一面乳白色の空間。
モコに呼び出される時は、いつもここだ。
あんな情況で呼び出しやがって、空気読めよ。
目の前の空気読めてない猫は、呆れきった顔でオレに話しかけた。
「君ってほんと無茶するよね。リンクが何本も焼ききれる程魔力を放出するなんてさ。」
「うるせぇ、見てたらわかるだろ。」
「まぁね。君は普段あんな態度なのに情に脆いところあるからね。」
「脆いとかそんなん言ってる場合じゃないだろ。」
この世界に居る間は、現実世界の時間が止まってるらしい。
でもそういう問題じゃない。
一刻も早くアシュリーを助けてやりたい。
「あ、アシュリーはもう大丈夫だよ。だから呼び出したんだし。」
「え、大丈夫なのか?!」
「あの瞬間に魔法のリンクが繋がったんだよ。だから回復魔法が効いて、彼女は峠を越えられるよ。」
「本当か?勘違いとかじゃないよな?」
「疑り深いなぁ。証拠にホラ。」
そういってモコは光る玉のようなものをオレに渡した。
握りこぶし大のその光は、オレの手に乗ると、スウッと胸の中へ消えていった。
「な、なんだ今のは?」
「おめでとう。君は【森人の愛】を手に入れたよ。」
「手に入れたって言われてもな、何がなんだか。」
「詳しく説明してもいいけど、あとの方がいいよね?アシュリーが気になるでしょ?」
「まぁな、急ぎじゃないなら帰りたい。」
「やっぱりそうだよねぇ、帰りたいよねぇ。」
口に手を当ててニヤニヤ笑うモコ。
明らかに猫の表情ではない。
「その辺含めて近々勉強会やろうね。そろそろ君にも知ってもらいたい事もあるし。」
「わかった、考えておく。」
やる、とは答えないオレはずるい大人。
どの日にやる、なんて事は絶対に言わない。
「自分の事なんだから、もう少しやる気だしてよね。」
「お前は説明が下手だからな、乗り気になれない。」
「これでも大分かみ砕いてるんだけどね?まぁ、そろそろ戻りなよ。急に呼んで悪かったね。」
徐々に世界が切り替わっていく。
乳白色が薄れていき、一度視界が白くなる。
そして元の世界に戻り、色が、音が、時間が戻っていった。
それはアシュリーに回復魔法がかかった瞬間だった。
オレとリタの魔法が合わさった、上位の魔法だ。
みるみる力を取り戻したアシュリーは、ムクリと起き上がった。
まるで何事も無かったように。
その場に居た全員は涙と歓声で応えた。
オレとリタはさすがに力尽きて床にへばってしまうが、それでも元気になった姿を見届けた。
ったく、本当に世話の焼ける。
こっちは全員がボロッボロだっつの。
でもまぁ、おかえり。
それからしばらくして、完全に体力の戻ったアシュリーは森の仕事も再開した。
食事もしっかり摂るし、こまめに休憩を挟んでいるのか家に戻ってくるようになった。
誰もが安心して胸を撫で下ろした・・・はずなんだが。
いつもの昼食後。
みんなはそれぞれ散っていったが、窓辺にアシュリーが残っている。
窓の外を憂いを含んだ目で眺めては、大袈裟なため息を吐く。
最近見かけるようになった、新しい日常だ。
遠目から観察しているオレ達は不安な目で見守っている。
「なぁ、あれで戻ってんだよな?なんか前と違うようだが?」
「主よ、何を他人事のように。」
「これ、アルフのせいでしょ。」
「オレかよ、なんでだよ。」
「惚れた男が危険を省みず戦い、自分の命まで救ってくれて、さらにプロポーズまで言われたらね?」
「おい、最後の待て。」
「その意図はなかったって言うつもり?見てみなさい、ホラ。」
アシュリー、死ぬんじゃない。お前が居なきゃ生きていけない!だなんて・・・私の事をそこまで想ってくれるなんて。はぁ・・・。
「いやオレそこまで言ってないし。」
「死線上での記憶だ、多少あやふやになっても仕方あるまい。」
「その結果彼女は変わってしまった。女ってのは変わる生き物よ、アルフ。」
「妙な言い方すんな。変わったというより転生に近くないかコレ。」
なんというか、うわっついた所が消えているのだ。
前のようにウザイ絡みや調子コキみたいなのが全くない。
有り体に言えば・・・少女から女性になったような感じか。
「アルフ、ここは一つ責任をとって夫婦に」
「断る。なんで頑張った挙げ句に罰ゲームを受けにゃならん。」
「罰・・・。なぜそこまで拒むのだ?アシュリーはかなりの美人だろう。」
「そこだけだろ。他の部分は散々じゃねぇか。」
「まぁ、否定はしないわね。でも今のあの子は違うかもしれないけど。」
「オーケーオーケー、ひとまず結婚ありきの議論から離れようか。」
魔王軍の首脳会談が立ち話で開かれた結果、とりあえずアシュリーとデートに行ってくることになった。
休息に充てようと思っていた時間が、降ってわいたような償いによって消えていく。
かつて週のほとんどをゴロ寝して過ごしていた事なんか、もはや霞んだ記憶の中にしかない。
コイツのこの変化も、エレナの時のように一時的なものだと良いんだが。
ちなみにシルヴィアとミレイアの間で「アシュリーごっこ」が流行ってしまってるらしい。
子供にとって強烈な出来事だったろうから、頭に強く焼き付いているせいかもしれないが。
「アルフ、ごめんなさい。私はもう、お別れです。」
「バカなことを、いうなアシュリー!オレは、おまえなしじゃイヤなんだ!もどってこぉーーい!」
「まぁ!あんなに痛かったのに、もう痛くないです!」
「アシュリー、よかった。ずっといっしょだ。あいしてるぞアシュリー!」
「あぁ、アルフ!私も、私も愛しています!」
おいそんなシーンは無かっただろ。
捏造すんな!
こうやって人の記憶は改竄されていくのかもしれない。
歴史が歪んでしまわないよう、しっかりと修正していかなくては。