オレはこの何もかもが揃った空間で、次なる一手を考えていた。
そうしていると、背中にツンツンという感覚が走る。
そちらを見るとシルヴィアが、手に持った虫を見せてくれた。
お、昆虫さんだねぇ。
そう言うとニコォっと笑う。
オレはこの何もかも揃った空間で次なる・・・。
ツンツン。
お、綺麗な花だね、ありがとう。
ニコォっ。
オレはこの何もかもが揃った空。
ツンツン。
パタパタパタ。
ん、追いかけっこかな?よぉーし!
ダダダダダ!
パシッ!
逃げる背中を捕まえて抱き上げる。
そのまま地面に転がって、二人してケラケラ笑った。
この子ねー、ほんと可愛い!
オレがちょっと反応するだけで満面の笑顔を返してくれるんだよ。
この花きれいだね。
ニコォ。
天井のキラキラきれいだね。
ニコォ。
ご飯美味しいね。
ニコォ。
もう可愛くって可愛くって・・・オレの中で父性がメキメキ育っていく。
おかしいな、嫁さんなんか居ないのに子供ができた気分だ。
ん、次の一手?
あー、まぁそのうちな。
こうしている今も、座ってるオレの膝に飛び付いてきて、またニッコニッコ笑うんだよ。
もうやられたね、完全にさ。
オレの心が、斜め45度の鋭角でバッサリ斬られたよね。
だからオレは、この何もかもが揃った空間で、シルヴィアと楽しく過ごすことにした。
そんなに広くない事もあって、ずっと一緒にいた。
もうベッタリと言っても良いかもしれない。
起きてるときも。
ご飯の時も。
遊ぶときも。
寝るときも。
いつだって一緒だ。
もしかするとシルヴィアは、いままで独りだったのかもしれない。
オレが居られる間は、側にいてあげよう。
モコはというと大抵寝ている。
完全に寝ている時間は短いようで、大半は微睡んでいるだけのようだが。
シルヴィアとの生活の中で、気が向いたときはたまーに間に入ってきたりする。
君たちさぁ、もう少し遠慮したら?一応ここは僕の領域なんだよ?
目の前で顔を洗いながら、呆れた声を出しているモコ。
声さえ聞こえなきゃただの猫なんだがな。
シルヴィアが指先でモコの顔を撫でてあげた。
ンンーーって言いそうな顔しちゃって、ほんと普通の猫だな。
そんな日々が何日か続いた。
オレとシルヴィアがいちゃついて、たまにモコが混ざる。
あのときと比べて随分と平和だな。
いっそこのまま暮らしちまうか?
なんて願いは叶わず、やっぱり世の中ってのは甘くできていない。
ある朝、モコが普段からは考えられない厳しい声でこう言った。
これはちょっと不味いね、君たち見つかっちゃうかも。
「見つかるってどういうことだよ?!」
魔道兵っていうんだっけ?アレが動き出したみたいだ。遠くでそんな気配がするよ。
「ここも安全じゃないってことか?」
洞窟をしらみ潰しに探すんだろうね。あいつらが来たら、入り口の擬態は見破られるかもしれないよ。
「擬態?」
君初めてここに入ったときに驚いてたじゃない。
「あぁ、そういや壁にしか見えてなかったな。」
すっかり忘れてた、とまでは言わなかった。
シルヴィアが不安そうな顔で見上げてきた。
オレは笑って、頭を撫でてあげた。
少し安心したみたいだ。
いくつかの果実や、灯り用に光る鉱石をもらい、手早く荷物をまとめた。
モコも「君たちが心配だからね、僕もついていくよー。」とか言ってる。
頼りになるのかはわからんが、賑やかになるのは良いことだろう。
こうしてオレ達の休息は、慌ただしく終わりを告げた。