高垣楓の幼馴染   作:安怒龍

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高垣楓と幼馴染の部屋

 

 翌日、高垣楓は三船美優の家を出た。朝食を食べ次第、さっさと部屋を追い出されたのである。美優は今日、仕事らしいし。

 早速、昨日言われた通りに紅葉の家に謝りに向かう所だ。手ぶらなのもなんか悪いので、ケーキ屋で限定のケーキ、それとコンビニでビールとつまみを購入して、マンションに向かっている。

 

(………紅葉くんの家に行くの久しぶりね)

 

 大学以来だった。当時は課題を終わらせたり部活のことで相談があったりと何か用事があったのだが、私用で来るのはある意味初めてかもしれない。ていうか、紅葉の部屋だとゲームがあり過ぎて勉強にならないから来なくなった。

 

(……………怒ってるかな)

 

 少し緊張していた。男性の部屋に上がるというのもあったが、昨日の件は怒っているのだろうか、という懸念があった。沸点は低くないので気にしてないかもしれないが、話を聞いた感じだと慰めてくれた相手を黒歴史で煽るという最低最悪の行為を行ってしまっている。いくら紅葉でも怒ってるかもしれない。

 

(…………で、でも、ケーキとお酒とつまみ買って来たし、大丈夫のはず……よね?)

 

 そう心の中で復唱したのは何度目か。こんなに緊張するなんてらしくないと思いながら、とりあえず想定してみた。

 

 パターンA『謝りに来た?や、謝罪とか良いから。昨日飲み過ぎて頭痛いし、別に来てくれなくてもメールで良かったわ』

 

 いや、ないな、と思い直した。アホみたいに酒強いし。

 ………言われるとしたら、さりげなく帰って欲しい事を伝えたい時だろう。

 

(…………これを言われたら、終わりかも………)

 

 そう思いつつ、別のパターンを浮かべてみた。

 

 パターンB『謝りに来た?はい、許した。それより今、俺ゲームの手ぇ止めてるんだよね。うち上がっても良いけど話し掛けないでね』

 

 正直、無くも無さそうだ。機嫌悪くてゲームでストレス発散してる時に話し掛けるとこんな返事が来る。

 仮にこれが帰ってきたとしたら、間違いなく機嫌が悪い理由は自分だろう。

 

(…………迷惑そうだったら早めに帰りましょう)

 

 というか、後ろめたいからか良い時のパターンが全く浮かんで来ない。そもそも、表情の変化が起こりにくい人だし、どんな時に喜ぶのかがイマイチ想像出来ない。

 それでも、何とか最良パターンを絞り出してみた。

 

 パターンC『わざわざ謝りに?そんな気にしてないから。てか一々気にしてたら楓と付き合えないから。とりあえず、ケーキと酒とつまみだけ置いて帰れ』

 

 いやどう考えても最良ではない。てか、最良で門前払いされてるし。すると、自然と紅葉の家に向かう足が止まった。考えれば考えるほど、行くのが怖くなってくる。

 正直、行かなくても美優にはバレないし、多分誘えばまた来週から飲みに行けるだろう。

 

(……でも、謝りたいっていうのもあるし………)

 

 というか、慰められた時は正直嬉しかった。まさか目の前の無関心の擬人化みたいな奴からそんな風に言ってもらえるとは思わなかったし不意打ち効果もあったが、それでもふつうに嬉しかった。

 それに対して仇で返してしまったのはどうしても申し訳ない。かな子が言ってた通り、ここまで長く続く関係は中々ない。失うまではいかなくとも、それに少しでも亀裂が入るのは嫌だった。

 

(…………行かないと)

 

 そう決めて歩き始めようとした時、ヴヴッとスマホが震えた。

 

「ひゃんっ⁉︎」

 

 ゾクゾクっとして背筋が伸びてしまった。変な声を上げてしまい、慌てて辺りを見回した。人がいなくて幸だった。

 ホッと胸をなでおろしてスマホを見ると、美優からだった。

 

 三船美優『一応聞きますけど、ちゃんと事前に連絡しましたよね?』

 

 してなかった。というか、その手を使えば今の紅葉の機嫌が分かる。とりあえず感謝しておくことにした。

 

 高垣楓『はい、まだ返事は来てませんが』

 

 でも見栄を張っておいた。

 スマホを取り出し、紅葉に連絡した。

 

 高垣楓『はなしがあふんたまけど』

 

 高垣楓『話があるんだけど』

 

 高垣楓『今か、行くかや』

 

 高垣楓『今から行くから』

 

 ミスって4回も送ってしまった。だが、返事はない。それどころか既読も付かない。

 

(………やっぱり、怒ってるのかな……)

 

 少し気まずくなった。もしかしたら未読無視かもしれない。嫌な汗が頬を伝ったが画面を眺め続けた。一向に付かない既読。待てば待つ程、嫌な汗が溜まっていった。

 その直後、既読が付くと同時にメッセージが送られてきた。

 

 高山紅葉『"高山紅葉"さんからハートが届いたよ!』

 

 不覚にも少しイラっとした。とりあえず、ゲーム中である事は間違い無いようだ。

 まぁ、もう連絡はしたし別に良いかと開き直り、歩き始めた。

 

 

 ー

 

 

 10分ほどで到着した。楓や美優のマンションと違って安いマンションなので、自動ドアは存在しない。

 部屋の前に到着し、インターホンを押した。

 

「………………」

 

 返事はない。つむ○むやって来るくせに、と少しイラっとしたのでもう一度押した。応答なし………かと思いきや、ガチャッと音がした。

 

『………はい?』

 

「………も、紅葉くん?」

 

 緊張気味に声を絞り出した。顔が見えないため、向こうの表情が読めないが続けた。

 

「メール見た?話したい事が、あるんだけど………」

 

『メール?………あ、来てたわ』

 

「昨日の事、なんだけど……」

 

『昨日?良いよ上がって。鍵開いてるから』

 

 不用心な……と思いつつも部屋に上がった。中に入って靴を脱いで進むと、紅葉はリビングでゲームしていた。

 

「こんにちは」

 

 声を掛けると、人差し指を立てられた。静かにしろ、という事らしい。

 すると、紅葉はマイクを付けて話し始めた。

 

「はーいお待たせ☆ちょっと変な来客がね。でも大丈夫、追い返したから!」

 

 プフッ、と吹き出しそうになったが、何とか堪えた。紅葉は生放送していた。

 妙なテンションでしばらくスプ○トゥーンの実況をし、その間楓は後ろの食卓の椅子に座って笑いを堪えるのに必死だった。30分ほど経過し、ようやく終わった。

 ふぅ、と息をついてソファーの上に寝転がり、ソファーの上の毛布を自分に掛けて目を閉じた。そこでようやく、楓は流れるような睡眠への流れに気付き、慌てて起こしに行った。

 

「ちょっ、なんで寝てるのよ⁉︎起きなさい!」

 

「…………」

 

「もう寝息立ててる⁉︎嘘よね?起きてるのよね⁉︎」

 

「………くかー」

 

「起きなさいったら!ゲームの相手してあげるから!」

 

「おはよう」

 

「起きてるんじゃない!」

 

「じゃあ、早速やるか」

 

「いや、待ちなさいよ!私が何しに来たと思ってるのよ⁉︎」

 

「知らね」

 

「知ろうとしなさいよ!」

 

 人がせっかく緊張してきてあげたのに……!なんて紅葉には知る由もない事を考えながらも、コホンと咳払いをして要件を話し始めた。

 

「………その、昨日のことで……」

 

「昨日?なんかあったっけ?」

 

「…………覚えてないの?」

 

「…………?」

 

 キョトン顔の紅葉に若干イラつきながらも謝りにきた経緯を説明した。それを聞くなり、紅葉はため息を吐いて答えた。

 

「………そんな事?良いよ別に気にしなくて」

 

「で、でも……せっかく慰めてくれたし………!」

 

「いや別に慰めるのに『せっかく』とか無いだろ。もう気にしてないから」

 

「…………嫌いにならない?」

 

「そんな事で嫌いになってたら楓と付き合ってられないから」

 

「……………」

 

 そう言われ、少し嬉しそうに頬を染めた。

 

「それより、早くゲームやろう」

 

「……………」

 

 余計な一言が無ければもっと嬉しかっただろうと思わざるを得なかった。

 

「その前に、ケーキ食べましょう。せっかく買って来たんだから」

 

「わざわざケーキも買ってきたの?悪いね、なんか」

 

「お皿とフォークは何処にあるの?」

 

「棚」

 

 言われて、台所の棚から皿とフォークを取り出し、箱の中からケーキを二種類取り出して分けた。買って来たのはチョコケーキとチーズケーキの二種類だ。

 

「さ、好きな方どうぞ」

 

「え、片方は楓が食べたい方が買って来たんじゃないの?」

 

「決められないから私が食べたいのを二つ買ってきたの」

 

「………これ俺に買って来たんだよな」

 

「良いから食べましょう」

 

 との事で、ケーキを食べることになった。

 その後は二人でケーキ食べてゲームして話して、とまったり過ごした。しばらくのんびりと二人でガンダムのPS3のゲームをしてると、紅葉(格闘、特殊格闘縛り)が大きく欠伸をした。

 

「あら、戦闘中に欠伸なんて余裕ね?紅葉君」

 

「うん」

 

「うん、じゃないわよ」←10連敗目

 

 生返事をしながらくあっと欠伸をもう1発。眠そうに目をこすった。

 

「………眠いなら寝てても良いのよ?」

 

「………そうするわ」

 

 直後、紅葉のΖガンダムのビームサーベルが楓のフリーダムガンダムの胸を貫き、紅葉のお腹がぐうっと鳴った。

 

「………眠いって言ったりお腹すいたって言ったり勝ったり忙しい人ね」

 

「うん」

 

「だから、うんじゃないわよ。何か食べる?作りましょうか?」

 

「食べる………」

 

「はいはい」

 

 コントローラを置いて台所に向かった。冷蔵庫を開けたが、中には何もない。

 

「ちょっと、冷蔵庫の中何もないじゃない!」

 

「………今日は、朝から寝て……夜に晩飯とゲームを、する予定だったから………」

 

「ああもうっ……仕方ないわね。買い出し行ってくる」

 

「…………いってら」

 

「はいはい。何か食べたいものは?」

 

「………こんがり肉G……」

 

「勝手に買ってくるから」

 

 とりあえず、簡単なものでも良いかな?とか考えながら部屋から出て行った。

 

(………なんで私がこんな使用人みたいな真似を……)

 

 近くのスーパーに向かう途中、ヴーッヴーッとポケットの中のスマホが震えた。電話のようだ。画面には三船美優の文字。

 

「もしもし?」

 

『どんな感じですか?』

 

 明らかに楽しんでる声だ。

 

「どんな感じも何も……今は買い物中です」

 

『デートですか?』

 

「いえ、紅葉君のご飯を買いにスーパーまで。………冷蔵庫に卵しかないもので………」

 

『ああ、そういう………。何を作ってあげるんですか?』

 

「………何故、私が作ってあげることを知ってるんですか?」

 

『勘です』

 

 勘って……と、少し引いたが、別に隠してるわけでもないので何も言わないでおいた。

 

「………何でも良いと言ってたのでテキトーに」

 

『そこはオムライスとか女子力の高いものが良いのではないですか?』

 

「いえ、紅葉くんの場合はテキトーが適当なんです」

 

『あ、あはは………。よ、よく分かってるんですね。高山さんの事』

 

「それは、まぁ……中学から一緒ですから」

 

 そんな話をしながらスーパーに到着した。

 

『ちなみに、高山さんは何が好きなんですか?』

 

「彼はなんでも食べますよ?強いて言うならラーメンですが……」

 

『ラーメンは作りようがありませんね………』

 

「はい。ですから、まぁテキトーに炒飯とか作ろうかなと考えてます」

 

『炒飯ですか』

 

「エビとネギとナルトと……あと炒飯と言ったらなんでしょうか?」

 

『卵』

 

「なるほど……。それは家にあるのを使うとして………」

 

 食材をカゴに入れてると、電話の向こうから「誰ですか?」と声が聞こえた。

 

『楓さんよ』

 

『楓さんって、今日は高山さんの家に行ってんじゃあ……』

 

『ええ。ご飯作ってあげるんですって』

 

『ご飯ですか?なんか通い妻みたいですねー』

 

『ねー』

 

「ねー、じゃないですよ。誰と話してるんですか?」

 

『かな子ちゃんです』

 

「通い妻ではありません。どちらかというと、ダメな弟にご飯作ってあげてる気分です」

 

『………どちらかと言うと、楓さんの方が妹っぽいですよ。ね?かな子ちゃん』

 

『はい』

 

「二人して何をバカな…………」

 

 思い当たる節もない事はないので、それ以上反論はしなかった。でも紅葉の妹はなんか気に食わないので、レジで買い物を済ませ、スーパーから出ながら「いや」と否定した。

 

「でも、妹は言い過ぎですよ」

 

『いえ、妹でしょう』

 

「だって未だにゲームにハマってるような人ですよ?」

 

『では、多数決をとりましょうか。ちょうど、二人のことを知ってる二人がこちらにも揃っていますし』

 

「なんですか、多数決って」

 

『まず、落ち着いてるのはどっちだと思う?』

 

「私」

 

『高山さん』

 

『高山さん』

 

『はい、高山さんね』

 

「いや、あれは落ち着いてるとかじゃなくて無表情なだけでは……」

 

 支払いを済ませてレジから離れた。

 

『次、言い争いになっても負けない方』

 

『高山さん』

 

『高山さん』

 

「…………」

 

『満場一致ね』

 

 それは否定できなかった。

 

『最後、面倒見が良い方』

 

「私」

 

『高山さん』

 

『高山さん』

 

「なんでですかっ?」

 

『そりゃ、楓さんが酔った後も必ず送って帰るし』

 

『迷惑料なんてくれちゃうし』

 

「でも、今は私がお世話してる方ですけど」

 

『当日に許可もらって来てお世話するのはお世話と言わないのでは………』

 

「………わかりました。もう私が妹で良いです」

 

 そんな話をしてると、もうすぐ高山家に到着する。

 

「もう着くので切りますよ」

 

『分かりました。頑張って下さいね』

 

「………ていうか、今日仕事なんですよね?どうしてこんな長時間電話してる暇が……」

 

 そこで通話は切れた。もうなんでも良いや、と言わんばかりにため息をつきながら、兄(仮)の部屋に上がった。

 

「ただいま。今からご飯作るから少し待ってて」

 

「………………」

 

 返事はない。テレビの電源はついてないのでゲームしてる事はないはずだ。一応、様子を見とこうとソファーに向かうと、思いっきり眠っていた。

 

「…………兄でも妹でもないわね」

 

 やっぱり幼馴染かな、なんて思いながら毛布をかけてあげて、とりあえずチャーハンを作り始めた。

 

 


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