ルーデウス来たら本気だす~改訂前&失敗作置場~ 作:つーふー
私が城塞都市ロアを訪れたのには、理由がある。
まずひとつ。
ルーデウスの確認だ。
しつこいかも知れないが、彼がいなければ人神に勝利する可能性はかなり低くなる。
ルーデウスが運命に揺らぎを与えなくては、サイレント・セブンスターこと七星 静香はこの時代に現れることがない。
七星が現れなければ“私の存在理由の大半がなくなる”。
どうしてここにいるのか分からなくなってしまうのだ。
ともかく、この世界線でルーデウスが現れなければ、即ち詰みだ。
ヒトガミになぶり殺しの未来しかない。
もうひとつ。
歴史の確認だ。
私という更なるイレギュラーが発生している以上、
本来の歴史から既にこの世界はずれている。
私の読んでいた作品に至るまでの、大まかな歴史はなるべく改変しないようにしたが、どこかに綻びが出来ていてもおかしくない。
けれど、最小限に抑えたつもりだ。
だからこそ、私はラプラスを――父親を見殺しにすることを選んだ。
400年前のラプラス戦役にも参戦しなかった。
いや、ちょっとだけ干渉したが、それは微々たるものだろう。
まぁ、そこはひとまず置いておく。
私が確認したいのは、未来の歴史だ。
例えルーデウスが誕生していても、七星が転移してこなければ意味がない。
運命に揺らぎを与える、というのはいまいちどういうことなのか分からないが、
最初のターニングポイントとしてルーデウスがエリスの家庭教師に来なくてはならないのだ。
エリスと共に魔大陸に転移しなければ、ルーデウスは最終的にオルステッドに殺害される可能性が高い。
いや、もしかしたらオルステッドは接触せずに観察するかも知れないか。
まぁ、そうなればどのみちヒトガミには勝てないわけだが。
なので、もしも来なければ、その時点で終了。
私は実家に帰らせてもらいます。
龍鳴山でパパと一緒に過ごそう。
そして、いずれ秘宝を狙ってくるオルステッドに立ち向かうのだ。
…うん、それはヤダな。
そもそも技神ラプラスが龍鳴山に今いるのか確認してないし。
もしかしたらフラっとどこかに出掛けてる可能性がある。
とにかく、ルーデウスが現れた時の行動方針を決めよう。
取り合えず、私はルーデウスのファンでもあるので、彼には死んで欲しくないのだ。
強くして生存率を上げても問題ないだろう。むしろ、その方がいい気がする。
基本的に原作沿いに進めば問題ないだろう。
まぁ、私は保険みたいな感じでいいか。
ラプラスが私を生み出したのと同じ理由さ。
バックアップって奴だね。
もしもの時に現れるお助けキャラだ。
保険。
私の存在は保険…だね。
…まぁ、でも。
折角なら、より良い未来を目指すのもありだと思う。
原作では、死ぬ奴は死んだ。
パウロとか、サウロスとか、鬼神とか。
ブエナ村の人々も大勢死んだな。
パックスとかも、何だかんだで好きな奴だった。
私は魔龍王ラプラスにより、戦う術を授けられた。
原作に至るまでの間に、出来る限り習える剣術や魔術も取得しておいた。
本来の魔龍王としての役目もある程度はこなした。技術の伝道と改良だ。
間違いなく、私はこの世界で上位に入る強さだろう。
オルステッド公認、最強の龍族たる血を引いてるのだから。
けれど、高望みはしない。
世界は残酷だ。
そして、とても美しい。
間違えた。
世の中はそこまで甘くないって言いたかっただけだ。
私一人に出来ることなど、たかが知れてる。
全てを救うことが出来るのならば、どれだけ楽なことか。
…切り捨てる者を選定せねばならない。
まぁ、暗い話は止めて。
暇潰しにボレアス家を掌握しようかな。
催眠で。
エロゲーみたいにしてやる。
――――
さて、メイドさんの朝は早い。
起床すれば執事のトーマスの元へと集まり、彼の指示によって仕事の分担がされる。
とは言え、私がやることは基本的に掃除くらいだった。
後は、フィリップ様やサウロス様の近くでボーッと立ち尽くすくらいだ。
館は広いので掃除は中々終わらないように感じるが、私に掛かればそんなことはない。
ラプラスに教わった龍族秘伝のステップをきざみつつ、
闘気と呼ばれる身体能力を向上させる力を使えばあっという間だ。
そして、最終的にめんどくさくなったら魔術を使ってぱぱっと埃を吹き飛ばす。
完璧だ。
やはり力とは使いようなのだ。
ルーデウスも言っていた。
ひとつの授業で覚えたことは他の授業でも使えると。
つまり、そう言うことだ。
龍族の戦闘技術も掃除に応用できる。
気持ち悪い動きでホバー移動したり、カサカサと動き回っていると、
同僚のメイドさんたちに変な目で見られていた。
けれど、構わない。
私はめんどいことは先に終わらせるのだ。
夏休みの宿題とかも、初日で全て終らせるタイプなのだ。
決して、最終日に慌ててやるような奴ではない。
宿題が終われば周りの目を憚らずに遊び倒すのだ。
そうして与えられた仕事をさっさとこなした私は、ゆっくりと休憩する。
その際に、エリスを愛でるのが日課だった。
「エリスお嬢様」
「何よ。どっか行きなさいよ」
「エリスお嬢様」
「ちょっと! こっちに来ないでよ!」
けれど、私は何故かエリスに拒絶されてるのだ。
近寄らせてくれないし、近寄ってもくれない。
私が作り出した猫耳カチューシャと尻尾を装着していると言うのにだ。
驚くことに、エリスは怯えていた。
あの暴れん坊で、数多の家庭教師たちをボコボコにしてしまうエリスが。
ルーデウスとギレーヌ以外には、手懐けることの出来なかった狂犬のエリスが。
私は仲良くしたいというのに。
「エリスお嬢様、私の尻尾どう思います? 感覚もあるんですよ?」
「嫌、嫌ぁぁぁぁぁ!!」
更に一歩近付いた。
エリスは本気で泣き出し、逃げ出してしまった。
何でやねん。
私が何をしたっちゅうねん。
取り合えず追い掛けた。
逃げてるの見ると、つい追い掛けてしまう感じで。
「ヒッ」
その瞳は本当に恐怖を宿らせていた。
私はその目を見たことがある。
魔神ラプラスを目の当たりにした一般兵の反応だ。
ついでに、スペルド族を目の当たりにした人々と同じ反応でもある。
おかしいな。
私には他者に嫌われてしまう呪いは“現在”ないと思うのだが。
だって、他の人は平然としてるし。
特定の人物にだけ発動するとか流石にないと思うけど。
逃走していたエリスであったが、当然ながら私との身体能力に差があるので、すぐに追い付いた。
部屋の隅へと追い詰め、逃がさないよう手を広げた。
彼女はガタガタと震え、ひきつった表情を見せている。
その様子からは、もはや普段の気丈な態度は一切見えなかった。
「エリスお嬢様、どうして逃げるのですか?」
「来ないで! 来ないでよ!!」
「落ち着いて下さい。私は味方です」
「嘘よ!」
安心させようとしても、怯えたままだ。
ヤバい。
マジで原因が分からん。
私はショタコンでもありロリコンでもあるのだ。
なのに、気の強い筈であるエリス幼女にガチ泣きされるとか精神的ダメージがデカイんですけど。
今ならムンクの叫びみたいな顔が出来る。
「エリィィィス!! 何を騒いでるのだ!!」
とそこに大音声と共に助け船が現れた。
この館の主人であるサウロス・ボレアス・グレイラットだ。
騒ぎを聞き付けたのか、扉をバーンと開け放ち、ドカドカと部屋に入って来た。
「大旦那様、これは…」
「貴様には聞いておらん!!」
事情を説明しようとするも一喝された。
私も当事者の一人なんですけど。
しかし、エリスにとっては唯一の救いだった。
余所見をしている間に私の前から抜け出し、サウロスへと抱きついていた。
「お、お祖父様…今すぐこの女を追い出して!」
「それは何故だエリス!!」
「私とギレーヌ、それにトーマスを殺そうとしたのよ!!」
な、何を言ってるのだエリスは。
私はそんなことをしようなどと考えて…。
あ、もしかしてエリスの記憶消し忘れてたかな?
襲ったときの。
そう思った瞬間、私の顔面に拳が突き刺さった。
あまりにも不意打ちだったので、思い切り尻餅をついた。
男女平等パンチですかお爺ちゃん…。
「貴様! ノトスん所の回し者か!!」
サウロスは腕を組んで、顎をそらして、上から目線で、私を見下した。
「い、いえ、違います大旦那様!」
「黙れ!! ピレモンの回し者が!!」
サウロスは再び私を殴る。
何なのこのお爺ちゃん…。
女相手にも容赦ねぇな。
ぶったね。
二度もぶったね。
親父にもぶたれたことないのに。
あ、いや、目茶苦茶ぶたれてたわ。
…気を取り直して。クソ、だったらこっちも実力行使だ!
「大旦那様、これをご覧ください」
封印を解こうでないか。
私は猫耳カチューシャを外した。
今まで獣族だと思い込んでいた、ケモナーなサウロスお爺ちゃんには、衝撃の事実だろう。
「な、なっ…貴様…!?」
案の定、サウロスは大袈裟とも言える程に動揺した様子を見せた。
私はその間に立ち上がり、龍族秘伝のホバー移動を開始。
一瞬で懐に入り込んで腹パンをお見舞いした。
「グハッ!」
床に崩れ落ちるサウロスお爺ちゃん。
ふん、貴様も一発KOか。
修行が足りんな。
お前にも催眠術を体験させてやろう。
安心するといい。
夜枷に誘われた時にも使ってやるから。
極楽へと誘ってやろう。
「お、お祖父様に手を出させないわよ!!」
と、そこにエリスがサウロスの前に立った。
そして、腕を組んで、顎をそらして、私を睨み付けた。
けど、プルプルと震えてて可愛い。
そのまま抱き付いて愛でてぇな。
まぁ、ギレーヌ呼ばれたらめんどいし、さっさと後始末するけど。
さあさあ、催眠術で操っちゃうぞー。
ぐへへ。
私は、これで問題が解決すると思っていた。
けれど、現実はそんなに甘くないことを後日知ることとなる…。
――――
「エリスお嬢様」
「ヒッ」
「何故逃げるのですか?」
催眠魔術を施した筈なのに、エリスに逃げられた。
しかも、以前より更に恐怖に満ちた顔だった。
得体の知れないものを見るかのような目だった。
何でやねん。
…もしかして、催眠が効いてないのだろうか。
自分なりに改良を施したが、それでも万能と呼べるものではない。
それに、私は今まで子供を相手に試したことがなかった。
もしかしたら、子供には私の催眠魔術の効力が薄いのかも知れない。
「仕方ありませんね」
以前の二の舞になるのは嫌だったので、エリスを追い掛けるのは諦めた。
催眠魔術はそれほど検証を重ねてない。
もしかすると、同じ相手に掛けすぎたりしても悪影響が出るかも知れない。
少し自重せねば。
「エロゲー的シチュエーションは諦めましょうか」
我が夢、破れたり。
しかし、エリスに記憶消去の催眠が効いてなかったのだとしたら可哀想だな。
ちょっと境遇を考えてみよう。
何よりも信頼しているギレーヌお姉ちゃんと一緒に街を歩いていると、私と遭遇した。
働きたいと言うので案内しようとしたら背後から襲われた。
目が覚めた時、彼女には襲われた時の記憶が残ってた。
なので、一緒に襲われたギレーヌを呼んだ。
なのに、ギレーヌは襲われたことを覚えておらず、あまつさえ私と仲良くしていたと言った。
私を採用したトーマスに尋ねてみても、ギレーヌと同じことを言った。
そして、だめ押しに目の前で襲われたサウロスのお爺ちゃんも同じことを言った。
そう…例えばこんな感じで――。
「ギレーヌ! 大丈夫!?」
「ん? 何がだエリスお嬢様?」
「アイツよ! あの変な猫耳した女に襲われたじゃない!!」
「変な猫耳? リベラルさんのことか?」
「え…? リベラル…さん…?」
「何を言ってるのだエリス。あたしがこうしてエリスお嬢様に仕えることになったのは、リベラルさんのお陰じゃないか」
「ギ、ギレーヌ…?」
「それに、あたしが剣王になれたのもリベラルさんのお陰さ。奴には、敵わないな」
「トーマス! 何であんな奴を採用したのよ!?」
「何を仰られますかお嬢様。私がボレアス家の執事となれたのも、リベラルさんのお陰なのですから」
「は?」
「忘れてしまったのですかお嬢様? お嬢様が赤子の頃にも、お世話になったのですよ?」
「…な、なに…? 何がどうなってるのよ…?」
「お祖父様! 見たでしょあの女のしたことを!!」
「何を言ってるのだエリィィィス!! あの女などと失礼なことを言うな!! リベラルさんと呼べ!!」
「お、お祖父様まで…?」
「そもそも、儂が領主となれたのもリベラルさんのお陰だろう!!」
「そ、そんな…」
「儂らがこうして寛げるのも、フィリップが生まれたのも、メイドたちとにゃんにゃん出来るのも――」
「――全部…リベラルさんが居たからじゃないか…!」
「い、嫌ぁぁぁぁぁ!!」
うん、きっとこんな感じだろう。
完全にホラーだ。
私なら耐えられないね。
まぁ、流石に冗談だけど。
それでも、似たような境遇だろう。
…ひとまず、エリスと仲良く出来るようになろうか。
そして、催眠魔術は控えておこう。
うん、それがいい。