ルーデウス来たら本気だす~改訂前&失敗作置場~   作:つーふー

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4話 『ぺ様を騙る』

 

 

 

 それは一日の業務を終え、日が落ちた時のことだ。

 

 ラプラスの娘であるリベラルは、数日くらい眠らなくても活動を続けられるが、寝るときは寝る。

 彼女はあてがわれた部屋の照明を落とし、ベットで横になっていた。

 そして当然ながら、しばらくするとスヤスヤと寝息だけが部屋の中に響く。

 

 そこに一人の人物が現れたのは、しばらく後のことだ。

 

 その少女は、息を潜めてやって来た。

 普段の猛る気配を断ち、忍び足で。

 その手には、棍棒のような物が構えられていた。

 そして、ベットの上で呑気に寝ていたリベラルの前に立つ。

 ゴクリと唾を飲み込む音がする。

 

「戦争だ」

「ヒッ」

 

 ふと、リベラルから漏れた声に、少女はあからさまに怯えた様子を見せた。

 それから少女はしばらく様子を窺ったのだが、リベラルは動こうとせずにスヤスヤと寝息を立てていたことに安心する。

 

「むにゃむにゃ…きのこ…たけのこ…うっ、頭が…」

「……何よこいつ。全然大したことないじゃない」

 

 その少女――エリスは、目の前に来ても未だに寝言を発するリベラルを認識し、いつもの勝ち気な態度を取り戻していた。

 これがギレーヌであったのならば既に気配に気付き、エリスを取り押さえていたのだ。

 けれど、得体の知れない敵だと思っていたこの女は、間抜けな姿を見せたままだった。

 その姿からは、普段の底知れない感覚は感じられず、ただの女でしかなかった。

 気味の悪い術を使うみたいだが、こうなればこっちのものだった。

 自然と、手に構えた棍棒を握る力が強くなる。 

 

 エリスはリベラルの存在に怯えていたが、それでも屈していた訳ではなかった。

 ビクビクと無様を晒しながらも、反撃の機を窺っていたのだ。

 いずれ寝首を掻いてやろうと、屈辱に耐えながらもずっと待っていた。

 そして、その機会がようやく訪れたのだ。

 たまに現れる、家庭教師を名乗る鬱陶しい大人も、こうして追い払ってきた。

 ギレーヌもサウロスも頼れなければ、己の手でやるのだ。

 

「――ぶっ殺してやるわ!!」

 

 そして、棍棒は降り下ろされた。

 

 

――――

 

 

 うーん、何だろう。

 からだが痛い。

 寝違えたかな?

 

 寝惚けていた私はそんなことを思いながら、目を覚ましていた。

 そして、目を擦りながら辺りを見渡す。

 

「このっ!! このっ!! 私に手を出そうとしたことを!! 後悔させてやる!!」

「……エリスお嬢様? 何を騒いでるのですか…?」

 

 目の前には、棒を振り回すエリスがいた。

 気のせいか、それで私をぶっ叩いているようにも見える。

 マゾではないので、そんなことをされても嬉しくない。

 

「何で平然としてるのよ!?」

 

 その言葉と同時に、顔面に棒が振るわれる。

 なので、私は闘気を纏った。

 迫り来る棒切れは、顔面に当たるとバキッと心地よい音と共に折れた。

 

「なっ…」

「夜這いですかエリスお嬢様? そのような淫らな行いはもう少し大人になってからしてください。

 じゃないと、私、我慢出来なくなっちゃいますので」

 

 むしろ、ばっちこいって感じだけどな。

 私は、ロリもショタも、男でも女でも構わずいける口だ。

 自分が変態なことは自覚してる。

 けど、アスラ貴族に比べれば霞むだろう。

 あやつらは未来に生きてるのだ。

 

「うっ…くっ…今日の所はこれで勘弁してあげるわ!

 でも、これで終わりとは思わないことね!」

 

 そして、逃げるかのように出ていくエリスを、私は微笑ましく見送った。

 頑張って気丈な振る舞いをしていたが、ビクビク震えているのにはグッときた。

 心なしか、目元に涙も溜まっていたような気もする。

 あんなにビビっていたのに、私を襲うとは何とも健気な子だ。

 

「頑丈なからだで生まれたことに感謝ですね」

 

 私はひ弱な人族とは違う。

 最強の龍族と魔族もミックスされた存在だ。

 あのような年端もいかない少女に棍棒で叩かれた所で、大したダメージはない。

 まぁ、触覚はあるので痛みは感じたが。

 

 それにしても、私の寝込みを襲ってくるのは予想外だった。

 確か、エリスの家庭教師をしようとした人たちの中に、無防備なところを襲われた人がいるのは知っていた。

 けど、エリスの私に対するビビりようを見れば、仕掛けられるとは思いもしないだろう。

 中々に強靭な精神力をお持ちのようで。

 

 …あ、ヤバイ。

 エリスを苛めて屈服させたい欲望が。

 エロ同人のように。

 イカン、収まれ我が煩悩よ。

 私はそのようなはしたないことをしないと誓ったのだ。

 

「寝るときは気を付けないと駄目ですね」

 

 私は不死身でない。

 ラプラスの性質を受け継いでるので、スペルド族くらいしか私の弱点を突けないだろう。

 けど、死ぬときは死ぬのだ。

 平時なら未だしも、完全に睡眠に落ちていれば私なぞ簡単に殺せる。

 

 …眠りながら警戒しておくか。

 

 

――――

 

 

 数日後。

 私は再びエリスに襲われた。

 ベットでスヤスヤ眠る私の元に忍び寄り、暗殺を仕掛けてきたのだ。

 

 …そう、暗殺だ。

 前回のように棍棒などという優しい物ではなく、凶器であるナイフを突き立てようとしていた。

 

「死になさい! この化物!」

 

 エリスの夜襲に気付いていた私は闘気を発動。

 ちっぱいな胸元に突き立てられようとしたナイフを、寸前で手刀を放ってポッキリと折った。

 

 危ない危ない。

 大きかったら即死だった。

 ナニがって?

 おっぱいがだよ。

 

「エリスお嬢様、やりすぎです」

 

 だが、警戒していたとは言え、ナイフは流石に駄目だろう。

 私でなければ普通に死んでたぞ。

 

 そう思って宥めようとしたのだが、エリスは瞳に怯えや恐怖、怒りなどの様々な感情を込めて、私を睨み付けていた。

 

「黙りなさいよ! 皆に何をしたのよあんたは!?」

 

 エリスはかなり焦燥した様子だった。

 冗談などではなく、発狂寸前といったところだ。

 長年生きてきた私は、様々な経験をしてきた。

 だからこそ、彼女がどれくらい追い込まれているのか、すぐに理解した。

 

「ギレーヌも! トーマスも! お祖父様も! あなたに襲われたことを覚えてないのよ!

 それどころか、リベラルはそんなことをする奴じゃないなんて庇うのよ!?

 何を、何をしたのよ!? 返しなさいよ! 私の知ってる皆を返しなさいよ!!」

「…………」

 

 これは不味い。

 

 まさか、エリスがここまで取り乱すとは思いもしなかった。

 ちょっと苛めたいなどと思ったりもしたが、追い詰めようなんて考えは一切なかった。

 私は楽しんでいたけれど、エリスはそうではなかったのだ。

 自分だけが異常を認識してるのに、皆はそれに気付くことがない。

 きっと、エリスは世界が狂ったかのように感じられたのだろう。

 

 これは、私の軽率な行動が招いてしまった結果だ。

 調子に乗りすぎたのだ私は。

 

「何か言いなさいよ! この悪魔!」

「ふっ…私の正体を見抜くとは、流石はエリスお嬢様」

 

 本来ならばどうにかしてエリスを落ち着かせるべきなのだろう。

 けれど、それは止めておく。

 どう言い繕っても出来る気がしないので。

 と言うより、彼女の言ってることは何も間違えてない。

 誤解などひとつもないし、事実しか言ってない。

 

「お察しの通りですよ…私は悪魔。このボレアス家を乗っ取りに来たのです。

 ククク…! どいつもこいつもチョロかったがな。

 後はエリス…貴様だけだ。貴様を洗脳すれば終わりなのだ」

 

 私はラプラスの娘。

 偶然とは言え、悪魔呼ばわりするとは意外と鋭いなエリスは。

 ボレアス家を乗っ取る発言も、冗談で思ったりしたのでいいだろう。

 

 だったら、そう思わせた方がいい。

 正体不明の存在よりも、正体が判明している方が精神的にも楽になるだろう。

 実際に私の言葉を聞いたエリスは、取り乱した状態から持ち直していた。

 

「洗脳…そう、そう言うことね! この卑怯者! 皆を治しなさいよ悪魔め!」

「ククク…そう言われて頷くと思うか? 貴様には我が洗脳がどうにも効かぬようだからな…ゆっくりと屈服させてやろうではないか」

 

 ベットから起き上がる私。

 下舐めずりをして、彼女をネットリと見つめてみる。

 その様子にエリスは狼狽えた。

 小さく震えながら、後退りしている。

 小動物みたいで可愛いな。

 

 ドンッ!

 と、私はその場で思いっ切り足踏みをした。

 エリスはその音に驚いたのか、跳び跳ねるかのように部屋から逃げ出していく。

 すまんねエリス。

 仲良くしようと思ってるのに、余計に関係を悪化させてしまったよ。

 

「さて、フィリップに話を通しておかなければなりませんね」

 

 ギレーヌとサウロスは催眠魔術のお陰でエリスの話を聞き流すようになっているが、フィリップはそうではない。

 私が催眠術を扱えることを告げているが、彼のことなのでボレアス家を乗っ取るという可能性も考慮してるだろう。

 別に乗っ取ってもいいのだが、私はそこまで外道ではないし、執着もしてない。

 とにかく、ここから追い出される前に手を打たなくてば。

 

「…仕方ないか」

 

 フィリップは私の正体を知りたがってたようなので、教えて上げることにしよう。

 もっとも、私とは別の人物だと思うよう、思考を誘導させてもらうけどな。

 ペルギウス辺りの関係者だと勘違いさせようか。

 

 

――――

 

 

 善は急げ。

 その諺に従った私は、エリスを追い払った後に、眠らずフィリップの部屋へと赴いた。

 そして、眠っていた彼を叩き起こし、事情を説明する。

 

「――と言う訳でして、私としてもここを追い出されるのは不本意です。

 ですので、以前に問われた私の正体をお伝えしようかと」

「…ずいぶんと急だね。教えてくれるのなら、私としても是非とも聞きたいところだけど」

 

 睡眠の邪魔をされた為か、フィリップは不機嫌そうだった。

 フィリップ、正直、スマンカッタ、エリス。でも、今、俺はもう失うものは何もない。

 ごめん間違えた。

 職を失ってしまう。

 それが嫌だから許して欲しい。

 

「…で、何者なんだい? 寝ている私を叩き起こしてまで伝えたかったのだろう?」

「…………」

 

 彼は目を細め、剣呑な雰囲気を晒しだした。

 なので、私はスッと懐からとある紋章を取り出す。

 ついでに猫耳カチューシャも外した。

 その光景に、フィリップは目を見開く。

 

 この世の全てに絶望したかのような表情だ。

 どんだけケモナーなんだよ。

 

「どうぞ」

 

 気を取り直し、私は紋章を渡した。

 それを受け取ったフィリップはションボリした様子で見つめた後、再び驚愕の表情に変わる。

 

「これは、本物かい…? いえ、本物で御座いますか?」

「もしも本物でなければ、私はドーラ様の名を騙る不届き者ですね」

 

 私が見せたのは甲龍王の紋章だ。

 アスラ王国において、ペルギウスの名は絶大なものである。

 魔神殺し(殺してない)の三英雄はアスラ王国に多大な貢献をしたのだから。

 今の時代を甲龍暦と名付けられる程に、ペルギウス・ドーラの存在は大きい。

 そんな人物の名を騙れば、アスラ王国そのものを敵に回しかねないだろう。

 

「この紋章を見せた…その意味をお分かりですか? 名を汚す覚悟はあるのですか?」

「勿論ですよ」

 

 ごめん、あんまないわ。

 

「なるほど…分かりました。リベラル様を信用しましょう」

「ありがとうございます。それと、今の私はただの猫耳メイドです。

 畏まらなくてもいいですよ。にゃんにゃん」

「…そうかい? なら、言葉に甘えさせてもらうよ」

 

 私は再び猫耳カチューシャを装着して告げた。

 フィリップはどこか納得出来ない表情だった。

 

「ひとつ尋ねてもいいかい?」

「何ですか?」

「何故ここへ?」

 

 ルーデウスとエリスをにゃんにゃんするためです。

 

「見聞のためです。様々な経験を積んで、叡智を持つ父様とはまた別の知識を得ようかと思いまして」

「父様…? ペルギウス様に娘がいたのか…初耳だよ」

「…………」

 

 私もペルギウスに娘がいたなんて初耳だよ。

 ぺ様と家族になれるよ! やったねたえ――じゃなくて。

 うん、大丈夫。

 私は何も嘘なんて吐いてない。

 確かに甲龍王の紋章を見せびらかしたけど、ペルギウスのじゃないし。

 だってこれ、ペルギウスの母親のだし。

 ラプラスから借りパクしてきたんだよ。

 ペルギウスの紋章なんて持ってる訳ないじゃん。

 勘違いしてくれればいいなぁ、と思って成り行きに任せてたけど、まさか娘と思い込むとは。

 

 あれかな?

 猫耳カチューシャを外したことで、私が獣族ではないと気付いただろう。

 そして、緑色が混じっているとは言え、私は龍族特有の銀髪だった訳である。

 確かに龍族の血を引いてるし、面影がないこともない。

 そのせいで変な勘違いしたのかな?

 未来でも、アスラ貴族がオルステッドをペルギウスの身内と勘違いしてた描写もあったし。

 

 けど、これでフィリップは私に深く干渉することはなくなるだろう。

 利用しようとする可能性はあるけど。

 

「誰にも言わないで下さいね? 秘匿していることなので」

「…そうするよ。私もまだ死にたくないからね」

 

 とにかく、これで大丈夫だろう。

 問題はエリスだけになった筈だ。

 多分ね。

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