うん?この声は……?
「あ、こんなところにいた……。もう、勝手に先に行っちゃ駄目でしょ?」
「く、くぴ?」
と、そこね物腰の柔らかそうな女性。そう、シャルルさんがやって来た。シャルルさんはその生き物を優しく抱き抱えると
驚いたことに、頭に乗せたのだった。
「「「………」」」
3人は無言だった。
「あら、新入生?」
そして、シャルルさんは俺たちに気がついて声をかけてくる。
「あ、はい」
清隆が答える。
「ごめんね、うちのエトが迷惑かけちゃったみたいで」
「いえ、別に迷惑はかけられてないですけど」
「可愛いですね。その子、エトって名前なんですか?」
「そうよ。ほら、エト。新入生の三人に挨拶して、って……」
シャルルさんが俺に近づいてくる。
「?何か俺の顔についてますか?」
「あなた……えっと…どこかで見たような…どこだったかな…」
シャルルさんは必死に思い出そうとしている。シャルルさんとは会うのは初めてだが、多分、何かの本などに載っていたのだろう。昔、自分が載っている本を見て、驚いたこともあった。
「えーと。多分、初対面だと思いますけど…」
俺は誤魔化そうとした。
「そうかな…うーん。それにしても、最近の新入生は進んでるなぁ。仲良く手なんて繋いじゃって。恋人同士?」
二人は握りあっている手を見て、みるみるうちに顔が赤くなっていく。
「あ、いえ、これは…」
「違います違います。恋人とかじゃありません!」
清隆が弁明する前に、姫乃ちゃんが慌てて清隆の手を振りほどいた。
「くぴぃ?」
「恋人じゃないなら…何?」
「ああ、俺たち兄妹なんですよ」
「ですです。ただの兄妹です」
「ただの兄妹ねぇ…。ところで、そのただの兄妹の二人は、どこの誰なのかな」
「ああ、申し遅れました。今年からこの王立ロンドン魔法学園にお世話になる、葛木清隆です。で、こっちがー」
「い、妹の葛木姫乃です。よろしくお願いします」
3人はシャルルさんに自己紹介をする。
「カツラギ…って、ああ。日本の?」
シャルルさんはくりっとした瞳をさらに大きく見開いた。その白肌は雪のようにきめ細かい。
「知ってるんですか?」
「ええ。有名でしょ?由緒ある家柄だって聞いたことあるし」
清隆と姫乃ちゃんはお互いに目を合わせ、頷きあった。
「あの…失礼ですけど…」
姫乃ちゃんがシャルルさんにおずおずと尋ねる。
「ああ、ごめんなさい。あたしはこの風見鶏の本科生よ。名前はシャルル。シャルル・マロースよ。一応新学期から生徒会長をやらせてもらうことになってるの」
「よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
「で、あなたは…?」
やっと、俺に話を振ってくれた。いつ、話しかけてくるか、ドキドキしていたもんだ。
「タツオです。よろしくお願いします」
「た、タツオ?タツオって、あの本に載っていたタツオさん?あっ、そうだ。思い出した」
シャルルさんはうんうんと頷いている。名前を名乗っただけでこんなにも正体がバレルものなのだろうか?
「その…本に載っていた人とは人違いかもしれませんが、学園長室に手続きを…」
俺は何とか話をそらそうと試みる。
「って、話がそれちゃうね。いらっしゃい。学園長室まで連れてってあげる」
「くぴ、くぴぃ~」
何とか話をそらすことは出来たようだ。
はぁ…よかった。よかった。また、会ったときに何かと聞かれそうだが…
「こっちよ」
シャルルさんを合わせた4人で、いや…小動物も合わせた4人1匹で学園長室を目指した。
「到着~。ここが学園長室前よ」
シャルルさんの案内された所は俺も見覚えがある場所だった。
「ありがとうございます。え、えーと、ま、マロー…」
どうやら、清隆は名前をはっきり覚えてないようだ。
「マロースさんよ」
姫乃ちゃんが清隆に言う。
「マロースさん」
「シャルルでいいって」
そう言って微笑むと、シャルルさんは学園長室の扉をノックした。
『はい』
「本科1年のシャルル・マロースです。日本からの新入生を連れて来ました」
『ああ、ありがとう。通して頂戴』
「はい」
ガチャリ
「失礼します」
「くぴっぴ!」
「さ、三人とも。入りなさい」
シャルルさんに呼び込まれ、俺たちは学園長室に入る。清隆と姫乃ちゃんはおずおずと学園長室に入った。
「「し、失礼します…」」
「失礼します」
何か俺までかしこまってしまった。昔は気楽に入っていたのを思い出す。
「待っていたわ」
「では、あたしはこれで。学園長、あとはお願いします」
「ありがとう、シャルルさん。それにエト」
「じゃ、またね」
シャルルさんは軽くウインクすると、学園長室から出ていってしまった。
「遠路はるばるお疲れさまでした。疲れたでしょう?って、タツオさんも一緒だったの?」
「あははは……お久しぶりです。女王……学園長」
危な。昔みたいに女王陛下と言ってしまうとこだった。
「えぇ、お久しぶりです。タツオさん。私がこの王立ロンドン魔法学園の学園長、エリザベスよ。以後、よろしく」
「日本より来ました葛木清隆と申します」
「妹の姫乃です。よろしくお願いします」
清隆と姫乃ちゃんはあわててお辞儀をしている。
「そうかしこまらなくてもいいわ。あなた方のお父様には私も大変お世話になっているわけだし」
「そうなんですか?」
「ええ。葛木さんとは古くからの付き合いですからね。日本に行った際、小さい頃の姫乃さんに会ったこともあるのよ」
「そうだったんですか?」
姫乃ちゃんは目を丸くする。どうやら、覚えていないようだった。
「覚えてないのも無理はないわ。あなた、ホントにちっちゃかったし」
エリザベスさんも昔の姿と何も変わっていなかった。まぁ、魔法で加齢を抑えることもできる魔法使いに、見た目の年齢は関係ないか。現に俺はエリザベスさんよりも長く生きているわけだし。
「三人にはこれから、当学園で全寮制の生活を送ってもらうことになります。日本での暮らしとはいろいろ違う点が出てくるでしょう。魔法の行使に関しても、日本での常識とは違うところが出てくると思います。ですが、これも見識を深めるための修行だと思って、素晴らしい学園生活を送ってください」
「はい」
「頑張ります」
「了解っす」
「タツオさん以外のお二人は素敵な返事ね」
あはは……は
学園長はニコりと微笑んだ。そして机の引き出しを開け、鍵を3つ取り出す。
「はい、清隆くん、姫乃さん、タツオさん、これがあなた方の寮のカギです。寮は男子寮と女子寮に別れてるけど、エントランスは同じだから、すぐにわかると思うわ。すでに荷物は寮の方に届いているはずだから、早めに部屋に行って長旅の疲れを癒して頂戴」
俺たち3人は学園長から鍵を受けとると、寮の詳しい位置を聞いた。
「では、早速、部屋にいかせてもらいます。行こう、姫乃」
「ええ。じゃあ、学園長、これからよろしくお願いします」
「ええ。ふたりの活躍、期待してるわ。タツオさんはここに残ってもらえるかしら?」
「了解っす。じゃあ、二人とも」
俺は姫乃ちゃんと清隆に別れを告げて、学園長室に残った。