真剣で私に恋しなさい!S~鳴く少女のマジ恋!~ 作:Celtmyth
あらすじ
『健美は与一と一緒に登校していたがその時、義経が荷物を奪われてしまう。それを与一と共に阻止する。与一は弓術で倒し、健美は氣で荷物を取り返した。その場にいた皆がその実力を目の当たりにした瞬間だった。』
カリカリカリ……
川神学園から帰宅中した健美は書く音を鳴らしながら1人勉強をしていた。彼女がやる順番は決まって宿題、復習、予習だ。そしてこれを90分で区切りをつけている。
そしてその90分がたった今過ぎた。
「ヒュゥゥ……」
ため息でさえ鳥の声に似ている。風に乗せるが如く、笛の音に近い声だ。
「………」
健美は机上の片付けながらこの後の時間をどう使うか考える。鍛練するもよし。義経たちのところに行くのもよし。空を眺めるのもよし。思いつくものはたくさんある。しかし思いついても、『これがいいと』思えるものはなかなか出なかった。
「ピィィ……」
机上の片づけが終わった頃に健美が力弱く鳴く。これと言ったものが決まらず、かといって何もしないと言うのはもったいない。『何かしたいけど何も思いつかない』状態が健美の気持ちを落とし込んでいた。
そんな時、廊下からこの部屋に向かっているような気配を感じた。
「?」
誰? と言わんばかりの顔で健美は扉に向かう。そして近づく気配で相手がこの部屋に向かっていると確信を得ると先に扉を開けた。
「おおう。また先を越されたか」
「ピ?」
「その通り。我、紋白であるぞ」
部屋にやってきていたのは紋白であった。そして先ほどの返事を聞く限り、彼女も健美の言いたいことが理解できているのだろう。
「ピュイ」
「確かに用はあるぞ。少し話に付き合って貰いたいのだが、良いか?」
紋白はどこかうずうずした様子で健美の返事を待つ。
健美は紋白からの誘いにどうしようかと思ったがちょうど時間は開いているし、しかも何をしようかと悩んでいたところだった。であれば答えはわかり切っていた。
「ピィ」
「おお、付き合ってくれるか。ではすぐ一緒に行けるか?」
「ピュイ」
「そうか、では行こうか」
そう言って紋白が手を出す。健美はその手を迷うことなく握り返し、そして二人は並んで移動を始めた。
健美は紋白の部屋に連れてこられ、そこで義経たちの歓迎会兼誕生日会を行う事を告げられた。
「ぷぴ?」
「健美、カルピスを飲みながら喋るではない。ストローでも行儀が悪いぞ」
「(チュルッ)ピ?」
「うむ、義経たちの歓迎会を今度の金曜にやる事となった。幹事は2-Fの直江大和。お前も知っているあやつだ」
ストローから口を離して改めて返事をした健美に対し、紋白は歓迎会の幹事を大和が行う事を伝えた。すると健美の髪が二度上下に動いた。
「それで健美、お前にもその準備を手伝ってほしいのだ」
「ピュイ」
「『やる』、か。即答であるな」
「ピー」
「『何をやればいい』とは、やる気が十分であるな。しかしこの件は幹事である直江に聞くと言い」
「ピィ」
やる気満々の健美は軍隊形式の敬礼で答える。カルピス片手なので微笑ましい。
「うむ、頼むぞ。――と、我はそろそろ鍛錬の時間だ」
「ピィ」
「すまぬな。我から誘っておいて」
「ピピ」
「フハハ、そう気を遣ってくれるとは有り難いな。では我は行く。歓迎会の件、よろしく頼むぞ」
「ピ」
健美は再び敬礼で答え、それを見た紋白は上機嫌に部屋をあとにした。
「……(チュルルルルル……)」
そして健美は残りのカルピスを黙って飲むのだった。
「……けぷっ」
結局もう2杯もお代わりをして部屋をあとにした健美。グラスなどは自分で運んで自分で片付け、あとの作業は従者部隊の人に任せていた。
さて、今度は何をしようか? と言った風情で歩きながらキョロキョロと顔を動いていた。
「どうやら暇しているようだな」
その時、健美が背後から声を掛けられた。足を止めて振り返ると、そこにはヒュームがいた。
「ピ」
「……相変わらず驚きもしないが、まぁいい。健美、今日技を使ったな?」
ヒュームが言っているのは『雷迅』の事だった。それに健美はオクリと素直に頷いた。
「そうか」
「ピュイ?」
「問題があるかだと? 問題はないが、不用意に技を使うな。下手をすると機が熟す前に正体を知られることになる」
「………」
ヒュームがそう指摘すると健美は黙り込んでしまう。しかしそれに構わず話を続ける。
「お前が英雄として認められる条件は覚えているな」
「……じつりょくと、な」
「そうだ。ただ強くても多くの人間がお前を知り、認めなくてはならない。もしこれを怠るならお前は、前のお前と同じように英雄としては見られないだろう」
「………」
「だから不要に技を使うな。でなければお前は――」
「なーにしてんだよ」
二人の会話に、第三者の声が割って入り込んだ。健美とヒュームが振り返るとそれは与一だった。
「……っ」
その姿を捉えた健美は彼の傍に駆け寄り、そのまま抱き付く。その体は、触れてわかる程に震えていた。
「ったく、序列0番の趣味がチビッ子いじめとは感心しねぇな」
「俺はただ忠告しただけだ」
「忠告だったら数年前の件
「そう言えばお前はあの現場にいたな」
「まぁな。言っておくが義経たちには言ってねぇぞ」
「ほぉ。賢明な判断だな」
ヒュームの眼光と与一の眼光が合わさり、ぶつかる。特に与一はいまだ震える健美の頭に手を乗せていた。
「……まぁいい。だが余計な手間は掛けさせるなよ」
「ふん。さっさといけよ」
ヒュームは返事をすることなく姿を消した。そして彼の気配がなくなると同時に与一の緊張が解けた。
「ふぅ~。あのジーさん相手によく言えたな、俺」
自分で自分を褒めた。相手は従者部隊最強の執事に対してあそこまで言えたのだ。十分に誇れる事だった。
「っと、大丈夫か健美」
震える健美を落ち着かせるように声をかけ、頭を撫でる。すると健美の震えが徐々に治まり、最後には消え去った。
「……よ、いち」
「名前で呼ばれるのは久しぶりだな。ったくヒュームが。今朝に覚悟を確認したってのに、追い詰める様な真似をしやがって」
「キュゥ……」
与一のセリフに健美が一層抱き付いてくる。
「あー、すまん。また怯えさせちまったな」
自分のせいで再び不安にさせてしまった事を反省し、また健美を落ち着かせた。
「でも今朝も言っただろ。不安でもいい。どんな道であってもお前次第だってな」
「……クピ」
「だから健美、お前らしく英雄を目指せ」
与一の言葉が、強く心に届いた。
健美は与一から離れ、見上げて目と目が合う位置にまで後ろに下がると満面の笑顔を見せた。
「ありが、と」
「……礼はいらねぇよ」
と言いつつ、与一は目を逸らして頬を染めていたので照れているのは見てわかる程だった。
今回は健美はいつもよりしゃべり、与一がちょっとかっこいい話でした。
前回の話から見てわかるように、健美は与一に懐いています。いわゆる「兄なら妹を守る」系の感じです。それに原作を見ていても、『与一ってなんだかんだ言いながら弟とか妹とかは面倒みるタイプなんじゃないか』と言う妄想があります。弁慶に酷い目合わされるから、その反面教師的に。
そして次回からはあの人が絡んできます。お楽しみにしてください。
それと『数年前の件』は健美の正体にかかわることなのでまだ先になります。