三泊目の夜。
大広間から部屋に帰るところだ。
この国は飯に拘りが強いらしく、うまい料理がたくさんあった。
少なくともこの3日間で口にしたものは概ね満足している。
歩きながら先程の晩飯について、皆で感想を並べていた。
「いやぁーあのスキヤキってのは美味しかったですねー。卵がお肉に絡んで滑らかな味わいでー。」
「私は生魚も良いと思う。魚は煮るか焼くかするものだと思っていたぞ。」
「あのミソっていう味付けもおいしかったなぁ、野菜に良く合うよね。」
「花の形にきられた野菜も素敵でした。兄様の分までいただいてしまいました。」
料理トークに華が咲いている。
初日の不快感は忘れたように、みな上機嫌だ。
「アルフ、そういえばヤポーネには今後どう向き合うか決めたの?」
「それなー。難しい所だよな。」
正直悩んでいる。
灯籠のジジイが珍しい例ってのはまぁわかったが、他にあの様な手合いが居ないとも限らない。
でも危険なことがあったからといって渡航禁止にするには勿体ない場所でもある。
他の神々はたしかに温厚で親切だったし。
どこかに落とし所を見つけないとな。
一人で押し問答をしながら庭を眺めている。
視線の先にはチラチラと動く幾つもの光があった。
聞いた話によるとそういう虫なのだとか。
幻想的な国だと改めて考えさせられた。
翌朝。
今日は帰国の日だ。
夕刻の船で渡り、下船したら飛んで帰るという話になっている。
船を降りるまでが旅行ってことだ。
そこそこ遊べる時間をとったから、ひとまず海に向かった。
また初日のようなコントが繰り広げられることを警戒したが、今回は着替えないらしい。
波打ち際ではしゃいでいる。
シルヴィアとミレイアがパチャパチャと他のやつらに海水をひっかけていた。
やめてーやめてー、なんて言いつつも気持ち良さげに笑っている。
砂浜からそんな光景を眺めていると、隣に誰かがソッと並んだ。
「月明か?」
「ええ、今日お帰りだと聞きましたので。」
「わざわざスマンな。で、あの話についてだろ?」
「当にでございます。我ら神々にとっても人間の暮らしは大切なのです。」
「消えたり、弱まったりするのか?」
「ええ、若い者や力の弱いものは消えてしまいまする。強きものも大きく弱まり、この国を悪しき者から守れなくなりましょう。」
そうか、実は今国全体の危機なわけか。
ここまでの大事にした灯籠の神は、ある意味大物なのかもしれないな。
「まぁ、確かに他の神はマトモだったし、景色は良いし飯もうまい。さすがに渡航禁止は割にあわん。」
「では、友誼を保っていただけるので?」
「その代わり、うちのモンが困った時は力になってやってくれ。」
「それは約束致します。安全に楽しめるよう力を尽くしましょう。」
オレはそれを聞きながら、海を眺めた。
あの楽しそうな顔を見て、決断は間違いじゃなかったと感じながら。
帰国後、クライスの執務室に足を運んだ。
この数日での出来事を確認するためだ。
部屋に入ると起立で迎えられた。
珍しい事もあるもんだ、普段は椅子に座りながら目線すら寄越さないのに。
「ご帰還を心からお待ちしておりました、ご領主様。ご無事なようで安堵致しました。」
「おう、殊勝なセリフだなクライス。その両手の催促さえ無けりゃ完璧だ。」
いきなりお土産をねだるなこの野郎。
エサ待ちのネコか、あぁ?
オレは帰りがけに買ったクズモ・チーヌを渡した。
ちなみに現地でクズモ・チーヌと聞いても伝わらず、しばらく問答した後に「あ、葛餅ですね!」というやりとりが起きた事が、今回のちょいイラポイントだ。
「これが・・・これがクズモッティーナ!!ようやく会えた、やっと君に会えたんだ!!」
「おい、名前変わってんじゃねえか。」
「ムホホホ、ムッホホホホ。この黄色の粉と黒い蜜の素晴らしきハーモニィ。なんというKI SE KI!」
「菓子は話の後だっていつも言ってんだろが!」
ちなみに取り分け報告はないとの事。
じゃあそれ先に言えよ、ここに来る必要なかっただろうが。
そう言うと、お土産を渡さないなんてとんでもない、なんて吐かす。
お菓子狂人は今日も健在だった。