魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第22話  企みは 暗がりを好む

寝静まった夜の闇は深い。

文明の手が届いていないこの一帯は、黒で塗りつぶしたように暗い。

先程まで鳴いていた虫達も、今ではすっかり声を潜めている。

まるで、自分達の身を案じるかのようだ。

 

 

ロウソクが二つ立っている。

それがこの空間の唯一の灯りと言ってよい。

月は陰り星は隠れ、地表に天からの光は届いていない。

 

 

そこには三人の人物が居並んでいる。

皆一様に深くフードを被り、表情が窺えない。

その中の一人が芝居掛かったような仕草で口火を切った。

動きに対して、その声に抑揚は感じられない。

 

 

「これより、審判を始める。罪の裁可を、罰の軽重を、示し賜え。我らに加護を、いにしえの祝福ともに。」

「祝福とともに。」

「祝福とともに。」

「では罪人、一歩進め。」

 

 

真ん中の人物が促した。

指示されたのは若い女だ。

女は僅かに歩みでて、場にそぐわない声で言った。

 

 

「んーー、これから洗い物をしたいんだけど、もういいかしら?」

「勝手に口を開くな。」

 

 

方や感情を圧し殺した声、方やのんびりとした声。

二人の会話は内容以外の部分でも噛み合わない。

 

 

「では、お前の犯した罪を告白しろ。」

「罪って、あの膝枕のこと?そうね、流れでアルフに申し出たのだけど、気に入ってくれたのか幸せそうに寝てくれたわ。寝顔もかわいかったし、それに」

「余計なことは喋るんじゃない!」

 

 

真ん中の人物は地団駄を踏んでいる。

先程までの厳かな空気は瞬く間に霧散した。

いつの間にやら周りの虫達も鳴き出している。

 

 

「それにね、ちょっと寝言も言ってたのよ。口もちょっと空いててヨダレが垂れそうで。そんなところもかわいいわよね。ンフーー。」

「ーーー!ーーーー!!!」

 

 

真ん中の人物が歯軋りをしている。

できるなら目線で呪い殺してやりたい、ここからは確認できないが、そんな表情でいるのだろう。

 

 

「頬をね、少しさすってみたの。そうしたら手のある方にゴロンって寝返りうって、顔を手の方に寄せてきたのよ。ンフフーーー。」

「やめろぉ!やめてくれーー!」

 

 

真ん中の人物が胸を押さえて蹲る。

よっぽどダメージが大きかったのか痙攣している。

この辺でいっか、とリタはため息と共に気持ちを切り替えた。

 

 

「でも悪いことしたなんて思ってないわ。早い者勝ちっていうことで話は決まってたじゃない。そんな風に文句を言うのはただの嫉妬でしょう。」

「ええそうですよ!そうですとも!」

 

 

ガバッと真ん中の人物が、アシュリーが煩わしいとばかりにフードを脱いだ。

ぐやじぃ、ねだまじぃぃと、華奢な身体からは想像ができないくらい耳障りな声で恨み言を喚いている。

 

 

「待ってくれリタ殿。私は嫉妬をしているのではない、どうやって成功させたか知りたいだけなんだ!」

「んーー、どうやってって言われてもねぇ・・・。」

「頼む、リタ殿の邪魔をしたい訳じゃない。私は自分が・・・一体何を!どうすればいいのか!それがわからない!」

「リタ姉様教えてください!今ならこの妙に尖った石をあげますから!」

「まぁ教えるくらいいいけどね。あと危ないからその石はポイしちゃいましょう。」

 

 

いつのまにか正座になっている三人。

もちろん並ぶのはエレナ、アシュリー、ミレイアだ。

主人のA級警戒人物である三巨頭が今ここで学ぼうとしている。

この問題児達がはたしてどこまで進歩できるか・・・。

 

 

「良弓は馬が目を欲すって知ってる?」

「もっちろん知ってますよそれくらい。大きな事を成すにはまず小事から成し遂げるべきっていう古事成語ですよ。この森の賢人たる私に知識勝負なんて随分とまぁ」

「アシュリー殿、少し静かに。」

「言葉を知ってるのに実践できないあたりがアシュリーよね。」

 

 

唸るほどの知識があるくせに全く活かせない、活かす事を知らない。

通り名が勝ちすぎている、アシュリーとはそういう女だ。

 

 

「城攻めでもいきなり居城を落とせないでしょう?まず手前の砦を落として、門を抜いて、ようやく城に着くわけでしょ?」

「そうだ、その通りだ。」

「恋愛でもきっと同じなんじゃないかしら?いきなり関係を迫っては驚いてしまうものね。私もそこは反省したわ。」

「まずは砦を落とすつもりで小事から・・・。もっと日常の何かから始めればいいんだな?」

「そうね、日頃から一歩ずつ仲を深めていけばいいんじゃない?例えば・・・美味しい紅茶を入れてあげるとか。」

「わかりました、紅茶ですね!」

 

バサァ!

 

「あ、アシュリー殿待て!」

 

ダダダッ!

 

「姉様方、待ってくださーい!」

 

パタパタパタ。

 

 

ようやく悪ふざけから解放されて、いくらかの徒労感が感じられる。

「さて、洗い物しましょ・・・。」

 

 

_____________________________________

 

あーーー疲れた。

どんだけハンコ押しても、どんだけOKだしても次々新しい仕事が飛んでくる。

仕事を1個仕上げたと思ったら2個に増えてるんだよ、不思議だね。

はぁ、気分転換でもするか。

 

 

「お、なにやってんだトリ娘。」

「トリ・・・。いえいえ、ちょっとお茶を淹れたのでアルフにも飲んでもらおうかと思いまして。」

「え、お前が?どういう風の吹きまわしだよ。」

「たまには私が用意してもいいじゃないですか、・・・飲んでくださいよぅ。」

 

 

おっと、あからさまに嫌な顔を出してしまったらしい。

いや、だって急に紅茶なんて、怪しさ満点じゃないか。

まぁ、毒なんかは入ってないだろうけどさ。

 

 

「・・・どうですか?」

「うん、まぁ・・・美味いよ。普通に。」

「!! 本当ですか?!」

 

 

パァッと花が咲いたような笑顔で喜んだ。

何がそんなに嬉しいんだか、ようわからん。

いや、それよりも気になる事があるな。

 

 

「んでそこの二人、なんで紅茶持って控えてんだ?」

「主には次は私の紅茶を飲んでもらいたいんだ。」

「魔王様、私の紅茶も飲んでください。」

「いやお腹タプタプになるじゃん、今日は何があったの?!」

 

 

ブツクサ言いながらちゃんと全員の紅茶を飲んだよ、魔王様はさ。

三人はみな飛び跳ねながら喜び、心から嬉しそうにしていた。

何がそんなに嬉しいんだかわからんが、まぁいいか。

さっきから変なゲップが止まらないけど。

 

 

しばらく尿意に悩まされたが、不思議と悪い気はしなかった。

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