の剣ですらまだ未熟だと言われる。未来からすれば、ちょっと意味が解らない。あまりに理解が出来ない状態が続き、未来もかえって肝が据わって来ていた。

 

「ああ。速度は申し分ないのだが、捻りが無い。先ほども言ったが、素直過ぎる」

 

 そして、未来の相槌にユキもまた短く答える。そんな言葉を聞き、反応を示したものが居た。黒金の自動人形である。一度ユキの方を見ると、何かしゅんっとした感じで頭を垂れている。その光景に思わず、ショックを受けたのかなって未来は思ってしまう。そんなはずがないとは思うのだが、そうとしか思えない反応だった。何と言うか、子供が親にダメ出しをされているような光景に見えてしまう。

 

「……まさか、な」

 

 そして、何度かのノイズとの交戦が行われていた。その度に黒金の自動人形が前に出て、全てを切り伏せていく。数度それを繰り返し、目的の三人が居る場所に近付いた時、不意に黒金がユキの手を放した。そして、暫く名残惜しそうに見つめると、英雄の剣を解除し姿を消す。そんな光景に、しばらく無言でいたユキがぽつりと零した。

 

「一体何だったんでしょうか?」

 

 未来には黒金の自動人形が何をしに来たのかとてもじゃないが解らない。ユキの、何か思い当たったような言葉に相槌を打つ。

 

「自分の剣を俺に見せるように戦っていたよ。その剣は、未熟ではあったが確かに上泉の剣であったよ。まるで、長時間戦えない俺の代わりに戦いに来たと言わんばかりの剣だった」

「え……?」

 

 そしてユキの抱いた感想は、そんな突拍子もないものであった。

 

 

 

 

 

 




マリア、抜剣できず
ガリィ、予定にない抜剣
未来、斜め上の状況についていけない
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。