統廃合を、任された   作:Par

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辻廉太は、任された。そしてやり遂げた。
それだけだ。

2016年頃某掲示板で投稿したものを少し書き直したものです。
ただほぼ掲示板投稿時と内容に違いはありません。

諸注意
 役人(辻廉太)の性格改変もの
 所謂”綺麗な役人”
 原作の展開をなぞりつつも、少し変化があります
 基準は、アニメ、OVA、劇場版となります。
 戦車などの知識があまりないため、おかしい箇所が多いかと思います

 以上の要素が苦手な方は、ご注意ください。


辻廉太は、やり遂げた

 ガルパンSS 劇場版

 

 大洗女子学園の劇的な全国大会優勝、日本中が彼女達を祝福し、健闘を讃えた。直接大洗女子と試合をしなかった者達もまた、何時か君達と試合をしたいと言った。

 そして私、統廃合を任された役人も、細やかにそれを祝した。以前交わした約束、大洗女子学園の廃校撤回。どうやらそれを守る時が来たらしい。

 大洗女子が優勝した後、一度あの生徒会長から連絡があった。勿論約束の件だ。約束通り優勝しました、と自慢げに、そして自信を込めて話す彼女の表情は、電話越しでもよくわかる。私も祝いの言葉を告げ、おって連絡すると言った。

 この時、私は甘かったのだろう。無名高校の奇跡的優勝、話題性も充分だった。しかし、それを快く思わない者が大勢居ることを、何より彼らは、私以上に頭が固いと言うことを私は忘れていたのだ。

 

「──廃校の撤回はない、大洗女子学園は8月付けで廃校が決定した」

 

 統廃合に関する会議で告げられた言葉。私は暫し唖然とした。「言っている意味がよく分からないのですが?」と言葉を捻り出すと、会議に参加する一人が私を睨みながら理由を話す。

 

「大洗女子学園の廃校は既に決定していた事であり、それを今更撤回する事は出来ない」

 

 それはわかっている。私が知りたかったのは、その理由なのだ。大洗女子の生徒会長とも約束をした 。私は、もう一度問う。

 

「文科省局長とは言え、君一人と一介の生徒会長との口約束で国の方針を変えるわけにはいかないのだよ」

 

 しかし、と私は再度問う。

 

「しかし……しかしながら、口約束と言えど法令で決まった契約です。確かに私の独断ではありましたが、皆様もあの後納得していただいたはず。彼女達にもチャンスは必要です。そのために困難な道を用意しました。それを彼女達はやりとげた。にも拘らず、議論なく廃校の撤回は無し? しかも時期の繰り上げまでとは……納得しかねます」

 

 役人の一人が答える。

 

「議論はした。しかしやはり廃校しかないだろう。これがまかり通れば、他の学園艦も異議を唱え廃校の撤回を求め出す。今回はたまたま戦車道であったが、例えばそれ以外であればどこまで温情を出すつもりかね? “全国大会”などなんにでもある……前例を作るべきではないのだ。時期の繰り上げも、長引かせても逆に可哀想だと言う仏心だよ」

 

 いやしかし、と私は更に問う。

 

「私とて統廃合の事を任された身、おいそれと撤回出来ないのは存じています。だが先程申したように、だからこそ全国大会優勝だったのです。我々は今戦車道に力を入れる為にこのような活動をしています。無駄があればそれを省き廃校、道理でしょう。事実私も統廃合の判を幾つもの書類に押してきました。しかし彼女達の頑張りは無駄ではないはずです。そして彼女達の活躍は、プロリーグの設立と世界大会誘致でも大いに役立ちます。彼女達の活躍は既に『奇跡の優勝』と国外でも話題です。ここで廃校にしては、戦車道に力を入れる国の方針に不信感を与える事になり、世論も厳しくなります」

「そこだよ君」

 

 役人の一人が更に険しく私を睨んだ。

 

「奇跡奇跡……確かに美談だ。だがそれはまぐれだよ。今回の優勝は“まぐれ”でしかない。そんなまぐれで廃校を撤回されてはたまらない。そんな奇跡を望む者は大勢いる、君はその“奇跡”をあと何度起こす気かね?」

「まぐれなどではありません!! あれは彼女達自身の実力でつかんだ結果です!!」

 

 それに、と続けようとした所で、上司殿から制止がかかる。上司殿以外の役人全てが私を睨む。

 

「君は大洗女子に入れ込みすぎだ。それこそ、仕事に支障を来すほど。本来なら直ぐに辞めてもらうところだが、しかし君は優秀だ。少し頭を冷やしておきなさい」

 

 その日の会議はそれで終了、私は呆然としたまま会議室の椅子に倒れるように座り、空を見た。

 

「すまん、止められなかった」

 

 上司殿が申し訳なさそうに頭を下げた。いや違う、貴方は悪くない。悪いのは、見通しの甘かった自分だ。しかしこのままでいいのか? 自問自答する。あの大洗女子学園を廃校にしてよいのか、あの生徒会長との約束を破り、そのままで。

 ──いや、そんなわけはない。それだけはあってはならない、絶対に。そして、認めよう、私は大洗女子学園に確かに入れ込んでいるようだ。しかし、あの学園には、存続に値する価値がある。

 

「上司殿、私は戦車道が好きなのです」

 

 ふいに言った言葉に、上司殿は笑った。

 

「君の思う通りにしなさい。君は間違ってない」

 

 私は礼を言うと、急ぎ局長室へと向かう。最終的にどうなるかは分からない、しかし私は、見たいのだ。大洗女子学園の活躍を、戦車道の発展とその先を。だが一先ずは、私は役人でなければならない。後日私は、大洗へと向かった。大洗女子学園の優勝に湧き開催されたエキシヴィジョン開催のその日、廃校を告げるために。

 

 ■

 

 エキシヴィジョンの盛り上がりは、まるで決勝の時のようだった。大洗市街戦とあって、大洗中の人々が大洗千波単連合対聖グロリアーナプラウダ連合の戦いを見物しに来ていた。大洗のマスコットであるゆるキャラアライッぺまで来ていたのだから、大洗を巻き込んでの催しである。

 今回、ここに訪れた理由が理由だけに、私はあまり人に交じり試合を見る気にはならなかった。人のいない所を探し、離れてみようと思ったのだが、どこからか覚えのあるカンテレの音色が聞こえてきた。音色につられて行ってみると、案の定継続高校の隊長等がいた。

 

「まさか、また車両を狙ってるわけじゃあるまいね。

 

 フィンランドの架線点検車両に乗る継続隊長と隊員に声をかけた。小柄な隊員、銀髪の方の子が酷く慌てるが、隊長と赤毛の隊員の方は特に反応は無かった。流石に厳重注意を受けそう経っていないので、さすがにやましい事は無いだろう。銀髪が言うには、エキシヴィジョンに誘われたが隊長が辞退したので試合だけを見に来たとの事、それならば特に問題もないので、しかし馬鹿な真似はしてはいけないよ、と一応は注意しておく。

 

「貴方も風に呼ばれたのかい?」

 

 継続隊長お得意の禅問答の様な問が来た。さて、別に私は風に呼ばれたつもりもないが、しかし、目的あって大洗に来たのだ。大洗に呼ばれたのかもしれない。かもしれないね、とだけ言って、私は特に試合を見ずその場を後にした。特に別れの言葉はなく、カンテレの音色が聞こえてきた。

 既に大洗関係者一部には、廃校による乗員退艦を知らせている。停泊する学園艦の周りには、運送業者のトラックがズラリと並んでいた。いつでも荷物を運ぶ準備は出来ているようだ。エキシビションは既に終了しており、参加校の面々は「潮騒の湯」で湯に浸かり試合の疲れを癒しているようだ。私は先に学園へ赴き、町の放送で生徒会長を急ぎ大洗女子学園の生徒会室へ呼び出してもらった。

 

「──大洗女子学園の廃校が8月付で決定しました」

 

 私の言葉を聞いた彼女は、官僚達に同様の事を告げられた時の私の様な様子だった。

 

「それは、約束を反故にすると言う事でしょうか」

 

 いたって冷静なのは流石と言えよう。それでも視線は酷く鋭くなっているが。

 

「……と言うよりは、全国大会優勝を踏まえて再度検討した結果、と言う事です」

 

 既に決定され、学園艦からの退艦作業準備が出来ている事からいかに切れ者の生徒会室でも直ぐに反論する事が出来ないようだった。ともかくこのまま事は進めねばならない。

 

「廃校にあたり、むろん戦車道のチームも解体、保有戦車は文科省の預かりになる」

 

 ある意味これが彼女にとって最もショックだったろう。今や彼女達にとって戦車とは、廃校を免れるための道具ではなく、ともに戦い抜いた相棒なのだから。

 

「……ともかく、今は受け入れてくれたまえ。今私と君がどれほど議論を重ねようと、これは覆らない。血の気が多い生徒には、下手な事をしないように言っておきなさい、場合によっては、陸上での再就職先斡旋に影響が出る」

「それは……人質と言う事ですか?」

「……脅しと受け取ってくれてかまわないよ、自覚はある。君の気持ちも理解しているつもりだ」

 

 彼女は納得いかぬと言う思いが表情にありありと出ていた。しかし生徒のみならず、その家族を人質とされてはこれ以上何も言えない。静寂が続いた。既に校門には業者によってKEEPOUTの帯が張られ、関係者以外の侵入を防がれた。日も沈み、そろそろ他の生徒が帰ってくるだろう。ともかくは、彼女達には学園艦を降りてもらわねばならない。生徒への説明は、生徒会長に任せ私は自分の仕事に取り掛かった。業者への説明もしなければならない、しばし、今はしばしこの学園艦は大洗を遠く離れねばならないのだ。

 おそらく大洗の生徒、特に戦車道チームの娘達は悲観に暮れるだろう、だがきっとあの生徒会長。覆る事のなかった廃校の決定を聞かされてもなお、折れぬ意志を見せていた彼女はきっと来るだろうと私は確信していた。そして、それを証明するかのように文科省に受け渡されるはずだった戦車達は一夜にして“紛失”、どこかへと姿を消した。また大洗女子学園が大洗港から去り、解体へのタイムリミットが始まる中、ついに彼女は私の元へと訪れた。

 

 ■

 

「──来ると思ったよ。来なければ、どうしようかとも思った」

 

 その言葉は彼女にとっても意外だったのか、私の意志を図りかねているようだった。

 

「まさか物見遊山でこんな所へ来たわけじゃないだろう。要件を聞こう」

 

 彼女は今回の廃校撤回を反故にされた件について、まとめて来た考えを述べた。交された約束は「廃校の撤回」であり「検討」ではなかったはずである事、口約束も法令として約束として認められる事、就職の斡旋をしない等の恐喝とも取れる強要等を上げ、今回の廃校は不当だと言う意思表明である。

 

「君の意見が間違っているとは言えない、しかし約束の時の内容が文書になっていないため、官僚全てを納得させる事は出来ない。それに関しては理解してほしい」

「しかし、それでは……」

 

 生徒会長は言いよどむが、おそらく次の一手を考えているのだろう。そろそろ、彼女一人では限界があるかも知れない。

 

「何であれ、君一人では発言力が無い。大洗女子学園の生徒会長と言え、国の決定を覆すのであれば、相応の人物も必要となる。君に、頼れる人物が居るのならば、だがね」

 

 私の言葉を聞いた彼女は、思い当たる人物が浮かんだのか、それとも既にあたりを付けていたのか、しかしそれを教えるかのような私の発言にも驚いていた。

 

「何を呆けているのかね? 今日は一度戻り給え、私はしばらく出張もない、言いたい事があれば、いつでも来なさい」

 

 そう言うと、彼女は頭を下げその場を去った。おそらく、彼女は今の我々にとって無下に出来ない人物を連れてくるであろう。そのような人物は、この日本でもそう多くはない、予想通りの人物が来るのであればあれば、あとはどうとでもなる。仕事をしながら待つのみだ。

 そして後日、予想通りの人物を引き連れ、彼女は私の所へと舞い戻った。

 

 ■

 

「──決勝以来ですね、先生」

 

 私の前には、生徒会長と蝶野一等陸尉、戦車道連盟理事長、そして西住流“家元”西住しほが並んでいた。

 

「ひとまずは、家本襲名、おめでとうございます」

 

 過日、正式に西住流の家元となった師範であったが、私の祝辞には一切の興味は無いようだった。それも当然だろう。挨拶もそこそこに、家本は厳しい言葉を述べる。若手の育成無くしてプロ選手の育成なし、国の掲げるスポーツ理念とも矛盾する決定に疑問を持たぬわけにいかず、であればプロリーグ設置委員会の委員長を自身が務めるのは難しい、と。これはプロリーグ設置だけでなく、それによって世界大会誘致を狙う国としても痛い話である。はたして彼女以上に委員長に相応しい人物が居るかと問われると、数えるほどしかおらず、ましてそれぞれが既にプロリーグや世界大会での様々な役職についており、兼任は難しい。また世論も国を批判している。多くの記事に「裏切られた大洗女子学園」と言った見出しが並んでいる。

 

「しかりですな。しかし、私を納得させても他を納得させぬ事には、決定は変わりません」

 

 ならば、他の官僚を納得させる事は何か、全国大会優勝以上のインパクトは何であろうか。到底彼女達には無理だと思うような、さらに困難な試練とは何であるのか。思い出されるのは、官僚の一人が言った言葉

 

 ──“今回の優勝はまぐれでしかない”

 

 で、あるならば。

 

「先生、一つ聞かせてください。戦車道に、まぐれなどありませんよね?」

 

 家元は力を籠め即答した。

 

「戦車道にまぐれなし、あるのは実力のみ」

 

 その言葉に異議を唱える者は、誰一人いなかった。

 

 ■

 

 後日、大洗女子学園の試合が決まる。今まで以上、想像以上の困難を私自身の手で用意した。到底彼女達では勝てない内容、対戦相手──変幻自在の島田流の娘率いる大学選抜チーム。これには他の官僚も今度ばかりは納得させた。国内トップレベル、最早高校生では勝てないような条件まで盛り込んだ内容に、流石にこれで大洗は勝てまいと思ったのか、以前よりあっさりと私の進言は通った。

 しかし万が一大洗が勝った場合、多くを巻き込んだ相応の責任を取るべきだと言われる。だがそれは承知である。上司殿が心配そうにするが、私は構わない、あとは、全ては大洗女子学園次第だ。

 決戦の地、北の大地を踏みしめる。これは私にとっても大きな戦いなのだ。今度ばかりは会場の関係者席で戦車道連盟理事長と並んで観戦する。家元は別席での観戦を望んだ。

 

「勝てますかなぁ、大洗は」

 

 理事長が自信なさげに問いかける。この理事長は、見た目のわりに気弱なところがある。彼は明らかに大洗寄りの立場であり、心の底から大洗の勝利を望んでいる。それゆえ、今回の試合条件、プロリーグでの試合形式にのっとた「殲滅戦」には反対していた。大学選抜30両に対し大洗は8両、その戦力差はあまりにデカく、そして……。

 

「しかし、これほどの差を付けねば、結果しか見ぬ官僚が納得いたしません。最早まぐれも偶然も有りはしないと思わせる試合で勝ってもらわねばならぬのです。それに、そちらにも幾つか申請が来たようですが?」

 

 理事長はドキリと冷や汗を流して私を見た。

 

「心配しなくても何もしていませんよ、寧ろルール上問題がないなら何してもいいのが戦車道の一つの顔です。それに、それを咎めてはこの為に“あれ”を認可した我々の方が問題がありましょう」

 

 大洗の強さとは、何であろうか。聖グロリアーナの様な伝統と優雅さは無い、サンダースの様な豊富な資金力と物量は無く、アンツィオの様なノリと勢いとは違い、プラウダの様に包囲持久戦が得意でもない、ならば黒森峰の様な西住流を掲げた電撃戦をとる事は無い。ひとえに、彼女達の強さとは。

 

「待ったーっ!」

 

 会場に響く少女の叫び。試合開始の挨拶を始めようとしていた中での“ちょっと待った!! ”をかけたのは、遠くから現れた黒森峰の戦車隊であった。戦車から現れるのは、黒森峰隊長西住みほ、副隊長逸見エリカ両名。戦車道連盟から許可を得た短期転校による試合参戦を表明した。そしてこの会場へと集う戦車部隊は彼女達ではない、次々現れるのはサンダース、プラウダ、聖グロリアーナ、アンツィオ、継続、知波単の合計7校の戦車道チームが“転校”し、大洗のために集ったのだ。

 これこそが、大洗の強さなのだろう。戦術、戦車の性能、流派……どれでもない、戦いを経て紡がれた敵味方を超えた絆による強さだ。

 

「あまりに、漫画ですね」

 

 少年漫画の様な展開に笑ってしまうが、理事長がニコニコと私を見ている。

 

「そう言いつつも、楽しそうですなぁ」

 

 そう言われると、まあそうなのだが、しかし認めるのも気恥ずかしいので、軽く咳払いをして誤魔化す。誤魔化せてもないだろうが。

 しかしこれで部隊は整った。戦力差も大きく埋まり、高校生とは言え、彼女達は高校戦車道チームの中でも実力者揃いだ。実質高校選抜対大学選抜の戦いとなったと言えるこの試合、いよいよ結末の見えぬ試合となる。賽は投げられ、戦車は進む。

 

 ■

 

 まず大学選抜にとって大洗連合攻略の鍵は、急増による混合チームの動きを正確に把握する事だろう。それぞれの隊員と戦車に統一性はなく、規則性もない。また高校生だからと言う慢心を生まぬ事だ。彼女達とて、社会人チームを倒したと持て囃されていた、逆もありえるのだ。

 逆に今回の主役、大洗連合の勝利の鍵は何か。こちらもまた、急増チームという存在が大きいだろう。西住みほは、それぞれの高校の特色と隊長隊員達の特徴をよく把握してはいるだろうが、いざそれらを指揮するとなればまた別だろう。更に援軍とは言うが、エキシヴィジョンでともに連合を組んだ知波単は、堪え性の無い猪の武者ばかりであり知波単を上手く御する事が出来るかは難しい。それゆえ、彼女が各校隊長を頼りにして、なにより実の姉との連携を取ろうとするのは、当然の事であった。

 試合はまず、目立つ丘を取る事から始まった。両陣営が挟む様にして中央には、丘がありそこを取れば、大洗対黒森峰序盤の時の様に優位に立てる。しかし大学選抜は、丘への執着は無い様子であり、大洗連合の進軍の様子見で済ませ相手に丘を取らせた。通常はこれで丘からの攻撃が可能になり、大洗が優位になるのだが、しかし大学選抜にはあの“マウス”以上の怪物がいるのを、大洗連合は知らない。

 山頂を取った大洗は、進撃する大学選抜の猛威に苦戦する別働隊を援護するため、黒森峰重戦車での砲撃を行おうとした。その直前、怪物が吼える。ただならぬ轟音を鳴らし、その音は、誰もがただの砲撃では無いと察するには十分であった。そして、その怪物の雄叫びは、山頂を陣取った大洗チームへと襲い掛かる。頭上から降ったのは、戦車が撃つような“豆粒”ではない、それは1トンクラスのベトン弾、そしてそれを撃ち出せる本来要塞攻略兵器として生み出された怪物、カール自走臼砲。その威力は正に脅威、山頂の形を崩すほどの砲撃は、大きく土煙を巻き上げた。そして続けざまに撃たれた一発、轟音を聞き動きが止まった大洗チームへと降ったそれは、大きな衝撃を発しながら黒森峰重戦車2両をあっけなく撃破した。

 

「恐ろしい……しかし、オープントップのあれを認可する必要はあったのでしょうか」

 

 理事長がカールの脅威に震えながら聞く。カールは通常戦車道での(すくなくとも)公式試合には、出場は不可である。通常の戦車のように、車内での弾薬装填等ができないオープントップであるからだ。しかし自走砲である事からサンダースはじめ幾つかの戦車道チームからは、カール自走臼砲(あるいはドーラのような列車砲)の試合での使用申請が着ていた。オープントップである問題は、改造により内部からの操作を可能にし、装填もモーターを装着して行うようにして解決、今回の戦いに導入された。自動化された装填システムは、通常のカールよりも連射が早く、その脅威を増している。

 理事長が言うように、この怪物を今回の戦いに導入するか否か、正直ギリギリまで申請を許可するか悩んでいた。大学選抜側には使用許可が出た場合導入するようには伝えていたが、この存在はあまりにも大きすぎた。しかし、一目でその強さ、恐ろしさがわかるカールは、他の官僚へのアピールになる。彼らが今回の件を納得したのも、カールの存在が大きい。そもそも撃破は不可能だと思われ、であれば殲滅戦での大洗女子の勝利は無いと踏んだのだ。

 生徒会長には、この事は教えていない。あの日、生徒会長はじめ家元、蝶野一等陸尉、理事長が集まった時、私は官僚全てに大洗の強さを見せ付けるため、戦車道にまぐれなど存在しないと教えるため、これまでにない困難を用意するとだけ伝えた。今頃彼女は私を恨んで舌打ちの一つや二つしているだろうし、案外笑ってもいるかもしれない。しかしこの戦いは、殲滅戦である。大洗は如何なる手段を用いてもあのカールと言う怪物を倒さねばならないのだ。

 大学選抜の経験に裏打ちされた連携、そして超兵器カール。大洗女子の苦戦は目に見えて明らかだった。敵に包囲されつつあり、カールの脅威がある中山頂からの退避を余儀なくされた大洗の中隊は、逃亡の中プラウダの3両が1両の隊長機であるT-34を守るために犠牲となった。しかしそれでもなお、敵車両を撃破するのは流石である。KV-2もまた、異名「街道上の怪物」の名を改めて知らしめる活躍だった。

 今後大学選抜本隊と戦うとしても、カールを倒す必要が出てきた大洗女子は、さらに別働隊を結成した。アンツィオのCV33を軸とした小隊は、ヘッツァー、八九式、BT-42のように小回りの利く戦車で構成され、姿を巧みにくらましてカールのいる場所を探る。どこか、どこかとカールを探る小隊は、はたしてカールの姿を見つけ出した。

 アンツィオのCV33と比べれば、まさに巨人と子人だ。この小隊での撃破はまず不可能と思われた。しかし、彼女達はあの西住流でも異端児にして常識破りの西住みほの元で戦い抜いた者達だ。大洗の生徒とは、つねに驚きの発想で戦っていた。ここからが正に大洗の戦い方が始まった。

 カールを守るのは、3両のパーシング。カール撃破に集中するには、その3両のパーシングを引き付ける必要がある。そこで自分に任せろと言わんばかりにエンジンの唸りを上げて飛び出してきたのは、継続のBT-42であった。およそ戦車と思えぬ機動で飛び出したBT-42は、着地後すぐさま一両のパーシングを撃破、そのまま逃げると残り2両のパーシングも継続を追った。カールの守りに開いた穴をつけと、続いて現れた八九式はなんとCV33を背負っていた。幾ら豆戦車とは言え、よくやるものだ。思えば、この八九式とヘッツァーの組み合わせは、黒森峰戦でのマウス撃破の立役者だ。巨人狩りはお手の物なのかもしれない。カールは低速ながらも急ぎ旋回、迫る小さな戦車団を迎え撃つ。あんな巨大な砲塔が自分の方を向いていると思うとゾッとする。

 カールが一撃を放つが、八九式には当たらず後方に着弾し土煙を巻き上げ、橋の一部を崩落させた。崩落する橋の下をBTが駆け抜ける。後を追うパーシング一両が間に合わず、崩落した瓦礫に足止めされ、最後は砲身を瓦礫に折られてしまった。あと1両となったパーシングであったが、しかしパーシングが狙ったか偶然かBT-42と接触、体当たりを受けたBT-42は、態勢を崩しして浅い崖へと転がり落ちた。

 カールのいる場所と八九式が走る橋は、先ほどの攻撃とは別に既に途中で崩壊している。どうやってカールのところへ行くかと思うが、CV33を背負っている時点で予想はつく。案の定八九式は、ギリギリで急停車して、その反動でCV33は空を舞う。大洗らしいといえばらしいのだが、しかし悲しいかなCV33の装備は8mmのみ、マズルを狙ったが到底カールに通用するわけもなく、最後はコテンと仰向けに落下した。正直CV33を飛ばしたところでどうにもならないのだが、けれど失敗したらしたでどうにかするのがあの生徒会長だ。

 転がり落ちたBT-42は、履帯が千切れ跳んでいた。しかし偉大なるクリスティー式の申し子BT-42は、履帯がなくとも死なない、エンジンの唸りをあげて、装輪走行で見事復活を果たす。

 転がったCV33はそのまま履帯を回転しだす。撤退する八九式と入れ替わるように進むのは生徒会チームのヘッツァーだ。ヘッツァーは勢いのままにCV33へと突撃、履帯の勢いも利用して今度はヘッツァーが宙を舞った。よく戦車が跳ぶ試合である。しかしこんどは8mm機銃と違う威力、見事カール砲塔内部への砲撃を成功、カールは内部で砲弾が爆発し、白旗が上がった。

 装輪走行でパーシングを翻弄する継続であるが、BT-42が榴弾砲塔であるため、ある程度の至近距離でないとパーシングにダメージは与えられない、確実に倒せる場所に確実に当てるためギリギリの走りを見せ、パーシングとすれ違うこれ以上無いと言う位置と距離になった瞬間に砲撃、パーシングは白旗をあげ、BT-42も転輪が吹っ飛び、地面にめり込んで行動不能となるが、しかし継続はその役割を果たした。

 

 ■

 

 継続、プラウダ、黒森峰、知波単の車両が撃破されるも、同様に相手の戦力も大きく削れた大洗女子、特にカール撃破の戦果は大きい。遠距離からの攻撃を削いだ大洗女子は、そのまま部隊を合流させ、遊園地跡地へと向かっていった。

 寂れに寂れ、人も寄り付かなくなった遊園地跡地であるが、ある程度の様相は保っていた。観覧車にジェットコースター等少なくとも、ここは遊園地だったのだとわかる。入り組んだ園内に展開する大洗女子、相手に攻め込まれた場合逃げ場はない、けれど彼女達の戦いといえば、常に逃げ場のない崖っぷちだった。むしろやりやすいかもしれない。

 

 対し大洗女子を追って猛進する大学選抜。彼女達にしたら、カール撃破は予想外だったかもしれない。しかしそのカールなくとも社会人チームに勝てた実力があるのが彼女達だ。脅威は脅威のままであった。

 

 遊園地の各出入り口に配置され戦車達、迫る大学選抜を迎え撃つための布陣である。ほぼ彼女達からも目視可能の距離に迫った大学選抜は、勢いのままに土煙を上げていた。しかしこの土煙、違和感がある。そう、忘れてはならない。この大学選抜、それを指揮する人物を。

 少し前、プラウダ車両が犠牲となった時会場にはかなりの雨が降り注いだ。雨がやむと日が出てきて水は蒸発を始めるが、しかしあれほどの土煙を巻き上げるほど乾燥はしていない。であるならば、この煙は敵の目を奪う煙幕である。

 ニンジャ戦術とも言われる変幻自在の島田流、その後継者。若干13歳にして飛び級し大学選抜を指揮する少女、島田愛里寿。流石である。かつて大洗が全国決勝で見せた煙幕作戦の時、その戦い方はむしろ島田流だと思ったが、本家もまた煙の使い所が上手いものだ。それに気がついたのか、大洗女子は急ぎ布陣を変更し、回り込む大学選抜に備える。

 不謹慎かも知れないが、私はこの時ワクワクしていた。大洗の敗北の可能性と言う不安もあった。しかし、それ以上の高揚感を感じていたのだ。ぶつかり合う戦車達の戦いを見て、目を奪われる。これ以上、戦いの場が変わる事はないだろう。この遊園地跡地での戦いこそ、ある意味日本戦車道の歴史に大きな意味を残す戦いになるはずだ。

 

 ■

 

 大洗は遊園地内に侵入した大学選抜を迎え撃ったが、どうやら彼女達はまた大学選抜に度肝を抜かれたらしい。入り口の門を吹き飛ばし現れたのは、カール程ではないにしろ、はたして戦車なのかと思う鋼鉄の塊T28重戦車であった。やっとの思いでカールを撃破した大洗女子にとって、この重戦車の登場は悪夢のような物だ。至近距離での攻撃でも、早々に撃破できないのだから。

 なのであるが(本当に以外なのことに……)ここからの大洗女子の活躍は目覚しい。やはり遊園地での陣取りが良かったのだろうか。

 まず黒森峰とプラウダの戦車がパーシング3両、(これもまた以外な事に)知波単がパーシングを1両、大洗のポルシェティーガーとサンダースのシャーマンフライがそれぞれパーシングを2両撃破と続けての撃破だった。

 特に驚いたのは、やはり知波単だ。あの突撃一辺倒であったあのチームが、まさかの車体偽装による待ち伏せ作戦を行ったのだ。私は知波単に特に思い入れはないのだが、これには感心した。やはりこの戦い、大洗だけではなく何かが変わるようだ。

 しかしここも変幻自在の島田流。相手が互いに離れないように動くことを見抜くと、あえて固まらせたままにした。そして巧みに戦車達を追い込み漁のように誘導する。相手に誘導されていることに大洗女子が気がついた時、すでに固まった状態で多くの車両が半すり鉢状の野外ステージに追い込まれてしまった。

 取り囲む大学選抜、ここで撃破されては、まず大洗に勝利は無くなる。どうするのか、と見守る中、この状況を破るべく現れたのは戦車ではなかった。ガオンガオンと地面を転がり迫るさながらパンジャンドラムの如き勇姿は、巨大な観覧車であった。

 特殊カーボンコーティングされた戦車の試合でなければ悲鳴でも起きたろうが、これには大いに会場が沸いた。

 急ぎカメラがとらえた映像には、坂の上、ちょうど観覧車があった所の近くにいる大洗のM3がいた。そうだ、あの“ウサギ”のチーム……彼女達がみせる土壇場での爆発力、突飛な作戦も大洗戦の醍醐味となってきている。今回もあのウサギのM3が観覧車を落としたのだろうが、M3と観覧車と言うと、ある映画を思い出すが、まさかそれを参考にしたのだろうか。

 いずれにしろ予想だにしない介入者に、大洗女子と大学選抜共に驚いた様子で浮き足立つ。

 ステージを横切り危うく大洗女子にも被害が及びそうになるが、砲撃による方向転換を行い、そのまま観覧車を大学選抜に突っ込ませ包囲に穴をあけた。いざ続けと大洗女子は観覧車に続いて包囲網を脱出したのだった。

 ピンチを切り抜け、ここからも大洗女子の活躍が続く。この時点でもはや急造チームとは思えぬチームワークを発揮しだした各車両は、それぞれの持ち味を活かして大学選抜車両を次々と撃破。ウェスタン風セットでの戦いはさながら西部劇で、商店街での偽装作戦はかくれんぼだ。超巨大戦車ラーテを模したゲームセンターでは何故かアヒル(?)を被った戦車のぶつかり合い、迷路では戦車操縦のセンスが光る。

 次々と脱落する大学選抜、ここでついにあの島田愛里寿が動いた。彼女の乗る戦車センチュリオン、現代で使われる主力戦車と言うものを生み出す切欠、その祖である。その能力は島田流後継者が搭乗するいじょう言うまでもない。そしてセンチュリオンが走る。これが世界を変えた戦車だと言わんばかりに堂々と。

 

 ■

 

 レトロな商店街エリアでアメリカンナイズなハンバーガーの看板を選択し、偽装方法を誤った三突がパーシングに撃破された。そしてセンチュリオン接近を悟った知波単と八九式が高台から斜面を下りながらの攻撃に出たが、瞬く間に撃破される。一方で聖グロリアーナのチャーチルは、捨て身の戦法を選んだ。橋の下で車体を傾けながら、遠方からサンダースはシャーマンフライの砲撃で橋の一部を壊し、橋を渡る途中のT28をしたから攻撃、それによって撃破するがチャーチルも脱出かなわず撃破される。

 会場の映像が遊園地のジェットコースターのレールを映し出した。そこにはポツンと乗っかるアンツィオのCV33がいた。いままで映像に映らなかったが、偵察に徹していたらしい。彼女たちが頭上から情報を得ることで、大洗は大きな戦果を得た。小さな戦車が頭上にいることに大学選抜も気が付いていなかったが、終盤で動きの良すぎる大洗に対し疑問を持ったのか、流石に気が付いたようだ。どこでどう乗り込んだか不明だが、チャーフィーがレール上に現れる。

 急ぎ逃げ出すCV33だが、レール上での逃走はあまりに無謀だろう。回転砲塔どころか、戦車に対して決定打にならない武装のCV33が撃破されるのは、時間の問題だ。そしてダメ押しの様にもう一両のチャーフィーが前方から現れた。苦し紛れの機銃を放つが、豆鉄砲を撃つようなもの、CV33の最後と思われたその時だったが、遠方から突如放たれた砲撃が、前方のチャーフィーを撃破した。急ぎカメラがとらえた映像には、丘の上にいるM3リーの姿があった。続けて二門の砲塔をCV33後方のチャーフィーへと向けるとこれもまた見事に撃破して見せる。アンツィオの危機を救ったM3であったが、その直後後方から迫るセンチュリオンに気が付かなかったため、一撃で撃破されてしまった。

 ここからもまた、怒涛の展開であった。隊長島田愛里寿の進撃を知った副官達は逆襲に転じる。3両のパーシングの巧みな連携攻撃、通称「バミューダ・アタック」として多くの戦車乗り達から恐れられる連携技3両のパーシングの巧みな連携攻撃、通称「バミューダ・アタック」。多くの戦車乗り達から恐れられる連携技、島田愛里寿が前線に出ずとも、この3人の連携の前に敗れたチームは少なくない。対しサンダースの3両が迎え撃つ。サンダースも信頼関係の高いチームだが、経験豊富で幾つもの実戦で磨かれた連携の前では、力及ばず撃破されてしまう。

 大洗の主戦力をつぶしながら、おそらく西住みほ、西住まほを追う島田愛里寿。途中、生徒会長のヘッツァーを撃破、同行していた3式は反撃をしようとしたがトラブルがあったのか、動きが止まりこれも撃破される。

 隊長に合流しようと猛進する大学選抜副官、それを防ぐためポルシェティ―ガ―、ティーガーⅡ、T-34/85、マチルダの4両が体当たりを仕掛ける。縫い目を走るように交差して、その時マチルダがやられる。

 スピードをあげ逃げ切ろうとする大学選抜を追う大洗は、ポルシェティーガーを戦闘にして直列に並び追う。距離を離されていた大洗だったが、突如としてポルシェティーガーの速度が急激にアップした。それに合わせ、後方のT-34とティーガーⅡも速度を上げる。モータースポーツなどで使われるテクニックの一つ「スリップストリーム」だ。まさか戦車戦で見れるとは思わなかった。ポルシェティーガーの操縦種は、きっとモータースポーツに詳しいのだろう。しかし無理をさせたのかポルシェティーガーはエンジンから煙を吹き出し停止、そのまま白旗が上がった。だがおかげで速度を上げ追いついたティーガーⅡとT-34は、最終的に撃破されるも副官の一人を撃破、驚異のバミューダトライアングルの一角を削った。

 江戸の街の様なエリアでは、堀を挟んでの戦いが繰り広げられていた。走るはチャーフィーとクルセイダー、走行中での砲撃は双方あたらず、ならば肉薄して撃ち込むぞと言わんばかりに、クルセイダーが突如スピードアップ、猛スピードで駆け抜け堀を飛び越えるとチャーフィーとのすれ違いざまに砲撃を行い、自身は壁に激突し自滅するが相手を撃破して見せた。

 更に場面が変わり、1両だけ行動していたパーシングを発見したB1とCV33。CV33が先行し陽動をかける。小柄な点を利用して反撃を防ぎ、そのまま相手を誘い出した。軽快に走る先には、ため池がありしかしCV33は速度を落とさない。見たところ浅い池だがどうするのかと思えば、なんとその勢いそのままにパッパッパと“水切り”で向こう岸に渡ってしまった。

 私は眼鏡を思わず取りレンズを拭いた。見間違いと思ったからだが、しかし本当にCV33は跳ねていったようだ。先にも思ったが、ヘッツァーにクルセイダーと言い、飛んで跳ねてが多い試合だ。

 池を目の前にして、パーシングは土壇場でブレーキをかけ落下を防いだが、しかし後ろから追ってきたB1に撃たれ落下、そのまま撃破された。だが態勢を整えようとしたCV33が撃たれ横転、白旗が上がった。センチュリオンだ。池を挟んでB1が砲撃を行うが、微妙に弾道はずれてしまい、センチュリオンの反撃によってB1がやられる。

 しかして、舞台は中央広場へと移る。

 

 ■

 

 

 たった一両で10両の戦車を撃破したセンチュリオン、大学選抜隊長島田流島田愛里寿。そしてその副官二名。対し大洗連合、Ⅳ号戦車とティーガーⅠ、西住流西住みほ、西住まほ。最終決戦だ。

 メリーゴーランド等の遊具と富士山型の見晴台のある中央広場。2対3の戦いは、Ⅳ号とセンチュリオンとの撃ち合いから始まる。広場中央にかまえたセンチュリオンが、広場を旋回するⅣ号とティーガーⅠを狙い撃つ。そして副官二名のパーシングがⅣ号達を追う。数の上では大学選抜が優位だが、この試合では数の優位性など最早無い様なものだろう。

 富士山の見晴台は、下がトンネルになっている。丁度戦車一両が通れる幅で、Ⅳ号はトンネル入り口直前で横にそれ富士山頂を目指し、ティーガーⅠがトンネルの中へと入ると、続く。Ⅳ号をセンチュリオンが追い、パーシングがティーガーⅠを追った。見晴台の表面は富士をよく再現するためガタガタになり、センチュリオンも思うようにⅣ号を追えない。うまくセンチュリオンから離れたⅣ号は、トンネル出口上で止まり、僅かに車体を下に傾けた。それと同時にティーガーⅠがトンネルから現れ、急ブレーキをかけ車体を横に向けた。猛スピードで追っていたパーシングは、そのままティーガーⅠに激突。そしてその上にはⅣ号の砲塔があった。間もなく砲撃を浴びせるとパーシングが白旗を上げた。

 砲撃の勢いでそのまま後ろに下がり、Ⅳ号はセンチュリオンを相手取る。試合開始時を除けば、初めて互いの車両数が並んだ。ティーガーⅠは、残るパーシングへと向かう。パーシングはティーガーⅠを追い、攻撃をしかけるが、ティーガーⅠはなにか考えがあってか、誘うように走る。そしてそのままバイキング船のアトラクションへと向かい、バイキング船へ一発撃ち込んだ。グオォンと唸りを上げて持ち上がるバイキング船の下をギリギリですり抜けるティーガーⅠだが、続けて追ってきたパーシングはちょうど戻ってきたバイキング船と激突、吹き飛ばされた。そしてその隙を狙いティーガーⅠが砲撃、白旗が上がる。遊具とは言えあの質量の物体に直撃を受け、よく無事であったものだと少しホッとした。

 さあ、いよいよ両流派だけの対決だ。会場にも、白旗判定の戦車とその搭乗者達が回収され集い、固唾を飲んでスクリーンを見る。

 1両だけとなったセンチュリオンだが、しかしその戦意はまるで落ちていない。なんであれば、これでイーブンだと言わんばかりだ。実際2両を相手にしてもまるで不利な様子がなかった。もとより西住姉妹に油断などないだろうが、少しでも気を抜けばやられるのは大洗だ。それほどに島田愛里寿とセンチュリオンの組み合わせは化け物じみている。彼女だけでなく、他の搭乗員もまた選抜の中でトップレベルの実力だ。凄まじいドライビングテクニック、砲撃の腕前はずば抜けている。今の西住姉妹で対抗する術があるとすれば、戦車のスペック以上に姉妹によるコンビネーションだ。

 むやみやたらに撃っても勝てぬ、徐々に徐々にセンチュリオンの動きを読み、動きをお互いに合わせる。かつての黒森峰での隊長と副隊長、姉妹故の阿吽の呼吸が生み出されていた。

 一進一退の攻防が続く中、その場にある物を使う島田流に少しづつ流れが生まれる。V2ロケットの遊具を吹き飛ばし、パンジャンドラムの回転ブランコを、元ネタ同様に走らせ粉砕、大戦中の兵器を模した遊具を巧みに使い、姉妹を翻弄した。センチュリオンは、まずⅣ号を標的にしたようで、Ⅳ号を中心的に狙ってきた。獲物を狙うオオカミの如くしつこく食らいつく。

 そして、広場をグルグルと移動し続けていた時、メリーゴーランドを突き抜けながら現れたセンチュリオンとⅣ号が激突、そのまま後ろを奪われお終いかと思われた。

 

「……クマ? 」

「クマ、ですな」

 

 おもわず私と理事長二人で口に出してしまう。センチュリオンとⅣ号の間にクマの乗り物がのんびりと現れ横断していたのだ。あまりに突然の、間の抜けた乱入者に会場の一同唖然。島田愛里寿と西住みほもキューポラから呆気にとられクマを見た。そして、いち早く我に返ったのは、西住みほだった。急ぎ移動しすんでの所で砲撃を回避した。

 これが、この試合の結果を左右した。

 Ⅳ号とティーガーⅠは急ぎ合流し富士の見晴台に上った。Ⅳ号を前にし、その後ろにティーガーⅠが付く配置、センチュリオンは広場入り口にまで後退した。坂を下り一気に近づく2両を迎え撃つ考えか。そしてⅣ号等2両は一気に坂を下りだす。

 センチュリオンは、やはりまず一撃をあたえ、Ⅳ号を、そしてティーガーⅠをやろうと思ったのだろう。Ⅳ号とティーガーⅠも真っ直ぐにセンチュリオンへと向かっている。しかし途中妙にティーガーⅠがⅣ号に肉薄した。近すぎる、砲塔もⅣ号の尻に付く寸前だ。誰もがおかしいと思った瞬間、ティーガーⅠが発砲した。

 一瞬会場がざわついたが、Ⅳ号に白旗はない。むしろ勢いを増しセンチュリオンへと迫っていく。

 

「空砲か……ッ!」

 

 私は声を上げた。立ち上がり、スクリーンを見た。

 突如スピードを上げたⅣ号に驚き急ぎ砲撃するセンチュリオンだが、焦りが出たのか弾は直撃ならず。対してⅣ号は、走行と右の履帯を吹き飛ばされたが、勢いは死なず戦車その物を弾丸の様にして激突。センチュリオンの砲塔に肉薄した状態で一撃を放った。

 激しい爆発の後、動きを止めるⅣ号とセンチュリオン。間も無く2両から白旗が上がった。

 

「相打ち……っ」

「結果はっ!! 」

 

 理事長が叫ぶ。まだ歓声は上がらない、皆が結果を待った。

 急ぎ空中を飛ぶ戦闘機“銀河”による目視確認が行われる。回収された戦車と、いまだ回収の済んでいない戦車を合計、残存車両を確認する。スクリーンに両チームの車両名が並び、残存車両数が数えられていく。そしてすぐに、大学選抜の残存車両数0、県立大洗女子学園の残存車両数1の結果が映し出された。

 

「──大洗女子学園の勝利!! 」

 

 ドッと押し寄せるのは、観客達の歓声だ。今か今かと溜め込まれた多くの人達の喜びの声がこの土地すべてに、遊園地跡地にもいる彼女達にも聞こえるかのように響き渡った。

 皆が歓声を上げる。理事長が笑う、家本達がホッと息をつく。生徒達が勝鬨を上げ、お互いの健闘を讃えた。大洗と大学選抜との勝ち負けが決まった、しかし試合が終わった今勝った負けたなど些細な事だった。良い勝負だった。掛け値なしに、素晴らしい戦いだった。

 私は荷物を手に取り、その場を後にする。理事長が立ち去ろうとする私を見て声をかけた。

 

「どこへ行かれるのですか? 」

「憎まれ者は去ります」

「だれが貴方を憎みますか? 貴方ほどの功労者はいないでしょうに」

「約束を一度反故にした以上、私は悪者ですよ。それにまた忙しくなりますからな、色々と相手にしないといけない人方もいますので、では」

 

 私が頭を下げ去るのを、理事長は止めなかった。しかし一言、ご武運を、と激励の言葉が聞こえた。

 関係者席を離れると、目の前に家元が現れた。鋭い目が私を射抜く。

 

「先生、ご息女達の活躍、西住流の名に恥じぬものでした」

「……西住流とは程遠い物でした」

「ま、確かに。しかし“まぐれなし”でしょう?」

「……ええ、まったく」

「では、私はこれで」

 

 家元は特に言葉は無く、互いに頭を軽く下げるだけの挨拶だった。しかし、これでちょうどいいだろう。

 さて、急ぎ去る前に会うべき人がいる。彼女にだけは会っておかねばならないだろう。遊園地から隊長達が戻れば、私の相手などしている暇などないだろうから。目的の人物は、戻りつつある隊長を待っていた。傍らには、親愛なる友が居た。

 

「おめでとう、生徒会長」

 

 私が声をかけると、驚いたように彼女、大洗女子学園生徒会長、角谷杏が振り返った。他二人、彼女の部下であり同じ生徒会員達も驚いた様子だ。

 

「君たちなら勝ってくれると思ってたよ」

「……カールなんて用意して、よく言いますね」

「失礼。正直驚いたというのが、素直な感想だよ。よく勝った。近年稀に見る試合だ、誰もがそう思うだろう。偶然もまぐれも無い、素晴らしい勝負だった」

 

 その言葉で会長はすこし安心したようだった。

 

「これで頭の固い人達も大人しくなるだろう。これ以上事を荒立てても意味もないしね。後は大人に任せたまえ。と、言っても信用は無いかもしれないが」

「いえ、そんなことは……」

 

 遠くで生徒の声が大きくなった。隊長を乗せた回収車が来たのだろう。色々と言いたい事はあるが、まあ若い者の時間を割く事もない。

 

「行きたまえ、皆が待っている」

「……あなたは?」

「まあ、色々とやることがあるよ。けどたいして変わらないよ、いつも通りに仕事するだけさ」

「そうではなく、その……」

「子供が心配するような事ではないよ、君は隊長を労ってあげなさい」

 

 面倒な話になるまえに、話を切り上げる。生徒会長は何か言いたげであったが、しかし私はさっさとその場を後にした。遠くからは、生徒達の歓声が響く。自家用車を置いた駐車場からも聞こえる喜びの声だ。

 

「──貴方はあの輪に入らないのかい?」

 

 ポロロンと聞き覚えのある音色と共に、やはり覚えのある声がした。

 

「継続の……もう帰ったと思ったよ」

 

 

 いつの間にか傍にいたのは、継続の隊長と他二名だった。撃破されて以降姿が見えなかったので、てっきり帰ったと思っていた。

 

「君たちは中々私を帰してくれないな、これから忙しくなるのに」

「それは申し訳ない事をした」

 

 微笑みと音色が返る。

 

「それで、用事かね? まさかと思うが、また問題でも起こしたかね?」

 

 そう言うと、相変わらず隊長に振り回されているのか、小柄の継続生がブンブンと顔を横に振った。

 

「貴方の“戦車道”を聞きたくてね」

「私の?」

「前から気になってたのさ」

「ただの一ファンでしかないがね」

「それだけじゃないだろう? ここまで戦車道に情熱を注げる貴方なら……聞かせて、もらえるかな?」

 

 彼女はカンテレを爪弾く手は止めず、問いかける。さて、私の戦車道か、ならば一言だ。

 

「戦車道には、多くのものがあり過ぎる。故に一言だ。戦車道には、私の人生にとって大切なものが全て詰まっているんだ」

「……そうか」

 

 ポロロンと音色が返る。どうやら満足したらしい。

 

「満足したなら、私は帰るよ。言った通り何かと忙しいのでね」

「ええ、お引止めして申し訳なかった」

「あと、問題を起こさぬようにな。真っ直ぐ帰りなさい」

「私の親の様な事を言うね」

「継続、と言うより君は奔放すぎる。目を離せば無人島にでもいそうだよ。自制したまえ、色々と」

 

 私がそう言うと、小柄のあの子が妙に強く頷きながら、もっと言えと目で訴えていた。しかしこれ以上言う気もない私は、さっさと車に乗り込み数度手を振り去った。カンテレの音色は、しばらく聞こえていた。

 そして、試合からそう経たぬ頃、大洗女子学園の存続が正式に決定した。

 

 ■

 

 後日談、と言いうにはつまらぬ事だが、結局のところ私はしぶとく役人のままだった。それはひとえに上司殿の尽力と戦車道関係者からの進言があってこそである。

 変わりの首などいくらでもある世界、すっかりやり切った私は辞職でもなんでもこの際どうでも良かったのだが、戦車道理事長には、一緒に戦車道を盛り上げましょう、と何故か信頼を置かれてしまった。

 確かに私とてまだまだ若いと自覚している。「とりあえず、辞職」と言う使い古された流れで辞めては、今までの仕事に無責任だった事になる。これは悔しいではないか、と私もそう思い仕事は続けている。

 今後きっと問題なくプロリーグ設置は叶い、それからまた世界大会誘致で私だけでなく多くの者が奔走せねばなるまい。その時、あの大洗の生徒、そしてその下に集った戦車道を背負う若き勇士達にも協力を願おう。そして、私は見てみたい。彼女達だけではない、多くの未だ見ぬ戦車道に生きる者達の活躍を。

 さらに……これは、本当に全くの余談だが、あれ以来ちょくちょく暇を見つけては、あの生徒会長、角谷くんが私を訪ねに来る。しかもプライベートで、だ。なんでも、将来的に都市の方で学び、政界に入る野望を抱くようになったとか。そのアドバイスを、との事だが若い婦女子が、私のような男にプライベートで会うものではないよ、と言うと彼女はどこ吹く風で、ケラケラ笑うのみ。実に図々しいが、しかしその図々しさは、世界で必要なものかも知れない。彼女の行動力としたたかさならば、案外彼女の政界入りはそう遠くなさそうだ。

 

「将来私は君に使われる立場になるかもな」

 

 そう言うと、彼女は首を降った。

 

「それもいいですが、しかし私は貴方を支えるのも面白いと思っているんですよ」

 

 私は呆気に取られ、眼鏡がずれ落ちた。

 漫画か……。彼女もケラケラと生意気に笑っている。

 

「妄言として受け取っておこう」

 

 ずれた眼鏡を直しながら言うと、彼女はニンマリ笑いながら言った。

 

「しかし私はずっと、有言実行でしたよね?」

 

 冷や汗がたらり。

 それが妄言でも、その場の勢いでもないとわかるのは、それからまた数年先の事だが、今この時の私には全く関係の無いことであった。

 

 

 




前編投稿から約7年前ですか。後編となります。

前書きにもありますが、2016年頃某掲示板で登校したSSが元です。
ガルパン劇場版4DXやってる映画館が遠くにしかなく、一人で遠出して観た帰り、感動と妄想があふれ電車に揺られながらメモ帳に書きまくったのがこれでした。
役人目線で劇場版を書いた関係上、ストーリー的に動きはなくほぼ劇場版をなぞるだけになってましたが、当時こんなのが読みたいという妄想があった結果です。

またこれも前書きにあるとおり、自分の戦車に関しての知識が浅いため表現や解説が書けない……と言う悩みがあり、それがいままで後編を投稿しなかった理由でした。
ただその悩みが解決したわけでなく、しかしそもそも誰かに読んでほしいと思って書いたものをUSBにしまい続けるよりはいいだろうと開き直って今回内容は掲示板投稿時ほとんどそのままで投稿しました。

誰かの暇つぶしにでもなれば幸いです。
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