高垣楓の幼馴染   作:安怒龍

1 / 4
楓さんの所為でデレマスにハマりました。頑張ろうとは思っていますが、ダジャレが思い付かない私の語彙力の無さは見逃して下さい。


週末の飲み会

 本日のレッスンが終わり、高垣楓は帽子を深く被って居酒屋に入った。それに気付いた店員の一人が、接客して来た。

 

「いらっしゃいませ。お一人ですか?」

 

「いえ、知り合いと待ち合わせしてます」

 

「そうですか、失礼いたしました」

 

 店員は下がり、楓はスマホの画面を見た。メッセージの画面には「入って左奥」と指示があった。それに従い、左奥に行くと一人で二人席で飲んでる男の姿があった。

 

「お待たせ。紅葉くん」

 

 声を掛けるが、返事はない。よく見ると、耳にイヤホンがつけられていて、そのイヤホンは手元のスマホに繋げられていた。手元のスマホで、男……紅葉は音ゲーをしていた。

 ゲームをしていた事によって無視された事にイラっとした楓は、紅葉のイヤホンを外すと息を吹きかけた。

 ゾゾっとした紅葉は肩を震え上がらせて横を見た。

 

「うおっ……ックリしたぁ……。楓か。なに?どうしたの?」

 

「どうしたの?じゃないわよ。来たのよ約束通り」

 

「そうか。とりあえず生頼んどいたけど」

 

「えぇ。ありがとう」

 

 お礼を言いながら楓は紅葉のお向かいに座った。すると、ちょうど良いタイミングでビールが運ばれて来た。

 

「お待たせしました」

 

 二人の前にビールと料理が置かれ、楓と紅葉はジョッキを持った。

 

「はい、じゃあ今週も」

 

「お疲れ様でしたー」

 

 気の軽い台詞と共にジョッキをぶつけて、二人はビールを飲んだ。ゴキュッゴキュッと喉を鳴らし、プハァっと息を吐いて楓はジョッキを置いた。それとは対照的に、紅葉は静かにジョッキを机に置くと、別の机で接客してて、戻ろうとしてる店員に言った。

 

「すいません、生お代わり」

 

「相変わらず飲むの早いわね……」

 

「まぁ、喉乾いてたしな。来るまで待ってたし」

 

「遅れちゃって悪かったってば。少し、みんなと話してて」

 

「別に怒ってねーよ。今日奢りな」

 

「怒ってるんじゃない。絶対嫌よ」

 

「とりあえず、焼き鳥と軟骨揚げと枝豆とタコワサ注文しといたから」

 

「あなたの食べたいものばかり頼んでおいて奢りはないでしょ」

 

「いや、好みはほとんど同じだろ」

 

「………そうね。今まで、なんでか好みや進路が合ってたものね」

 

 二人は小学校から知り合いだった。と、言っても別に仲が良かったわけでもなく、6年間では一回も話すことは無かった。

 中学に上がり、地元の小学校から中学校に上がったから、別に学校が別れることもなく、初めて同じクラスになった。それだけではなく、偶然同じ部活に入った。

 中学一年では同じクラスだったものの、二年三年では同じクラスになれずに、卒業して高校に上がると、これまた偶然にも同じ高校で同じクラスで同じ部活に入った。三年間同じクラスで、二年の春の文理選択では二人とも理系に進学し、二年の秋には男女で部活の主将になり、卒業後、同じ東京の大学に入った。その頃から、楓はモデルの仕事も始めた。

 そのまま大学で四年間、言うまでもなく同じサークルで過ごし、卒業後の進路はさすがにバラけ、週末に居酒屋で一緒に飲むようになり、楓がアイドルを始めて現在に至った。

 

「………ま、ここまで来ると腐れ縁どころじゃないわよね」

 

「そうだな」

 

 お代わりのビールを飲みながら、紅葉は頷いた。

 楓もビールを飲み、タコワサを摘みながら質問した。

 

「どうなの?仕事の方」

 

「まぁ、いつも通りかな。定時で帰った」

 

「ふーん、つまんなー。なんか、こう……良い子はいないの?」

 

「いない。大体、次元の多い女ばっかだ」

 

「当たり前でしょそれは……。なんで三次元で二次元の女の子探してるのよ」

 

「探してねーよ別に」

 

「ああそう……。まぁなんでも良いけど」

 

「そっちは?仕事どうなん?仕事っつーか……アイドル?」

 

「声大きいわよ。居酒屋でバレたら最悪なんだから勘弁してよ」

 

「ああ、悪い」

 

「こっちは楽しいわ。レッスンとかも楽しいし、歳下の子と話す機会が増えたから。学生の子もアイドルとかやっててね」

 

「へぇー。スクールアイドル的な?」

 

「違うから。ていうか、真面目に聞いてないでしょあんた」

 

「聞いてるよ。しかし、学生の間にアイドルなんて、その子も大変だな」

 

「えぇ。レッスンの休憩時間に課題やってる子もよく見かけるわよ」

 

「ふーん。良かったな、学生じゃなくて」

 

「まぁね。私もあと三年早かったら、卒業研究しながらアイドルしてたかもしれないのよね……」

 

「その頃には卒研しながらモデルやってたじゃん」

 

「いや、まぁそうだけどね?ほら、アイドルは踊りとか歌とかあるじゃない」

 

「あーまぁな。でも、俺がいなかったらお前、卒研終わらなかったじゃん」

 

「う、うるさいわよっ。あれは本当に感謝してるけど」

 

「そういえばあの時『終わったら何か奢るから!』って言って俺にせがんだよな。あれいつ奢ってくれんの?」

 

「あ、あら?そうだっけ……?ま、まぁそんな約束時効よね?」

 

「中一の二学期の期末、あの時も英語教えろってせがまれたな。マックのポテトと引き換えで」

 

「え、そ、そうだっけ……?」

 

「高二の三学期の期末の古典、風邪引いてて試験勉強出来なかったから、お前の家に泊まり込みで勉強教えたよな。次の日の昼飯代出すからって」

 

「ち、ちょっと待っ……」

 

「あと、大学受験までの間、化学教えてやったのは誰だ。大学受かったらゲーム買ってあげるからって言って」

 

「わ、わかったわよ!ていうか、よくそんな細かく覚えてるわね」

 

「……………」

 

 言われて、紅葉は困ったように首の後ろを掻きながらビールを飲み干して、息をついてから言った。

 

「………まぁ、楓との約束だからな」

 

「………えっ?」

 

「俺が得するタイプの」

 

「一言余計よ!………ああもう、わかったわよ。今までの分、まとめて今度奢るから。それで良い?」

 

「つーか、今日の飲み代でいい」

 

「何、ピンチなの?」

 

「今月は、ちょっとな……」

 

 深刻そうに紅葉は両手を顔に当てた。

 

「課金しすぎて………」

 

「私の心配を返して。ていうか、まだゲームに課金してるの?」

 

「人生は課金だ。楓だって健康値、スタミナ、HPのために課金したり、装備整えるのに課金したりするだろ。それと一緒」

 

「食事と服にかけるお金は課金とは言わないわよ……。ていうか、ゲームにかけるお金と一緒にしないで」

 

「じゃあ、とにかく今日頼むわ」

 

「はいはい……」

 

「すみませーん、イカチヂミとフライドポテトと焼き鳥の7本セット」

 

「ちょっと!奢りと確定した直後に頼み過ぎよ!」

 

「あ、あとこのキャベツの塩揉み……」

 

「はいそこまで!そこまでにして!」

 

 楓に止められて、紅葉はとりあえずメニューを閉じて机の傍に置いておいた。

 

「まったく……いきなり遠慮が無くなるんだから」

 

「美味ぇー他人の金で飲む酒美味ぇー」

 

「あんた……あっ、そうだ」

 

「何?」

 

「来週、私この週末の飲みちょっと予定あって……」

 

「………予定?」

 

 ピクッと紅葉の眉がほんの一瞬だけ吊り上がった。それを楓は見逃さなかった。

 

(………あれっ、私何かまずいこと言ったかしら)

 

 そう思いながらも、楓は一応説明した。

 

「来週の土日、かな子ちゃんと温泉レポートに行くのよ。その準備とかで色々あってね」

 

「かな子って、三村かな子?」

 

「そうよ?」

 

「………楓が、三村かな子と温泉?」

 

「何よ、どういう意味?」

 

 紅葉の視線が、楓の胸元に落ちた。直後、楓は紅葉の目を覆うように頭を掴み、コメカミを圧迫するようにギリギリと力を入れた。

 

「………どういう意味か、一から説明してくれる?高山紅葉くん?」

 

「…………す、すいませんでした高垣楓さん………」

 

 謝られると手を離し楓はビールを注文し、紅葉は両手で顔を覆った。

 

「……目ん玉飛び出るかと思った………」

 

「だから、来週はちょっと来れないって事」

 

「……それって、男も来んの?」

 

「? 来るわよ?プロデューサーさんとか」

 

「…………ふーん。何、ヤキモチ?」

 

「…………」

 

(あ、あれ………?)

 

 黙り込む紅葉を見て、狼狽える楓。紅葉はビールを飲むとボソッと呟いた。

 

「いや、男の視線が集まりそうにない楓が哀れで……」

 

「………聞こえてるんですけど」

 

「痛たたたた頭弾けるから離してごめんなさい」

 

「………あなたねぇ、普段女子社員にも同じようなことしてるわけ?」

 

「あの、痛いから話しする前に離してくんない」

 

「はいはい……」

 

 手を離してもらうと、注文した料理が先に並べられた。キャベツを齧りながら、紅葉は天井を見て思い出そうとする。

 

「……んー、どーだったかな」

 

「……まさか、話してるの?」

 

「いや、そもそも俺と話すような女子社員いねーわ」

 

「……………」

 

「こちらビールになります」

 

 それを聞いて悲しそうな顔になると、ビールを飲みながら楓は聞いた。

 

「………あなた、ちゃんと会社に友達とかいるの?」

 

 質問されて、紅葉は「どうだっけ……」とまた思い出し始めた。

 

「……いや、いねーな。入社当時とか、同期の中で俺だけ異常に仕事出来て、いつも定時で帰ってたら友達できなかった」

 

「………学生時代から何も変わってないのね……」

 

「まぁ、人間そう簡単に変われるもんでもねーしな」

 

「ねぇ、人の胸見ながらそういうこと言うのやめてくれる?次は手加減しないわよ」

 

「……えっ、さっきので全力じゃなかったんだ……」

 

 楓が指をゴキゴキと鳴らし始めたので、紅葉は慌てて謝ると、野菜を摘みながら言った。

 

「………まぁ、別に人間関係とか無くても支障は出てないし、コミュ障ってわけでもないから、話し掛けられても返事は出来るし、全然困ってはないけどな」

 

「………いや、でもマズイわよ。紅葉くんはこれからもずっと、その会社で仕事を続けるんでしょう?」

 

「まぁ、そうだな。転職は面倒臭そうだし」

 

「なら、少しくらい友達とかいた方が良いんじゃないかしら。学校と違って、数年で終わるわけではないのよ?」

 

「……………」

 

 言われて、紅葉は少し顎に手を当てて考えた。そう言われれば、学生時代には友達はいたし、今まで寂しさを感じなかったのは、毎週末にこうして楓と飲んでいたからかもしれない。

 

「……ま、楓の言うことも分かるけど」

 

「でしょ?なら、会社でも友達を作りなさい」

 

「………ま、考えとくわ」

 

「素直に『うん』って言えないの?」

 

「いや、だってよく考えたら俺、友達の作り方知らねーし」

 

「………はっ?」

 

「今まで学生時代の友達って、楓が連れて来た友達ばかりだったじゃん」

 

「…………確かに」

 

 あれ?これまずくない?と楓は思った。紅葉は入社して既に三年経過している。ここから友達を作るってだけでも至難の技なのに、友達作りスキル皆無の紅葉には難しいどころか、下手をしたら完全に孤立する気がした。

 

「………ま、なるようになるだろ」

 

「や、やっぱり待ちなさいっ」

 

 呑気なことを言い出して、孤立する気がする所か確信した楓は、反射的に止めた。

 

「は?」

 

「……あの、やっぱり練習しない?」

 

「練習?何の?」

 

「友達作りのよ」

 

「いや、良いよ別に。トモコレ制覇してるし俺」

 

「ゲームと現実は違うから。ていうか、すぐにゲームを持ち出してくるのやめてくれる?」

 

「大体、友達作りの練習って言ってもどうするの」

 

「んー……そうね、じゃあ再来週からのこの飲みに、私が知り合いのアイドルを連れて来るわ」

 

「………はっ?」

 

「その子で練習しましょう?良いわね?」

 

「良いけど……その子には迷惑じゃないの?」

 

「それくらい、ちゃんと見極めて連れて来るわよ」

 

「……なら良いけど」

 

「じゃあ、再来週にまたここでね」

 

「………おう」

 

 そう約束し、とりあえず飲みを再開した。

 

 

 ー

 

 

 楓と紅葉は店から出た。あれからも結構飲んだ紅葉は、それでも顔を赤くすらしていない。一方の楓は結構飲んだのか、割と顔を赤くしていた。

 

「っ、ふぅー。やっぱり週末の飲みは外せないわ。普段、アイドルの子達と飲みに行くときはやっぱり、飲みより会話メインになっちゃうから」

「ふわあ……そいつはどうも。来週はないんだけどな」

 

 夜、楓を家に送る途中、紅葉は欠伸をしながらそう返した。

 

「冷静に考えると、私と紅葉くんの関係ってすごいわよね。小学校からずっと一緒なんて」

「関わり始めたのは中一だけどな」

「それはそうだけどね……。あーあ、こんなに関係が続くのなら、小学生の時も少しは絡んでおけば良かった。……ま、絡んでなくても一番付き合い長いけどね」

 

 少し酔ってるのか、いつもより饒舌だったが、毎週の飲みではいつもの事なので、紅葉は何も言わないでおいた。

 

「やっぱり紅葉くんとの飲みは外せないわ」

 

 そう微笑みながら楓は言うと、紅葉の先を歩いた。もう深夜の0時を回っている。そんな時間に楓のマンション付近の公園を通り過ぎ、自宅に向かっていた。

 変装してるとはいえ、他人に見られたら変な勘違いをされそうなのに、紅葉は無言で楓の後を続いていた。

 しばらく、酔った楓の長台詞をテキトーに頷き返して歩く事数分、楓のマンションに到着した。

 

「………おっ、ついた。じゃ、紅葉くん。また飲もうね」

 

「……………」

 

「紅葉くん?」

 

「来週は、温泉なんだよな」

 

「そうよ?」

 

「……………」

 

 紅葉は真顔で楓を見つめた。真顔なのに、楓には何処か寂しそうで儚げな表情に見えた。その表情のまま紅葉は言った。

 

「お土産、何処のお土産屋にある生チョコ饅頭で」

 

「了解っ。またね、紅葉くんっ?」

 

「またね」

 

 それだけ挨拶して、楓は胸前で軽く手を振ってマンションに入っていった。その背中を眺めながら、「酔ってる時はバカで良かった」と紅葉は思った。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。