スバルは激しい不安と共に目を覚ました。
「会議…か。セーブポイントの更新はされてないみたいだな。」
「スバル?何を一人でブツブツ言ってるの?」
「ああ、いや、なんでもないよエミリアたん。
それより…」
そこまで言いかけてスバルは口を止めた。
もう少しすれば大罪司教が此処に来る。
だから逃げなければならない。
しかし、この部屋に一つしかない扉の向こうには何故かスバル達を襲ったセイムがいる。
所謂、挟み撃ちというやつだ。
おまけにセイムは何故か『見えざる手』を持っていた。
ヴィルヘルムとエミリアがいる今ならセイムを倒すことは出来る。
この屋敷の何処かにはパックもいるだろうからパックを呼べば勝利は確実だ。
しかし、その勝ち方が重要である。
セイムを殺せば死に戻りでまた元の場面に戻る。
手足を氷で固めてもらったとしても『見えざる手』で拘束を解かれるだろう。
そもそも、スバルも怒りに任せて『見えざる手』を使ったことがあるが、命が削りとられる感覚がした。
どういう原理でスバルが『見えざる手』を手に入れたのかは分からないが、ペテルギウスの呪いでも付いているのだろうか。
だとしたらまだ希望は見えるが、もしあの感覚がセイムにも感じられているとしたら絶望だ。
何処をどう拘束しても『見えざる手』を出すだけで死ねるのだ。
どうしようもない。
「スバルさん!」
スバルの思考に割り込んで来た声ーーーそれは意外な人物の物だった。
「ーーーセイム?」
「良かった!生きてたんですね!?」
「生きてたって…お前、何様のつもりだ!」
「え?え?」
胸倉を掴まれたセイムが訳も分からず驚く。
周りの3人も呆気に取られた顔をしていた。
「てめえ!覚えてないとは言わせねえぞ!パトラッシュを殺しておいて…」
そこまで言いかけてスバルは自分の失敗に気付く。
周囲の時が止まり、魔手に慣れた手つきで心臓を掴まれる。
パトラッシュの死を喋ったことがきっかけになったのだ。
「…戻ってきた…」
「スバル!?この人は?」
急に喋るのをやめたスバルにエミリアが駆け寄る。
「どうなってやがる…覚えてないだと…?」
あんな出来事を忘れる筈がない。
おかしい。何かがおかしい。
言葉に表せない違和感があった。
「よく分かりませんけど…とにかく逃げましょう!」
「お前…本当に覚えていないのか?」
「えっと…何の事ですか?」
ーーー何かがおかしい。
その『何か』が分からない。
パズルが完成目前で最後のピースだけ他のパズルの物が紛れ込んでいる。
そんな違和感だ。
スバルがその正体を探る中、ヴィルヘルムがセイムの首に剣を付ける。
「ぇっ!?」
「貴様…先程から不快な匂いが漏れ出ている。
これが魔女の匂いか?
スバル殿との会話を見るに明らかに怪しいのだが…」
「いや、ヴィルヘルムさん!なんでも」
言いかけた所で会議室の壁が崩れる。
そしてそこから現れたのはーーー
決してそこにある筈のない、緑髪の男だった。
「お久しぶりデスネ!
元気そうで何よりなのデス。」
「ペテルギウス!?お前…は…死んだ筈じゃ!?」
「私は愛されている限り死ぬことは無いのデス!
ああ…サテラ…あなたからの寵愛…なんという幸福!
なかなかなかなかに素晴らしいのデス!」
緑髪の男ーーーペテルギウスが髪を掻き毟り両手を広げた。
「指先はあの時全員殺した筈じゃ!?
くそ…分からない事だらけだ…」
「……!?そこのアナタ!
その匂い…他の魔女からの恩恵を受けていますね?
サテラの匂いも感じるのに何故!何故他の魔女に…
怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰怠惰ァ!あぁ…怠惰だぁ…」
ペテルギウスがセイムに向かって唾を飛ばす。
セイムはその言葉を全く理解出来ていない。
そして、理解が始まる前にスバルとペテルギウスとの再開は終わった。
「ぐぅ…!?アナタ!!アナタアナタアナタアナタアナタ!!!
その姿は…なんという奇跡!まさか濃密な魔女の匂いを追って来てみれば『器』に出会えるとは!
しかし、どうやらここで一旦終わりのようデスネ。」
ペテルギウスの腹には大きな氷の筒が刺さっていた。
そしてペテルギウスが倒れる。
と共にスバルとセイムは見慣れた螺旋の中へ巻き戻るのであった。