真剣で私に恋しなさい!S~鳴く少女のマジ恋!~ 作:Celtmyth
あらすじ
『
決闘後の健美の名は学園の内外に広がり、その実力を認めた挑戦者たちが増えてきた。まずは一歩、彼女は英雄へ近づいた。
そして次には人と触れ合うことで人柄をしてもらうこととなる。これには大和も付き添ってくれ、それを知った健美はうれしさで彼に抱きつく。
二人の距離もまた一歩進んだ。
』
多くの人と触れ合い、そして受け入れられる。それが英雄として認められると大和から説明を受けた日から数日が経っていた。健美はすぐにでも行動に移したかったのだが平日中は学園の生徒たちと学外の挑戦者たちとの決闘で時間を作る事が出来なかったのである。
しかしそれも週末で大方の決闘が消化し終わり、しかも丸一日使える休日にようやく行動に移す事になった。
「――ピュイイ!」
「……だからよろしく。で合ってるかな?」
「ピュイ」
鳴きながら頷いた。それを見て大和はホッと胸を撫で下ろした。
大和も平日中は健美とのよりコミュニケーションを取れるようにと積極的に会話をたり、この点については先輩である義経たちとも相談をしたり、時にはムツジロウさんにもアドバイスを聞いたりもした。その努力の甲斐あって十回中六回は当たるまでに読み取れるようになった。
努力して良かった。そう自身へ賛辞を送ると改めてこれからの事を話し始めた。
「それじゃあ早速案内するよ。ついて来て」
「ピッ。ピィ、ピィ?」
「えっ、こんな格好でいいかって?」
「ピ」
健美の格好はいつも見ていた制服姿ではなく、しっかりとした私服姿である。夏場なので少し露出があるタンクトップと短パン、そして動きやすいようにブーツを履いている。ここで露出を控える上着の一つでもあればいいのだが、彼女はそれを着こなさず以上の格好だ。
一言で評価するなら、『慎みが足りない』だ。
「うーん。まぁむしろその恰好がいいかな?」
「ピ?」
「まぁ『なんで?』って思うよね。とにかく行けばわかるよ。ついて来て」
「ピュ」
健美が素直に頷き、それを確認した大和は案内を始めた。
健美はどういった事をするのかわからないが、小さな不安さえ抱かなかった。たった二週間前に出会った大和の事を純粋に信頼していた。獣のような本能で、ただこの人は大丈夫と。その感情もあって健美は案内されている間はずっと大和の背中を見つめながら歩いていた。
「さて、ついたよ」
するといつの間にか目的地に到着していた。見つめるあまり、時間を忘れてしまっていた。
「どうかした?」
「ピィ」
「大丈夫ならそれでいいけど」
大和は様子がおかしいと思ったが『大丈夫』と返事をした上にその返事もしっかりしたものだったので深くは追及しなかった。そして改めて目的地の場所を見せた。
そこは、孤児院だった。
「待て待て――!」
「ハハッ、待たないよー!」
「……ピッ!」
「わぁ、きれー」
「すっげー! ビリビリだ!」
庭では一子が子供たちと追いかけっこ、健美は得意の雷で一芸を披露していた。大和はそんな光景をここの院長と一緒に眺めていた。
「今日は本当に感謝します。私以外は休暇が重なってしまって人手不足だったのですよ」
「そこまで畏まらなくていいですよ。こちらも後輩の為になると思って引き受けたんですから」
「ですが助かっているのは事実です。ここは素直に受け取ってください」
「そうですか。じゃあそうします」
二人が話した通り、今日この孤児院は悲しいことにスタッフ全員が休暇を重ねてしまい、院長一人で切り盛りする事態になっていた。と言っても元々、ここのスタッフはここでの仕事を生き甲斐とするような人たちで、休日返上で頑張っていたのでその結果今日のような事態となってしまった。ちなみに孤児院と言う運営が厳しいここでスタッフがいるのは九鬼財閥が少なからず援助金を出しているからである。
そして改めて庭で子供たちの相手をしてくれている一子と健美の様子を眺める。本当ならファミリーの皆も来てほしかったのだが百代は挑戦者との戦い、翔一はいつも通りの遠出、岳人と卓也はそれぞれの趣味の本日限定のイベントに参加、京は弓道部の休日練習に参加、クリスは父親との久々の団欒である。ここで由紀恵の名前がないのは実は彼女もここに来ているのだ。庭にいないのは子供たちの為に厨房でお菓子を作っているからである。
さて、話は戻し一子と健美の様子だ。一子は元気に子供たちと動き回って楽しく遊んでいる。しかも子供たちの体力を考えて手加減をしている。お陰で子供たちも満足そうに遊んでいた。続けて健美は雷で色々と見世物をしている。こっちは体力に自信がない子供たちがほぼ集まっており、一子と対象となってくれている。
(ワン子は大丈夫だと思ってたけど、健美ちゃんも上手くやっているみたいだな)
大和は素直にそう思い、心から安心した。健美は鳥のような言葉しか発しないので大人相手よりも子供相手にしたが、それでも意思疎通には不安があった。しかし目の前の光景はその心配もないほどに健美も子供たちも笑顔だった。
「ところであの電気のような物を出している彼女。もしかして武士道クローンの方ではありませんか?」
と、院長が健美を見ながら大和に問いかけていた。
「御存知でしたか?」
「川神市に住んでいますからね。ただ彼女の事を知ったのはここ最近ですが」
「そうですか。でもだからって気遣いはしないでいいですよ。院長さんの手伝いに来た女の子でお願いします」
「ええ、もちろんですよ。ただ一つ、聞いてもらってよろしいでしょうか」
「はい、なんでしょう?」
大和は怪訝な表情で院長に応じる。すると院長は健美を見ながら、どこかもの寂しそうな顔で話し始めた。
「私は様々な事情を持つ子供たちを受け入れてきました。その中には心を痛め、病んでいた子供たちもいました。あの子は、そんな子供たちと似た物が感じられます」
その言葉に大和の表情は少し驚いたような物になる。彼が知る健美は動物のように素直で、英雄になると努力する一途な女の子でしかない。そんな彼女の心に何かあると言われては信じられなかった。
「俺にはそう思えません」
「私もそう信じたいですよ。ただ経験上、小さな違和感でも手遅れになる前に何らかしらやっておきたいのですよ」
その院長の言葉には重みがあった。考えてみればここにいる子供たち以外、多くの子供たちがこの孤児院へやってきて、そして旅立っていったのであろう。その全員が光ある道を歩んでいったかは別として。
「あの子は純粋で、おそらく夢の為にまっすぐ向かっているのでしょう。ただ同時に、恐怖と言うものが感じられます」
「恐怖?」
「そうですね。具体的にするなら、秘密を知られたくない恐怖でしょうか」
「秘密……」
秘密と言う単語に大和は自然と健美の正体と繋がった。思えば今日まで彼女の正体についてはあまり考えた事はなかった。特に明かす様子もなく、なにより健美の人柄から正体などどうでもいいと考えてしまっていた。
しかしもし院長が言う通りであれば。
(英雄を目指す反面、自分の正体が受け入れられるかの不安がある?)
そんな結論が大和の脳裏に浮かぶ。浮かんでしまえば消え去る事は難しく、むしろより主張を繰り返していく。まるでSOS信号のように助けを求められているかのように。
「キュッ、カァ――」
『ワァ―――!!』
そんな時、珍しい鳴き声と共に子供たちの歓声が広がる。大和が目を向けてみれば雷を花火のように派手な演出をしていた。どちらも楽しそうな笑顔を見せて。
「……貴方の言葉。心に留めておきます」
大和がそう言うと院長は何も言わず笑っていた。
そして大和は自身の目的として、健美の正体に迫ってみると決意した。
今回は健美より大和の視点が大きい話でした。一種の基点と言う者で、今後の大和の行動に大きくつながるものです。そんなわけで大和の視点で進むことが増えます。だって大和が主人公だから。
ただ今週は資格勉強のラストスパートがあるので投稿が一週間の定期通りになるかは保証できません。もうしわけございません。ただ試験が終われば素早くなると思うので、そこは期待していいです。
それではまた次回に。