9月1日
窓からの日差しで俺は目が覚める。なれない枕のせいか、微妙に首が痛い。俺は首をコキコキ鳴らし、上体を起こした。
今日は待ちに待ったわけじゃないが、入学式だ。
これから、いい学園生活が送れるといいんだが…
俺はそんな風に考えながら、風見鶏の制服に着替え、部屋を出た。
学生同士のたまり場になるであろう交流ラウンジは、学生寮の二階にある。ただ、この国、ロンドンでは一階をグラウドフロア、二階をファーストフロアと呼ぶそうなので、注意が必要かも知れない。
ともかく、俺は眠い目をこすって交流ラウンジにやってきた。
ここは男子寮と女子寮の共通のスペースのようだが、やはり、他の生徒は数えるほどしかいない。多分、地元出身の生徒の多くは、昨日は寮に泊まらなかったのだろう。
「兄さん。顔くらいちゃんと洗ってから来てくださいよね」
「洗ったってば。で、学生食堂は?」
ラウンジには姫乃ちゃんと清隆がいた。
これから、学生食堂で朝食にするのだろうか?
「たしか、あっちだったと思います………あっ、タツオさん」
姫乃ちゃんが俺に気づいて声をかけてくれた。
「よっ、二人とも、これから朝飯?」
「はい。これから学生食堂に行こうと思っていて、タツオさんもどうですか?」
姫乃ちゃんが朝飯を誘ってきた。当然俺は空腹だ。
「それじゃあ、ご一緒にさせてもらおうかな」
「じゃ、早速行きますか」
「はーい♪」
食事を済ませ、三人で学校まで歩く。3人で会話をしている内に学校についてしまった。
「いよいよだね………」
「何が?」
「え?あ、ううん。いよいよ、わたしたちの新しい学園生活が始まるだなぁ…って思ったら、胸がいっぱいになっただけ」
「…まあ、そうだな」
校舎には昨日も来たわけだけど、やっぱり、今日から入学ということになると印象も違う感じがする。
「頑張ろうね、兄さん」
「ああ」
姫乃ちゃんの言葉に清隆は頷いた。
朝から熱い兄妹の形を見るとは…笑
「ところで…俺たちはどこに行けばいいんだ?」
清隆は辺りをキョロキョロしている。俺も辺りをキョロキョロするが、クラス分けの紙とかが張り出されているわけではないようだ。
「そうだな…とりあえず他の人は校舎に入っているし、校舎の中に入ろうか」
俺の意見に2人は同意して、3人は校舎に入った。
「新入生はこっちへ移動して」
校舎内に入ると、上級生と思しき女生徒が、新入生を案内していた。新入生たちは、その上級生の指示に従って、続々と中へ入っていく。
その上級生に俺は見覚えがあった。名字は忘れたけど、巴さんだ。
「兄さん」
「うん」
清隆と姫乃ちゃんはお互いに顔を見合わせ、頷きあっている。
確か、巴さんと葛木兄妹は知り合いだったような設定があったような気がする。はっきりとは覚えてないけど…
「あの、すみません」
「…何?」
「
「そうだけど…君らはー」
「俺ですよ、俺。葛木清隆」
「姫乃です」
「かつらぎ……って、ああ。清隆に姫乃か。すっかり見違えたね、わからなかったよ」
「お久しぶりです」
「2人とも、少しは成長したようだね。で、そこの人はー……って、あれ?」
巴さんが俺を見て、何か考えている。
「どうしたんですか?巴さん?」
清隆が、考え込んでいる巴さんに言った。
「いや、どこかで見たことがある人なんだよ。どこだったかな……」
巴さんは昨日会った、シャルルさんと同じような反応をしている。
「巴さん。こちらはタツオさんです。船の時に会ってから、ずっと話しをしたりしてたんです」
姫乃ちゃんが俺を紹介してくれた。姫乃ちゃんの言葉を聞いた瞬間、巴さんは何か思い出したようだ。
「タツオさんって、あのタツオさん?まさか、ね……」
巴さんは「あはは」と笑っている。多分、あのタツオさんだと思うんだけど、それを言うと面倒なことになる。
「あのって、どういうことなんで……」
「それで、新入生はどこに行けばいいんですか?」
清隆が巴さんに質問する前に俺は話をきった。
「ほら、そこの列に従って進めばいい。そっちが待合室代わりになっているから、すぐにわかるでしょ」
巴さんは廊下の先を指さす。どうやら新入生の列はとある教室に向かっているようだった。
「すぐに入学式が始まるから、それまでは部屋に待機していてくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
清隆は巴さんにお礼をする。しかし、何故か巴さんはまだ俺を見ていた。
「うむ、いいお返事」
「じゃあ、行きましょうか。それでは、巴さん。失礼します」
「頑張れよ若人たち。タツオさんか………まさかね」
俺たちは巴さんに別れを告げると、他の新入生たちが進んでいく先へ向かった。