僕がここで働き始めてから、1ヶ月が経過した。
あの後、自分の部屋に案内されてベットでぐっすり眠った次の日から数日、宗弥さんと裕子さんの2人にいろいろと教えて貰い、2週間で何とか形になるくらいにはなった。
そして今日は喫茶店の特別感謝デーである。
僕が働く喫茶店『セル&トート』は1ヶ月に数回、特別感謝デーと称して色んなことをやる。内容は様々で、食べ物、ドリンク、サービスのどれか1つが対象になるそう。前回はカレーフェアで、十数種類ものカレーがメニューに並んだ。
そして今回の特別感謝デーは執事フェア、男性店員が執事に扮してお客様にご奉仕するというものらしい。後で聞いた話だが昔は住み込み以外でもアルバイトを募集していたそうだが、皆んな裕子さんがほぼ思いつきでやるこれに振り回されて辞めていったらしい。住み込みにしたのはおいそれと逃げ出さないようにという意味も含めてだそうだ。
特別感謝デーは数日前から広告されるそうで、今日は内容も相まってか若い女性が多かった。
「しーくん、このカップを3番のテーブルに運んで」
「了解です」
いつも通りに返したのだが今日は執事フェアという事なので、
「今日は「了解しました」じゃなくて「承りました」でしょ。今日はそーくんと一緒で執事さんなんだから」
宗弥さんも料理を作りながら空いた時間は配膳に務めている。というか、執事が料理ってどうなんだろう。まぁ、宗弥さんの料理はカウンター席から直ぐに見えるし、カウンターに女性が殺到してる事からお客さんはそれでいいんだろう。
「お嬢様方、ご注文の本日のティーセットでございます」
動き回るウエイターの僕は執事感をかなり出していかないといけないんだろうと思いながらひたすら執事になりきって仕事をこなしていった。
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次の日、僕と宗弥さんは裕子さんに頼まれて食材と茶葉の買い出しに行っていた。
「ここがうちが茶葉を卸してもらってる店だ。外観はボロいがいいのがそろってる」
案内してもらったのはかなり寂れた店。案内してもらわないと店であると気づけないレベルだ。
「おっちゃん、来てやったぜ」
慣れた様子で入っていった宗弥さんに続いて僕も中に入る。
「いらっしゃい。今日はどの茶葉だ?」
「えっと......今回はあれとあれ、あとはあれもか。それとそろそろアイスの方も欲しいからこいつもよろしく」
「分かった。量はいつも通りでいいんだな」
「おぅ、そんじゃ頼むわ」
宗弥さんと話しながら、壮年の男性はテキパキと茶葉を選んで1種類ずつそれぞれが混ざらないように袋に入れていく。
「ほれ、代金はいつも通りでいいんだろ」
「それで頼む、じゃ」
「そういえば......ほれっ」
男性は懐から何かを取り出して宗弥さんに投げる。
「それ、直しといたぞ」
それを受け取った宗弥さんはほんの少しだけ笑みを浮かべ、
「ありがとな」
そう礼を言って店を出ていった。
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都会の真ん中、ビルの屋上で男はアルバムを広げていた。
「あの日から数年、破かれた写真たちも随分と元に戻って来た。
だが時間は残酷。我々の傷が癒えるのとは反対に想い描かれた景色たちは傷つき、似ても似つかないほど壊された」
男が喋るのと共に、男が持つアルバムがパラパラと捲れ始める。
「景色が変わりゆく中でも、人が想い続ける景色は変わらない。景色に秘めた想いを探せ」
アルバムが捲れていくのが止まり、男は開かれたページから酷く歪んでいるせいで見えない写真を取って放り捨てる。
捨てられた写真は重力に逆らって上に上がっていき、やがて歪んだ景色を写した写真の中から何か......捻じれた化け物が現れる。
「行け、新たなる同志よ。人の想いを喰らい、進化せよ」
怪物はビルから飛び降りて行き、男はそれを見守った後、姿を消した。
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あの後スーパーで食材を買った僕と宗弥さんは、最後に店で使う食器類の下見のために、ビル街にある新しく出来た店を見にいこうとしていた。
「新入り、それ持って帰っていいぞ。下見の方は俺だけで十分だ」
「そう言ってただ荷物を持って帰るのがめんどくさいだけでしょ。宗弥さんも持たないと後で裕子さんに怒られますよ」
他愛のない会話を続けていると、向こうの方で悲鳴が上がる。何が起こったのかと確認しようと向こうを見ると、大勢の人がこちらに逃げてくるのが見えた。
逃げていく人たちの殿を務めていた警官は、僕達を見つけると慌てて声をかける。
「おい、君達何をしてるんだ! 早く逃げろ! でないとあいつにーー」
そこから先の言葉はその人の口から出ることはなかった。背中からバッサリと切り裂かれ、苦悶の表情をあげながらその人は死んでいった。
そしてその後ろから黒と白がグチャグチャに混じった怪物が現れる。
「ちょ、大丈夫ですか!」
「よせ、もう死んでるから。あぁ、悪い少し連れがな。
それとあいつが現れたらしい。俺が片付けるから一応来といてくれ」
宗弥さんは警官を起こそうとしている僕を諭した後で電話を切り、バッグからカメラを取り出す。
「宗弥さん! 撮影してる暇はないですって早く逃げましょう」
かなり必死な僕に対して、宗弥さんはかなり余裕な表情だった。
「いんや、今逃げても恐らく奴にやられるだけだ。それにこの姿からしてまだネガ体か。下がってろ新入り。こっから先は俺の時間だ」
宗弥さんは僕を下げ、カメラを腹のあたりに押し付ける。すると、カメラの片方の端から何かが伸びてもう片方の端に接続されベルトになった。
「お前は運がいい。おっさんが直してくれたその日に俺の元に来るとはな。だから、お前を完全に収めてやる」
ベルトになったカメラの右側にフィルムをセットし、フィルムについていたパーツをぐっと右手で右から左にスライドさせる。
その動きに連動して、宗弥さんの目の前に透明なパネルのようなものが出来上がっていき、最後に左手でカメラのシャッター部分を押した。
「変身!」
『PASSHA!』
透明なパネルのようなものが宗弥さんの体を通過していく。それが宗弥さんの体を通過し終え、消えた時には宗弥さんの姿は......
『俺は今誰だ!俺はライダー!』
仮面ライダーになっていた。
「俺は仮面ライダーシャット。お前に相応しい景色はここには無い。だからとっとと収まりな」
怪物は仮面ライダーになった宗弥さんに飛びかかる。
しかし今の宗弥さんには敵わないらしく、パンチ1発で大きく仰け反っていた。
「こっちは早いとこ帰らなきゃなんないんだよ。だから手加減なしだ」
『PASSHA!』
宗弥さんはベルトの左腰につけられた入れ物から取り出したカードを左からセットし、変身した時のボタンを押す。
『カモン!サンキャクウェポン!』
変身したときとよりも小さなものが宗弥さんの右手を通過し、宗弥さんの手にはカメラでよく使う三脚が握られていた。
「そらよっと」
宗弥さんはその三脚を器用に変形させ、剣を形にして怪物を斬りつける。
動きの遅い怪物は、その攻撃を避けることもできず、何度も切りつけられていくうちに段々と輪郭がぼやけ始めていく。
「シャッターチャンスだ。」
宗弥さんはさっきのカードを抜き取って別のカードに変え、ベルトのカメラのレンズ部分を捻った後、ベルトのボタンを押した。
『SHATER CHANCE!』
『PASSHA!』
宗弥さんは脚にエネルギーを集約して跳ぶ。
そして、怪物に向かって現れた何枚ものパネルを描かれた通りのポーズで通過し、怪物に蹴りを食らわせた。
蹴りを受けた怪物は爆発し、あとに残ったのは宗弥さんだけ。
『サツエイシューリョー』
変身を解いた宗弥さんはベルトのカメラから出てきたカードを見て顔をしかめる。
「どうしたんですか?」
「しくった、逃げられたなこりゃ。写ってない」
そう言って見せられたカードには何も写っておらず白紙のままだった。
「倒したならこいつの中に何か写るんだけどな。ネガ体ならともかくセル体になられると面倒だぞこりゃ」
そう言った宗弥さんの顔には苦悶の表情が写っていた。
シャッティング/アーカイブ01
【仮面ライダーシャット】
黒垣宗弥が、『シャッタードライバー』と『ライドフィルム』を用いて変身する戦士。
基本的に徒手格闘と、『カードセル』によって呼び出す『サンキャクウェポン』を用いた武器攻撃を主として戦う
必殺技は右足にエネルギーを纏って放つキック、『シャッターブレイク』