真剣で私に恋しなさい!S~鳴く少女のマジ恋!~ 作:Celtmyth
あらすじ
『
一回戦から強敵、弁慶と辰子のデス・ミッショネルズの試合。欣喜雀躍の二人は相手に連携を取らせないためにそれぞれが一人に集中する戦いを取った。
健美は姉貴分である弁慶との対峙した。二人は全力で、まさに力と根気のぶつかり合いだった。全力だったが、その決着はすぐについた。
勝者は健美。一つの壁を乗り越えた瞬間だった。
』
健美たちの試合に続く試合も白熱したものからあっさりとしたものまで。しかしどれも目が離せない試合であった事は共通している。
「………スピィ」
「ふむふむ」
しかし健美はそんな試合を観る事無く、毛布を被って昼寝の最中だった。まぁ試合の観戦、他チームの情報収集は燕の方が得意であるし、現に彼女はテレビに映る試合風景を見ながらブツブツと呟いているのであった。
こうして二人が別々な行動をとっているのは理由がある。燕はともかく、健美は最初の試合から全力であった。試合時間、打ち合った数が少なかったがそれは結果として全力を出し切った短期決戦の結果である。そしてその勝利に見合うだけの体力と気を健美は使用し、最後まで勝ち抜くには難しいほどのものであった。故に健美の睡眠は消費した体力の回復が主な目的。百代を倒す事を目標として参加している燕にとっては頭を下げて頼みたい事でもあったので次の試合までの行動を全て任されたのだった。以上、欣喜雀躍からの報告でした。
そしてそんな二人、健美を見守る様にしている視線が三つ。一つは義経、もう二つは与一と清楚のものであった。
「ぬぅ……」
「声かけづらい、義経?」
「……うん、健美が勝ったのは嬉しいが弁慶が負けたのは残念だから少し複雑なんだ」
「でも今は寝ているから大丈夫じゃない?」
「えっと、起きた時に声をかけようかと……」
「しょーもない」
「あうぅ」
源氏愚連隊は特に深刻な様子ではなかった。しかし片方、桜ブロッサムは複雑な空気を漂わせていた。
「えっと。大丈夫与一くん」
「ん、ああ。八つ当たりで姉御にラリアットを喰らったダメージなら回復したっす」
「そっちじゃなくて、健美ちゃんの方。気になるんでしょ?」
「……確かにそうっす」
与一にしては珍しく素直は返答であり、清楚も予想外だったようで驚いていた。長い付き合から与一が健美の事を気にかけていたのは知っていたが、それを話題にするとそっぽを向かれることが多かった為、こんな反応は初めてだった。
「私の方から聞いた事だけど、今日は素直だね」
「そうっすね。でも闇からの囁きから、今日が運命の日になるんだって思ってます」
「???」
清楚さんに中二病ネタはわかりませんよ与一くん。
「……俺も一つ、正面から向かってやるか」
「え?」
中二病ネタがわからず頭を捻らせていた清楚を余所に与一が何かを決意し、そのまま欣喜雀躍へ近づいていく。
「与一くん、何を――」
「ちょっと頼みごとっすよ。なに、先輩が心配する事じゃないっすから」
詳しいことを言わずに与一はさっさと清楚から離れ、そして欣喜雀躍――燕の前に立った。
「ん。何か用かな、与一くん」
「ちょっとした頼みごとっす。二回戦、俺と健美だけに戦わせてくれませんっすか?」
今さらだからここで報告。両チームは第二回戦の対戦チーム同士だった。
時間が流れるにつれて試合は順調に消化されていく。チームは半数以下となり、それに呼応するかのように観客たちの熱も上昇し続ける。そして二回戦第一試合も終え、第二試合が始まる。
「さぁ、二回戦第二試合は欣喜雀躍と桜ブロッサムの試合だ! 欣喜雀躍の夜響選手にとっては二連続になる英雄対決! もしこのまま順調に進めば源義経選手との衝突もあり得る話だ!!」
高い熱も持つ観客を煽るかのように一つの期待を叫ぶ。それに同意する観客はほぼ全員であり、歓声が大きく響く。クローン同士の戦い、それなりに興味深い組み合わせなのだろう。
「では両チーム、前へ」
そして試合も始まりを迎えようとする。
「健美、話は聞いているか?」
「……ピュイ」
向かい合った両チームの、クローン同士の二人が言葉を交わす。健美は燕から与一の提案を聞かされていたので素直に頷いていた。
「ピピ」
「ん、確かにあっさり受けて貰ったよ。今さらが松永先輩、何か裏でもあるのか」
「いやいや、ないよ。でも強いて言うなら一回戦の二の前はしないってくらいかな?」
「えぇっ!? それって私を警戒してるって事じゃない」
「そんなつもりもないって」
燕は笑顔で否定し、清楚はとりあえず彼女の言葉を信じる事にした。しかし振り返れば突撃してきた小杉を壁にめり込ませるほどのカウンター、多くの者は気にしていないが彼女の正体はいったいなんであろうか?
「まぁ何でもいいっす。それと、決着は一撃で決める。それでいいな、健美」
「ピ」
二人が応じ、そして燕と清楚がそれぞれの後ろへと控える。田尻や観客たちは何かとを傾げるが、そこへ与一が口を開く。
「気にしなくていい。一回戦と同じ流れだと思ってくれりゃいい」
「そうですか。―――では二回戦第二試合、開始っ!!」
良いと言われたすぐに試合を開始した田尻。『いきなりかっ!!』と思う声が要所要所に聞こえるが戦う当事者たちは慌てず、むしろ静かすぎる動きだった。そして両チームは静かに距離を取り、そして健美と与一が向き合った。
「――――行くぞ、健美」
「――――うん、いく」
ここで観客は健美が言葉を発した事に驚いた。しかし試合に臨む、と言うよりステージ上の面子は気にしていない。健美と与一はそれ以上に、相手の事しかない。
「ふぅ………」
与一は弓を構え、矢を添えて弦を引く。第一回戦で由紀恵と相対した流れだ。
「ピュゥゥゥ……」
健美はスタートダッシュようなの体勢をし、両手両足に稲妻を走らせる。由紀恵のように集中して最高の一手を打つ狙いだ。
これでこの試合は桜ブロッサムが一回戦で見せた状況の再現となった。しかし『またか』と思う者はいない。『次は那須与一が射抜くのか?』『もしかしたら夜響健美が勝つのか?』と言ったまた違う結果を見せてくれるのではないかと言う期待を抱いていた。
時間は静かに、両者の一撃を高めながら流れていく。由紀恵の時は小杉を気遣った事で事態が動いたが今回は両チーム、相対する二人の気迫に圧させる心配はない。動くとしたら健美と与一、どちらかが必勝を確信できる最大の力を貯め込んだ瞬間―――。
「―――――」
与一が先に最大の一撃を完成させた。いつものような口上はなく、弦の音だけを響かせた。放たれた矢はまっすぐ、動かない健美の眉間へと飛ぶ。
命中まで残り5m、3m、1m、80cm、60cm、40cm、30、20、10、5、4、3――
「―――――ッ!」
しかしここで健美の気が一気に高まった。与一に遅れながら、彼女も最大の力を完成させた。両手両足の稲妻が膨れ上がり、落雷そのものの音を立てる。
その光と速さに惑わされない目を持った者はそれを見た。雷が獣に似た形をした事を。
与一の弦が響き、健美の稲妻が轟いたのはコンマの差である一瞬。一般人には見ることが出来ないその一瞬を見ることが出来たのは武道家たちのみ。そして見えた見えなかった者たちは決着のついたステージに注目する。
二人はすでに真正面ではなく、背中合わせのような位置となっていた。与一は弓兵であるため最初の場から動いておらず、健美が彼の後ろに移動したと見て取れる。であれば勝敗は決まってる。
「……よくやった」
与一はそう言い残して仰向けに倒れた。健美はまさに目と鼻の先にあった矢を凌ぎ、一撃で与一を沈めた。
「勝者、欣喜雀躍!!」
田尻の宣言により勝敗が決まった。どんな決着だったのか知らない観客たちだったがそれでも高いレベルだったと思う。
勝敗が決した後、健美は糸が切れたように膝を着いた。
「健美ちゃん!」
そんな彼女に清楚が駆け寄る。敵同士であったが勝敗を決した今ではその行動は許される。彼女は身を低くして健美の様子を窺うと、彼女が大量の汗を流していた。
「もしかして、ギリギリだったの?」
「……ピ」
弱々しい返事だ。あの一瞬はまさに全力の一瞬だったのだ。それを知って清楚は、その理由を知りたくなった。
「どうしてそこまで戦うの? 別に負けたってちゃんとすれば誰も非難しないのに」
「だめ」
「え?」
「かつ。ここで、かつ」
理由は『勝つ』。しかしただ言葉通りの意味で捉えるのは違うと清楚は感じた。もっと何か、ここでの試合よりも大きな何かに勝とうとしているのではないかと。
そんな考えに至ると、清楚はこう告げた。
「……最後まで、見守るね」
彼女はそうする事にした。可愛い妹が、何かを為そうとしている。それがなんなのかわからない。もしかしたら間違っているのかもしれない。でも、それがハッキリとわからない今はただ見守っていきたいと思えた。
――欣喜雀躍、二回戦突破。
一瞬で終わる戦いの表現は難しい。それだけです。
今回は多く語らず、次の投稿に向けて励みます。