ルーデウス来たら本気だす~改訂前&失敗作置場~   作:つーふー

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6話 『狂犬王エリス』

 

 

 

 その日、ルーデウスがやって来た。

 馬車の中からギレーヌと共に、城塞都市ロアへと地を足に付けたのだ。

 

 ここから私の行動は、より一層慎重さを要する。

 私が原因でルーデウスが死にました、何てことになるのはあまりにも虚しすぎる。

 そんなことになれば、七星も救われなくなる。

 誰も救われなくなる。

 

 問題は、人神と龍神だろう。

 

 今のところ、ヒトガミの使徒に襲われたのは第二次人魔大戦前くらいだろう。

 以前にも言ったと思うが、それ以降は特に目に見える干渉は行われていないと思う。

 だが、調子に乗っていたら唐突にヒトガミの使徒が現れる可能性もあるだろう。

 ルーデウスの手助けをしてあげたいが、戦闘に巻き込まれたりするのは不味い。

 彼は後々強くなるが、それは未来の話であって今は違う。

 これは気を付けなければならないことだ。

 

 とは言え、人神が厄介なことは初めから分かっている。

 本当に厄介なのは龍神の方だ。

 

 オルステッドはイレギュラーが起きると、本来の歴史との差異を知ろうとする。

 自分が関わらないことでどのような結果になるのか見届け、

 次のループで自分の都合のよい結末へと改変させようとするのだ。

 つまり、今回を捨てて次回に持ち越そうとする。

 

 そうなれば人神の勝ちだ。

 脅威が勝手に去っていくのだから、これほど喜ばしいこともないだろう。

 きっと「オルステッドあいつ馬鹿だよ」と爆笑するに違いない。

 

 そうならないようにするためにも、私はある帝都コソコソとやって来たのだ。

 彼は100年前頃にどこかの森の中をループ開始地点にして現れるみたいだが、

 それよりも更に過去の出来事はよほど大きく変化してなければ気付かないだろう。

 それ以前のことは変わってないと思い込んでる筈なので。

 とは言え、それも時間の問題だろう。既に気付いてるのから分からないが、違和感くらいは感じているだろう。

 

 もちろん、オルステッドと接触することも考えたりした。

 けれど、どうしても拭えない不安要素が私を引き留めた。

 

 ――五龍将の秘宝。

 

 ヒトガミに至るのに必要なキーアイテム。

 本来ならば、ラプラスが持っているものだ。

 だが、私はその代用品となるものを持っている。

 『龍神の神玉』。その欠片だ。

 五龍将の秘宝の代用品となってしまう代物である。

 そんなものを持っている私がノコノコと近寄れば、殺される可能性があるだろう。

 少なくとも、ラプラスを殺すよりはずっと楽に、ヒトガミへと至れる。

 だからこそ、龍神への対応には悩んでいた。

 

 

――――

 

 

 私にとって、ルーデウスとは好きな人だ。

 もちろん、ラブではなくライクの意味でだが。

 

 ただがむしゃらに努力しているのではなく、過去の失敗を繰り返さぬよう、経験を生かして努力をしている。

 それでも、時には失敗して挫けそうになったりするが、その失敗を忘れぬよう次に生かすのだ。

 むっつりで、すぐ女に色目を使おうとするが、結婚する3人以外には手を決して出さない。

 調子に乗ったりする時もあるが、ルーデウスは本気で生きている。

 

 過去の後悔を糧に、頑張ってる男の子だ。

 幸せになりたいだけの、頑張り屋さん。

 そして、大好きな人のために命を賭けられる。

 

 そんな努力をしている彼を助けて上げたいと思うのは、おかしなことでもないだろう。

 出来うる限りの手助けはするつもりだ。

 そして、他の使用人たちと共に私は並び立つ。

 その反対側には、ギレーヌが壁の隅で立っていた。

 

「初めまして。ルーデウス・グレイラットです」

 

 そしてその中央。

 私の視界に、ルーデウスがサウロスに対し、腰を深く曲げて頭を下げているのが映っていた。

 いわゆるお辞儀だ。

 久し振りに日本式の挨拶を目の当たりにしたことに、私は感動していた。

 しかし、サウロスはその挨拶を気に入らなかったらしい。

 

「ふん、挨拶の仕方もしらんのか!」

「大旦那様、ルーデウス殿はブエナ村より出たことがありませぬ。

 まだ幼く、礼儀を習う時間は無かったでしょう。多少の無礼は……」

「貴様は黙っておれ!」

 

 この辺りは本来の流れと変わらず進行した。

 

 貴族の挨拶を知らないことをサウロスが咎め、

 ルーデウスが自分の怠惰を認めた上で努力すると告げ、

 その礼儀を尽くそうとする姿勢をサウロスは気に入り滞在を許可する。

 そして、その後に颯爽と去っていく。

 その後にフィリップがやって来るのも、同じ流れであった。

 

 再びお辞儀をするルーデウスに、彼が貴族の挨拶の仕方を教えて。

 なのに、その挨拶も職人的な感じで悪くないとか。

 

「話はどこまで聞いている?」

「五年間、ここでお嬢様に勉強を教えれば、魔法大学への入学資金を援助してもらえると」

「それだけ?」

「はい」

「そうか…」

 

 頼み込む相手がフィリップではなく私であれば、学費くらいポンと出すのも吝かではないけどね。

 顎に手を当て考える仕草を見せるフィリップに対し、

 ちょっとドキドキと緊張した様子を見せるルーデウスは微笑ましい。

 そう言えば、これが人生で初めての面接だったかな。

 

「君、女の子は好きかい?」

「父様ほどではありませんが」

「そうかい、じゃあ合格だ」

 

 予想通り、アッサリとエリスの家庭教師を認めていた。

 私がエリスにちょっかいを掛けていたので、少しは未来の流れから外れるかと思ったがそうでもないようだった。

 そのことで内心ビクビクしていたのは、ここだけの話だ。

 

「今のところ、あの子が気に入った教師は礼儀作法のエドナと、剣術のギレーヌだけだ。今までに5人以上解雇している。そのうちの一人は王都で教鞭を取っていた男だ」

 

 そこまで話し、フィリップはこちらにチラリと目線を向けていた。

 なんやねん。

 こっちみんな。

 

「まぁ、例外もいるみたいだけどね」

 

 そして、ニッコリと笑みを見せるフィリップ。

 ルーデウスも釣られてこちらを向いていた。

 自然と視線が合ったのでパチッとウインクしてみると、ルーデウスもパチッとしてくれた。

 ノリを分かってるね、彼は。

 

「例外ですか?」

「そう、エリスが恐れてる存在だよ」

 

 なんて思ってると、フィリップが意味不明なことを言い出していた。

 何だよその紹介、ふざけてんのか。

 何で印象悪くなるようなこと言ってるんだよ。

 こんな美人のどこに恐れる要素があるんだよ。

 

「彼女については、一先ず置いておこうか」

「そうですか。では、後でお聞かせ下さい」

「後でね」

 

 結局、フィリップは私を貶しただけだった。

 

「正直、君にはあまり期待してない。

 パウロの息子だから、取り合えず試してみようってだけだ」

「随分ハッキリ言いますね」

「自信でもあるのかい? 最近のエリスは一層手が付けられないんだけど」

 

 フィリップの言う通り、今のエリスは本来よりも恐ろしい凶暴さを持っていると思う。

 いつも私を襲撃してるせいか、最近は手に武器を持ってる場面が増えているのだ。

 色々とおかしい絵面になってる。

 貴族の娘が常に凶器を持ってうろついてるとか、聞いたことないぞ。

 敵《敵》を発見すれば鬼気迫る形相で襲い掛かるし。

 何のホラーゲームだよ。

 その内「おっぱいのペラペラソース!」とか言い出さないだろうな。

 もしも、ルーデウスがその場面を目の当たりにすれば「なけるぜ」と返すことを期待しておこう。

 きっと、その後に始まるのはお姫さま《私》の救出物語だ。

 

「それは、実際に会ってみないと分かりませんが…」

 

 実際に会ったらその楽観視は消えるがな。

 

「ダメそうなら…一芝居うったほうがいいかも知れませんね」

「一芝居? どういう事だい?」

「僕がお嬢様と一緒にいるところを当家の息の掛かった者に誘拐させます。僕は読み書き、算術、魔術を駆使してお嬢様と共に脱出し、自力で館まで帰ります」

 

 確かに、それはいい案だと私も思う。

 自分の手に負えない出来事を解決してくれる人は、つい頼りたくなるものだ。

 絶望的状況であればあるほど好感度は増す。

 それに、つり橋効果のようなものもあるだろう。

 自分を助けてくれる人に好意を持つのはおかしなことではない。

 ちゃっかりと好感度をアップさせようとするルーデウスは強かだと思うべきか。

 もっとも、それは芝居のまま進行すればの話だが。

 

 私はトーマスを見た。

 彼がどのタイミングでエリスを売るのか知らないが、今は特に悪巧みしているようには見えない。

 だが、私としては誘拐事件を起こし、消えてくれなければ困るのだ。

 

「なるほどね。そこから脱出して、自分から習いたいと思わせる訳か。面白い発想をするね」

 

 原作ではエリスはそれが切っ掛けでルーデウスを認めるようになるが、果たしてそう上手くいくのやら。

 今のエリスはちょっとぶっ飛んでる。

 デレを引き出すのは一筋縄ではいかないだろう。

 

「よし、ここで話をしていても埒があかない、娘に会わせよう。

 トーマス、案内してあげて!」

 

 さて、エリスのビフォーアフターを見学しようじゃないか。

 しかし、ルーデウスだけで接触させるのは危険過ぎる。

 私は二人についていった。

 

 

――――

 

 

 こいつはナマイキだ。

 一目見た瞬間そう思った。

 

 歳は俺の2つ上。

 キッとつり上がった眦、ウェーブのかかった髪。

 原色のペンキでもぶちまけたのかと思えるほどの真紅。

 

 第一印象は、苛烈。

 将来は美人になるだろうが、数多くの男が「これは無理だ」と思うであろう。

 真性のドMだったら…とか、そういうレベルじゃない。

 とにかく危険なのだ。

 俺の全てが近づくなと叫んでいる。

 

 

 …これが、エリスに対して本来抱く、ルーデウスの感想だ。

 けど、今の彼の様子からはそう思っているように見えない。

 驚きに固まった表情を見せ、困惑しているようにも見える。

 とは言え、ルーデウスの気持ちも分からなくない。

 お嬢様ってなんだっけ、と思ってるのだろう。

 今のエリスを一言で言うのならば…。

 

 ただのチンピラ。

 もしくは時代遅れなヤンキーだ。

 

 ルーデウスの前に立つエリスは鋭い眼光で彼を睨み付け、肩に木刀のような物を担いでいた。

 ガムをクチャクチャ噛みながら、うんこ座りをしていれば、とても似合ってそうである。

 そこにグラサンを掛ければパーフェクトだ。

 その姿からは、もはやお嬢様としての慎ましさは微塵もなかった。

 チンピラという言葉以外の説明が出来ない。

 

「フン!」

 

 サウロスのような鼻息を一つ。

 彼女は腕を組もうとして、武器を持っていることに気付いて止めた。

 それからルーデウスを見下ろしながら、偉そうな態度を取る。

 完全にカツアゲの場面にしか見えない。

 

「なによこのチビ!

 こんなのに教わるなんて冗談じゃないわ!」

「…その、身長は関係ないと思いますけど」

「何ですって!?」

 

 パァン!

 

 いきなりだった。

 エリスはルーデウスの頬をビンタしたのだ。

 あまりに突然の暴力に、彼の頭にはてなが見える。

 

「何で殴ったんですか?」

「生意気そうだからよ!」

 

 意味不明な理由である。

 私から見ても、生意気な要素はひとつも見られなかったのだが。

 そのことにルーデウスは納得出来ない様子で頬を擦りつつ、エリスへと一歩近付いていた。

 

「じゃあ、殴り返しますね」

「は!?」

 

 彼女の返事を待たずに張り返すルーデウス。

 殴られる痛みを教えようと考えたのだろう。

 実際に、私もその教育方法は悪くないと思う。

 けど、残念ながらエリスにそれは最悪な選択肢だ。

 

「人に殴られる痛みが――」

 

 ルーデウスの台詞が言い切られる前に、エリスは手にしていた木刀を振り上げていた。

 それにギョッとした様子を見せるも、避けられる訳もなく。

 

 仕方ないので、私はルーデウスの襟首を掴み、後ろに引っ張るのだ。

 彼の顔面を木刀が掠っていった。

 

「エリスお嬢様。やり過ぎです」

「うっさいわね!」

 

 彼女は忌々しそうに私を睨み付けるが、近寄ろうとはしない。

 以前、反撃されたことを覚えているのだろう。

 その調子で、オルステッドを相手に頑張って欲しい。

 

「このっ! これでも食らいなさい!」

 

 なんて思ってたら、木刀を投げ付けてきた。

 ルーデウスに当たったら危ないので、普通にキャッチしておく。

 

「あーっ! ほんとむかつく奴ね!!」

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」

 

 と、そこで状況についていけてないルーデウスが制止の声を出した。

 更に、再び前へと出たのだ。

 真摯に語り掛けることが、分かり合うための手段だと言わんばかりである。

 どうにかして会話イベントから好感度を上げようとしてるのかも知れない。

 その姿勢には私の好感度がアップだ。

 この調子でいけば、私とのルートに突入である。

 

 けれど、このエリスはちょっと狂暴すぎた。

 

「黙りなさい!」

 

 再び殴るエリス。

 よろめいたルーデウスに足を掛ける。

 そこから蹴りつけて転がし、マウントポジションに移行だ。

 ルーデウスの顔がちょっとひきつっていた。

 

「あの悪魔をどうにか出来ないなら、関係ないあんたは引っ込んでなさい!」

 

 殴る、殴る。

 その台詞から何故暴力に繋がるのか分からないが、ルーデウスが気の毒だ。

 彼は魔術を駆使して何とか脱出したが、そのことが気に入らなかったのかエリスは追い掛け始めた。

 鬼ごっこの開始だ。

 二人の年頃なら、丁度いい遊びだろう。

 ただし、捕まれば死ぬ。

 

 マジですまんルーデウス。

 そこからどうにかしてデレさせてくれ。

 私にはもう手に終えん。

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