真剣で私に恋しなさい!S~鳴く少女のマジ恋!~ 作:Celtmyth
あらすじ
『
ついに来た武神・百代との試合。優勝した健美と燕は彼女と戦えるエキシビジョンマッチに堂々と臨む。
燕は初めての全力で、健美と共に百代へと向かっていた。最初こそ拮抗した戦いを見せたがやはり実力差は広く、すぐに劣勢となり燕は戦闘不能になる。
残ったのは健美一人。しかし彼女はこの試合ですべてを見せた。本気だけではなく本性を。その姿を。その正体を。
彼女は、鵺としてすべてを出し尽くす。
』
きっかけは、二十年近くも昔に見つけ出された一通の文だった。当時、クローンの遺伝子を探すため数多くの調査と発掘が行われたたが、この文が見つかったのは偶然であろう。何せどこでもある様な大岩の下を、ふざけた調査員が気分転換と称して掘り出したのが原因なのだから。そして文にはこう書かれていた。
――この文を見つけた者が人知を超える術を持つ者として、ここに眠る者について伝える。
――ここに眠る者は英雄としての才を持ちながら、人としてある部分を欠落した為に英雄になれなかった者である。本当の名前を知られず、ただ恐れられて見向きもされなかった不幸を持つ。
――儂が見つけた時には虫の息であったが、この者でなければ死に体になっていたほどだった。その後に儂はこの者が何者かを知り、それを知った上で儂はこの者を匿う事とした。幸いにこの者は“京”で死んだものとされ、誰に知られることはなかった。
――それから儂たちは密やかに暮らし、ただただ静寂な日々を送っていた。しかしその暮らしを続けてゆくと儂はある事に気付いた。この者は強者の、武の才とある才を備えた者だ。それこそ歴史に名を残し、英雄かと呼ばれるに相応しいほどに。そして、“京”で怪物と呼ばれても仕方がない事に。
――儂は思った。もしこの者に機会があれば英雄となり、誰かに感謝されていた事を。本当は怪物と呼ぶには、この者は無垢であったと。そう考えると私はこの者の不幸に悲しんだ。どうしてこの者は怪物と呼ばれなくてはなくてはならないと。
――そんな儂に追い打ちをかける様に、その者は死に体になってしまった。元々、虫の息だったのだ。すでにこの者は天命を迎えていたのだと。儂は、声を挙げて泣いた。
――悲しみ、泣き叫んだ儂はこの者をこの場所へと葬った。しかし同時にある思いを抱いた儂はこの文を遺した。遠き先でも残る様に石に彫り、風化せぬように布を巻き、解けぬように蜜で固めたこの文を。
――もし叶わぬならそれもいい。しかし叶うならどうか頼む。この者を、英雄にしてほしい。誰からも認められ、そして強くあれる様にしてほしい。
――この者、“京”で恐れられたこの鵺を
きっとこの瞬間は、彼女の物語は始まった瞬間だった。
会場から発生した雷は太陽よりも光り、視界を真っ白に染め上げる。加えて雷命が轟き、一切の音も遮断する。まさに雷が昇ったと例えてもいいほどに。
そして自然界の雷よりも長く鳴り響いて消える。その中に、健美はいた。
「……燕以上に奇抜な姿になったな、健美ちゃん」
真正面から向かいう合う百代が、そして離れた観客の全員もその姿に言葉が出なかった。
両手両足は雷が網目状に巻かれて指先で伸び―――それはまるで虎の四肢のようで、
体は雷が鎧のように覆われ―――それはまるで猿や狸の体毛のようで、
極めつけに尻尾のようなものまで―――それはまるで蛇の様だった。
「妖獣、雷来」
全ての注目を集める健美が技らしき名前を呟く。しかしその言葉を聞き届けた者は少なく、多くが彼女の姿に困惑していた。しかし知る者は知っている。この姿はまるで平安時代の妖怪・鵺だと。
しかし今は試合中。であれば百代はこれ以上の停止はしなかった。
「まぁ何だっていい。どんな姿でもそれが健美ちゃんの本気なんだろ。だったら全力でぶつかってこい。この私が――」
「油断」
百代が『かかってこい』と言っている言葉を紡いでいた途中で、健美が彼女の目の前にいた。百代が認識することなく、離れた場所から目の前までに。
「は―――――」
ようやく認識して、しかし百代はその時すでに一撃を貰った。顔ではなく頭の横に裏拳を受け、倒れるではなく殴られた方向に向かって飛ばされた。
この時、観客は驚きの連続となった。あの“武神”が投げ飛ばされるなど、想像もしない光景だ。そんな事が出来る人物などそれこそ化物だ。つまり、健美はその化物の域にいるのだと。
『ぶ、武神が殴り飛ばされた―――――!! あまりの驚きの連続にこの私も言葉を失って今いました!』
ここで田尻の実況が再開する。さすがの彼も健美の変貌には言葉を失い、しかしあまりにも驚きが連続で来たので我を取り戻す。
『しか―――しっ、武神もこのままで済ませる筈はない!!』
そしてその言葉は正しい。ステージの闘氣は衰えず、むしろ膨れ上がっている。その中心である彼女、百代は健美を見ていた。
「今のは効いたぞ、健美ちゃん」
「そうは、見えない」
「と言うかさっきから普通に喋っているな。そのせいか?」
「活性化して、いつもより、早口」
「早口なのか、それ。でも今はそんな事はどうでもいい………どうでもいいんだよ!!」
彼女は歓喜した叫びで健美へ向かっていき、拳を振るった。迷いなく自分が当てられた箇所を狙ったが、健美は紙一重へ避ける。空振りになった拳は空を切り、途轍もない突風が吹く。
「ハハッ、避けた避けた! ならこれはどうだ!!」
百代は先ほどの一撃よりも速度を上げ、しかし威力を下げず連続攻撃が始まる。
「―――迎え撃つ」
その連続攻撃に健美も同じく連続攻撃で迎え撃ち始める。同じく拳で、迷いなく百代の拳とぶつけ合う。
拳と拳のぶつけ合いは凄まじかった。重い音の他に健美からは雷が弾ける。それが目には見えない速度で行われている為、周囲はただ雷が持続的に発生しているしか見えない。それが十数秒、打ち合った拳の数は数千発以上。そこで健美の方が吹き飛ばされた。この直前、健美は打ち合うのを止めて踏ん張ることなく一発を受け止めてた事であえて吹き飛ばされたのだ。
吹き飛ばされた健美は空中で手足の雷、爪に見える部分を肥大化した。
「極光斬、改め、極光刃。連続版」
体をランダムな方向に回転しつつ、伸ばした爪からブーメランに似た雷が数多放たれる。
「そんな技ならこれをくれてやる!! 星殺し!!」
それを百代は一つ一つ落とすのではなく、極太のレーザーで丸ごと飲み込んだ。彼女らしい選択であり、健美にとっては危機的状況。
しかし健美は空中にいるのも関わらず『星殺し』から逃げるように、見えない手が彼女の体を引っ張ったかのように移動した。この時、健美は雷を応用で磁力を生み出し、それを利用して会場の観客席に使われている鉄骨に自身の体を退き寄せた。さすがにステージの外に出てしまったが足に地面に付いた瞬間、すぐに戻ったのでカウントがあっても問題ない。
「雷迅、覚醒版」
そして健美は攻める。その技を呟いて一歩、その後には姿を消していた。
百代は姿が消えた健美を探そうとして――それは必要ないと判断するとすぐにやめた。気配はこのステージ上から消えていないし、健美も気配を遮断している訳ではない。ただ速すぎた。恐らく文字通り世界が違う場所に。
「グッ!」
その時、百代は首の後ろで衝撃を受けた。なんだ? と思うのは愚かだ。その衝撃は健美の一撃だ。ヒット&ウェイを極端にしたような一撃。当てて離れたとわかる程の単純なスタイル。ただ見えないだけ。
そしてその攻撃は続く。首の次は腹。腹の次は背。背の次は右腕。規則性もなく百代の体に衝撃が与えられる。軌跡すら目に映らない速度の為、観客の目には武神が見えない攻撃を当てられているしか映らなかった。
「だったら―――川神流・人間爆弾!!」
見えぬなら、と判断した百代はこの試合二度目の人間爆弾を使った。周囲を巻き込む自爆技。周囲を巻き込むのなら、ステージ上であればそれは必中。その証明は自爆後、煙の中から健美が現れた。その体に焦げ跡を目立たせながら。
「……くぅ」
そしてそのまま苦しそうに膝を付いた。
「あの馬鹿、まともに受けるからそんなにダメージを貰うのだ」
その時、ヒュームが呆れて酷評を口にした。
「どういう事だヒューム?」
「健美のあの『妖獣雷来』は雷を纏い身体能力全般を底上げする技は大きな弱点があります」
「感覚も鋭くなっている、ではないか?」
「ご明察です。感覚は視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五つであり、健美はこの五つも格段に上がっています。そしてあの雷は特に触覚と強く結びついています。しかしそれは直接攻撃・雷の断絶や乱れを起こすと数倍の痛みが走るのです。つまり――」
「ただの攻撃でも大ダメージ。それが武神の攻撃であればそれ以上か」
メリットがあればデメリットも存在する。健美の今の状態はまさにそれだと言う事を理解した。恐らく百代と拳の打ち合いをしていた時点でかなりのダメージを受けており、そして『星殺し』も必死で避けたのだろう。だからこそ九鬼の三人は束の間ほどに思う。
このままでは勝てないのではないのか、と。
そう思わせる程の健美が抱えているハンデ。それで勝とうなど無謀にも等しかった。
しかしヒュームはそうとは考えていなかった。
「しかし武神はここで負けを得るでしょう。あやつはすでに罠に掛かっておりますから」
ヒュームの言葉に三人は疑問を向けるが彼は答えない。いまはただ試合を見守って下さいと沈黙で伝えていた。
『妖獣雷来』によって百代に匹敵する力を得た健美だったが同時にダメージ倍加のデメリットによって体力の限界に近づいていた。しかしそれで気力で立ち上がる。対する百代はすでに瞬間回復を使って完治していた。
「なかなか効いたぞ健美ちゃん。だが人間爆弾でそれだけのダメージ、その姿の弱点だな」
ここで百代もそのデメリットに気が付いた。それは底の見えた寂しさであり、ここまで楽しませてもらった喜びだった。ここで終わりにしようと決めるには十分だ。
「勿体ないが、そろそろ終わらせよう健美ちゃん」
「……そ」
終了宣言を告げられると健美は四つん這いとなり、更に雷を激しく鳴らす。彼女も次で決着をつけるつもりであった。
「最後、行く」
「ああ、来い!!」
二人は同時に蹴り、真っ直ぐ正面から距離を詰める。そして二人の拳がぶつか―――らなかった。
「っ!?」
百代は間違いなく健美を捉えて拳を放ったが、それが空を切った事で集中が乱れる。乱れなければ健美がタイミングをずらす為に尾で急ブレーキをかけて一歩遅れていた事に気付けていた。しかし対処するにはすでに遅く、健美が懐に潜り込みそのまま百代の体を真上に蹴り飛ばした。
二度飛ばされた百代。そして健美もそれを追って跳び上がる。今度こそ二人は真正面から衝突し、互いに互いの両手を受け止める。
「空中戦か!! だがそれで私に勝てるなんて思ってないだろうな!!」
百代は空で決着を付けようと思った。しかし対する健美はこう答えた。
「欣喜、雀躍」
呟かれたのはその言葉。それは健美のチーム名だった。百代は何故今さらここでチーム名を言うのかと、
「っ!? まさかっ!!」
百代はすぐにステージの上を見下ろす。
そして彼女は立ち上がった燕の姿を目撃した。
「私の回復は二回。だからまだ一回残っていたんだよ」
百代と健美の戦いの最中、燕は密かに体力を回復してこの瞬間を待っていたのだ。
「最初は大和クンに近づけなかったから情報が引き出せなくて焦ったけど、まさか健美ちゃんがここまでやってくれるとはね。約束通りこれからしっかり手を貸してあげなくちゃね」
この勝機を与えてくれた幸運の女神――妖怪だから正しいかは不明――の為のお礼を考えつつ、切り札を使う。
「行くよ健美ちゃん!!」
『フィニッシュ!』
燕の姿を確認して間もなく遥か上空から何かが落下し、それは健美と百代の横を通り過ぎていく。
「くっ―――」
「逃がさない」
百代が手を振りほどこうとしたがそこに健美が放電して攻撃する。この一瞬に百代の体は痺れ、その隙に健美が動いて彼女の背後に回る。
「雷、落とし」
そして踵落とし。しかし雷を纏ったその技は接触の瞬間に雷が天に昇って行ったのでまさに雷が落ちたような光景だった。その一撃を受けた百代の体は急降下する。その軌道は健美と燕が挟む形だ。
このままでは危ない。そう判断するにも先ほどの一撃は大きくダメージをもたらしていた。なら使い技は一つ。『瞬間回復』だ。
「瞬間回復――――なっ、回復しない!?」
しかしその技は使えなかった。燕の電撃、健美の雷はしっかりと百代の体に蓄積して気の流れを乱していた。しかも健美の先ほどの技はその蓄積した雷を一気に解放して瞬間回復どころか他の技もほぼ使えない状態だった。
もう、詰んだのだ。
「最大、出力」
「いっけぇえええええ!!!」
健美の轟雷が、燕のエネルギー砲が百代を挟むように放たれた。雷光と黒色のエネルギーがぶつかり合い、そして大爆発する。
煙が晴れるとそこにいたのは倒れる百代、腕を掲げる燕、そして『妖獣雷来』を解除して無事に着地した健美の姿だった。
「そこまで!! 戦いを制したのは松永燕選手と夜響健美選手だ!!」
田尻の言葉が決着を告げた。
どうも、鵺として戦い始めて決着まで。最後の最後まで燕さんがいました。さすがは智将、油断ならないですね。はい。
そしてここでタッグトーナメントは終わり、そろそろ健美の未来も決定する時期です。もう少しお付き合いください。
ではまた次回に
※ちなみに妖怪嫌いの百代が健美と戦えたのは彼女があまり妖怪画を見ない方あり、何より物理で殴れると判断したためです