狐に案内されたのは山中の猟師小屋のような家だった。
周囲に建物などなく、街からも離れている。
この中にシルヴィアはいるんだろうか?
確かに中からはあのバカみてえな大声がきこえる。
こんなところでも酒盛りか、頭大丈夫か?
「よし、道案内ご苦労。もういっていいぞ。」
「そんな淋しいこと・・・。私も連れていってくださいよ。」
「っけんな、すぐ消えろぶっ飛ばすぞ。」
オレは片手に力を込めて睨み付けた。
体がぼんやりと光ってるのがわかる。
何かする度に魔力が使われてて、本当に体が入れ替わったようだぞ。
「あぁ、その色・・・やっぱりその色・・・ステキ。」
あのねオレ怒ってんの。
フキゲン相手にウットリすんな。
女の姿してるから殴りづらいけど、元は狐だって知ってるからな?
その時ガチャリと小屋のドアが開いた。
小便にでも出たのだろう。
これ幸いとばかりに目の前に立ってやった。
ビビって漏らせば最高だな。
まぁそこまでの事にはならずに、もう一人を小屋から呼び寄せただけだ。
二人揃って幽霊でも見た顔をしている、失礼な。
「き、貴様!なぜ生きている?!」
「知るかよ、太刀筋が甘かったんじゃね?」
「クソッ、もしや隣にいるあの女のせいか?」
「あの女も魔法を使うようですけど、今の状態じゃ・・・ちょっと全容が見えないですね。」
「フン、まぁいい。運が良かっただけである。今度は拷問にかけながら殺してやる。」
いきなり抜き打ちを放ってきた。
随分とスローに見えるな、しかも避けるまでもない力量だ。
ガキン!
オレに切っ先は届くことなく、手前で何かに阻まれた。
魔力も技術もない、ただ弱者をいたぶるだけの剣。
そう感じた。
ヤツは目を見開いた後、信じられないとばかりに全体重を乗せて切ろうとしている。
そんなことしても無駄だけどな。
向けられている剣を軽く手で払ってやると、騎士の野郎は駒のようにくるくる回って地に伏した。
それは新しい剣舞か?流行らないぞ。
「く、食らえ。エアブレード!!」
今度は魔法が飛んできた。
あー、さっきはこれ食らったのか。
あの時はやられたが、今は挨拶代わりにもならんな。
カキン!なんて甲高い音が響くだけでオレには届かない。
「なっ!」
「貴様!一体何があったというのだ!」
「それをわざわざ教えてやると思うか?何も知らないまま死んでいけ。」
オレも説明できないんだがな、あの状況は。
この返しで誤魔化せたっぽくてひと安心。
オレはツカツカと歩みより、足元の小石を拾った。
それだけのことに大の男二人がビクッとなる。
こいつらにそんな態度を取られると・・・こう、気分が凄く良いな!!
「おい、前に言ってたよな?オレが強けりゃ小石でも武器になるって。棒切れも聖剣やらの力を持つって。試してみようぜ。」
オレは魔術師に狙いをつけて言い放った。
事態を把握した魔術師は蒼白になって言い募る。
「待ってください!傷を、傷を治してあげたじゃないですか!その恩人を手にかけるんですか!」
「そうだな、給金のほとんどを着服して、さらに治療で金を搾り取り、餓死させられかけたよなぁ?」
「!・・・それは・・・それは!」
「わーったよ、一発だ。一発耐えられたらお前は勘弁してやる。」
まぁ生かすつもりはないがな。
一撃で殺す。
オレはかなり強めに魔力を籠めて、全身のバネをフル活用して石を投げつけた。
石が魔術師をたやすく貫いて、胸に大きな穴をポッカリ開けた。
さらに膨大な魔力が作用したのかなんなのか、魔術師は巻き起こった炎の竜巻に呑まれてしまい、最後には灰も残らなかった。
これにはオレもドン引きだ。
ここまでやるつもりは無かったんだが。
騎士の方がヒィッと小さな悲鳴をあげた。
おい戦闘のプロ。
腰を抜かすだなんて腑抜けかよ。
軍曹にでも鍛え直してもらえ。
「化け物め!お前は何者なんだ!」
「何回も言ってるだろ?コーエン村のアルフレッド。勇者でも何でもない、ただの村人だよ。」
「こんな村人が居て堪るか!間違いだ、何かの間違いだ。」
「そうだな。あらゆる意味で間違えてるよ、お前らはな。」
そう言って棒切れにしっかり魔力を籠めてから、騎士に叩きつけた。
お前らがここまで追い詰めなきゃ、オレらに近づかなきゃ長生きできたのにな。
なんの手応えも感じないまま、オレは棒を振り切った。
不発かとも思ったが、騎士の肩口から腰まで一直線に筋ができ、失敗じゃなかったと確信する。
勿論それだけでは終わらなかった。
騎士の方は重力魔法でもかかったように、どんどん押し潰されていく。
「グゲャァァア!」
なんか形容しがたい声を発しながら、徐々に圧縮されていく騎士。
即死じゃないから、断末魔が長いこと長いこと。
この魔法って結構グロいな、少なくとも子供の前じゃ控えよう。
グシャッ
ドチャッ
うわぁ・・・、なんかうわぁ・・・。
やっといてなんだけど、結果にドン引いてしまった。
しばらく肉料理は食う気は起きないだろうな。
「素晴らしい・・・!龍属なんぞよりも気高く、大狐よりも整然とした完璧な魔の衣!あぁ、こんな方が居ただなんて。」
感激でもしたかのように、両腕で自分を抱き締めるようにして声を漏らす狐。
いつになったら居なくなるのやら、ずっと着いてくる。
戦場とは思えない暢気さを感じつつ、小屋の中に入っていった。
中には小さめの檻があり、そして倒れているシルヴィアが視界に飛び込んできた。
すぐさま駆け付けて鍵を破壊し、中から助け出した。
・・・眠らされてるだけらしい。
それを確認して胸を撫で下ろす。
抱き起こすと、シルヴィアはゆっくり目を開いてから、カッと目を見開いた。
オレの首にしがみつくその力は幼く、だけどしっかりとしたものだった。
「おとさん!おとさん!」
「あぁ、シルヴィア。無事で良かった。」
「痛くない?血でてない?ごめんなさい、シルビヤ助けにいけなかったの!」
「大丈夫、怪我もしてないから全然いたくないよー?」
会話ができてる?
まぁいっか、これも一連の話の副産物だろ。
つうかシルヴィアって言えないのか?
舌ったらずにシルビヤって言ってる、かわええ!
ついでだからオレの名前を教えとこう。
「そうだ、オレの名前はアルフレッドって言うんだよ。」
「? おとさんは、おとさんでしょ?」
「あ、うーん。えっとだね。」
「! おとさんは、おとさんやめちゃうの?シルビヤのこと、きらいになっちゃったの?」
「何いってんの、そんなわけないじゃないかー。」
高い高いしながらその場でクルクル回転するオレ。
エグッエグッと泣き出すシルヴィアも本当に可愛いが、今はそれどころじゃない!
「シルビヤ、一人にしない?シルビヤの、おとさんでいてくれるの?」
「あぁ、勿論だとも!これからもお父さんだよ!」
「ずっといっしょ?これからも、いっしょ?」
「一緒だよ、この先もずっと側にいるよ。」
そしてこの一連の話のなかで、オレが一番忘れられない言葉がこれだ。
「ありがとう、おとさん。だーいすき!」
ドゥッという衝撃の後に世界が消し飛んだ。
眩く光るシルヴィアの笑顔以外に、世界には何もなかった。
そう、何もかもが。
「オレもシルヴィアが、だ・・・大好きだぞー!」
「えへ、えへへー。だぁいすき!」
「あっはっは、大好きー!」
頬を擦り合わせながら気持ちを通わせる二人。
なんて愛おしい、なんていじらしいのか。
出会ってほんの数日だけど、父性がしっかりと根付いている事を実感した。
そしてオレの予感は的中した。
初日から薄々と気づいていたが、この子には身寄りがいない。
本来なら親元なり故郷なり戻ろうとするだろうに、この子は迷いなく洞窟に向かったからだ。
一時避難というようでもなかったし、そもそも一人分の寝床だけがあったからな。
「仲睦まじいのはいいですけど、目の前で見せつけられると妬いちゃいますねぇ。」
「おねえちゃん、だあれ?」
まだ居たのかお前。
ほんといつになったら居なくなるんだ?
結局この後もコイツはオレらに付いてくることになる。
さらに、オレの魔力で具現化するようになった、モコも加えた4人での生活が始まるのだった。