それはいつもの朝の光景だった。
リタは皆より少し早起きをして、手早く朝食を用意する。
三々五々、夢の世界を引きずりながらそれぞれが食卓に座る。
コロを抱っこしながら起きてきたシルヴィアに至っては、座りながら舟を漕ぐのもよくある光景。
そしてリタが皿を並べ終えてから、一斉に食べ始めた。
オレ達が異変に気付けたとしたら、この辺りからだろう。
「今日も会談尽くしかよ、クソだりぃな。」
「ほんと毎日誰かくるんだね。よく途切れないなぁ。」
「リタ、私は外すから昼食は不要だ。」
「あらぁ、今日は警備の日だったかしら?」
「シルヴィアちゃん、そこは鼻ですよ。ご飯はお口に入れるんですよ。」
「んーー?あれー、もう朝なのー?」
「こらっ、コロちゃん!朝から運動会しないのっ。モコちゃんが嫌がってるでしょう?」
「アンッアンッ!」
「ふぅ、ご馳走さまでしたー。」
「あら、アシュリー。半分も残してるけど、調子悪いの?」
「疲れてるんですかねー、どうも体が受け付けなくってー。」
「んーー、風邪でも引いたかしら?」
「かもですねー、やることやったら今日は寝てますね。」
そういって、アシュリーは少し怪しい足取りで家を出ていった。
皆が不安そうにドアを見ている。
「アシュリー大丈夫かしら。」
「やることやったらって、森で何かあったのか?」
「ここ最近、森の様子がおかしいってぼやいてたわね。もしかして・・・そのせいかしら?」
「何がだ?」
「アシュリーみたいな、その土地の土着の魔の者は、生まれた場所の変化に大きく影響されてしまうの。」
「じゃあ、風邪じゃなかったら森の状況が相当悪いって事か?」
「そうなるのかしらねぇ。大事にならなきゃいいんだけど・・・。」
「森がおかしい原因について、何か聞いてるのか?」
「いいえ、アシュリーにも良くわからないとかで・・・。」
頬杖をつきながらリタはため息を漏らす。
オレはというと、フツフツと沸き起こる不安を飯を掻き込んで誤魔化した。
夕暮れの頃にアシュリーは戻ったようだ。
疲れた顔をしているが、いつも通りのようで全員が安堵した。
晩飯もほどほどに食べていたし、朝見せたほど体調は悪くなさそうだ。
ちょっと数日休ませてもらいますかねー、などと言ってその日は眠りについた。
翌朝。
朝食の準備は終わっているが、アシュリーだけ起きてこない。
オレはリタに目配せをして寝室に向かった。
「アシュリー、起きてるか?朝だぞ。」
「アシュリー?入るわよ?」
中に入ると昏睡状態のアシュリーがいた。
部屋が開いたことすら気付いていないのは、意識が混濁しているせいか。
「みんな部屋には入るな!リタ、回復魔法だ!」
「わかったわ!」
すぐさま手を握って回復を試みた。
よく見ると、腕に斑模様のようなものが浮き上がっている。
病気なのか、例の異変が原因かわからないが、ただ事じゃないのは間違いない。
「ダメね、全く反応がないわ。」
リタの言う通り、アシュリーに魔法がかかった様子はない。
回復魔法は術者とかけられたものが、まるで繋がったようにどちらも光が灯る。
今回はアシュリーにその発光が見られなかった。
魔法がかかっていない証だ。
「でもわかったことがあるの。これは病気じゃなくて干渉よ。どこからか強力な力が働いてアシュリーを弱らせているわ。」
「つうことは、異変とやらが原因で間違いないな。」
「そうとしか考えられないわ。」
「よし、わかった。」
オレは急ぎ飛び出して、外に出た。
「ワン公!出てこい!」
「お呼びでございますか、我が主よ。」
草原の彼方から巨大な狼が駆け寄ってきた。
コロのボスでもあるグレートウルフ・ロードだ。
森の調査はコイツに頼むのが一番だろう。
「豊穣の森で異変だ。どこかで大きな変化が起きてるはずだから、それを見つけて報告しろ。」
「承知しました、一族を挙げて直ちに!」
「急げ、時間はないぞ!」
グレートウルフ・ロードが駆け去るとあちこちが騒がしくなった。
一族を挙げてというのは偽りないようだ。
一時間と待たずにワン公が戻ってきた。
期待持てる顔つきを見ながら報告を待った。
「ここから程なく離れた場所に、魔力の流れが狂っている所を見つけました。」
「おかしいと言える部分は?」
「本来であれば森に流れるべき多大な魔力が、見慣れない穴に吸い込まれております。このような現象は極めて珍しく、我も伝聞でしか知りませぬ。」
「わかった、他には?」
「目ぼしいものは、特に。」
オレは矢継ぎ早に集まった情報を、頭の中で整理した。
森の異変。
強い力の干渉。
吸い取られる魔力。
極めて珍しい現象。
恐らく原因はそこだ。
ここまでの情報に齟齬がない。
オレは全員を集めて告げた。
「リタ、エレナは着いてこい。グレン、子供達を頼む。ワン公は案内した後この家の守備。配下の狼には、念のため他の場所も探らせろ。」
「おとさん・・・。」
「シルヴィア、不安だろうが良い子で待ってるんだよ。」
「おとさん、アシュリーお姉ちゃんを助けて。でもあぶないこと、しないで?」
「わかった、危ないことには気を付けるよ。」
シルヴィアの頭を撫でてから、直ぐ様出発した。
子供たちがオレらを見送っているのが見なくてもわかる。
皆口には出さないが、気持ちは一緒だった。
誰一人欠けることなく。
ずっと一緒に。