「何のつもりですか。貴方はあそこにいる奴らの殲滅が任務だったはずですよ。私とこの人との時間を邪魔する気ですか?『強欲』担当ーーーレグルス・コルニアス!」
白髪の男が眉をしかめる。
「あのさあ。君の方こそ任務は逃げた竜車の破壊だったよね?仕事サボっておいてそのサボる時間を邪魔するなってそれはいくらなんでも不条理なんじゃないかな。僕は「福音」に従って、任務を遂行したんだ。だから今こうやって自由に行動してるわけ。ろくに仕事もせずにストーカー先に似てる男とお喋りしてる君とは違う。それとさあ、そこの二人は殺す対象じゃないの?あ、でも殺す対象って言っても僕は決してやりたくて殺しをするわけじゃないからそこの二人は勘違いしないでね。それでさ。そんな殺す対象の前で僕の名前をフルネームで言うなんてひどくない?そりゃこいつらは殺すからこいつらに僕の名前がばれても構わないけどさ。やっぱり僕が名乗る方がかっこいいと思うんだ。もちろん僕は無欲だからかっこよさだけを追求したりはしないけどさ。それでも君に僕の名前を言う権利は「待て」
「お前今任務を遂行したって言ったか?レムは?レムはどうしたんだ!」
白髪の男が呆れた顔をする。
「待て?今僕に待てって言ったの?僕喋ってる途中だよね?人の言葉を遮ってまで自分の意見をつき通そうとするなんて『強欲』とは思わないの?それに理解力も足りてない。僕は任務を遂行したって言ったよね?僕の任務があそこにいた全員の排除なんだからその任務を遂行したってことはさーーー」
言い切る前にレグルスの体が突如飛ぶ。
それは、前の周回で発現した『怠惰』なる権能「見えざる手」によるものだ。
スバルは怒りに震えていた。
それが青髪の少女を罵った男に対しての心からのものなのか、スバルとの時間を邪魔された怒りに燃えるシリウスによるものなのかは分からない。
皮肉ながらも恐らく後者によるものであった。
そしてそれを見たシリウスが叫ぶ。
「ああ!その雰囲気!やっぱりあなただったんじゃないですか!あなたはいつも何を考えてるか分からない…でもそこがいいんです!再び私の前に姿を現してくれてありがとう!」
「お前さっきから勘違いしてるみたいだから教えてやるよ。俺はデスデス言わねえし魔女なんてクソ喰らえだ。俺はナツキ・スバル!ーーー『英雄』ナツキ・スバルだ!」
スバルは敢えて『英雄』という肩書きを付けた。
それはこの場にはいない少女のため…
ーーーーこの場にいない少女って誰だ?
この場にいない少女。
容姿は覚えている。青髪に右目を隠すような髪型。
ずっと助けたいと思っていた。
忘れる筈がない。
ーーーー何故忘れる筈が無いんだ?
思い出せない。名前すら思い出せない。
助けたいと思っていた筈だ。その理由は分からないが、確かに助けたかった。
その事実だけは覚えている。しかし、感情を含んだ部分がすっぽりと抜けている。
そんな中、包帯を巻いた女が先程の期待を裏切った筈の発言を気にもせずに語りかける。
「もう、照れ屋さんなんですから。私にもまだ完全に心を開いてくれないんですね。
分かりました。そこで待っていて下さい。
まずはこの二人を消してからゆっくり話し合いましょう」
愛した筈の少女の事を思い出せずにへたり込むスバルを横目に、シリウスは臨戦態勢を取った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
セイムは今、絶体絶命の状況に追い込まれている。
青髪の少女を追って飛び降りたスバルを追いかけ、やっとの思いで追いついたと思えば青年は大罪司教と鉢合わせている。
生で見る大罪司教の存在感に気圧されながら声を張り上げ、スバルに危険を警告したはいいものの、今度は『強欲』まで現れる。
そして今、二人の矛先は自分に向いているのだ。
何より、目の前の黒髪の青年は急に力を抜いてぐったりとし始めた。
それは、ピンチ以外の何物でも無かった。
焦っているとレグルスがセイムとの間にいるシリウスも巻き添えだと言うように砂を拾って投げつけた。
それをシリウスが弾いた。
そして、その流れ弾…否、最初からセイムを狙って投げられた粒がセイムの右肩を削る。
「ぐっわあああああああああ」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
。
今までの死には痛みは無かった。だが今回は違う。
肩が削られたのだ。痛くないわけがない。
そんなセイムを無視してシリウスが話す
「私にも当たる所だったのですが。あなたには感謝も謝罪もありません。許さない。」
「は?許さない?君がそこに立っていたんだろう?むしろ感謝して欲しいよ。君が成し遂げられなかった仕事を僕が今ここで代行してあげるんだ。君の義務を僕が履行する。こんなに贅沢な事は無いと思うよ。」
そう言いながら第二弾を投げる。
それを鎖で弾こうとして、シリウスは気付いた。
腹に穴が何個も空いていることに。
「ぐっ…?」
「そうやって『憤怒』に身を任せるから洞察力が無い。君の後ろに青年がいるのを忘れたのか?どうやらそこの子の血飛沫が僕の弾になってくれたみたいだ。そうだな、君を真似してみるとーーーーごめんね。そして、ありがとう」
シリウスが倒れた。そしてそれと同時にスバルとセイムも肉塊に変わる。
「はあ。…何度見ても気持ち悪いな。
道連れなんて、卑怯だと思わないのかなあ」
そう吐き捨てたレグルスの言葉をBGMに、二人は最初の光景へと舞い戻った。