〈ワンちゃんとぉー、クマさんがー、どっしんこ。どっしんこ〉
今日は街へ買い物にいく日だ。
シルビィアと手を繋ぎながら森を歩いている。
数歩離れてリタ、グレン、ミレイアも一緒だ。
〈いたーいかったねー、いたいかったねー。わんちゃんもー、クマさんもぉ。〉
シルビィアは機嫌がいいのか即興で作った唄を歌っている。
こんなに美しい旋律と展開の読めない物語をノータイムで生み出すなんて・・・この子は天才なのかいや天才だ!
「リタ、魔法音楽院に今すぐ連絡だ!」
「はいはい、その辺にしてくださいな。日が暮れてしまうわよ。」
オレの興奮とは正反対に、呆れた声色が返ってきた。
この才気溢れる真実の美の息吹がわからんのか。
シルビィアの歌は佳境を迎えて最後には、
〈おじいちゃんもー、ひっくり返ってどっちゃんちゃん♪〉
と締めくくった。
もうオレの心は延々スタンディングオーベィション!
百人のオレが感涙を流す。
喉が枯れるほどの大喝采を送る。
それは空が割れんばかりの大合唱!
オレはこの歌を聴くために生まれてきたのだ!
ワァァアアーーーーー!!
それにしても「どっちゃんちゃん」とはどういう事を指しているんだろう。
シルビィアだけが知ってる世界観かもしれないな。
お父さんにも教えて欲しいぞ。
「今のは歌のようにも聞こえますが、もしかして高等な呪文なのでしょうか?」
横やりを入れてきたのはミレイア。
今日も平常運転だ。
「シルビィアさん、さっきの呪文を教えてください。呪文です、呪文。」
相変わらず身ぶり手ぶりだけで会話しようとする二人。
ミレイアの手を握りながら、シルヴィアはニッコリ微笑んで、
〈ミレイアちゃんもお歌すきなの?一緒に歌おうね!〉
そう言って歌い始めた。
相変わらず噛み合わない会話に苦笑するオレ。
面倒なので最近は基本放置している。
〈ワンちゃんとぉークマさんがー〉
「ひざまずけー、愚民どもー」
あー、これはもう色々と手遅れだな。
二人の少女が手をつなぎながら仲良く唄を歌っている。
端から見ると随分ほんわかした光景なんだろうな。
歌詞さえ聞かなきゃな。
オレは後ろを歩くグレンにそっと声をかけた。
「おい兄ちゃん。お前の可愛い妹は遠めの旅に出ているぞ。早く呼び戻せ。」
「アルフさん、ミレイアはもう帰ってこれないかもしれないよ・・・。」
子供のものとは思えない、妙に深い溜め息を前にして何も言えなかった。
お兄ちゃん、強く生きろよ。
早いところ会話ができるの魔道具を購入しよう。
言葉が通じるようになれば、二人のやり取りもマシになるだろうからな。
なるよな?
そうこうしているうちに街に着き、街中をしばらく進んだ。
ランドマークとも言える中央の噴水広場で皆に意見を求めた。
「何か必要なものはあるか?」
「そろそろ塩と蜂蜜がなくなりそうだわ。」
「わかった、雑貨屋に寄ろう。」
「僕は作業用のナイフが欲しいな。」
「あー、雑貨屋にあるかもしれんが、無かったら武器屋か金物屋で探そう。」
<おとさんガラス屋さんにも寄ってね!>
「もちろんだよシルヴィ!ちゃぁんと寄るから心配しないでね?」
「魔王様、私は咎人の活肝と髄液が」
「はい却下。」
そんなぁーって顔をするミレイア。
街中で活肝とか言うんじゃないよ。
隣にいる行商人のおっちゃんがギョッとしてるだろ。
買い物は日暮れ前に終わった。
グレンとミレイアの身の回りのものがほとんどで、特に服や寝具が荷物の大半を占めた。
必要なものはもちろん、嗜好品やお菓子なんかも買ってホクホク顔だ。
そしてオレは予定どおり、会話用の魔装具を買っておいた。
ネックレスの形をしているが、魔術コートも施してある一級品だ。
ウッカリ落とさない、肌がかぶれない、付けっぱなしでも跡が残らないという三拍子。
その代わりだいぶ高かったがな。
いやいいんだけど・・・、かなり高かったな。
これをシルヴィアが身につければ、グレンやミレイアとも会話ができるようになる。
問題なく機能するようで、シルヴィアとミレイアはお互いの名前を何度も呼び合った。
よほど嬉しかったんだろう。
お互いに手を取り合い、しばらくピョンピョン飛び跳ねていた。
もう会話の行き違いなんかはなくなるだろう。
これをきっかけにミレイアの暴走も収まってくれるといいんだがな。