ルーデウス来たら本気だす~改訂前&失敗作置場~   作:つーふー

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3話 『懺悔の確定』

 

 

 

 本日も猫耳メイドとしての一日を過ごし、世界は平和に過ぎていく。

 

 しかし、私は退屈であった。

 全力で仕事に取り組めば、やることなんて半日足らずで終えることが出来るのだ。

 例え、他のメイドさんの仕事を押し付けられても速攻で終わる。

 相変わらずキモい動きでカサカサと掃除をやってな。

 そのことに感謝をされて、メイドたちに慕われたり。

 なのに、妙に距離を感じるのは残念だが。

 獣族の皆さんは当然ながら私が獣族でないことを気付いているが、誰もそのことを口にしない。

 まぁ、告げ口しそうな奴は片っ端なら催眠改造しちゃってたので当然のことだけど。

 

「私に掛かればこんなもんよ」

 

 とにかく、そのことはどうでもいいか。

 無職から晴れて就職した私は、この数日間の間に龍族の技術を用いて精力的に働いていた。

 そのお陰で、全体の作業効率が捗ったらしい。

 トーマスから本日の勤務は終了と言われたのだ。

 なので、私はいつものように意気揚々とエリスを愛でに行こうと考えていた。

 

「リベラル殿、少し宜しいでしょうか?」

 

 その時、何者かに声を掛けられた。

 振り返れば、執事服のおじさんがいた。

 けど、それはトーマスではなかった。

 

「はい、どうかなさいましたかアルフォンスさん?」

 

 彼はアルフォンス。

 未来の執事長だ。

 トーマスはルーデウスが来たら馬鹿をやらかすので失墜してしまう。

 そして、空席となった場所に座るのが彼だ。

 

 原作では何気に重要人物の一人である。

 転移事件が起きれば、フィットア領は跡形もなく消え去ってしまう。

 そしてそのフィットア領の再建に大きく貢献するのが、アルフォンスである。

 彼がいなければ、ルーデウスの父親であるパウロが『フィットア領捜索団』を立ち上げられない。

 パウロだけでも捜索隊を作り出すかも知れないが、間違いなく規模は小さくなるだろう。

 ミリス神聖国でルーデウスと再開出来ない可能性が出てくる。

 ゼニスの母親を頼りにミリスに寄ることは分かっているが、それでも不安が出てくる。 

 その後にも、色々と弊害があるだろう。

 

 もしかしたらトーマスでも問題ないかも知れないが、不安要素はなるべく取り除いておきたい。

 つまり、トーマスは切り捨てる。

 悪いね、仮初めとは言え仲の良い関係なのに。

 

 …私の目的の為に死んでくれ。

 

「いえ、貴方の働きぶりを見ておりましたが、とても優秀なお方と思いまして。

 ですので、別の仕事もお願いしてみようとかと」

「ふふん、なるほど。いいでしょう…そのご期待に見事答えてみせましょう!

 何でもばっちこいです!」

「気合い十分で何よりです。では、付いてきて下さい」

 

 そうしてアルフォンスに案内を受け、ひとつの部屋の前に辿り着いた。

 ガチャリと扉を開けて、私は中を見回す。

 そして、その中の光景を見た私は、回れ右をして退散しようとした。

 当然ながら、アルフォンスに引き留められた。

 

「リベラル殿、どちらへ?」

「い、いやー、私用事を思い出しまして…」

「どのような用事で?」

「いえ、ちょっと野暮用です」

「ですから、それを教えてください」

 

 いや、用事なんてないんだけどね。

 でもね、ちょっとこの部屋には入りたくないんだよね。

 だって、目の前に書類の山があるもん!

 何でこの人私にこんな仕事押し付けようとすんの!

 一端のメイドがやる仕事じゃないよ!

 絶対見ちゃいけない書類とか混じり込んでるよねこれ!

 

 いや、勿論それだけの理由でそこまで拒絶したりしない。

 そんな政治的に黒いものを見たことがバレたところで、催眠魔術を解禁すればいいだけなのだから。

 でも、そうじゃないのだ。

 問題は私の仕事が書類関係であることなのだ。

 

 書類が相手では、龍族秘伝の技術が使えないんだよ!

 どんだけ速筆でも、終わらせられる時間が大幅に変わることはないんだよ!

 クソがっ!!

 エリスを愛でる時間がなくなるじゃねぇか!!

 

「では、共に頑張りましょう。分からない点があれば遠慮なく申してください」

 

 どうやら私はとんだブラック企業に就職してしまったらしい。

 鉢巻き巻いて雇用主に直接抗議してやる。

 

 

――――

 

 

 一体どれだけの時が経過したのだろうか。

 私の体感では既に数年間は過ぎている。

 無限の時間を感じてしまう。

 そう、ここは地獄だったのだ。

 無間地獄だ。

 今までの辛い出来事なんて、全て序の口に過ぎなかった。

 この苦痛の時間に比べれば、天国みたいなものだ。

 これが、催眠魔術を使った報いか…。

 人の心を弄んだ報いがこんな辛いなんて…。

 私は…なんてことをしてしまったんだ…!

 

 なんてアホなことを思っているが、実際には一時間程度しか経過していない。

 

 何だこれ、全然終わらねぇ。

 魔術でぱぱっと終わらせられんのか。

 いつになったらエリスを愛でられるんや。

 

「リベラル殿、こちらもお願いします」

 

 そして更に追加される書類。

 アルフォンスに慈悲などなかった。

 私は絶望した。

 

「それとこれも」

 

 またしても追加。

 こき使い過ぎだろ。

 クソが、殺すぞこのクソ執事が。

 

「…すいません、慣れない作業で疲れてしまいましたので、本日はおいとまさせて貰ってもいいですか?」

「ふむ」

 

 アルフォンスはチラリと時計に顔を向ける。

 それから向き直った。

 

「そうですね、本日はこれくらいにしておきましょうか」

「ほ、ほんとですか…?」

「はい、私の仕事もかなり捗りました。リベラル殿には感謝致します」

 

 やった、やったよ!

 無理だと思ってたけど要求通ったよ!

 殺すとか言ってごめんよアルフォンス!

 もしも転移事件が起きたら、気が向いた時に手伝ってあげるよ!

 

 そんな内心の歓喜を私は抑えつつ、極めて冷静な態度でお辞儀する。

 ようやくこの地獄から脱げ出すことが出来るのだ。

 書類は私の天敵だ。

 アルフォンスがまた頼もうとしたら逃げよう。

 そうして退出しようとした私であったが、出ようとした瞬間に扉のノック音が響いた。

 

「はい、どうぞ」

「仕事中すまないねアルフォンス」

「若旦那様、どうかなさいましたか?」

 

 入って来たのはフィリップだった。

 サウロスの息子であり、エリスのお父さんだ。

 取り合えず、私は邪魔にならないよう部屋の隅に寄ろうとした。

 

「いや、用があったのはリベラルにだよ」

 

 と、そこでフィリップは壁際に寄った私を見つめた。

 

「私にですか?」

「そうだね、悪いけどもう少し付き合ってくれないかい? もちろん、その分の給金も出すよ」

 

 金とかいらないので休みたいです。

 エリスとにゃんにゃんしたいです。

 何て言える訳もなく、私は頷いておいた。

 

「じゃあ、私に付いてきて」

「分かりました」

 

 と言うことで、再び移動する。

 どこに向かうのだろうと思っていたのだが、どうやらこの館で一本だけ突き出してる塔の方向へと歩いていた。

 

 あ、ヤバイ。

 察したかも。

 

 とか思ったところで、フィリップが止まるわけもなく。

 そのまま進み、階段を登って最上階に辿り着くと、例の塔へと続く螺旋階段を更に登っていく。

 にゃんにゃんと幻聴が聞こえてきた。

 

「ここだね」

 

 最上階に辿り着くと、人一人が入れるかどうか、という小さな小部屋に案内されてしまう。

 うん、やっぱここあれだよね。

 原作でもサウロスがネコミミダメイドとにゃんにゃんしてた場所だよね。

 

 え? てことは何?

 フィリップさん私とそんなことしようとしてるの?

 まぁ、もしそうなら催眠魔術で気持ちよく眠ってもらおう。

 残念ながら私は誰かと致すつもりはないので。

 

「さて、君をここまで連れてきた訳だけど、ここなら誰にも邪魔はされない」

 

 案内を終えたフィリップが私へと視線を向けた。

 

 キャッ、なんて血走った目なの!

 発情期の犬みたいな目をしてマスワ!

 エロいことしようってのか。

 エロ同人みたいに!

 どうしよう、この下着でも大丈夫かな。

 モジモジ。

 

「質問に答えてもらうよ…君、何者なんだい?」

 

 どうやらエロは違ったらしい。

 と言うよりか、フィリップはかなりシリアスな雰囲気を纏っていた。

 血走った目だと思ったら、単に目を細めていただけだった。

 

「若旦那様、質問の意図が分かりません」

「…エリスがね、君にずいぶんと怯えてるみたいなんだ。

 私はあれほど萎縮した娘を見たことなかったんだよね。

 でも、ギレーヌも、君を勝手に採用したトーマスも、それに父さんも口を揃えて言うんだ。

 リベラルとは仲良く出来そうだって、エリスは勘違いしてるだけだろうってね」

「…………」

 

 あー、こりゃやっちまいましたね。

 ポンポン催眠魔術を使ってしまった弊害が出ましたよ。

 確かに端から見れば、エリスがあれほど私に怯えてることが異常なんだよなぁ。

 しかも、そのことにサウロスとギレーヌが反応しないと言うね。

 そりゃ、フィリップじゃなくても気付くわな。

 

「ノトスからの回し者かい? それとも、別のところかい?」

「いえ、全然違いますけど」

「じゃあ、君は一体何者なんだい?」

 

 また催眠魔術を使うのもひとつの手だが、なるべく使わないようにしようと誓ったばかりである。

 たった数日で自分の立てた誓いを破るのも憚れた。

 

「ただの猫耳メイドですが」

「……本当かい?」

「それより若旦那様。そのような予想をしておきながら、何故一人で私と接触を?」

 

 まぁ、ただのメイドなのは事実なんだけど。

 取り合えず話を逸らしておこう。

 彼に通じるか微妙だが。

 

「いや、何。もしも君が暗殺者だとしても、私たちボレアス家を始末する機会は沢山あった。けれど、そのような様子は見せなかった。

 金品も減ってなかったし、物盗りの線も薄そうだ。

 そもそも、君のような目立つ容姿の人物なら貴族内で話題になる」

「はぁ」

「それに、その振る舞いだ。挨拶然り、君は貴族との接し方をずいぶんと知っているようだね」

 

 そりゃね。

 催眠魔術で変態どもの証拠隠滅しましたし。

 振る舞いくらい長生きしてれば身に付けられる。

 

「しかも、ギレーヌの警戒をすり抜けた。あまつさえ、父さんにも気に入られて。

 なのに、エリスとの話に齟齬がある…訳が分からないよ。

 殺されることはないと私なりに判断したから、こうして直接尋ねようと思ったんだよ」

「私が暗殺者なら?」

「ギレーヌが抜かれてるのだから、殺されるのは早いか遅いかの違いさ」

 

 どうにもフィリップらしくないな。

 この人、こんな真っ正面から来る人じゃないだろ。

 裏から手を回して着実に外堀埋めるタイプだったと思うのだが。

 

「なるほど。でも私はただの猫耳メイドなので、若旦那様は殺されたりしませんよ」

「本当にそうなのかい…? …私の考えすぎだったのかな?」

「考えすぎですね。確かにエリスお嬢様が私に怯えてるのは事実ですので、何とか仲良くなろうと模索中なのですよ」

「ふぅん。で、エリスに何したんだい?」

 

 やっぱここだけは突っ込まれるか。

 誤魔化せる気がしないんだが。

 

「催眠術って知ってますか?」

「催眠術?」

「ええ、簡単に言えば、相手を意のままに操れる魔法みたいなものです」

「……それはまた、何とも興味深いものだね…」

 

 まぁ、ロマンだからね。

 仕方ないね。

 

「エリスお嬢様にその話をしましたら、私もやりたいと言う話になりまして。

 しかし、私にいくら試しても効果がなかったので暴れそうになってしまいました。

 ですので、妥協案としてエリスお嬢様本人に体験してもらうこととなり、それで私が恐ろしい怪物に見えるようにしてしまったのです」

「つまり、エリスは君が化物に見えると?」

「そうです…その状態を治そうとしてるのですが、エリスお嬢様にはいつも逃げられておりまして…」

「ふぅん」

 

 フィリップは胡散臭そうな目で私を見ていた。

 流石に無理があったか?

 でも、これ以上の言い訳なんて咄嗟に思い浮かばない。

 ルーデウスが現れるまで…転移事件が起きる少し前まで、出来ればこの館にいておきたいのだ。

 だから、ありのままの真実を伝えてしまうのは、流石に得策じゃない。

 

「…まぁ、ボレアス家を始末しようとしてないみたいだからいいかな」

 

 なんて思っていたら、フィリップはそんなことを言っていた。

 どうやら、見逃されたらしい。

 そして、彼は部屋から出ていこうとする。

 その際に、顔をこちらに向けた。

 

「私が一人で君と接触した本当の理由だけどね…試すためだったのさ」

 

 ポツリと呟き、顔を背けた。

 

「私が時間内に戻らなければ、リベラルは黒だから対処するようにと信頼できる者に伝えておいたんだ。まぁ、黒ではなかったようだけどね」

「…では、早くお戻り下さい若旦那様」

「そうするよ」

 

 パタンと扉から出ていくフィリップを見て、私はホッと一息つく。

 

 らしくないと思ったけど、そうでもなかったようだ。

 態々こんな場所で二人きりになったのは、揺さぶり掛けて私の反応を見るためだったのか。

 危ない危ない。

 下手に腹パンして催眠魔術とか掛けてたら、時間に間に合わなかったかも。

 押し倒されそうになったら確実にやってたな。

 もしそうなれば、ボレアス家に命を狙われるところだったわけだ。

 敵かどうか知るための小手調べという訳である。

 

 やっぱり、今後の行動は自重した方がいいかも知れないな。

 フィリップは侮れないし。

 あ、でもエリスは愛でるけどな。

 

「…………」

 

 私は出窓から見える赤い珠を眺めた。

 既にある程度の大きさとなっている。

 あれがあると言うことは、ルーデウスが誕生していることは確実と言えよう。

 転移事件も発生すると考えて良さそうだ。 

 

「ハァ…」

 

 つまり、この都市が消えることは確定である。

 私が何か騒いだところで、誰も避難などしないだろう。

 サウロスもフィリップも、妻であるヒルダも、みんな死んでしまう。

 でも、私にはそれを防ぐ手立てはない。

 いや、私がこの街の中で全力で暴れ回り、無理矢理言うことを聞かせることなら可能かも知れないが、流石にそんな無謀なことはしない。

 

 私を恨んでもいい。

 努力すらせずに諦めてる私を。

 けど、転移事件が起きなければ、ナナホシがいなければ、私は目的を果たせないのだ。

 許してくれとは言わない。

 

 ただ、ごめんなさい。

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