ルーデウス来たら本気だす~改訂前&失敗作置場~ 作:つーふー
この世界の大陸には、陸地を横断するような山脈が存在する。
それが赤竜山脈。
ラプラス戦役にて、人族の動きを抑制するために、中央大陸に放たれた赤竜の住まう山脈だ。
中央大陸を南部、西部、北部と分断している。
『七大列強』と呼ばれる、世界で上位の強さを持つ者。
その『七大列強』の下位以下の強さしか持たない者は、赤竜の群れに阻まれ、通行することが出来ない。
赤竜山脈の西端には『赤竜の上顎』と『赤竜の下顎』と呼ばれる道があり、唯一そこだけが赤竜の縄張りから逃れられる道だ。
そして、中央大陸北部と、紛争地帯の間にある霊峰。
人の世界で最も深いとされてる迷宮のある地。
そこが龍鳴山。
私の実家がある場所だ。
その中腹に、一軒の家がある。
――――
城塞都市ロアから離れた私は、徒歩でその山へと向かっていた。
転移魔法陣を使ってさっさと戻れよ、と思うかも知れないが、そうもいかない。
私の本来の予定では、今もまだロアに留まり、猫耳メイドさんとして頑張っている筈だったのだ。
だが、既に目的は達成してしまったので、やることがないのである。
つまり、徒歩で向かうのは単なる暇潰しだった。
実家に帰るだけで、数ヵ月以上もの時間を消費できるのだ。
ロアは勤務先として最高な職場だったと言えよう。
移動時間を経費として落とば、それだけで数ヵ月分の給料が発生だ。
「ん?」
ふと、耳を済ませば喧騒とした音が響いていた。
誰かが叫ぶ声に、魔物の咆哮。
それだけ聞き取れば、何が起きているか想像に難しくないだろう。
恐らく、誰かが魔物と戦ってるとかそんな感じだ。
別に見捨ててもいいのだが、助けられるのならば助けるくらいの余裕はある。
名も知らない何者かの加勢に向かっても特に問題はないし、むしろ暇潰しになるとも言えよう。
そう判断した私は、早速騒ぎの起きているか方角へと駆けていった。
鬱蒼とした茂みを抜け出し、街道へと顔を出せば、
そこにはアシッドウルフと呼ばれる魔物に追い掛けられる幼女の姿が。
近くに転がっている親らしき死体に目もくれず、魔物が幼女に飛び掛かる場面が目に映った。
幼女に手を出すとは罰当たりな狼である。
天誅を下さねばならぬだろう。
「『岩砲弾』」
魔術発動!
砕け散るがいい!
幼女に馬乗りになっていたアシッドウルフへと命中。
襲い掛かる狼は爆散した。
今の私はさしずめ、赤ずきんちゃんを狼から救った猟師だろうか。
ふぅ、いいことをするといい気分になれるもんだぜ。
「大丈夫ですか?」
とは言え、爆散させるのはやり過ぎた。
余波が幼女にあっただろう。
すぐさま治療してあげねば。
駆け付ける私に対し、幼女はフルフルとスライムのように震えていた。
ぼく、わるいスライムじゃないよと言いそうである。
そんな馬鹿な妄想はさておき、幸いにも怪我とも言える怪我は見えなかった。
とにかくそのことを喜ぶべきだろう。
「私の名前はリベラルです。貴方の名前は?」
「……マナベル」
そして――私とマナベルの物語が始まる。
なんてこともなく。
泣きじゃくる彼女を連れて近隣の村へと預けて終わりだ。
幼女は可愛いし愛でたいが、同行させる意味などないし邪魔にしかならない。
とにかく、私の帰路はずいぶんと遠回りすることになった。
今のはその一幕とも言えるだろう。
その他には、適当に魔物を狩ったり。
襲い掛かってきた盗賊団を壊滅させたり。
紛争地帯で傭兵活動を行ったり。
そんな感じでゆっくりと帰れば、あっという間に一年は経過した。
龍鳴山にたどり着いた頃には、更に半年は経過していただろう。
「少し、状況の整理をしましょうか」
家の前まで到着した私は、思考する。
えーと、転移事件が起きるのはルーデウスが10歳の誕生日を迎えてすぐだったかな。
つまり、後一年半か。
やべぇ、このままとんぼ返りしたらもう事件発生かよ。
そして、そこからルーデウスがラノア大学に入学するのが更に五年後と。
取り合えず、その時期に合わせて私もラノア大学のある魔法都市シャリーアに移住かな。
ナナホシもオルステッドに連れられてる筈だし、異世界転移装置の開発にも協力が出来る。
さて、行く場所は前から決めていたのでいいだろう。
次は、この有り余った時間をどう活用するかである。
正確に言えば、転移事件が起きてからの五年間だ。
…ハッキリ言おう。
これまたやることがない。
やべ、ただの役立たずじゃねぇか私。
正直、鍛練を積む以外に思い浮かばない。
帰りの道中でずいぶんと殺伐としてたような気もするけど、本当に極端だな。
まぁ、一旦落ち着こう。
考えるのだ。
例えば、転移迷宮に捕らわれてるゼニスを救出するとか。
ゼニスを助け出すのはいいのだが、正直メリットが思い浮かばない。
ゼニスが既に助け出されていれば、パウロがベガリット大陸に向かうことはない。
パウロがベガリット大陸に向かわなければ、死ぬことはないだろう。
余裕があるのならば、助けるのも吝かではない。
…取り合えず、ゼニスとパウロのことは一旦置いておこう。
最近は頭を使ってないせいか、どうにも脳筋染みた思考になってしまってる。
未来は無限に変化するので、考えれば考えるほどゴッチャになってしまうが、落ち着いて考えてみよう。
じゃあ次。
殺しても良さそうな存在。
思い付くのは魔王バーディガーディとギースかな。
両者の行動を思い返してみよう。
バーディガーディは闘神だ。
そして、ヒトガミの使徒だった。
今現在もヒトガミの使徒なのかは分からないが、疑わしきは罰せよって言葉もあったりする。
それに、バーディガーディはラプラスの仇である。
放っておくつもりはない。
いずれは始末しておくべきだろう。
ギースは…タイミングを見計らうのもいいかも知れない。
彼はやってることが多いので困る。
ギースのすることと言えば、獣族の森でルーデウスと一緒の牢屋に入る。
ルーデウスと仲違いしたパウロの説得。
ルーデウスをベガリット大陸に呼び出し、ゼニスの救出。
後はミリス神聖国で状況を引っ掻き回し…結果としてクレアと仲良くさせた。
それから、ルーデウスに対する戦力を集めて最終決戦を仕掛ける、だったかな。
他にもあったかは忘れたや。
とにかく、タイミングを見極めてから始末出来れば、都合よく事を運べそうだ。
…ふむ。
その他に改変しても良さそうなのは、シーローンでの出来事か。
クーデターを起こすパックスを生存させるのだ。
そうすることで、魔神ラプラスの転生先が割れるらしい。
オルステッドいわく、赤子のラプラスであれば軽く始末出来るとのことだ。
これはむしろ積極的に変えるべき点だろう。
「…ひとまず、家に入りましょうか」
既に龍鳴山の中腹にある、一軒家の目の前にいた私は、考え事を止めて中へと入った。
家の中は、ホコリ被っていた。
椅子にテーブル、観葉植物、紙束に、何に使うのかわからないガラクタの数々。
整理して並べられているが、ここ数年ほどは誰も立ち入ってなさそうな、そんな様子。
「……技神は、帰ってないようですね…」
その様を見れば、私が旅立っている間も帰ってきてないのだろう。
今はどこにいるのか知らないが、きっとどこかをふらついてるのだろう。
朧気な記憶を頼りに、己の使命を果たそうと。
「さて、と」
リビングのソファに腰を下ろし、私は寛ぐ。
けれど、すぐに立ち上がり、奥の部屋へと向かう。
「暇潰しにはやっぱり読書が一番ですね」
家の最奥にある部屋。
扉を開き、中へと入る。
中には、私の倍ほどの高さのある本棚が、所狭しと並んでいた。
これの大半は、ラプラスの作り上げたものだ。
お父さんの秘術、武術、魔術、技術、武器、知識。
そんな、遺品とも言える本である。
ツカツカと歩いていき、本棚を見回していく。
これほどの量があると、どこに何があるのかも忘れてしまうし、何を読むのかも迷ってしまうものだ。
あえて読まずに、陰干しをするのもありかも知れない。
劣化防止のためだが、かなりの量があるので時間は潰せる。
それとも折角なので、不死魔王の殺し方でも調べようか。
それとも、猿の調教方法でもいいか。
悩むところである。
「……ん?」
と、そこで私は、本棚にあったとある本を見付ける。
ここに置かれている本は、様々な言語で記載されている。
しかし、私の見付けた本は、その中でも異色の雰囲気を纏っていた。
日本語だ。
その段にあった本の全てが、日本語で表記されている。
この世界の人々が見ても、一切読むことは出来ないだろう。
時間を掛ければ解読できるだろうが…そこまで労力を掛けて読むものでもない。
「懐かしいですね…」
私はその本を手に取り、表を向ける。
『リベラルの日記帳』とタイトルが表示されていた。
つまり、私が自分でつけていた記録だ。
「……たまには過去を振り返るのもいいですね」
そして、私はその日記を開いた。
この世界に転生した当時の記録を。
私が現在に至るまでの、軌跡だ。