真剣で私に恋しなさい!S~鳴く少女のマジ恋!~ 作:Celtmyth
あらすじ
『
健美の英雄への第二歩として今度は人との触れ合いをさせた大和。それは人手不足になった孤児院のお手伝いで、これは問題も起きずに成功した。
そんな中、大和は院長から健美の印象を聞かされる。それは彼女が何かを『恐れている』と言う指摘で、大和は最初こそありえないと言ったが話を聞くうちにそれはなくなった。
健美の正体について迫ってみようと決めた出来事だった。
』
孤児院での時間を無事に過ごし、今日は解散となった。健美は九鬼ビル、一子は川神院、由紀恵は島津寮へと帰っていく。そんな中、大和だけは多馬川の川原に一人佇んでいた。
「……まだか来ないか」
ケータイの画面を覗きながら呟く。彼がメールをし、その返信を待つこと約二十分が立っていた。送った相手の事を考えるなら五分五分だったが、内容を踏まえるなら『来る』確率の方が高い。しかしそれも自身の予測と勘がおおいに含んでいた。
日を改めるか。と、時間的にも気持ち的にもギリギリだった大和は後日に改めようと思い、その旨を伝えるメールと送ろうとした。そして指がキーを打ち始めようと動く。
「―――よぉ」
その時、返事を待っていた相手の声が後ろから聞こえた。
大和はメールと打とうとした指を止め、ケータイをしまう。しかし振り返らず背を向けた状態で一言。
「来るならメールで返してくれよな」
「悪いな。下手に傍受されるのは避けたかったんだ。あと、尾行も避けてここまで来た」
出だしから中二病全開。思わず話を合わせる為にそのスイッチを入れそうになった大和だが、ここは川原なので下手に知り合いに観られるのを避けて留めた。ただし話には合わせることにした。
「それなら仕方がないな。俺ももう少し気を付けるべきだったな」
「今さらいいさ。――それで、健美についてだったな」
「ああ、ある人から気になる事を言われてね。大事になる前に色々と聞こうと思って」
ここで大和は振り返り、彼と目を合わせて率直に伝えた。
「お前なら何か知っていると思って呼んだ。だから教えてくれ、与一」
健美の件について与一は思いのほかあっさりと承諾した。しかし川原では話す気はなく、話すなら大和だけとする条件であった。
それに大和はちょうどいい場所あることで二人そこへ向かった。そして到着したのは一件の喫茶店だった。
「ここは?」
「結構穴場の喫茶店だよ。ただ席は小さいから集団向けじゃない、一人か二人組のお客さんが多いんだ」
「つまり、コソコソ話すならちょうどいい場所か」
「そう言う事。前に確認したけどここの店長さんはそれを含めて今の形にしたらしいよ」
ちょっとした隠し情報を教えると二人は喫茶店の中に入っていく。内装は大和が言った通り二人が向かい合って座れる程度の机や壁向かいのカウンター席が多かった。見てわかる様にコソコソ話すにはうってつけな喫茶店だった。
二人はここで適当に注文を取り、テーブル席ではなくカウンター席に座った。テーブル席ではないのは、面と向かって話せない事でも話せるようにするためである。
「まず何から話せばいいんだ?」
「とりあえず先に与一が色々話してほしい。その後に俺が質問をする」
それに与一はわかった、と答えてそのまま話へと入っていく。
「最初に教えておくと俺たちと健美は最初から一緒だったわけじゃない。一緒になったのはだいたい十年前からだ」
「そうなのか?」
「ああ、葉桜先輩は最初から一緒だったが健美は違うんだ。元々、健美のオリジナルは偶然と言える発見だった。いわゆる『想定外』なのさ」
『想定外』の言葉に大和は眉を顰める。九鬼がクローンを生み出す際にどんな技術で、そしてどんな素材で生み出したのかまったく知らない。想像できるのはオリジナルの遺伝子から作り出す事だろう。それを踏まえ、健美の遺伝子が偶然で見つかったなら最初から与一たちと一緒ではなかった理由もなんとなく理解できる。
「今、健美が偶然見つかった英雄だから最初からいなかったと思ってるだろう? だが実際には違う」
「違う?」
「健美は俺たちの一つ下の学年だぞ。その程度の年齢差で別々にする理由にならねぇ。これについては別の確信がある」
「確かに。で、確信って言うは?」
「俺は一緒になる前の健美を見かけた事があるんだ」
大和は思わず与一に顔を向けてしまう。しかし与一は口を閉ざし、ここから先の話をしなかった。この対応に大和はすぐにその理由を察した。
「その後の話はダメか?」
「ダメって事はない。健美はお前に懐いているし、そしてお前自身はあいつを心配して俺に話を聞こうとしている。聞く資格はある」
「他言無用とか、そう言うのを条件でか?」
「察しが良いな。で、お前はそれが出来るか?」
与一もまた大和へ顔を向けて尋ねる。
これに大和はそれだけ重要な話である事を察し、その上で黙って頷いた。
「……わかった。お前を信用する」
そして二人は互いに顔を背けて話を再開した。
「あの日に遭遇したのは本当に偶然だった。俺は闇の囁きを聞き、夜中の外へと飛び出した」
(十年近く前から中二病だったのか、こいつ……)
話の最中、そんな事を思う大和だった。
「そして俺は囁きに誘われるまま向かうと九鬼の施設らしき場所に来ていた」
「そこに健美ちゃんがいたのか?」
「いや違う。その施設の外だ。施設を見つけた後、その近くに騒ぎの音を聞いて俺はそこに向かった。そしてそこに健美がいたんだ。―――焦げて倒れた木々と九鬼の研究者たちの中心に、な」
大和は思わず息を飲んだ。出会い、今日までの健美からでは想像もつかない事に受け入れがたいと思ったからだ。
「それからしばらくした後で知った事だが、その時の健美は精神が人より動物に近かったらしい。だからこそ不安定で、それを克服するまでは俺達と別々だったんだ。俺が見たのはそんな時で、感情が暴走して起きた事態らしい。そんな中、研究員の一人が叫んだ言葉を聞いた」
大和は何を、とは聞き返さない。聞き返さず、与一が告げるのを待った方がいいと思ったからだ。
対して与一はその研究員が言った言葉を、不快そうに教えた。
「―――この化物、と聞こえたんだ」
その時、大和の中に憤りが燃え上がるのを感じた。驚きよりその感情だったのは無意識であったが、大和は静かに抑え込む。ここで安生を爆発させても無意味だからだ。
「その後は他の研究員がやってきて健美を眠らせて回収していた。俺がいた事は気付いてなかったみたいでな、そのまま帰る事が出来た。健美と一緒になったのはそれからしばらく後だ」
「……その時の健美ちゃんはどんな感じだったんだ?」
「今よりは大人しかったな。そしてその時の俺は自分でもわからないくらいにあいつを気遣った。その結果、一番あいつに懐かれているってわけだ」
ここでようやく話に一区切りがついたと言う感じであった。
ここまでの話、大和はどういった質問をしたらいいのかと少し悩む。しかし一つだけ、話を聞いていて聞きたい事があった。
「与一は、健美ちゃんが誰のクローンなのか知っているのか?」
「まぁな」
返事はあっさりと貰えた。話の中で正体を知った部分はなかったが予想する限りだと健美と遭遇した時か、その後に調べたかの二つに一つだった。しかし今はそこまでの詮索をする気はなく、正体が重要な所だった。そして恐らく健美が『化物』と呼ばれた一因だと考えていた。
「そこは教えてくれるか?」
「ダメ、とは言えねぇか。いつかは明るみに出る事だが、今教える訳にはいかない。ヒントぐらいまでだ」
「それで十分だ」
「わかった、教えてやる。―――ヒントは北東、南東、南西、北西だ」
それは四つの方角のキーワード。あまりにも曖昧すぎるヒントであり、大和もそれが何と繋げているのかわからなかった。
「俺が答えられるのはここまでだ。それと、話せることもさっきまでの事で全部だ」
「いや、十分だ。ありがとうな、与一」
大和が礼を言うと与一は席を立つ。また顔を向けると与一の頼んだドリンクはすでに空であった。よくよく確認すると自分が頼んだもののいつの間にかほぼ中身がなかった。思っていた以上に時間が経っていたようだ。
話はここまで。そういう事であった。
「直江大和」
しかし立ち上がった与一はすぐにさよならとは行かず、大和の目を見て告げる。
「健美の事、絶対に泣かすんじゃねぇぞ」
それは冷めた与一には似合わない、熱い言葉だった。そして彼はそのまま去ることなく、大和を睨み続ける。これは返事を待っている大勢だった。
少し気圧された大和だったが、返事はすでに決まっていた。
「そんな事は絶対にないし、させない」
一片の戸惑いのない返事だった。それを聞いた与一は大和から視線を外した。
「その言葉、忘れるんじゃねぇぞ」
与一は自分のグラスを持って席を離れていく。
大和は去っていく与一を目で追うことなく、残った自分のドリンクを飲み干す。これからの先を思い馳せながら。
(そう言えば……)
そんな時、大和は来週に行われる行事を思い出していた。それは川神学園夏の名物。名前は。
「もうそろそろ水上体育祭が始まるな」
またひと騒動が起きる予感であった。
お久しぶりです。資格試験に月末月初の作業、季節の移り変わりによる風邪などと色々とありましたがなんとか投稿できました。でもまだ喉が痛いです、はい。
今回は健美の正体について一つのヒントを開示しました。まぁじれったいと思うヒントと思いますが、どうか長い目で待ってください。
そして次回は『水上体育祭』の回になります。一つの投稿で収まるかまだ分かりませんが、楽しみにしてください。
それではまた次回に。