幻想郷怪奇談 ~寺子屋で話す怖い話~   作:ごぼう大臣

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四周目・六話目-魂魄妖夢

 「私が六話目ですか? むむむ、ついに来ましたか……。というか今いる中で最後じゃないですか。期待されてない余り者がトリを任されちゃうっていう、最悪のパターンですよこれは。

 

 期待に沿えるかは分かりませんが……。とりあえず自己紹介をしておきますか。魂魄 妖夢(こんぱく ようむ)です。普段は冥界にある白玉楼で庭師をしております。亡霊なんかが珍しくない、慣れないうちは不気味がられる地域ではありますが、主の方が頼もしいので、なんとか大事もなく仕事をしております。

 本来であれば怖い行事に首を突っ込むつもりなど無かったのですが……ね。

 

 まあ愚痴を言っても仕方ないでしょう。先ほど言った主の方……西行寺 幽々子(さいぎょうじ ゆゆこ)様というのですが、そのお知り合いに八雲 紫(やくも ゆかり)様がいらしっしゃいます。皆さんには紫様の方が馴染みが深いでしょうか。

 今更と言われるかもしれませんが、紫様がまた面倒くさい方でしてね。いきなり現れたかと思えばスカートをめくってきたり、作りかけの料理にカラシをたくさん放り込んだり、時には剣の稽古の最中に背中をつついてきたりするんです。思わず木刀を振るって、目の前に紫様の顔があった時は、心臓が止まりそうになりました。万が一ぶん殴ってしまったら、幽々子様からどんなお仕置きを受けるかわかりません。

 多少の悪戯なら幽々子様もよくなさいますが、紫様は神出鬼没な上にやる事も一層悪質です。最近ではこっそり家中の時計を早めたりなんかもありました。毎日屋敷の世話を一人でこなす私は、その日とうとうクラクラきたものです。

 

 それでも私は仕える立場ですから、なかなか人には不満を言えません。似た立場の友達もいますが、上司の性格も仕事の大変さもまちまち故、辛さを共有するにもあまり深くは難しいのです。

 そういう意味では、紫様の従者の八雲 藍(やくも らん)さんが良い話し相手でした。私よりずっと頭も手際も良い方で、なにより紫様と幽々子様に近しいので互いに不満も理解してくれるのです。時には相談に乗って解決策を出したりもしてくれました。

 

 ……だから、先日深刻な顔をしていた時も、心配になって声をかけたんです。大丈夫だと言われても、しつこいくらいに確認しました。だって何度も助けてもらってるんですもの。もし一人で抱え込んでいる事があれば解決してあげたいと思ったんです。

 私がじっと見つめると藍さんはしばらく無言で目を泳がせ、やがて観念したように目を合わせて言いました。

 

『……妖夢は、紫様をどう思う?』

 

 一瞬きょとん、となりました。藍さんは確かに仕事を押し付けられ、紫様の気まぐれに振り回され大変な目にあっていましたが、それでも普段は温厚で私よりとても芯のある方に見えていたので、紫様の人となりに疑問をはさむ……もっと言えばネガティブなイメージをほのめかすような言動はとても意外に思えたのです。

 しかし普段は真面目ゆえ、崩れる時は一気に崩れる、そんな予感もしました。正直に言おうか、しかし身近にいる藍さんを差し置いて私が悪し様に言って良いものか……。かける言葉を慎重に選び、私はおそるおそるこう言いました。

 

『貴女と、思いは一緒です。藍さん』

 

 少なくとも味方であろうと伝えると、藍さんはただ黙って頷き、しみじみとした様子で目を伏せていました。私が見つめていると、藍さんは一言『分かった』と呟き……。

 こう付け加えました。

 

『君の心情は紫様に報告させてもらうよ。実に残念だ』

 

 

 

 

 ……妖夢の話が途切れる。終わった事に気づいてから、何名かが吹き出す。妖夢はその反応に目を白黒させた。

 

「剣士さん……ジョークで受け狙いかい?」

 

「無理しなくとも良かったんだぜ?」

 

「な、なんで笑うんです! あの時ビックリしたんですよ!」

 

 燐や妹紅の苦笑いに妖夢は手をわたわたさせて反発する。どうやら本当に怖いつもりだったらしい。まあ当人の状況を考えれば分からなくもないのだが……。

 

「……? どういう意味?」

 

 首を傾げるメディスン。それを見て黙っていた赤蛮奇が答えた。

 

「結局どちらも不満だらけだったけど、妖夢は口に出しちゃったからヤベー、って話さ」

 

「……ふーん……」

 

 メディスンは興味も無い様子で肩を鳴らした。意味を掴めないのでは怖いも何もない。妖夢はその様子を見てか口を尖らせてそっぽを向いた。というか、当事者が話す体験談として、怖いかはともかく他人に聞かせてウケを狙うような内容なのだろうか。私には過労やパワハラなど現実的な懸念がそぞろに頭に浮かんでくる。

 

「……妖夢、あんまり大変なら相談に乗るぞ? 万が一シャレで済まなくなってからじゃ遅いだろう」

 

「そういう返事を聞きたいのではありませんっ」

 

 純粋な心配のつもりだったがかえって怒らせてしまったらしい。妖夢は"クワッ"と効果音が鳴りそうなほどの大口で叫んだかと思うと、自分のお茶を取って物凄い音を立てて飲み干した。空になったコップを畳に叩きつけ、眉間にあからさまなシワを刻む。

 

「あーもー、そんなに言うなら皆さんは面白い事が言えるんですよね? じゃあ手本を見せてくださいよ。聞いてあげますから。言えないんですか? 言わなきゃ帰しませんよ。さあどうしました」

 

 周りを見渡して大声で煽りだす妖夢。他の面々は「やけになったな」「酔っぱらいかよ」「面倒くさいなあ」と口々に不満の声を漏らすが、妖夢は聞こえていないのか鼻息荒く膝を叩いている。ここは開催者の私が体を張るべきなんだろうか。そんな考えもよぎったが元来私に冗談の才はない。今いるメンバーでは妖夢が最後なので、どうにか幕引きの雰囲気に持っていかねばならない。

 

「なら、儂が手本を見せてやろうか」

 

 思考を巡らせていると、マミゾウが不敵な笑みを浮かべていた。手にはいつの間に取り出したのか酒を入れるとっくりが握られている。

 

「……自信ありげですね」

 

 妖夢がすねた口調で言うと、マミゾウは呆れたように首を振った。

 

「お前さんよりは、な。大体基礎がなっちゃいない。怖い話なら物語として中途半端じゃし、ジョークならもっとスマートにまとめにゃ」

 

 講釈をつらつら述べてから、マミゾウが目を細めて身を乗り出す。そして不満顔の妖夢と向き合いながらも全く動じずに話し始めた。

 

 

~~~

 

 

「……ある日の紅魔館で、パーティーを開いた時の事じゃ。

 客人の一人にレミリアが命じた。

 

『フランドールが退屈してるわ。あなた、遊んできてくれない?』

 

『そんな、死ぬかもしれないじゃないですか』

 

 怯える客人に、レミリアは肩をすくめて笑う。

 

『心配は要らないよ。十回に一回は生き残れるさ』

 

『馬鹿な! ほとんど死ぬじゃありませんか』

 

『君で十人目だ。すでに九人は死んでいる』

 

 

~~~

 

 

 今度はより多くの人数が吹き出した。マミゾウがふふんと笑うのに合わせ妖夢が悔しそうに口を結ぶ。

 今度は妹紅が手を上げた。妖夢がしぶしぶ手で促す。

 

「……じゃ、妹紅さんどうぞ」

 

「たまたま思い付いたからな」

 

 

~~~

 

 

 ……永遠亭に一人、新入りの妖怪兎がいた。慣れない職場でカチコチの新入りに、てゐが声をかける。

 

『心配は要らないよ。上から下まで、ハラスメントとも、残業とも、薄給とも無縁なんだからさ』

 

 と、そこに目を輝かせたウドンゲが割り込み、こう言った。

 

『そんな夢みたいな職場があるの!? ぜひ教えてちょうだい!!』」

 

 

~~~

 

 

 今度は私まで笑ってしまった。ここまで来たら皆が乗り気だ。次々と口角を上げ今にも誰かに話したいという顔で名乗りを上げる。

 

 

~~~

 

 

「……あるお金持ちが、竹林の嘘つき兎を捕まえてくれれば多額の礼金を払うと言い出した。

 応じたのは三人。

 

 一番目の東風谷早苗は『奇跡の力で解決してみせます!』と意気揚々と竹林に入って行った。

 数時間後、彼女は両腕一杯のタケノコを持ち帰った。

 

 二番目の霧雨魔理沙は魔法で竹林をあらかた焼き払った。そして一面を見回し、『いねえなあ』と一言つぶやいて兎の焼き肉を持ち帰った。

 

 三番目の博麗霊夢がついに『竹林近くで兎を捕まえた』と発表した。

 しかし見てみると、首根っこを掴まれているのはどう見てもボロボロの狼。それを群衆が問うと、狼が泣きそうな顔で叫んだ。

 

『私が兎です! 間違いありません、私が兎です!!』」

 

 

~~~

 

 

「……博麗神社に氷精が『頭をよくしたい』と言って訪ねてきた。霊夢は奥から御札を取り出してきて、こう言った。

 

『これから十日間、毎日ここでお札を買いなさい。きっと賢くなれるわよ』

 

 氷精は喜んで御札を買い続けた。しかし十日たっても、一向に効果がある気がしない。

 

『霊夢、この御札きかないよ!』

 

 むくれる氷精に、霊夢は微笑んだ。

 

『ほら見なさい。一つ賢くなれたでしょう?』」

 

 

~~~

 

 

「この際だから、先生もやってみないかい?」

 

「え、私か?」

 

「大丈夫じゃて。今更一つくらいつまらなくとも文句は言わん」

 

 促されるがまま、慌てて頭を捻る。急にやれと言われても不安だが、ここまできて私だけ傍観するのもつまらない。

 

 

~~~

 

 

「……ある日、早苗と霊夢が妖怪の山のロープウェイについて話していた。

 

『ったく、新しく作ってもあまり使わないんじゃないの?』

 

『少しくらい、使わないモノがあっても良いと思いますよ』

 

『あん?』

 

 怪訝な顔をする霊夢に、早苗は笑って言った。

 

『博麗神社にもお賽銭箱があるじゃないですか』」

 

 

~~~

 

 

 今までの雰囲気のお陰か、なんとか楽しそうに笑ってくれた。あまり馴染みのない感覚だが、冗談がウケるというのはわりかし気分が良い。

 さて、あとはお開きまでにジョークを披露したい奴は……。

 

「あっ」

 

 小さく声が出た。浮かれていたせいで気づかなかったが、メディスンが壁に寄りかかって眠ってしまっている。

 皆が笑っている間も退屈だったのだろうか。この子は少しずつ他人と親交を深めつつあるというのに、教師ともあろう人間が芽を摘んでしまっては一大事。とにかく起こそうと駆け寄り、軽く頬を叩く。

 

「んぅ……」

 

 微かに不機嫌そうに唸り、メディスンが薄目を開ける。居眠りする生徒を起こす時は苛立ちや呆れが強かったが、今この場ではまどろみながらも睨んでくる瞳が妙に可愛らしく見え、一層申し訳なくなった。授業ならともかく、楽しもうと思って来てくれたものがつまらないまま終わるのはメディスンも不本意だろう。

 

「あ……私寝てた……?」

 

「ああ、ごめんな、退屈させちゃって」

 

 目をパチパチしながら呟くメディスン。怒ってきたら謝るつもりだった。もし寝てた方がマシだと言われたならば、責任は場をつくる全員……もとい自然と司会っぽい立場に収まっていた自分にあると思ったからだ。

 ところが、意外なことにメディスンはニッコリと笑い、眠気の残る声で言った。

 

「ううん、ちゃんと面白いとこあったよ」

 

「そ、そうか? それは良かった」

 

 嬉しさと戸惑いが同時にきて、つい馴染みの子にするように頭を撫でていた。毒の能力のせいか手がピリピリ痺れるが、気にはならない。

 

「ちなみに一番好きなのってどんなのだった?」

 

「全部終わった時が、一番良かったよ」

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