ここ最近は人に会う仕事ばかりだ。
今は全自動面談機を自称しても過言ではない。
普段であれば朝から夕方まで顔合わせを済ませ、雑談もそこそこに帰る。
今日は話があるとかで、クライスの執務室まで足を運ぶことになった。
「お茶をどうぞ。あとこちら、お口に合うといいんですが・・・。」
そう言って出してきたのは、巨大な皿に乗った生クリームだ。
生クリームまんまをお茶請けにするヤツ初めて見たぞ。
どうぞったってこれどうやって処理すん、オタマで食うのかよ!
クライス、お前はもう・・・そこまで・・・。
オレはお菓子狂人から顔を背けて話をした。
「んで、用があるってのは復興がらみか?」
「ズゾゾッ それもありますがズズズッ もっと包括的なお話ができればとズゾゾゾゾッ!」
「オーケー、オーケー。まずはそのオタマを置け。」
しゃーなしですよ?と言いながらオタマを置くクライス。
その非難がましい目マジでやめろ。
「まず復興ですが、順調です。仮設住宅はもちろん、本宅となる住居も増え続けています。」
「そうか、入居については予定通り抽選で決めろ。」
「旧支配者階級が、自分達を優先しろと騒いでおりますが。」
「黙らせろ。そんなワガママはここでは許さん。オレの名前を出してもいいぞ。」
「名前は既に出してますが、頑強な者達が一部おりまして。」
「後でリストを寄越せ。狐の姉御にやってもらおう。」
いまだにこんなヤツが残っているのかと驚きだが、少数ながら居るようだ。
先祖の偉業に胡座をかき、金も労力も出さずに口だけ出すようなヤツらが。
甘い顔を見せると付け上がるので、いっちょ幻術でしめてもらおうと思う。
人に頼まずオレがやれって?
力加減が甘いから死体の山ができるぞ。
「その他、治安は比較的安定し、流通も復旧のメドがたちました。あとは住民に貨幣が行き渡るようになれば、配給制から抜け出して商業が賑わい出すでしょう。当初懸念していた食料ですが、今年は気候が安定し、豊作への期待も持てています。」
「配給制からの脱却だが、街の浮浪児達や立場の弱いもの達へのケアはできそうか?」
「ひとまず浮浪児に対しては、暫定的な孤児院の設立をし、現在は公金を投入しています。一定の年齢に差し掛かった子供には、週の半分ほどを簡単かつ安全な労働に従事してもらい、給金の何割かを運営費に充てさせるつもりです。運営資金の不足分は公金で補います。立場の弱いものに関してですが、苦情・陳情窓口を設置しました。捜査権や逮捕権まで与えていますので、彼らの仕事振り如何ではうまくいくでしょう。」
「つまりは、しばらく様子見をする期間が必要ってことか。」
「短期間での結果のみで判断するのは危険でしょう。人の営みは100年200年の話なのですから。」
最近わかったことだが、内政はとにかく時間がかかる。
法律ひとつとっても機能を検証して、問題点をあぶり出して、再検討するという、根気のいる作業だ。
戦闘はその点楽でいいよな、ボーーン!ズギャン!!で終わったりするもんな。
「わかった、ほかは外交か?」
「はい、各国の要望は領土不可侵の提案が主ですが、一部恭順を申し出ている国があります。」
「恭順ってことは、支配してくれってことか?」
「簡単に言えばそうです。建前上プリニシアやグランニアの下に付いていますが、こちらに寝返る機会を待っている状態でしょう。」
「それを受けたくはないな、戦争の引き金になるんじゃないか?」
「間違いなく。プリニシアはさすがに矛先をこちらに向けないでしょうが、グランニア帝国は別でしょう。決戦を仕掛けてきますな。」
この前オレがお仕置きしたプリニシア王国と、大陸の覇権国家であるグランニア帝国は強い同盟関係の間柄だ。
この2国が仲良くしている限り、大陸で立ち向かえる勢力が無くなるため、この2強体制を続ければ安泰だった訳だ。
それをオレがぶち壊しにした結果、大陸の均衡は崩れてしまった。
そんな中レジスタリアが支配国を増やしたとなれば、もはや穏便に事を済ませることはできない。
一触即発の空気の中で、迂闊な判断は即戦争になってしまう。
「こっちが受け入れるのは領土不可侵と軍属以外への国境の開放、通商の許可だけだ。ほかは何を言われても突っぱねるぞ。」
「承知しました。ズゾゾゾゾゾこひらからふぁ以上でふゾゾゾゾッ」
こいつ、用が済んだとなったら間髪いれずにクリームすすりだしたぞ。
餌待ちの犬かこの野郎。
「そうだ、明日からオレらは4・5日外すぞ。」
「ほう、どちらへ?」
「南の群島 ヤポーネに行く。休暇だ。」
「ほうほう、休暇ですと?私は通常業務ですが?」
「いつからお前はファミリーに入ったんだよ、お菓子の国に帰れ。」
でもまあ、オレが外してる間に山盛りの仕事を片してくれるのはこいつなんだよな。
流石に何もなしじゃ不満も溜まっていくだろう。
ちょっとくらいは労ってやるか。
「じゃあ何か珍しいものでも買ってくるからそれで」
「お土産ですな?それは有難く頂戴いたします。クズモ・ティーヌというモッチリとした珍しい菓子があるそうなので、そちらをお忘れなく。」
すんごい食い気味に言ったぞコイツ。
まぁ言い出したことだからやるけどさ。
もうちっと領主に対しての敬意とか、魔王に対しての畏怖とか無い訳?
そう思わんでも無いが聞くのは止めておこう、「敬意しかありませんが何か?」くらいの事はシレッと返すだろう。
このお菓子で小躍りできるオジさんに、そんな事を聞くだけ野暮なのかもしれない。