女子高生は転生して有頂天になるようです   作:歩く好奇心

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 久しぶりに書いてみました。良ければ読んでやって下さい。


第1話

 田中ゆみ子という女性がいる。

 

 田中みゆ子は極普通の女子高生、まさに平凡な女性である。

 

 しかし今はその限りではなく、

 

「え........、ここどこよ?」

 

 この瞬間、田中みゆ子は非凡となる。

 

 某高校の使われていない空き教室。勝手に使ってはならないが、みゆ子はここにこっそりと忍び入っては、のんびりするのが日常だ。

 そんな違反してる自分がちょっといい感じと、そんな楽しみを味う、かび臭い個室。

 みゆ子はそこで、いつものように一人だべっていた。

 

 

 しかし彼女の視界は、突如として変わる。

 

 ふと気づいた瞬間、目の前にはそんな高校生の日常風景はなく、あるのは大自然極まる雄大な青空、ただそれだけ。

 

 気づけば全身、水に浸かった感覚だった。

 

 見れば、どうやらここは浜辺のようで、決して先ほどまで彼女がいた、かび臭い空き教室ではない。

 

「これって何かのドッキリ?」

 

 違うと、周囲の状況がそう告げているのが分かる。

 さっきまで聞こえたはずの、学生達が笑いあう声、それすら今は聞こえない。

 なんなのかこの感覚は。

 よく分からない追いたてられるような気持ちだ、彼女はそんな感情に襲われる。

 

「...こ、こより~、美和子~?

 ...いないのぉ?」

 

 何となしに友達の名を呼ぶ。

 頭の片隅で、この行為自体何となく無駄であることはわかっている。

 さっきまで一人でいたのだ、いるはずがない。

 それでも、

 

「こよりっ、いるんでしょっ!? もう降参だってぇ、ねぇっ!? 

 美和子っ、あんたも悪のりしないで出てきてって、ねえってっ」

 

 それでもその行為を止めることはできない。

 彼女は何となくその辺りに向かって、友人の名を呼び続けるのだ。

 

 当然、望んだ返事は返ってこない。

 

 

 わからない......、ここがどこで、自分に何が起きていて、これからどうするべきなのか、彼女は何もわからない。

 

 彼女はばくばくと動悸を感じ、

 

「......ねぇ、ねぇっていってんだろぉぉがぁぁぁぁああああああ!!!!」

 

 彼女は必死に叫ぶ。

 何かしなくちゃ。そんな強迫観念にも似た何か、そんな何かに突き動かされる。

 彼女の声は焦燥に満ちた。

 

 しかし、返ってくる返事はなく、しばらくして彼女は思うのだ。

 あぁ、もう無駄なんだと。

 そう思うと同時、体のどこかで、よくわからない妙な虚脱感が残され、することがわからない彼女は、ぼんやりとそんな虚脱感に身を任せるのだった。

 

 

 

「つか、何であたしこんな全身濡れてんのよ......」

 

 彼女はふと疑問を呟く。

 

「海で遭難でもしたの、あたし......」

 

 もちろんそんな記憶はない。

 

「あたしが分かんないだけで、記憶喪失とか?」

 

 だとしても違和感が残る。

 彼女の感覚としてはまさに、突如空き教室から浜辺へ移った、そんな感覚だ。

 明瞭にはっきりと。

 それだけははっきりと、この感覚に嘘はない。彼女はそう断言できた。

 

「そ、それにしても、なにこの服?

 まじ受けるんですけど。ちょーどっかのお姫様って感じじゃん」

 

 彼女は自身の服装に注目する。

 水に浸かり、何故かぼろぼろではあるが、それでも元はとても上等なものであったとわかるくらいには細やかな装飾が施されている。

 

「ははっ...こんな状況じゃなきゃ楽しめたのにねぇ...」

「お嬢様っ、こんなところで何をしてらっしゃるのですかっ!」

「ひょほえっ」

  

 耳を貫く高い声、不意をつかれた彼女は肩を跳ねさせ驚きを表す。

 振り返ればそこには、召し使いのような服装を纏う、怒り顔の西洋女性。

 

「な、なに、この女...」

 

 普通に美人だ。

 整った彫りの深い顔に、映えるような金髪、どこのモデルだと勘ぐりたくなるような外見である。

 

「あ、ああんた、誰よ」

「は?

 いきなり何をたわけたことを仰ってるので?

 このロゼリアをお忘れになられたとでも言うですか?」

 

 西洋美女は冷めた目付きでみゆ子を睨むが、日本語が上手すぎだと、そんな場違いな感想を彼女は抱く。

 

「ろ、ろぜりあ?」

「それで、これはいったいどういう了見なのでしょうか?

 こんな朝早くから、誰にも告げずにこんな場所で水遊び、それなりの言い訳は聞かせて頂けますでしょうね?」

 

 ずん、ずん、ずんと、歩み寄る金髪美女。

 それは見せ付けられるような美人さで、みゆ子は「うっ」と唸り、ずりり、と後ずさる。

 女性として容貌にあまり恵まれなかったみゆ子だ。彼女にとって優れた容貌は凶器に等しく、忌避すべきものなのだ。

 

「お洋服をこんなに泥だらけにして全く、洗う私達の身にもなって下さい」

「え.........は?

 お嬢様ってあたしのこと?」

「何をすっとぼけたことを仰ってるんですかっ。

 ほらっ、早く戻ってお着替えになりますよっ。こんな時間にこんなところで、本当にもう、お嬢様は何をお考えになってるのですか」

 

 そして呆れた様子で額に手をつき、「はぁ」とこれ見よがしのため息だ。

 いきなり何なのかこいつはと、その露骨な態度に嫌悪しか抱けない。

 呆れ顔の金髪美女に、みゆ子は苦虫を噛み潰すようなツラとなる。

 

「...んなこと言ったって、あたしにだってわかんないっつの」

 

 聞かれないように小声で呟く。ムカつくが彼女には何となく逆らえない。

 そしてみゆ子は金髪美女に言われるがまま、その場で服を脱ごうとする。

 しかし、

 

「何を破廉恥なことやってるのですかっ!!」

「へひっ!?」

 

 突如の怒声にみゆ子は固まる。

 

「野外で肌をさらすなんて、本当に本当に何を考えているのですっ。

 屋敷に戻ってからお着替えください。

 品性の欠片もない行為であることを自覚なさってっ?

 貴方は貴族っ、貴族なのですっ、御自身が誉れあるデルタリア家の貴族であることをご理解なさいっ」

 

 怒涛の叱責。みゆ子はぽかん、と口を開けるしかない。

 

「口は閉じるっ」

 

 顎がかくん、と持ち上がる。眼前の金髪美女が、くいっと指先で顎を持ち上げたのだ。

 

「...す、すんませんした」

 

 恐縮してどもりがちに謝る。

 しかしみゆ子は顔を軽く背け、渋面を作らざる得ない。

 思うことはただ一つだ。

 こいつ、うっざ。

 

 

 

 世界が変わって1ヶ月、みゆ子は確信したことがある。

 

「はぁ....あたしぃ、超いけてんじゃん」

 

 上品なソファーの上で、手鏡を片手に、自分の顔を見つめてはうっとりするみゆ子。

 

 1ヶ月前のみゆ子ならこんなことはなかった。 

 普通の高校生として生きてきた彼女だが、自分の顔を見て心の底から心酔したことは一度もない。

 お化粧は可笑しくないか、周囲の友達と比べて可笑しくない外見か、それだけをチェックする。

 それだけが手一杯だったのだ。

 

 自分はある程度いけてる、そう思い込まないとやっていけない。

 彼女は普通の高校生でしかなかった。

 それが彼女の世界であり、彼女の現実だったのだ。

 

 しかし、

 

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは、だぁぁあれっ!

 ...なんつってっ!! へへへへっ、やっべ、超受けるんですけど。つうかあたししかいないんですけど」

 

 今は違う。

 彼女は変わった。より正しく言えば、まさに生まれ変わったと言えよう。

 

 鏡に写るみゆ子、その顔は「うひひ」とによによとしていてだらしない。

 しかし同時に、見る者が見れば、つい釘付けとなってしまうであろう美貌である。

 

 その尊顔は西洋人形のような美貌さである。

 ショートの赤毛に、黄土色の瞳。勝ち気なその目付きは高飛車な印象を植え付ける。

 

「可愛いすぎじゃない、あたし?

 おっぱいもちょーおっきいしぃ。 

 あっはっはっはっ、あたしってばぁ、ちょーイケてる感じじゃん」

 

 もにもにもにもにと、赤毛の美女は自身のたわわな乳房を鷲掴む。嬉しさのあまり含み笑いが止まらない。

 このボリュームに、この弾力。

 以前の自分には絶対に体感し得ない代物である。

 

「この顔があれば何でもできんじゃん...くししししっ」

 

 妄想に笑いが止まらない彼女だ。

 そんな彼女に水を差すように、どんどんどんどん、とノックが掛かる。

 

「お嬢様、お着替えにいつまでお時間を割いてらっしゃるのですかっ。

 もうとっくに朝食の時間は終わってるのですよっ。お片付けがいつまでも出来ないので、さっさとしてくださいっ」

 

 浜辺で会った金髪美女の召し使い、ロゼリア。ポニーテールが特徴的だ。

 彼女は額にぴくぴくと血管を怒張させては、険しい瞳で睨んでいる。

 あーあ、と興ざめしたみゆ子だ。彼女は「はぁっ」とため息をつく。

 

「いっちいち叫ばなくてもわかってるっつうの、うっさいわねぇ」

「なら早く朝食を食べて下さいっ、今日は学院で社交界なのですよ?

 お嬢様が準備なさらないと、妹様も出立できないではありませんか」

「はいはい」

「はいは一回です。全く、お嬢様ったら...。

 今日の社交界でも、そんな振る舞いをお取りになるつもりじゃないでしょうね?」

 

 と、金髪美女の召し使いはたしなめるも、そんな話に全く耳を貸さないお嬢様。

 彼女は姿見の前でモデルポーズをとっている。

 そして、

 

「うーっし、メイクも衣装もばっちりっ。んじゃ行っくわよぉ」

 

 そして、意気揚々と扉へと向かうのだ。ロゼリアは怒りが爆発した。

 

「おっ嬢様っ!! 何してんですかぁぁぁあああっ!」

 

 召し使いはキレる。

 それは話を無視されたからではない。

 召し使いが激昂した主たる原因は、お嬢様のその格好にある。

 

「本当に何してるんですか、そんな格好っ、なんて破廉恥なっ!!」

「は、はぁ? 騒ぎすぎだし。別にいいじゃない、これぐらい。別に普通だし」

 

 普通、と言いながらもにやりとするみゆ子。

 ショート髪の赤毛をねじねじと弄り、彼女はそれとなく嘲笑するような笑みをしていた。

 

「よくないに決まってるでしょうがぁぁぁあああっ」

 

 ロゼリアは頭を抱えた。

 赤毛に似合う、鮮やかな紅色のドレス、その姿はまさに貴族といった様相である。

 渾名をつけるとしたら『燃える薔薇』、まさにそう呼ばれそうな赤さだ。

 

 しかし、問題がある。

 

「肌を露出し過ぎですっ」

 

 胸の部分は谷間が大きく露出し、もはやおへそまで見えている。

 背中にすら衣類は見当たらない。

 もはや服として機能しているのか怪しいところであり、そのドレスは肩の細い絹糸で引っかけているだけなのだ。

 少し屈んだだけではだけてしまいそうな危うさに、その豊満な胸がいつ露出してしまうのか、ロゼリアは気が気でなかった。

 

「ちょーっと張り切っただけじゃん。お年頃ってやつよ、貴族なんだから派手なものくらい着てもいいでしょ?」

「高貴さが微塵もありませんっ。

 娼婦の真似事かと勘違いされますっ、下品過ぎますっ。今すぐ着替えて下さいっ」

「なぁによ、これからパーティー行くんでしょ?

 だから派手にしたのに」

「学院開催の社交界ですっ。はしたない格好は断固ゆるしませんっ」

「社交界って気取っても合コンみたいなもんじゃん。

 だったら狙いにいって何が悪いんだっての」

「下心が見え見え過ぎますよっ。色気と下品さは別物なことをご理解下さい。

 それと私は貴女の召し使いの立場でもあるんですよ?

 貴女の恥は私の恥、ひいては妹様の恥にもなるのです。 

 そんな見苦しい姿見たくありませんし、デルタリア家に汚名を着せるような真似は、私が絶対に許しませんっ」

「えー、だってさぁ、これから行く社交界ってさぁ、中々いいとこの集まりで、あたしと歳の近い人達たくさんがいるって話じゃん。

 だったらこれを機にキープしとくのが常識っしょお」 

「...そりゃ学院ですし、クラスの皆が集まるのですから、年が近いのは当たり前じゃないですか」

 

 ポニーテールの召し使いは顔に手をつき、盛大にため息をつく。もはやこれ見よがしのため息だ。

 

「はぁ...、お嬢様、貴女はご自身の立場くらいわかってらっしゃると思っていましたのに。

 そんな賢明さ、期待するだけ馬鹿でしたか...」

 

 ポニーテールの召し使いは、どうしようもないと言いたげに呆れる。

 みゆ子はその言葉の意味がわからなかった。

 

「え、どゆこと?」

「ええいっ、何でもありませんっ。

 とにかくっ、このチョイスはあり得ませんからっ。今すぐ着替えなさいっ」

 

 有無を言わせない気迫だ。

 しかしみゆ子は空気を読まず、ロゼリアの胸元へと視線を傾けては、下卑た笑みを張り付ける。

 

「あぁら何よぉ? 僻みなわけぇ?

 やだやだ、胸が貧相だったら心も貧相なんてさ。折角の美人が価値半減な訳じゃん?」

 

 視線の先は絶壁、疑いようもない平らさだ。

 けたけたと笑う赤毛のお嬢様であるが、しかし、彼女は次の瞬間自らの愚を後悔する。

 

「..........あ゛ぁ゛?」

 

 ドスの利いた声音。

 みゆ子はぴたり、と笑い声を止める。否、止めざるを得なかったのだ。

 ゆらゆらと逆立つ金髪に、鬼を彷彿させるその形相。

 さすがのお嬢様も己の危険を察知する。

 

「ま、マジすいませんした...」

 

 

 

 

 みゆ子は露出を抑えたドレスに着替える、と言っても、胸元の露出はやはりある。ロゼリアはやや納得いかなげだ。

 しかし、先の奇抜すぎる服装に比べれば遥かに常識的、これでダメ出しをするのは如何なものかと躊躇ったのだ。

 

「ささ、早くなさって下さい。

 妹様がどれだけお待ちになってると思ってるのです」

「はいはい....」

「はいは一回」

 

 返事はせず、みゆ子は部屋を出る。そして朝食のある食堂へと足を進めた。

 金髪の召し使いは早足でその後ろについていく。

 

「貴方はデルタリア家が長女、レビィ・デルタリアなのです。

 つまりはこの家名の次代の代表、デルタリアの家名に恥じない品性が求められる立場であります。

 それが貴女の責務なのですよ、お嬢様。

 ちゃんと分かっておられるんですか?」

「はいはい、わかったわかったってぇ、うっさいな」

 

 主であるお嬢様はしっしっと手を振り、もうやめろという反応だ。ロゼリアは内心ため息をつく。

 「ちょーやっべ」「マジぃ?」などなど、みゆ子の態度、言葉遣いはおおよそ貴族と思えない振る舞いばかり。

 ロゼリアは疑問を思わざるを得ない。

 

「はあ....、お嬢様、貴女は一体どうなされたのですか?

 元々貴族としての品性も不確かなお嬢様ではありましたが、ここ最近はいくらなんでも酷すぎますっ」

「あ~、まぁ..そうね、...別にあたしはいつも通りのつもりなんだけど」

 

 何か説明をしようと思うも、それを飲み込み、みゆ子はやや困りげな顔で言葉を濁す。

 

 レビィ・デルタリア、それが今のみゆ子の名前である。

 正確には、今の体の元持ち主の名前。

 自分は入れ替わったのだ、彼女はこの1ヶ月でその事実を確信する。

 原因はわからなくても、心が入れ替わったと言えば説明はつく。

 しかし、心が入れ替わったなど言ってみろ。途端に奇異の目で見られ、頭が可笑しいと貶される。

 証明もできない。ならば何も言わず、適当に言ってやり過ごすしかないのだ。

 

「つぅか、学院つってたけど、この世界にも学校みたいのはあんのね」

 

 みゆ子、否...レビィはロゼリアの耳元に視線をむけて、何となしにそう呟く。

 

「は?」

「あ、いんや、別に何も」

 

 レビィは慌ててぷいっと前を向く。

 

 学校があるのは当たり前だ。しかし、彼女はそれを不思議がる。

 何故か。

 それはロゼリアの耳元にある。

 初対面の時は気付かなかったレビィだが、よくよく目を凝らせば、明らかに自分とは違う存在であることがわかるのだ。

 

 尖った耳。

 そう、この召し使いの耳は尖っているのだ。

 

 つまりここは、人間以外の種族も存在する、元いた現実とはかけ離れた異世界となる。

 

 

「アンタってば、エルフか何かだっけ?」

「...そうですけど、何でそんな今更なことをお聞きになるんです?」

「...だったら言ってもいいのかなぁ」

「はぁ...?」

 

 エルフという不思議な存在。

 それがいるなら、心が入れ替わったくらいの不思議な体験、許されそうな気もする。

 しかしそれでも、レビィは口を閉じる。面倒事は誰だって避けたいものだからだ。

 

 

 食堂へ来たレビィ。

 しかし、視界に映るそのテーブルの様子に疑問符を浮かべる。

 

「あれ、1人分しかないけど」

 

 長いテーブルの端っこ、そこにちょこんと、寂しく佇む朝食達。

 レビィはきょろきょろと辺りを見回した。

 

「朝食の時間は過ぎたと申しましたが?

 妹様は先に食べられましたわ。旦那様と奥様は所用があるとのことで、朝早くに済ませられました。

 お嬢様が最後です、早く食べ..」

「あら、ラッキー。

 んじゃ、部屋持ってって食べていい?」

 

 料理の乗った皿を片手にレビィはさらりと、そう言う。

 その言葉に金髪の召し使いは卒倒する。

 

「だ、め、に、決まってるでしょうがぁぁぁあああっ!!」

 

 が、何とか踏みとどまり、掴みかからんばかりの勢いで自身の主にそう迫る。

 鼻と鼻が当たりそう。

 その近さにびっくりして、赤毛のお嬢様は「ひっ」とのけ反った。

 

「なな、なにそんな怒って..」

「いいですかっお嬢様っ。

 この休暇の間、貴族のマナーも抜け落ちるほどに知性が欠けたようですから、今一度言っておきますが、これはお茶菓子ではないのですっ。

 出された料理は食堂でお食べ下さいっ。

 くれぐれも貴族が料理を自室で食べるなど、そんなはしたない真似は絶対にしないでくださいねっ、いいですかっ?」

 

 出された料理を自室に持ち帰る、それはマナー違反であり、貴族の習慣ではあり得ない。

 お嬢様の世話役でもあるロゼリアにとって、それはもはや常識だった。

 

「...う、うっす」

 

 そして赤毛お嬢様のこの返事。

 ロゼリアはがっくりと頭を落とす。

 何なのかその返事は。もはや何も言う気にはなれないロゼリアだった。

 

 

 朝食を済ませたレビィは屋敷の外へと出る。すると、

 

「ロゼリアぁぁぁあっ、早く早くぅ!!」

 

 屋敷の門前、駐車している馬車のそばへと向かう途中、高い少女の声が一つ、レビィの耳に届く。

 見れば、馬車の窓枠から体を乗りだし、赤毛の女性が手を振っていた。

 

「妹様ぁ、大変申し訳ありません、遅くなりました」

 

 後ろを付いていたロゼリアが前に駆け出す。

 自分を追い越し、ポニーテールの金髪が揺れては駆けていく。

 

「もう、遅いですよ、ロゼリア!」

「申し訳ありません、妹様ぁ」

「ダメです、許しませんよ。

 罰として後で美味しい紅茶を入れてもらいますからね」

「は、はい、お任せ下さいっ」

 

 きゃっきゃっとじゃれあう二人。

 カラフルな音符でも飛び出そうな喜びようだ。

 ロゼリアと仲良く手を合わせる女性は、レビィと同じく赤い毛髪、ただし、レビィとは異なり、髪を長く伸ばしロールを巻いている。

 名はアメリア・デルタリア。彼女はレビィの妹である。

 

「んじゃ、ついでにあたしの分も入れといてね?」

 

 レビィはよろしく、とばかりに口を挟むが、途端にきゃっきゃっと、静かげながらも楽しそうにしていたロゼリアは、ぴたりと止まると、ゆっくりお嬢様に顔を向けた。

 そして一言、

 

「...了解しました」

「あんた、アメリアの時と、態度違い過ぎない?

 あたしに紅茶入れるの、そんな嫌なの?」

「いいえ、滅相もありません。ささっ、行きますよ」

 

 荷物を持ち直し、ロゼリアは馬車へと乗り込む。

 ...何あいつ、とそう思うのも束の間、それを見ていたレビィの妹、アメリアはぎろりと自身の姉を睨みつける。

 

「お姉様」

「...何?」

「ロゼリアにあまり負担をかけないよう、配慮くらいなさってくれませんか?」

「いや、今日はちょっと起き遅れただけだし。そんな、負担とか大げさじゃない」

「別に今日の寝坊のことだけを言ってるのではありません。

 普段からいつもいつも、ロゼリアにたくさん迷惑かけてるでしょう?

 それをやめて頂きたいと、そう言っているのです」

「い、いや、それあいつが勝手怒鳴ったり喚いてるだけだし。

 悪いのは向こうの神経質ところだって、病気じゃないのあれ」

「いいえ、彼女は普通です。

 お姉様の世話役だから怒ってくれてるのですよ?

 怒るのも疲れるのです、怒る身にもなってあげてください」

「だったら怒らなければいいじゃない。あたしにそれを言うのは筋違いってもんじゃない?」

 

 ショート髪のお嬢様は真剣にならないよう、軽く笑って言い返す。

 しかしそれが気に障った。ロール髪の妹はその声音に、更なる鋭さを重ねる。

 

「お姉様がだらしなくて、しっかりしてないからロゼリアが苦労しているのでしょうっ?

 何をとぼけたこと言ってるのですか、全く。

 よく悪びれもせずに言えましたわね。恥ずかしくないんですか?」

「いや、それ言われたら...まぁ、あれだけどさぁ。

 でもしょうがないじゃない。

 あんながみがみ言われたら、出来ることも出来なくなるって」

「それはやるべきことをやってから.....はぁ、もうどうしようもありませんわね」

 

 アメリアは冷めた目付きで姉を流し見る。

 すると、荷物を置きに行ったロゼリアが馬車の中から出てきた。

 彼女は馬車に乗るよう促しをかける。

 

 

「「........」」

 

 姉妹は睨みあう。

 睨みあうこと数秒、妹はふいと顔を背けては、特に何も言わず、ロゼリアが待機している馬車へと足を進め、中へと乗り込む。

 

 ああ、これからあれに乗るのか、そううんざりせずにはいられない。

 

「お嬢様、早くお乗り下さい」

 

 催促をかけるその声、ポニーテールの召し使いは無機質な眼差しだ。

 これ以上のお叱りは避けたい。し彼方ない、とでも言うように、レビィは両手を腰につき、

 

「へぇい、今乗りますよぉ」

 

 そう言って馬車へと乗り込む。

 へぇい、って。ポニーテールの召し使いは呆れるも、もういっか、と投げやりになる。

 そして、さっさと自分も馬車に乗ることにしたのだった。

 

 

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