「どうすりゃいいんだよ…」
セイムは既に2回の死を経験している。
一度目は恐らく魔女による殺害、2度目は何者かによって首を切られた。
二回とも、痛みも自覚も無い死に方であるため、スバルに比べればマシな待遇であったかもしれない。
だがしかし、セイムは今、死ぬ苦しみとは別の苦しみに苛まれていた。
即ち、「突破不可能な壁」だ。
本来、死に戻りを手に入れればその能力で痛みや苦しみを伴いつつも、難問を突破出来るものであった。
しかし、今のセイムは違う。
何がセイムを陥らせるか。
それは、1回目と2回目との違いだ。
1回目は最初にヴィルヘルムの怒声が聞こえた。恐らくフェリスに対しての激怒のシーンだろう。
そしてその後、こちらに勘付いたヴィルヘルムに捕まり、スバルに助けられた。
だが、2回目はヴィルヘルムの怒声すら聞こえなかった。
それどころか死ぬ直前に見えたのは崩れ落ちる王宮だ。
1回目と2回目の相違点。
それをセイムは「残り香」と考えた。
死に戻りをしたということは即ち「残り香」が残ったことを意味する。
つまり死に戻りをすればするほど『敵』が来るまでのタイムリミットが減るわけだ。
そして、「残り香」に惹かれる連中といえば…
「セイム!」
「…スバル?」
「久しぶり!…ってお前の方は初対面か。
それより、お前に聞きたい話がある。」
「ちょ、ちょっと待って下さい!?
お前の方はって…その…」
「ああ、死に戻りしたんだよ。
悪りィ。言うの忘れてた」
その瞬間、セイムは自分の失態を悔いた。
彼の登場に動揺し、一番大切なことを忘れていたのだ。
スバルは1度目の死が魔女によるものであることを知らない。
「死に戻り発言」が死のきっかけになったことを知らないのだ。
しかし、それは、杞憂となった。
「…おいおい、どうした?
びっくりしてちびっちゃったか?」
彼も自分も依然生きている。
ということはーーーー
「俺も死に戻りした」
生きている。
心臓を掴まれる気配すらない。
それは、セイムの仮説が間違っていることを意味していた。
「俺もお前も死に戻りしている…?
ちょっと待て!じゃああの大罪司教は!?お前はどうやって死んだんだ!?」
「死んだも何も…残像すら見えないぐらい速い人が現れていきなり首切られたんですけど…」
「…それマジか?」
「大マジです」
しばらく意味のない睨み合いが続いた。
それは決して相手を恨んだり妬んだりの睨みでは無い。
敢えて言うなら、互いの覚悟を確認する睨みあいである。
あの短時間で、彼らにはそこまでの友情が芽生えていた。
その友情が誰によって齎されたものなのか、そしてそれが友情ではないことをセイム達は後に知ることになるのだが。
「そうだ!こんなことをしてる場合じゃないんです!
恐らくもうすぐで魔女教徒が来る!」
「………」
「聞いてるんですか!
何か手を打たないと!」
「…くっはははは!
あはははは!」
スバルが思わず吹き出した。
その意味が理解出来ずにセイムは首を傾げる。
「セイム。お前俺のことどれくらいしってんだ?」
「ま、まあ他の人よりは知ってるつもりですけど…」
「他の人より…ね。
まあその理由も知りたいけどまた今度にしとくわ。
そんだけ俺のこと知ってるんならさ。
俺がこんだけやられて何の手も打たないようなやつじゃ無いことも知ってるだろ?」
「なにを…」
セイムが言いかけた瞬間、轟音が起きた。
扉の向こうの部屋の壁が壊れ、大罪司教が現れる。
「やあ。僕は魔女教たいざ」
自己紹介を始める前に、エミリアが厚さ3mはある分厚い氷の壁を作った。
「スバル!出来たわよ!」
「おー!さすがエミリアたん!
戦ってる時も凛々しくて最高!」
「緊張感のないこと言わないの。
油断してるとけちょんけちょんにされちゃうわよ?」
「けちょんけちょんってきょうび聞かねえな…」
「茶化さないの!」
「ごめんごめん!それじゃ時間稼ぎしてる間に…
セイム、あいつの弱点とか知らねえか?能力でもいい!
あいつは覚醒したパックでも倒せねえ!何が裏があると思うんだが…」
「その…すごく言いづらいんですが、あいつは今の状況じゃ倒せません。」
「ふぇ!?
びっくりしすぎて変な声出ちゃったよ!
倒せない!?どんだけ強いの!?」
「いや、強いとかそういうレベルじゃありませんよあれは!
ラインハルトさんでもカラクリを解かないと傷一つ付きません。」
「全員撤退!すぐに竜車に乗り込め!」
「決断早いですね!?」
「ラインハルトで倒せないならここにいる誰も勝てねえ。」
「胸張って言うことじゃ無いと思うんですけど…」
スバルに誘導され、全員が竜車に乗り込む。
ちなみにエミリアは乗り込む途中にも氷の壁の厚さを加算していた。
こうしてセイム達はクルシュ邸から逃げ出すことに成功した。
ある一人を除いてーーーー
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「危なかったな…全員いるか?
エミリアたんにフェリスにヴィルヘルムさんにクルシュさんに…!」
スバルが安否確認を行う。
そして、途中でスバルの表情が崩れる。
名前を呼ばれなかったオットーが御者台で小声で何か言っていたがそれはスバルには届かない。
届く筈がない。彼は今、頭の中を「後悔」で埋めているのだから。
「レムが…いねえ!」
その言葉に全員がスバルの表情の意味を悟った。
恐らく、レムの「名前」が喰われていなければ、誰かが逃げる途中に気付いたかも知れない。
しかし、今この世界で彼女のことを知る者は一人…否、二人しか居ない。
だが片方はレムが何処にいるのかすら知らない。
そしてもう片方はーーー
「スバル!?」
「ちょっとレムの事迎えに行ってくる!
出来ればゆっくり進んどいてくれ!」
そう言い残し、スバルは竜車から飛び降りる。
体のあちこちが軋んだが、前にオットーに突き落とされた時に比べればどうということはない。
先程まで進んでいた道を戻る。
ただただ戻る。
走って走って走って走ってーーー
もうすぐで目的地に到着するスバルを、一人の女ーーとは言い難い容姿の女が阻んだ。
「てめえ…誰だ!?」
「ああ、そりゃいきなり道を塞がれたら怒りますよね。ごめんね。
私は魔女教大罪司教『憤怒』担当、シリウス。シリウス・ロマネコンティ。」
「……ロマネコンティ?」
「ああ、その名前で呼ばれると恥ずかしいです!なんだかあの人と繋がってる気がして…あれ?あなた?あなたなんですか?ああ、やっと会えた。ずっと探していたんですよ。」
シリウスと名乗った女が頬を赤らめる。
「何を…言ってる?」
「ごめんね。いきなりで混乱しますよね。だってあなたは今、その『器』になりきってるんですもの。大丈夫ですよ。私は誰にも言いふらしたりしませんから。」
「…いいから…そこをどけ。」
「どうして?あそこにはあの男しか居ませんよ?行く意味が無いじゃないですか。」
「レムを…助ける。」
「…レム?」
今まで笑っていた(であろう)シリウスの顔が一瞬硬直する。
その瞬間、それまで何故か心の中に勝手に湧いてくる歓喜と元々持っていた筈の怒りのギャップと戦っていたスバルが恐怖を感じる。
このシリウスと名乗った女へではない。
先程自分が助けると言った少女ーーーレムに対してだ。
何故?レムは助けるべき相手だ。
殺された事もあったが、今はスバルに尽くしてくれる優しい子だ。
それなのに何故その子に恐怖を抱いているのだろうか。
「レム…まさか、女の名前ですか?
私が居ながら他の女にも愛嬌を使って居たんですか?ああそんなの許せないいけないことやってはダメありえない」
シリウスの声がだんだん小さくなっていくのとは裏腹にスバルの怒りは大きくなって居た。
その怒りはまたしてもレムに対するものだ。
「さっきちらっと見かけたあの青髪の少女のことですか!?憎たらしい…私のペテルギウスを奪うだなんて…」
「いやだ…やめろ…」
スバルは自分の心が蝕まれていく恐怖に駆られる。
「今すぐ殺さなきゃ…」
「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ」
レムへの怒りが募っていく。
スバルはその怒りに負けまいと今までレムに好感を持ったシーンを回想する。
しかし、どのシーンを思い浮かべても、レムに対して湧くのは怒りのみ。
そして、スバルはーーー
「そうだ!あんなクソ女が」
「スバルさん!」
セイムの叫びで我に返る。
そうだ、自分は今何を言おうとしていたのだろうかーーー
思い出し、胃の中身が盛大にこぼれ出す。
「スバルさん!こいつの能力は感情と感覚の共有です!
その怒りはスバルさんのせいじゃ…うぐっ
原作見た時は大袈裟だなとか思ってたけど訂正だ…レムさんには会ったこともないのに怒りが…」
感情と感覚の共有?つまりこの感情は誰かと共有しているのだろうか。
ああ、目の前にいるこの女か。
しかし、感覚の方は理解出来ない。
それはレムを助けた後にセイムに聞くとしよう。
今はこいつをーーー
そう思った直後、飛来してきた砂粒をシリウスが隠し持って居た鎖で即座に弾き飛ばしたことによって、新たな戦いが始まろうとしていた。