街を一望できる丘の上、そこに似つかわしくない瓦礫の近く。そこに宗弥が仕留め損ねたピクターがいた。
「ここが俺を生んだ景色か。少しは感動があると思っていたのだが大した気持ちの高ぶりもなかったな」
丘のから吹き下ろす風を背に受けながらピクターは呟く。
そして運の悪い事に女性が1人、瓦礫を見つめるピクターの目の前に現れてしまった。
「ばっ、化け物!」
丘を登った先にいたピクターを見て、パニックになる女性。しかしピクター目の前に現れた女性を見て、 それが自分の目当ての人間をだと理解する。
「こっ、来ないで!」
「何、貴様に危害を加える事などはしない。少し記憶を頂くだけだ。
最も、頂くのはお前が最も大切にしているこの場所の記憶だがな」
そういってピクターは女性の頭を掴み、彼女がこの場所に抱く大切な思い出だけを奪っていく。女性の目が段々生気を失いっていくと共に、ピクターの姿もまた変わっていく。
白と黒がぐちゃぐちゃと混ざっただけの気味の悪い姿は、時間が巻き戻るかのように形を変え、本来の姿へと変異していく。
身体はレンガの様な色合いを帯びていき、身体の各所には風車を模した生物的な4枚刃の羽が生える。
「これが俺の本来の姿か」
今まで見ることのなかった自分の本来の姿を目の当たりにして静かな喜びを覚えるピクター。その背後から1人の男が姿を現す。
「漸くセル体になりましたね。おめでとうございます」
「誰だ、お前は?」
「私ですか。私は......」
男は言葉は無用と自らも姿を変える。目の前のピクターとは姿は違うもののその姿はピクターそのもの。白いタキシードを来た新郎と教会、そして真っ白なバラのブーケをごちゃごちゃに混ぜた様な姿を少しだけ見せ、元に戻す。
「あなたの同類ですよ。バースに言われて貴方を迎えに来ました」
「そうか。それとバースというのは名前か?」
「えぇ、人間は我々の事を一纏めにして普通にピクターと呼んでます。しかし我々の間で呼び名がないのは意思疎通に不便でしょう。ですので自分で名前を付けるのです。
申し遅れましたが私はウェディング。さっき見た姿の通り結婚に纏わる景色から生まれ、そしてその景色に対する深い想いを糧に進化したピクターです。
それで、貴方はなんという名前を名乗るんです?」
「俺か? 俺は......ウィンドミルとでも名乗ろうか。
俺が奪った記憶によると、ここには風車があったらしい。この女はそれに纏わる大切な想いがあった様だな。幼い頃に死んだ父親との数少ない思い出の場所だそうだ」
ウェディングに聞かれて自身の名前を告げるウィンドミル。だが、ウェディングはそれよりもそんな大切な記憶を奪った事に対して驚きを見せる。
「そんな記憶を奪うとは、貴方の性格が悪いのかこの人間の運が悪いのか。可哀想な事に違いは有りませんが今回は運が悪かったと考えましょう。それでは行きますよ」
そしてウェディングはウィンドミルを連れてその場から立ち去った。
そして数時間後、女性が起きた時には2体の怪物はおらず、彼女に残ったのは何故自分がここにいるのかというほんの少しの疑問と大切な何かを失った大きな喪失感だった。
自らの姿を得たウィンドミルは、ウェディングとに連れられてピクターのアジトに向かった。
「ところで、俺以外にセル体のピクターは何人いるんだ?」
その道中、ウィンドミルはウェディングに素朴な疑問を投げかける。
「今は我々を含めてたったの6人。ネガ体を合わせても人間の両の手足の指で数えられるほどしかいませんよ」
「どうしてそんなに少ない?」
「いくつか理由はありますが、1番大きいのは数年前の仮面ライダーとの戦いですね。奴との戦いで我々は多くの仲間を失いました。さらに我々は元々失われた景色を想う人間の心と現実との大きな差異から生み出された存在です。ですので元からそこまで多くはいないんですよ」
「そうか。ところで俺がネガ体の時に戦った奴、あれも仮面ライダーなのか?」
「あぁ、彼もそうですが我々を一度壊滅に追い込んだものとは違います。そもそも我々を壊滅に追い込んだ仮面ライダーは既に死んでいますからね。大方その時のデータを元に人間が新しく作ったものでしょう」
ウェディングはウィンドミルと話している最中、彼はウィンドミルに質問を投げかける。
「そういえばあなたの能力は何なのです? ウィンドミルという名前なのですから風に関係しているものでしょうが」
ウェディングはウィンドミルの名前から風に関係した能力と推測したがウィンドミルは首を横に振る。
「いや、俺の能力は回転だ。仮面ライダーの攻撃も、最後の最後で奴と俺との位置を回転してやり過ごした」
「それは中々に魅力的ですね......さてと、着きましたよ」
アジトである寂れた洋館に着いたウェディングは、ウィンドミルを連れて中に入る。
アジトである洋館は整備されており、イメージと違ったウィンドミルは唖然とする。
「あれ......なんか思っていたアジトと違うんだが」
「我々も人間として過ごすんですよ。よく物語などで悪者が廃墟とかをアジトにしていますが、はっきり言って無理です。電気も水道もないからお風呂がない、戸籍もないから働けない。幸い食事はしなくても生きていけますから食事に関しては大丈夫ですけど、衛生面に問題があります。まぁ今はサイバーのおかげで戸籍の偽造が簡単にできるようになりましたから、以前よりも生活が楽になりましたよ」
「そうか......」
言葉遣いは変わっていないもののハイライトの消えた目でそう語るウエディングの様子に若干引くウィンドミル。そうこうしていると階段から1人の男が降りてくる。
「そいつが新人か、ウエディング」
「えぇ、彼はウィンドミル。風車の景色から生まれた同志です、バース」
ウエディングはバースに報告をする。
「そういえばバース。あなたが単独行動とは珍しいですね。普段は部屋にこもってずっと何かを考えているのに」
「それなんだが違反者が出た」
バースの口から出たのはピクターの中で決められたルールを破った裏切り者が出たという意外な言葉だった。
「我々は存在を確定させるために、人の最も大切とする記憶を奪う。そして過去、人間に危害を加えたために全滅の危機に瀕した。だからそれ以降、セル体のピクターは人間に危害を加えてはならないと生き残ったピクター達で決めたのだ。
しかし、新しくセル体になった奴らは差別的思考の奴が多くてな。なぜ人間ごときを恐れなければならないのだと反発して人間を襲う輩が増えてきた。故に心苦しいが私が違反者を消去することになったということだ。覚えておくといい新たなる同志よ」
バースはウィンドミルに忠告の意味を兼ねて説明する。
「それでは行ってこようと思う、ではな」
そしてバースはアジトである洋館から出ていった。
「あんな感じですが彼は心優しいんですよ。数ある景色と記憶の中で、『生命の誕生の景色』から生まれ、その記憶を奪ってセル体へと進化したピクターです。だからこそ、彼の心は最も命を奪うことに耐えられない。にもかかわらず、彼は優しさから私たちの事を思い、ああやってあえて汚れ役を買って出ているのです」
ウェディングの言葉にウィンドミルは無言になる。話が話だけに雰囲気が悪くなったのを感じたのか、ウエディングは話を切り替えた。
「さて、それでは他のところも案内しましょう。行きますよウィンドミル」
そしてウェディングはウィンドミルを連れてアジトの奥へと案内を再開した。
シャッティング/アーカイブ02
【ピクター】
人々が景色へと馳せる強い想いによって生まれた存在。
しかしながら、ただ単に強い想いがあればいいというわけではなく、その景色が失われていることが必要。
ウエディングが持つアルバムに収録された写真の1枚から誕生し、セル体へと変異する。
・セル体
ピクターが生まれたときの姿。
姿は皆共通で、白と黒の捻じれた体を持ち、基本的には言葉を話すことも特別な力を行使することもない。
しかし、稀にウィンドミルのようにセル体で言語能力と自身にまつわる力を有した個体が存在している。
・ネガ体
セル体のピクターが、自身の元となった景色に纏わる強い記憶を奪うことで進化する。
奪った記憶と景色によって手にする能力や姿は変化し、強さもまちまち。わかっていることは、元となった景色に対する思いの強さに比例して、ネガ体の強さも上がることだけ。