第15話 再びロンドンへ
1950年 8月31日
俺は船の中にいた。祖国日本を遠く離れ、英国にある王立ロンドン魔法学園に入学するために、海を越えてきたのだ。祖国日本と言っても、世界をあちこち旅してた俺が日本を祖国と言うのは間違ってるのかもしれない。
「この世界に転生してから、150年もたつのか……」
転生した日から、150年もたつ。そして、今日から始まる物語のために俺は150年を研究に費やした。
リッカさんはどうしてるのだろうか……
リッカさんのことだ。ジルさんのためにも、現在も桜の研究を王立ロンドン魔法学園で研究してるに違いない。
葵ちゃんはどうしてるのだろうか……
家を飛び出してから、2年になる。急に飛び出したから、泣いてしまったかもしれない。今は元気にしているだろうか?
甲板の上からぼんやりと大海原を眺めていると、
「兄さん…」
横から聞いたことがある声が聞こえてきた。俺は横を見ると、
「ん?」
そこには、ダカーポ3の主人公の清隆と姫乃ちゃんがいた。
ぼんやりと大海原を眺めていたため、横にいることは気がつかなかった。
「なに、憂鬱だ~って顔して、遠くなんか眺めちゃってるの?」
「いや、だって…。実際、憂鬱だし」
「だって、じゃないでしょ?憂鬱だからって、自分の憂鬱をアピールしてどうするの?」
「お前だって、最初の頃は、かなり憂鬱な顔してただろ?」
「…あ、あれは、単に船酔いしてただけだもん」
「そうだったな。『兄さ~ん、助けて~、逃げ場がないよ~』なんて、この世の終わりみたいなか細い声で言ってたもんな。そして、一般人に助けてもらうなんて…」
「あははは……」
2人の会話を聞いていて、俺は笑ってしまった。
ほんと、2人は仲が良いんだな……
「あっ、この前姫乃を助けてくれた人……先日はありがとうございました」
清隆が俺の笑いに反応して、俺に気がついたようだ。助けたというのは、船が日本を出発して最初の日から姫乃ちゃんが船酔いしてたので、酔い止め薬を姫乃ちゃんに渡し、そのことが助けたことになっているらしい。
「いえいえ、元気になって良かったですよ」
「あの時、酔い止め薬がなかったら、俺が困っていました。ははは……」
「もう怒るよ。兄さん」
姫乃ちゃんが自分の右拳を握りしめる。
「怒るな、怒るな。姫乃もお礼を言っておけよ」
「はっ、あの時はありがとうございました」
姫乃ちゃんはお礼言った。この船に清隆と姫乃ちゃんが乗っているということは、ゲームの流れにそって物語は進んでいるんだろう。だが、いつ、物語と違うことが起こるのかは気をつけないといけない。
「ともかく、この船に乗ってるの、わたしたちだけじゃないんだからね?そんな顔してると、心配かけちゃうんだから」
「そうだったな。悪い悪い」
清隆は反省してるようだった。まぁ、人は憂鬱になることもある。
「これでいいか?」
「その作り笑い、不自然なんですけど……」
「まぁ、いいだろ?憂鬱な顔してるよりは」
「……しょうがないなぁ、もう。兄さんってば」
姫乃ちゃんはそう言って唇を尖らせた。
「2人は仲良しなんだね」
後々、この2人と関わってくるんだから、今の内に交流しておこうと思い、声をかけた。
「まぁ、兄弟なんで……。この船に乗ってるということはロンドンに行くんですよね?」
「あぁ。王立ロンドン魔法学園にね」
「奇遇ですね。俺たちも王立ロンドン魔法学園に行くんですよ。あ……名前を言うの忘れていました。葛木清隆です。こっちが妹の葛木姫乃です」
姫乃ちゃんは清隆に紹介されてペコと頭を下げる。
「俺はタツオ。よろしくね。ロンドンは初めて?」
「はい。そうですけど……」
「俺は昔にロンドンに来たことがあるから、よかったら一緒に行く?」
いきなり、一緒に行く?は先走ってしまったかもしれない。
「えっ、いいんですか?私たち、日本以外の国は初めてなので、道を知っている人がいると心強いです。兄さんもいいでしょ?」
「あぁ。正直、道には困ってたんだ……」
そんな話をしながら、このあと3人で行動することになった。
「うわぁ……」
「こりゃ、想像以上だな」
「こんなに酷かったかな?」
俺たちが港に降り立って最初に発した言葉は一種の感嘆だった。思わず声をあげてしまうほど、辺りは白い霧に包まれていたのだ。それに、ちょっと肌寒い気もする。明日から9月になるとはいえ、まだ今日は8月、日本なら残暑も厳しい頃だ。
「すごいすごい。さすが霧の都ロンドンだね……」
「っつってもなぁ。これじゃ、ここで生活してる人はいろいろ不便なんかじゃないか?」
「そんなこと言ったら、ここに住んでる人たちに失礼だよ。『郷に入っては郷に従え』って言うでしょ?」
「住めば都、とも言うよな?」
「そういうこと。わかればよろしい♪」
2人の会話を聞きながら、俺は霧を見ていた。
これから、この霧がどんどん濃くなることを考えると……
「あれ……?」
歩き始めようとしたら、清隆がふと脚を止めた。
「……」
多分、清隆は感じたのだろう。
「どうかした?」
「お前、何にも感じなかったのか?」
「何が?」
姫乃ちゃんはぽかんとしてる。姫乃ちゃんは特に何も感じていないようだ。
「ん~、うまく言葉にはできないんだけど……なんか違和感があったって言うか……」
「どーゆーこと?」
姫乃ちゃんは目を丸くして聞き返す。
「なんか異界に迷い込んじまった、みたいな?」
「異界ぃ?」
「ああ……んっと異界は大げさかもだけど……」
「まぁまぁ、この変な違和感を感じる人もいれば、いない人もいるんだ」
清隆が言い終える前に、俺は2人に言った。
「タツオさんは感じているんですか?この違和感を」
清隆が聞いてきた。
「まぁ、時々ね。とにかく用心しておけば、大丈夫だから」
「用心ならいつでもしてるよ。初めての土地に来た時は特に、ね。ねっ兄さん」
「そうだな。姫乃」
まぁ、見知らぬ土地……というより完全な異国に来た2人は敏感になるだろう。
「さて、兄さん。これからどうしますか?」
「どうって?」
「いや。せっかくロンドンに来たんだからさ、観光地でも見て回ろうかな~なんて思って」
「は?」
「ロンドン塔とか、見てみたいな、なんて思ってるんだけど……」
ははは……さっそく脱線している。さっき用心してる、と言ったそばからすぐにこれだとは。どうやら、先ほどからずっと観光したくてそわそわしていたようだ。
「正直、油を売ってる暇なんてないぞ。約束の時間が迫ってる。早くタツオさんに案内してもらわないと……」
清隆は懐中時計を取り出し、姫乃ちゃんに見せた。
「……やっぱ、ダメか」
「当然だろ。荷物も届いてる頃だと思うし、さっさと学校に言って手続きしちまおうぜ」
「はぁい……」
姫乃ちゃんはガッカリしていた。まぁ、ここには遊びに来た訳ではないからね。
「あははは……じゃあ、道案内するね」
清隆は渋る姫乃ちゃんを引き連れて、3人は目的地である王立ロンドン魔法学園を目指したのだった。
挿し絵を書き始めようと思っています。ですが、キャラクターの数が多すぎる……笑