ルーデウス来たら本気だす~改訂前&失敗作置場~   作:つーふー

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10話 『催眠が悪い』

 

 

 

 翌日。

 寝起きの私は、猫耳カチューシャと尻尾を装着して立ち上がる。

 大した荷物を持っていなかったが、多少の着替えを袋に詰めてフィリップの執務室へと向かった。

 唐突にいなくなってもいいのだが、彼には辞めることを伝えとこうと思ったのだ。

 それなりに世話になったので、義理を果たさなければならないだろう。

 

 着替え、で思い出したのだが、オルステッドって別の格好になることはあるのだろうか。

 確か社長は、身一つで様々な地に赴いてるらしいが。

 リュックサックを背負ってるオルステッドとか想像できん。

  流石に服とか洗ったりしてるだろうけど…その間は裸だったり?

 水場で生まれたての姿となり、懸命に自分の服を洗う社長。

 やべ、何か笑えてきた。

 

「失礼します」

 

 とまぁ、そんな馬鹿な妄想はさておき。

 私は執務室をノックして中へと入って行った。

 中には当然ながらフィリップがおり、仕事をしている最中であった。

 顔を上げた彼が、私を見る。

 

「どうしたんだい?」

「実は、本日限りで退職しようかと思いまして」

 

 私のいきなりな発言に、フィリップは驚いた様子でこちらを見た。

 

「それはまた…突然だね」

「大変申し訳ございません。ですが、これ以上この地に留まることが出来なくなりまして」

「それはあれかい? ペルギウス様に何かあったとか…」

「えっ?」

「えっ?」

 

 何で今ぺ様の名前が出てきたんだ。

 そんな要素一個もなかっただろ。

 私の返答に、フィリップ自身も頭に疑問符を浮かべてるじゃないか。

 

「すいません、ペルギウス様は関係ないです」

「そうか…私の早とちりだったみたいだね」

「気にしないでください。フィリップ様によくしてもらったことは、私の父様に伝えておきますので」

 

 そう言えば、と思い出す。

 フィリップって確か、私をペルギウスの娘だと勘違いしてるんだったっけな。

 ああ、そう言えばやけにフィリップが絡んでくること増えたなぁ、

 と感じたけど、私を通じてペルギウスに繋がりが欲しかったからか。

 

 すまんね、私はぺ様じゃなくてラプラスの娘なんだよ。

 大丈夫、ラプラスにはしっかりとフィリップのことを伝えとくから安心して!

 

「君を引き止めれないのは私の力不足かな…。分かった、手続きはしておいて上げるよ」

「ありがとうございます」

 

 私の退職を受理してくれたことなので、お辞儀をして立ち去ろうとする。

 けれど、私はもう1つだけ言っておきたいことがあったので、立ち止まり、フィリップへと向き直った。

 

「フィリップ様」

「なんだい?」

「…ただのリベラルとして、貴方に予言を授けます」

 

 予言という言葉に、彼はポカンとした様子を見せる。

 我ながら何とも胡散臭い単語を用いたとも思うが、やっぱりこれだけは伝えておきたいのだ。

 

「約三年後に、フィットア領に大規模な魔力災害が起きます」

 

 機会チャンスは平等にあって欲しい。

 例え、僅かな可能性だとしても、訳も分からないまま死んでしまうのはあまりにも悲しい。

 

 これはエゴだ。

 私は感情を優先した。

 本来ならば、助言すべきではないのに。

 それは分かっている。

 でも、死ぬと分かってて見捨てるのは嫌だった。

 だから、フィリップに告げた。

 フィットア領がどうなるのかを。

 彼に、名も知らぬ人々の命を預けたと言ってもいい。

 否、その言い方には語弊があるか。

 フィリップに押し付けたのだ。

 

 罪の意識を、紛らわせるために。

 

「では、失礼します」

 

 出ていく時に見たフィリップの表情は、戸惑っているものだった。

 唐突にこんなことを言われても意味不明だもんね。

 …もっとも、私の予言を信じたところで意味などないが。

 

 こんな言葉1つで、

 領地を動かせる訳ないのだから。

 

 

――――

 

 

「リベラル、辞めるのか?」

「聞いていたのですかギレーヌ様」

 

 執務室から出たところで、壁に寄り掛かってたギレーヌに声を掛けられた。

 どうやら盗み聞きをしていたらしい。

 

「そうですよ」

「そうか…」

 

 ギレーヌの問い掛けに答えたのだが、彼女は物凄く悲しそうな表情を浮かべた。

 私はそこまでギレーヌと関わった記憶がないのだが…はて、どうしてそんな感情を剥き出しにしてるのやら。

 

 私の疑問はすぐさま解消されることとなった。

 

「思えば、リベラルとの付き合いも剣の聖地からだったな」

「えっ」

 

 な、なにそれ!?

 確かに剣の聖地に行ったことあるけど!

 ギレーヌとはそんな場所で会ってませんよ!

 

「共に研鑽しあい…ライバルとも言える仲だった」

 

 おかしい。

 私はギレーヌと共に剣神流を切磋琢磨した記憶なんてないぞ。

 いや、実は覚えてないだけでそんな関係だったのか?

 なるほど、そう考えれば辻褄が合うぞ。

 私は記憶喪失だったのだ!

 

 …って待たんか。

 以前、私に「ここに来る前は何をしていたのだ?」とか尋ねてたじゃねーか!

 記憶喪失なのは私じゃなくてギレーヌだろこれ!

 

「認めたくないが…あたしが『黒狼』などと呼ばれ、剣王となれたのもリベラルのお陰だ」

「そ、そうですか。それはよかったです。では、私は行きますので」

 

 何とか平静を装うが、内心は超混乱。

 マジで意味が分からんのだが。

 早急に立ち去ろう。

 

「待て」

「何ですか?」

「折角だ。また共に稽古でもやらないか?」

「いえ、父の葬式に行かないと駄目なので遠慮します」

「何を言ってるんだ。前にもしただろう」

 

 してませんよ!

 君の記憶はおかしいよギレーヌ!

 そもそもまだ健在ですから!

 

「早く用意しろ」

 

 そして私の腕を引っ張って行き、強制的に中庭に連れ出されてしまう。

 一体何が起きてるのか全く分からない。

 何がどうしたらギレーヌとの昔馴染みになるんだ。

 何故こんなことになってるんだ。

 そもそも私は剣神流より、北神流寄りなんですけど。

 

「待ってくださいギレーヌ様」

「何だ」

「私はギレーヌ様と共に研鑽した記憶なんてありませんよ」

「何を言ってる? リベラルとあたしは剣の聖地で出会い、そして…そして…?」

 

 そこまで呟いたところで、ギレーヌは唐突に頭を押さえ出す。

 

「何、だ…おかしいな…あたしが剣の聖地に赴いたのもリベラル、さんの…お師匠様に勝ち…剣神になれたのもリベラルさんの…お陰…?」

 

 おい。

 私が以前に妄想したことが現実になってるぞ。

 それに、ギレーヌはいつの間にガル・ファリオンを倒したことになってるんだ。

 

 しかし、彼女が唐突に意味不明なことを言い出した原因はよく理解出来た。

 どうやら、私の施した催眠魔術に不具合が起きたようである。

 だが、今まででこのような現象が起きたことは一度もなかった。

 まさか、ギレーヌ以外の人も解けてないだろうな?

 記憶の混濁が起きた原因が何なのかは不明だが、それはもっと検証を積み重ねて調べるしかないか。

 

「へ、へんだなあたし…あたしが今生きてるのはリベラルさんのおかげなのに…なんで…」

「ギレーヌ様」

 

 錯乱している彼女に、私は指パッチンした。

 催眠解除である。

 

「……思い出したぞ」

「そうですか。それはよかったです」

「リベラル…いや、お前はあの時あたしとエリスお嬢様を背後から…。

 …一体何をした? 何故、あたしはお前のことを忘れていた?」

 

 その瞬間にギレーヌは抜刀し、殺気を全開にして私へと叩き付けてきた。

 ギロリと睨み付け、全身から立ち上る威圧感に思わずチビりそうになる。

 アスラ王国第二王女のアリエルは、他人の目の前でお漏らしをして恍惚とする変態みたいだが、私は違う。

 チョロっと漏れそうな尿意をグッと我慢した。

 

「そういう魔術を使ったからですけど…ちょっと剣を仕舞いませんか?」

「断る。何をしたのか知らんが、お前を斬らせてもらう」

 

 問答無用とはこのことだろうか。

 ギレーヌは大きく踏み込み、一瞬にして間合いへと入り込んだ。

 エリスとどうすれば仲良くなれるのか、とか談笑した仲なのに、全く持って躊躇なしである。

 催眠を解いてしまった時点で弁解の余地はないが、あんな錯乱した姿を見せられては解かざるを得ないだろう。

 

 ギレーヌが上段から剣を振り下ろす。

 

「真剣白刃取り!」

 

 私は迫り来る剣に対し、両手で挟み込んで見せた。

 が、勢いを止められる訳もなくて。

 すっぽ抜けて思いっ切り頭を斬られた。

 

「ぎゃああ!」

「むっ」

 

 とは言え、私にはかなり強力な闘気がある。

 剣神流の奥義である『光の太刀』なら未だしも、ギレーヌは普通に振るっただけだ。

 それどころか、白刃取りで威力もかなり落ちている。

 大袈裟に叫んでいたが、私はちょっと頭から血を流しているだけであった。

 

「闘気か。あたしの一太刀を防ぐとはな」

 

 そのことに、ギレーヌは驚いた様子を見せる。

 それからキリッと真面目な表情を浮かべた。

 

 もう容赦しねぇって顔だ。

 ここからは本気で殺ってやろうって感じだ。

 恐らく、次は『光の太刀』で斬りかかってくるだろう。

 極めれば、剣先は光の速さに達するらしい神速の技だ。

 冗談じゃない。

 何でギレーヌと殺し合わなければならないんだ。

 私は家に帰るんだ!

 

「すいません、今日は母の葬式日なんで止めてほしいです」

「知るか」

 

 ごもっともです。

 そもそもとうの昔に死んでるし。

 そして、ギレーヌは再び踏み込んできた。

 

「ガアァァ!」

 

 私の軽い冗談を切り捨て、彼女は咆哮を上げながら斬り掛かってくる。

 予想した通り、上段から神速の『光の太刀』が放たれた。

 流石にこれを真剣白刃取りしようなどと馬鹿な考えは私でも起こさない。

 普通に死ぬ。

 

 なので、私は半身になってギレーヌの剣撃を避けた。

 すぐそばを通過する刃に、肝を冷やしてしまう。

 ホッと一息吐きつつ、半身になった私は勢いを殺さずそのまま一回転。

 装着していた尻尾がギレーヌの顔面へと直撃した。

 

 …突然だが、私の装着している尻尾はゴーレムだ。

 魔力を込めれば自在に動かせる。

 原作で出てくる『ザリフの義手』と同じような性能を持つ。

 狂龍王カオスの技術を使用した逸品だ。

 ロケットパンチみたいなことは出来ないが、鈍器として使用できるほどに攻撃力はある。

 つまり、何が言いたいのかと言うと――、

 

「がっ!?」

 

 ――そんな尻尾を叩き付けられたギレーヌは吹っ飛んだ。

 錐揉み回転しながら吹っ飛んだのである。

 

「うひゃあ、こんな威力があったんですね…」

 

 尻尾を武器として使用したが、日常的に装着しようかと思えるほどに使い勝手が良さそうだ。

 とにかく、彼女が吹っ飛んでる間に、私は逃走を開始した。

 起き上がる前に追撃出来そうだったが、ギレーヌと戦う必要性など1つもない。

 と言うかデメリットしかない。

 

「くっ…待て!」

 

 ギレーヌは逃げ出す私を追い掛けようとしていたが、すでに姿を隠すだけの時間はあった。

 遮蔽物を利用しながら逃走する私は、いつしか彼女の声が聞こえなくなるところまで距離を稼ぐ。

 獣族は鼻が効くのでまだ追跡は出来るだろうが、館を離れてまで追い掛けてくることはないだろう。

 

 なんて考えてる間に、城塞都市ロアの外に辿り着く。

 呆気なく逃走成功だ。

 ふふん、私に掛かれば当然だね。

 

「さて…これからどうしましょうか」

 

 正直、やることはもう思い付いてない。

 この先、私があれこれする必要はあまりない。

 放っておいても、目的に近寄っていく。

 なので、死んじゃうキャラを助けるとかそのくらいだろう。

 しかし今回に関しては、ちゃんとルーデウスが誕生しているのか、

 転移事件が発生するのか確認したかっただけなのだが…ほぼ確定と言っても過言ではないので、目的は達成できた。

 

 また、いずれは関わらなくてはならないのだがそれはまだ先の話。

 今はやることなど何もない。

 

「取り合えず…龍鳴山へと帰りましょうか」

 

 ひとまず引きこもるとしよう。

 無職を満喫するんだ。

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