ルーデウス来たら本気だす~改訂前&失敗作置場~ 作:つーふー
城塞都市ロアから2つ離れたウィーデンという町。
私はその町にある、とある倉庫のような建物の屋根で胡座をかいていた。
そしてこの下にて、ルーデウスとエリスの二人が捕らわれている。
そんな場所に私がいるのは、保険のためだ。
もしも本来の流れから外れるような非常事態が起きれば、それに対応するためである。
それにしても、何とかなりそうで安心した。
エリスは狂暴になってしまったが、戦闘力が上がった訳ではない。
多少は強くなってるかも知れないが、誘拐犯に勝てるほどでもないのだ。
現に、彼女は抵抗虚しく簡単に拐われた。
縄でグルグル巻きにされてるエリスだけでは、脱出する術はないだろう。
ルーデウスがいなければ、変態貴族に売り払われることは確定である。
「なによこれ!」
エリスは丁度起きたらしい。
自分の状況を認識して騒ぎ出していた。
「ふざけるんじゃないわよ! 私を誰だと思ってるのよ! ほどきなさいよ!」
彼女の声はとても大きい。
そのお陰で、私は屋根の上からでもよく聞き取れた。
「うっせぇぞクソガキ!」
しばらく騒いでいると、男の怒声が響き渡り、エリスに乱暴を振るっていた。
私は屋根からぶら下がるようにして、鉄格子の窓から中を見る。
エリスは山賊みたいな男に蹴り飛ばされ、壁に叩き付けられた場面が視界に映った。
「クソが! 何調子乗ってんだ、アァ!?
てめぇらが領主の孫なのはわかってんだよ!」
「いた、痛……やめ……ぐっ……やめ、あぐっ……やめて………」
「ペッ」
手を後ろで縛られてるエリスを容赦なく、何度も何度も殴り付けていた。
子供だとか、女の子だとかお構い無しで、彼女がボロボロになるまで、何度も。
「……いづっ!」
それから、最後にそれを眺めていたルーデウスを蹴り付け、倉庫から出ていった。
「…………」
私は一体、何をしてるのだろうか。
ルーデウスはこれが演技ではなく、本物の誘拐犯だとすぐに気付く訳だが、私は違う。
二人が本物の誘拐犯に拐われることを知ってたのに、それに対して傍観を選んだのだ。
そのせいで、エリスは見るも耐えないほどにボロボロな姿にされてしまった。
…ああ、胸糞悪いな。
でも、ここで二人を助ければ全部台無しになってしまう。
ラプラスの時もそうして傍観することを選んだのだ。
今更それを曲げる訳にもいかない。
「ギレーヌ! ギレーヌ、助けて! 殺されちゃう! はやく助けて!」
私が彼女に対して反撃したのは一度だけだ。
それだけでは、痛みによる恐怖というものは心に刻まれることがなかったのだろう。
ルーデウスに治癒されたエリスは力の限り叫んでいた。
その結果がどうなるのかも知らず。
「クソが、今度騒いだらぶっ殺すぞ!」
「かひゅ……かひゅ……」
そして、再び倉庫に入ってきた男によって、エリスはボロ雑巾のような姿になるまで暴力を受けてしまった。
本当に、嫌な奴だ私は。
打算によってこの状況を傍観してるくせに、それが嫌だと矛盾した気持ちを抱いて。
まるで、我が儘を言う子供のようだ。
自己嫌悪に陥ってしまう。
取り合えず、あの男は確実に殺す。
自身のことを棚にあげてることは自覚してるが、それでも殺しておく。
「約束破ったら、今度こそ置いていきますから」
それから、再びエリスを治癒したルーデウスは、自分の言うことに従うように言い聞かせ、
魔術を駆使して鉄格子の窓から脱出していった。
二人が逃げたことに気付いた誘拐犯たちは、ワラワラと怒声を上げながら外へと出てくる。
しかし、そのことで気になる点があった。
…誘拐犯多くね?
出てきたのは八人の男たち。
原作では詳しい描写はなかったが、それでも会話の内容的に実行犯は二人ほどだったと思われるのだ。
他にも何人か協力者は居てもおかしくないが、この時点で八人もいたとは思えない。
「おめぇら! 逃げられたら全部パーになっちまうぞ!」
「おお、絶対逃がさねぇよ!」
「手分けして探せや!」
「ジャックとロン! おめぇらは町の入り口に向かえ!
ギルとソースは乗合馬車だ!
ニールとカンプは二人を追え!」
想像よりもずっと冷静な人物が混じり込んでいた。
思い思いの方角に散っていくのかと思いきや、ちゃんと指示をしてルーデウスを捕まえようとしてる奴がいたのだ。
正直、こんな奴が原作にいたとはとても思えない。
何だ。
一体何が原因で、原作との乖離が起きたんだ?
少なくとも私は、ここで何も改変させてない筈だ。
エリスに関しても、本来よりも多少狂暴になっただけに過ぎない。
確かにルーデウスがデレを引き出す難易度は上がったかも知れないが、それでも支障はないレベルの筈なのだ。
しかし、いくら頭を捻っても私には原因が分からなかった。
いつまでも考えていても仕方ないので、私は指示を出していた男を見失わないようにつけていく。
だが、多少は人数を減らした方がいいかも知れないだろう。
裏路地に入った二人の胸を、貫手で貫いておいた。
これで、指示を出していた男とそいつに付いていた男は死んだ。
騒ぎが起きたとしても、似たような殺し方が好きなオルステッドが疑われることだろう。
アリバイの完成だ。
私の殺人計画は完璧である。
それから、ルーデウスが現れるであろう乗合馬車へと向かう。
当然ながら、そこにはギルとソースと呼ばれていた二人の男がいた。
この二人がいては、ルーデウスがいつまでも経っても馬車に乗れないだろう。
こいつらも始末しておこう。
「あの…すいません」
私は二人に声を掛けた。
「ああ? 何だてめぇは?」
「商業地区に行きたいんですけど、道に迷ってしまいまして…もし知っておられるのでしたら、場所を教えて頂けないでしょうか?」
今の私の格好は、素人目にも高価そうなコートを羽織っている。
三白眼なだけで顔に傷などもないし、むしろ整っていると自負もしている。
武器も持ってきてないので、ただの町娘か商人の娘辺りだと勘違いするだろう。
もしくは、どこかの貴族の娘か。
そんな見た目の私が、山賊みたいな格好をしている二人に道を訊ねるという異常性に気付いてないらしい。
ジロジロと私の格好を見てきたかと思えば、顔を見合わせてにやつき始めていた。
「おおいいぜ嬢ちゃん。口頭だけじゃ分からねぇかも知れねぇし、俺らが案内してやろうか?」
「え? いいんですか?」
「ああ、見たとこ嬢ちゃんは裕福そうな身なりだ。どっかの貴族か?
そんな人物と、こうした些細なことで繋がりが持てるのはこっちとしてもありがてぇんだよ」
意外とマトモな理由を告げてくれた。
もし私が無知な天然娘であれば、見事に引っ掛かりそうである。
「では、お二方が案内してくれると?」
「ああ、当然だ」
「ありがとうございます…お二方が付いてくださるのならば、知らない町ですが危険はなさそうです」
私がそう言うと、二人は笑いを噛み殺していた。
きっと「こいつチョロいな」とでも思ってるのだろう。
生憎、チョロいのはこいつらである。
「いいぜ、付いてきな嬢ちゃん。例え襲われても俺らが守ってやるよ」
そして、私は乗合馬車から離れていく、彼らの後ろを歩いて行く。
その時、私は気付けなかった。
二人が下卑た笑みを浮かべていたことに…。
もちろん、気付けなかったからといって問題はなかったが。
山賊さんは私を人気のない裏路地に引きずり込んでくれたので、物理的にハートキャッチしておいた。
死体が2つ転がる結果となっただけである。
――――
馬車の待合所に戻った私は、ルーデウスとエリスを見守ることにした。
今の誘拐犯の数は四人だが、本来もこのくらいはいたかも知れないだろう。
それに、いちいち彼らを捜すのも面倒である。
その間に二人を見失っては本末転倒だ。
そして、特に問題なく事は進んでいった。
ルーデウスが文字を読める必要性や、算術の有用性をエリスに教えながら隣町へと辿り着く。
私自身も既に誘拐犯を見失っていたが、ここまで行けばもう大丈夫だろう。
歴史通りで問題ない筈だ。
因みに、私も二人が乗った馬車に同乗した。
顔が変わる魔道具の指輪を嵌めていたのだ。
「ふぅ…大丈夫そうですね」
順調に進んでいった。
隣町に到着してからは、あばら家同然の宿で泊まり、
翌日は朝一番の馬車に乗って、特にハプニングもなくロアへと辿り着く。
ここでルーデウスが油断することによって、実は追い付いていた誘拐犯に拐われる訳だが、これも特に介入しなくていいだろう。
彼は確かに強くなるが、今のままではどこかで死んでもおかしくない。
ルーデウスはこの世界を甘く見てる訳ではないが、
殺し合いを経験したことのない元日本人の引きニートなのだ。
魔大陸に転移してしまう前に、戦いの恐怖を知っておいた方がいいだろう。
そして、安全地帯まで逃げ切ったと油断したルーデウスは、エリスを拐われた。
ルーデウスはたった2秒ほど視線を外していただけだったが、その間に誘拐犯は奪い取って見せたのだ。
「……え?」
彼は間抜けな声を上げた。
けど、それは私も同様だった。
…誘拐犯の数が多かったのだ。
ここで現れるのは多くても四人だと思っていたのに、何故か六人もいた。
意味が分からない。
私が四人殺したことが原因だろうか。
しかし、彼らの死体を発見してから、新たな仲間を募ったとは思えない。
そんな時間はなかった筈である。
だとすれば、最初から十人かそれ以上の人数で誘拐を行ったということだ。
やはり、分からない。
何故、本来と違う流れになってる?
拐われたエリスの痕跡を発見したルーデウスが、路地へと入っていく光景が目に映る。
なので、私は跳躍して家の屋根へと登り、そこで少し様子を窺うことにした。
そして、エリスを担ぐ誘拐犯たちを見付けたルーデウスは、
咄嗟に土の魔術で壁を発生させ、彼らの行く手を遮っていた。
「なんだぁ!?」
唐突に発生した壁に驚愕した彼らは、後ろを振り返りルーデウスを発見する。
「チッ! やっぱ魔術師だったのかあのガキ!? おめぇらやっちまえ!」
前口上など、何もなかった。
ルーデウスを発見した彼らは、躊躇なく剣を抜いて突貫し出したのだ。
「くっ…!?」
その光景に、私は焦る。
本来ならば、彼らは見た目でルーデウスを侮り、結果としてギレーヌに殺されることになるのだ。
けれど、彼らに一切の油断が見えない。
「う…ああっ…!」
唐突に襲い掛かってきたことに、ルーデウスは驚き、そしてからだを震わせていた。
相手の雰囲気に飲まれ、その瞳には恐怖を宿らせる。
魔術を発動させたが、あらぬ方向に飛んでいった。
当たり前だ。
ルーデウスは殺し合いを経験したことのない少年。
中身は大人だろうと、血を見ることなく育った人間なのだ。
そもそも、殺し合いの空気に飲まれないようにするためにも、このイベントを経験させようと考えた訳である。
ならば当然、ルーデウスが動ける訳ない。
「クソッ…!」
闘気を爆発させる。
一瞬で屋根から地上に降り立った私は、ルーデウスを斬ろうとしていた男の胸を貫いた。
「何者だ!?」
突然現れた乱入者に驚く山賊たち。
その隙に、私はエリスを担いでいた男に魔術を放って仕留めた。
そこでようやく、彼らは動き出す。
「テメェ! よくもジャックを!!」
仲間が殺されたことにより冷静さを欠いたのか、彼らは私に殺到してきた。
そこでエリスを人質にすればチャンスはあったのかも知れないのに、バカな奴らだ。
一歩前に進み、全力で目の前の男の顔面に蹴りを叩き付ける。
サッカーボールのように顔が飛んでいき、それが一人の男に命中した。
命中した男の頭は潰れ、その場に崩れ落ちる。
それから私は一気に加速し、手刀で横凪ぎに手を払う。
それだけで残る三人の首を切り落とすのだ。
そして、血塗れでグロテスクなオブジェクトが多数出来上がるのだった。
「リ、リベラル…さん?」
「…申し訳ございません、ルーデウス様、エリス様」
流石にこの光景には堪えたのだろう。
ルーデウスはひきつった表情で私を見ていた。
「は、早く帰りましょう」
それだけを呟くと、ルーデウスは簀巻きにされて立ち上がれないエリスの拘束を解き、足早にこの場から離れていく。
顔色がかなり悪かったので、恐らく吐きそうになってたのだろう。
グロいことに耐性のあるエリスですら、顔色を悪くしていた。
スマートに剣で真っ二つにしていたら、二人の反応も違うかっただろうか。
残念ながら剣は現在持っていないし、真っ二つにしたらどのみち似たような光景になる。
とにかく、二人に付いていこう。
――――
それから私は、今回の原因について考えた。
と言っても、理由など明白なのだが。
この世界は既に、原作とは違う世界なのだろう。
私という存在がいるのだから当たり前である。
その結果がどういう因果を辿ってこうなったのかだが…思い当たりはひとつある。
――エリスの性格改変だ。
ハッキリ言おう。
私はエリスの性格が大きく変化したと思ってなかった。
元からあれほどの狂暴性を秘めていて、それをぶつけられる相手私がいたから、それが顕著になっただけだと思ったのだ。
確かに催眠の際に失敗し、エリスに目撃されたりした。
けれど、しつこく絡んでいればその内仲良くなれるだろうと楽観視していたのだ。
結局、私はボレアス家を乗っとる発言をしてしまったが。
けれど、それはエリスが精神的に危険な域にまでいってしまったからであり、言いたくて言ったわけではない。
今回の件。
もしかしたら、エリスが原作よりも狂暴だったから、誘拐犯の人数が増えたのではないだろうか。
自力で逃げ出すことを考慮したトーマスが、予定よりも多い人数に依頼をした、とか。
だとしたら、私はとんでもないことをしでかしたことになる。
今回、たまたま私が近くにいたからよかったものの、原作通りに進むだろうと傍観すらせず、
ロアで仕事をしていれば、ルーデウスは間違いなく殺されていた。
それどころか、ルーデウスがエリスをデレさせる難易度をいたずらに上げているのだ。
私はただ、エリスとどうにか仲良くしようとしただけである。
だからこそ、律儀に襲撃してくる彼女の相手をしていたし、裸の付き合いと称して無理矢理からだを洗ったりした。
そうすることで、ギレーヌのようにいずれ認められるんじゃないかと思って。
けれど、それは間違いだった。
私の行動は、無意味に原作を悪い方向に改変させるものでしかなかったのだ。
エリスと仲良くなりたいと思っていた私の行動は、あまりにも軽率過ぎた。
……失敗した。
こんなことも予測出来ないなんて、あまりにも考えなし過ぎる。
この時代に至るまで、脳筋な過ごし方をしすぎて、バカになってしまったのかも知れない。
昔はもっと頭がよかったと自分でそう思っていたのだが、歳寄る波には勝てないらしい。ということにしておこう。
…やることを終わらせて、ロアから立ち去ろうか。
私が下手に関わっても、彼らが危険に脅かされるかも知れないし。