セイムはどちらかと言えば目覚めの悪い方である。
セイム自身もそれを自覚していて、朝起きたら身体がだるく、やる気が出ないーーなんていうのは日常茶飯事である。
そんなセイムでさえ、目覚めた時に、嫌悪感のあまり吐き出すほどの物であった。
しかし、死ねば死ぬほど制限時間が少なくなる以上、ただ苦しんでいることすら許されない。
勢い良く扉を開けると、すぐ目の前にスバルが立っていた。
「スバル!」
「ああ!
みんな!聞いてくれ!こいつは仲間だ!
事情は後で話す!とにかく今は全員竜車に乗って逃げろ!
そうだな…まずはロズワール邸にでも行こう」
「えっ?どういうこと?スバル。
話が全然見えないんだけど…」
「いいから!とりあえず今は逃げること優先だ!」
「わ、分かったわ」
恐らく、他の人間がこんな事を言い出せば気が触れたのかと心配されるか、偽物かと疑われる所だ。
しかし、スバルの今までの英雄譚はスバルの根回しのおかげで成立しており、その根回しの根拠は毎回話されない。
なので、今回はむしろ「後で話す」と言っている以上、彼の言葉を信じる事に異論はないのだ。
そうして会議は中止され、今回はレムもスバルによって運び出され、2度に渡る点呼で欠員の有無を確認した上の逃走。
故に、死者は出なかった。
現在逃走中のメンバーの中に限れば。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「さて、まずはセイム。自己紹介を頼む。」
「はい!えっと…俺はシノノメ・セイム!セイムって呼んで下さい!」
「しまった…!」
スバルがやってしまったという顔をする。
「どうしたんですか?」
「敬語キャラだとオットーとカブる…
いや、オットーをメンバーから外せば大丈夫か。」
「なんかさらっと戦力外通告されてるんですけど!?」
「冗談だって!多分。
んじゃセイム、これからは敬語無しで頼む!」
「多分?それってどういう」
「わ、分かった」
オットーの言葉が憚られ、拗ねたオットーが運転に専念する。
「さて、セイム。自己紹介も終わった所だし…」
「ちょっと待って、スバル!私まだこの人の名前しか知らないんだけど…」
「あ、ああ。そうだったな。」
「えっと、俺はにっぽ」
そこまで言いかけて、セイムは気付いた。
自分の口が動かないことと周りの時間が止まっていることに。
スバルだけは唯一意識があるようで、必死に目を動かす。
そして、今まではスバルを襲っていた魔手は…セイムへと向かった。
抵抗しようにも体が動かない。
魔手は手をすり抜け胸をすり抜け、遂に左胸の奥ーーー心臓へと辿り着く。
その瞬間激痛が走った。
予想以上の痛みだった。心臓を直接掴まれる。
これほど気分が悪く、苦しいことはなかった。
スバルは何度これを味わったのだろうか。
「ーーー?どうかしたんですか?」
「あ、いや、こいつは生まれた場所が分からないんだ!おかしな奴だろ?」
「生まれた場所が分からないのはスバルも同じでしょ?」
「あ、あー!そうだったー!ブーメランだー!」
「ぶーめらん?」
「ま、まあ…な?セイム!」
「そ、そう!改めまして俺は無我の境地を求めて彷徨う旅人、セイム!
あれ?無我の境地って使い方違うかな?
とにかく!よろしくお願いします!」
「ふふっ。なんだかスバルに似てる」
エミリアのその言葉を聞いたセイムが顔を下に向ける。
彼はスバルに似ているのではない。
スバルに『似せた』と表現するのが正しいだろうか。
セイムの性格は憧れであるスバルを真似して出来た物であり、本当の彼はエミリアに微笑んでもらえるような人間ではないのだ。
と考えることが出来る時点でセイムも素はスバルに似ているということにセイム自身は気付いていないのだが。
「さて、自己紹介も終わった所だし、早速だが…おわ!?」
突如竜車が傾く。
本来なら竜車を引くと共にバランスを取る役目を持つ地竜の離脱により竜車が激しい地面との摩擦の後…止まる。
「ぅ。おい!オットー!大丈夫か!?」
「はい…なんとか」
「パトラッシュは!?何があった?」
「僕も良く分かりません。何があったんでしょうか…」
「そうか。パトラッシュは?」
「まずはエミリア様達を探しましょうか。いや、敵が潜んでいるとも考えられますね…」
「おい…答えろ!オットー!パトラッシュは!?」
「………自分で確認して下さい」
オットーが顔を俯かせながら言う。
恐る恐る歩くスバルは見つける。
黒い塊ーーーパトラッシュの亡骸を。
「嘘だろ…!?」
スバルが膝から崩れ、そして泣き叫んだ。
「パトラッシュ!おい!答えろよ!?またいつものツンデレ発揮してんのか!?ツンデレつってもここまで来たら笑えねえよ!………笑えねえよ…」
叫ぶスバルの後ろに人影が現れた。
「ナツキさん!危ない!」
オットーが急いでスバルに飛びつく。
そのオットーの右肩から先が飛んだ。
「う、わあああああ!?」
オットーが痛みに悶える。
「おい!オットー!
…お前は…!?」
スバルが睨む先ーーーそこに立っていたのは郷友である筈の青年ーーーセイムであった。
そして、スバルにしか視認出来ない2本の「それ」がスバルを追う。
スバルがそれを避け、オットーを背負って走り出す。
幸い、ロズワール邸まではあと1kmほど。
オットーを背負いながらでは少し厳しいかもしれないがやるしかない。
後ろから正気を無くしたセイムが追ってくる。
と思いきや、いない。否、上にいる。
かつて緑髪の男がした様に、自分で出した『それ』に乗って移動しているのだ。
「くそっ!どうすりゃ!?」
スバルの前に先回りして着地したセイムが『それ』を前に出す。
そして、スバル達に襲いかかるーーー
その寸前に彼を氷槍が貫いた。
そして、やっと動き出した筈の時間がまた巻き戻る。
その虚無の中でスバルは気付いた。
新しい武器を手に入れ、その上で自分に敵対する者が死に戻りについて来る恐怖に。