僕は今、妹が囚われている建物の前にいる。
希望が生まれたからか、心は今までにないくらいに高揚していた。
もしかすると、人知を超える存在による恐怖のせいかもしれない。
僕は道案内を買ってでて、魔王様と側近のエレナさんを連れてきている。
ここは街の一角にある、レンガ造りの大きめの商店だ。
表向きは奴隷商の看板を掛けているけど、裏の顔があることは公然の秘密。
昨日何人殺したとか、店の連中が話しているのを何度も聞いた事がある。
犯罪の証拠はたくさんあるのに、お咎めが一度もないらしい。
そんな事が許されるのも、領主と裏で繋がってるからだとか。
お店はもうとっくに閉まっているはずなのに、入り口には門番が二人もいる。
普段ならこの時間だと店の奥に灯りが点くくらいで、見張りがいることなんて無いのに。
やっぱりここには何かがある。
ミレイアはきっとここに居るはずだ。
「己の利益の為に人さらいか。それも6歳の子供に手をだすなど、許さる事では無い。」
「あーーほんっっとめんどくせえ、とっとと皆殺しにして帰るぞ。」
心を読むなんてできない僕にも、この二人の気持ちは良く理解できた。
エレナさんは怒り心頭、魔王様はやる気ゼロといったところだ。
口から「やる気ねえぇぇエエエ」と漏れ聞こえそうな表情だけど、あのシルヴィアという女の子の約束のために、ここまで来てくれた。
どうやら「妹ちゃんがここに来てくれるまで寝ない!」なんて言ってたようで、その結果、時間制限までついてしまったらしい。
だからと言ってさぁ、急いでるからってさぁ。
下調べも何もしないうちに乗り込むのはどうなの?
あーもう、スタスタと入り口に行っちゃったよ?
「なんだテメェは!それ以上こっちに」
「うっさい黙れボケ。」
魔王様が両手をおもむろに広げたかと思うと、門番の男2人はドサリと地面に崩れ落ちた。
不思議に思って門番の顔を覗いてみると、眉間に小さな穴が空いて血が流れていた。
「え?え?」
「ホラホラぼさっとすんな行くぞ。」
何事もなかったように入り口を潜る魔王様とエレナさん。
あまりの雰囲気のそぐわなさに、僕はもう何度目かの混乱をしてしまう。
「あ、あの殺したんですか?」
「ん?なんだ、殺しちゃまずかったのか?」
ここの連中は人さらいはもちろん、強盗や窃盗、殺しまで何でもやるヤツらだ。
そんなヤツらなら殺してもいい・・・のかな?うん、どうなのかな?
というかそもそも、どうやってあの一瞬で屈強な男達を瞬殺したんだろう?
そう考えを巡らせているそばから、荒くれ者達が飛び出してきた。
そして皆すぐに屍体へと変わっていく。
魔王様は相変わらず両手を真上に上げるだけ。
そうすると立ちはだかる男達は眉間に穴が空き、確実な死を与えられた。
「この建物は2階までだな。アルフよ、救出対象はやはり地下にでもいるのだろう。」
「ま、ありがちだよなーこんな組織なら。さぁて地下への階段はどこにあるんだろなっと。」
まるで引越しでも頼まれたような気軽さで、犯罪集団のアジトの地下室を探すお二方。
もちろん潜入要素なんて全くなくて、エレナさんは物音を気にもせず家具を引っ張り回している。
魔王様なんて床や壁を八つ当たり気味に蹴り砕いている。
あれーおかしいな。組織壊滅じゃなくて救出目的だったはずじゃぁ・・・・。
そうしている間にも警備の男達が2人3人とやってくる。
今度はエレナさんが手を前に伸ばし、やっぱり男達は動かなくなる。
もっとこう、古代の魔法とか、呪いの剣とか必殺技とか!
そういうのが出てくると想像してた自分が遠くに感じるなぁ・・・。
「お、あったぞ。ここだろ、地下入り口。」
巧妙に隠された地下入り口を発見して、僕たちは降りていった。
足音を殺したりなんか全くせずに、それはもう淡々と。
地下は思ったよりも広く、詰所のような部屋があった。
そこには酒や料理の乗ったテーブルといくつかの椅子、そして部屋の向かい側には扉があった。
見るからに重く硬そうで、何かから守ろうとするような意思を感じる。
大切なものを隠してます、とか書いてありそうな程だった。
この奥にミレイアが? 扉の鍵がこの部屋にあったら楽だけど・・・。
なんて考えていると、「とーん」とこれまたやる気のない声で、魔王様が扉を縦に切った。
一体何をしたらそうなるのか、本当に「切った」としか言いようがない。
鉄の扉は無残にもキレイに二つに割れて、ゆっくりと崩れ落ちた。
もうあれこれ考えるのはよそう、ミレイアの事だけ考えていよう。
常識を覆しまくる現状に、もう脳が限界を迎えようとしていた。
「・・・! お兄ちゃん!」
「ミレイア!!」
扉の向こうはやっぱり牢屋になっていて、何人もの子供が捕まっていた。
牢屋の鍵を探し出す・・・必要はなくて、ここも魔王様が「とーん」と開けてしまった。
「よかった、ミレイア。怪我はない?」
「うん、大丈夫。みんなと一緒に閉じ込められただけなの。お兄ちゃんこそ怪我はない?!」
僕はミレイアの無事を、ミレイアは無茶をした僕を。
互いに気遣い合いながら再会を果たした。