魔王様はダラダラしたい!   作:おもちさん

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第9話  トルキン・バロン・レジスタリア

少しこの世界の常識について語ろうか。

 

この世界では名を名乗る際には「名前・役職・場所や地名」を述べるのが習わしだ。

豊穣の森に面したレジスタリア地方の領主は、トルキン・バロン・レジスタリアと名乗っている。

このレジスタリア地方には有力な都市や拠点がほぼないため、男爵の身分でありながら侯爵や辺境伯といっていいほどの広大な領地を有している。

本来であれば分割して治めるはずだったが、権謀詐術と惜しみない大金によって今の地位を得ていた。

国といっても差し支えない封土に、荒稼ぎをする為のの盤石なシステム、そして中央の強力な後ろ盾。

 

 

自分は出世街道を邁進中であったし、封土の統治もうまくやっていた。

あくまでも、金を稼ぐという意味に限ってではあるが。

ウィラド商会をはじめとした数々の闇組織と裏でつながり、間接的に領民から略奪を行い、邪魔者はことごとく消すことで莫大な富を築き上げた。

その金はある時は中央への賄賂、ある時は自分の愉しみのため、ある時は軍資金へと変わった。

 

 

軍資金とは、豊穣の森を攻め落とすためのものだ。

 

 

かの森を領土に加えたと仮定して、少なく見積もっても今の倍以上の儲けが出る。

それだけ肥沃で広大な土地なのだから、これまでのレジスタリア領主も散々手を伸ばしてきた。

だが、その度に正体不明の魔物に邪魔をされ、ことごとくが蹴散らされた。

特に魔王とやらが居座ってからは、被害が一層大きくなった。

 

 

目的達成に向けて軍事力を得るために、最近は一層略奪に精を出した。

老いも若きも、貴賎を問わず、それは効率的に、我が事ながら寒気のするほど執拗な手段で奪い続けた。

その甲斐あって、あと半年もすれば他を圧倒する力が手に入るはずだった。

最新鋭の魔道具や腕の良い魔術師など、局地戦において過剰すぎる戦力が手に入りかけていた。

それがあろうことか、資金源を直接断つという方法で邪魔が入った。

 

 

一夜にして子飼いの組織が殲滅されてしまったのだ。

 

 

この影響は計り知れず、他の無傷だった連中まで怯えきってしまい、この地方から逃げ出してしまった。

稼ぐ手段を封じられて、このままではこちらが干上がってしまう。

なんとしても元凶を討ち果たし、またこの街に連中を戻さなくてはならない。

もう稼げない街だと思わせてはならないのだ。

 

 

自分は魔王などという存在を認めてはいなかったが、連中がかなりの手練れであるとは認識していた。

なので、かの森に住む一団の調査を少なくない金を払って依頼したのだ。

今日はその報告があがったとの事なので、さっそく執政補佐であるクライスを呼び寄せた。

 

 

「クライス、例の依頼の報告書を読み上げろ。」

「承知いたしました。」

 

 

恭しく言葉に従うクライス。

どれだけの報告が聞けるだろうかと、いくらかの緊張をもって言葉を迎えた。

 

 

「調査初日、幼い獣人とともに主人がアリさん遊びに興じる。」

「・・・はぁ?」

 

 

しばらくの間、頭が思考停止した。

時間が止まるっていうのはこういう事を言うのかもしれない。

戦力は、武器は、敵の性格や癖は、他の国の息がかかっているかなど、意味のある情報を期待していたのだが。

 

 

「ご存知ないのですか? アリさん遊びとは人差し指でこうツノをつくって」

「説明しろって言ってんじゃねえ!」

「あがってきた報告書にはそう書かれていますので。」

「そんなもん報告するな、読み飛ばせ!」

「初日は以上ですね。」

「終わりかよ!」

 

 

こんな報告を平気であげてくるとは何て奴らだ・・・。

今まで使っていた連中がいなくなったことが、心から悔やまれた。

 

 

「では二日目です。二日目午前は誰も家から出て来ない。気配を極力殺して中を覗くと、手下の女3人と主人が薄暗くした部屋の中で、円陣のようなものを組んでいた。」

「な・・・なんだ。何らかの呪術か?」

 

 

緊張からゴクリと唾を飲んだ。

脂汗が額や背筋を流れる。

どうやら向こうには、正体不明の魔物が居るようなのだ。

人智を超えた力を行使しても全く不思議ではない。

 

 

「3人の中で誰の胸が一番好みなのか迫っている。答えない主人にしびれを切らした一人が勢いよく裸になろうとする。それを唐竹割りで阻止したのち、主人は部屋に逃げ込んだ。」

「だからそんな情報はいらねえんだよ!」

「おやおや、さっき生唾を飲み込んでましたよね?エロいこと考えてたんですかークスクス。」

「ぶっ殺すぞお前!」

「ちなみに夜はもっとすごいですよ?聞きたいですか?」

「戦力の話をしろ!」

 

 

それから調査期日までの報告をかいつまんで聞いたが、ガキと遊ぶか、土いじりをするか、女どもと乳繰りあってるかの話しかなかった。

金貨50枚も叩いてクソ役に立たない情報を掴まされてしまった。

ただでさえ厳しい状況が、二の足を踏んでさらに悪化したと確信する。

まんまと大金をせしめた情報屋の奴らはもちろん、この状況下でふざけた態度でいるクライスにも殺意が湧いた。

 

 

「クライス。てめぇは今日限りだ。そのまま路頭に迷ってくたばっちまえ!」

 

 

側にあったインク瓶を投げつけて追い払った。

追って正式書類を渡すが、発行まで待っていられない。

今この瞬間に制裁を加えたかった。

さすがに罷免を宣告されて、それはもう無様に泣きついてきた。

 

 

・・・なんて事にはならず。

 

 

むしろシレッとした態度で、

「そうですか、短い間でしたがお世話になりました。」

と言って出て行った。

 

 

しかもスキップしながら。

お暇をもらったヤッホッホーィ、なんて歌いながら帰って行った。

あぁ、頭が痛い・・・。

 

 

もうこれ以上足踏みをするわけにはいかない。

これ以上のロスは中央進出に大きな影響を与えてしまうだろう。

こうなったら奥の手を、諸刃の剣である切り札を切るしかない。

近くに控えていた奴隷に命じた。

 

「狂犬の牙どもに通達しろ。豊穣の森を制圧しろとな。」

 

コントロールが一切効かない、快楽殺人集団の狂犬の牙。

肩書きは傭兵だが、禍々しい性質や経歴はその範疇に全く収まっていない。

あいつらを使う事を渋っていたのは、単純に依頼料が破格であること。

そして、あの一帯が灰塵に帰してしまうこと。

今までは収支を勘定した結果、この選択を避けてきたが、

事ここに至ってはそんなことは言ってられない。

 

 

最強のカードで奴らを皆殺しにしてやる。

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